紡子さんはいつも本の中にいる

古芭白あきら

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第7話 綴る世界③「気づけば知らない世界・後編」

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 まだ状況が飲み込めず僕が呆然としている間にべノンは急ぎ全員を退室させていた。残されたのは母と侍女、そして僕の三人だけ。

「まったく、あなたも今日で成人になったというのに……」
「あ、あの……申し訳ございません」

 いや、僕はなんで謝っているんだ?

「亡き陛下も草葉の陰で嘆いておられることでしょう」

 うーん、外国でも草葉の陰って言うのかな?

 あっ、いや、今はそんなアホなこと考えてる場合じゃないって。この美女がジークのお母さんで、それでもやっぱり僕をジークと勘違いしている。

 でも、この王妃はどう見たって日本人じゃない。絶対に僕とジークがそっくりさんってことはないと思うけど……

「ジーク、あなたは王子として生を受け、近く国王に即位する身です」

 僕の疑念をよそに王妃の話は進む。

「国王としての義務と責任を自覚なさい」

 ――嫌だ嫌だ嫌だ……

「ジーク、あなたが遊び呆けていられるのは国民が国を支えているからです。いつまでも権利ばかり享受できるとは思わぬことです」

 ――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……

 王妃の薫陶は至極真っ当なものなのに僕の胸の内で自由を渇望する叫びこえが渦巻く。

 なんだろう、この胸の騒めきは?

「それと、これはジークへの贈り物です」

 王妃が合図すると侍女が進み出て意匠を凝らした、見るからに高そうな弓を僕に手渡してきた。

「本来なら王家の者は成人になると父より弓を授かります。これは一人前となって民を守り導く使命を自覚する為なのです」

 急に僕には手に持つ弓がずしりと重くなったように感じられた。その重みに僕の心がより暗くなる。

 その時になって何故か急に理解できた。

 僕の中にジークがいるんだって、ジークは僕で僕はジークなんだって。理由はわからないけど僕はジークになってしまっているんだって。

「亡き陛下に代わり私がその弓をお前に渡します」

 ――好きで王子になったんじゃない!
 ――僕は国王になんてなりたくない!

 これは子供の我が儘。
 僕にはそれがわかる。

 だけど僕の中の大人になりきれないジークが真剣に自由という名の身勝手を渇望している。

「ジーク、あなたには早く一人前になってもらわなければなりません」

 ――大人になりたくない!
 ――もっと自由でいたい!

 また僕の中でジークが叫んだけど……おいおい、なんだこの我が儘王子は!?

「まったく、私がどれだけ苦労させられたか……いい加減に楽をさせて欲しいものです」

 まあ、こんな甘えた息子じゃ王妃もさぞ苦労したでしょうね。

 あっ、よく見たら王妃の顔に意外とシワが……ってギンッて睨まれた!?

「おかげ小ジワが増えて」

 えっ、心が読まれたわけじゃないよね?

「とにかく明日の舞踏会に花嫁候補を数人呼んであるので、その中から妃を選ぶように」

 その宣告に僕の中のジークが悲鳴を上げた……
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