紡子さんはいつも本の中にいる

古芭白あきら

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第5話 紡ぐ物語②「年下男子の物語・後編」

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「ちょっと可愛い……かも」

 無意識に呟いた言葉の意味に理解が追いつき私はハッとした。

「な、何言ってんの私!?」

 カァッと顔が熱くなる。

「――ッ!?」

 しかも運悪く彼が顔を上げた。慌てて顔を伏せたけど……今の絶対バッチリ目が合ったわよね?

 そう思うと羞恥から頭に血が上って何だか思考がグルグルしてきた。

(おかしな女って思われなかったかしら?)

 ダメダメダメ!
 考えるのヤメ!

 気持ちを切り替えようと読書を再開することにした。

 私は手にした本を開いて読書を再開した。

『黒鳥の湖』

 この小説は有名なバレエ作品をモチーフにした小説。敵役であった黒鳥コニールを主人公に据えて、大きな流れはそのままに裏話的なストーリーとなっている。

 元のお話は悪魔ロッドバロンの呪いで白鳥にされた美しき姫君コレットが王子ジークと出会い真実の愛によって悪魔とジークを罠に嵌めた悪魔の娘コニールを打ち倒して結ばれるというもの。

 バレエ団によってはバッドエンドやメリバにされている作品もあるけれど、概ねはそんな感じのストーリー。

 ただ、『黒鳥の湖』はそれを斬新な解釈で悪魔ロッドバロンとその娘コニールを善人にした異色作となっている。

 物語はコデットの国が隣国に攻め込まれるところから始まる。

 コデットはとても美しい姫君であったが、その美貌を隣国の暴虐な王ゲバルトに見染められてしまう。残忍なゲバルトの求婚を断ったのだが、彼はそれに怒りコデットの国を攻め滅ぼしてしまった。そしてゲバルトの魔の手がコデットに及ぼうとした時、悪魔ロッドバロンが現れコデットに呪いを掛けてしまう。その呪いを受けたコデットと彼女の侍女たちは白鳥になって飛び去っていった。

 実はロッドバロンがコデットに呪いを掛けたのには理由がある。彼の娘コニールが幼少期よりコデットの親友で、彼女の危機を救おうとコニールが父ロッドバロンに泣いて懇願したのだ。

 しかし、悪魔のロッドバロンにとって『人を助ける』行為は御法度。だが、愛娘の願いを叶えてあげたい。そこでロッドバロンはコデットと侍女たちを救うのではなく呪いによって間接的に救出したのである。

 だから、呪いにも仕掛けをして夜だけは人の姿に戻れるようにもした。だが、やはり呪いは呪い。夜な夜な人の姿になったコデットの無理に笑う姿に胸を痛めたコニールはコデットの呪いを解けないかロッドバロンに相談する。

 コニールは呪いを解く方法が父ロッドバロンの死かコデットが真実の愛を見つけるかの二つしかないと聞かされる。そこでコニールは一計を案じ大国の王子ジークとコデットの仲を取り持つために自ら悪役となって立ち回り、最後は父ロッドバロンと共にジークに討たれて死んでしまう完全メリバもののラブストーリーである。

「何て酷いラストなの!?」

 私は思わず憤ってしまったけど、これは仕方がないと思う。

 コデットの命を救い、彼女の恋を成就させる為に奔走したコニールがあまりに浮かばれない。

 こんなラスト誰だって認められないわ!

「このラストはない――ッて!?」

 その時、急に視界がグニャリと歪んだ。

 しまった!

「異能が発動してる……まずッ! 物語に飲み込まれ――――」

 不憫なコニールに感情移入してしまい物語に入り込む異能が発動してしまったみたい。

 視界が元に戻った時、私は図書館とはまったく違う場所にいた。

「やばい……『黒鳥の湖』の世界に転移しちゃった」

 しかも、自分の服装を見れば黒一色のドレス。

 この服装から今の私は……

「急に黙り込んで、どうした愛する娘コニールよ」

 渋い男性の声に振り向いた私は全てを理解した。

「お父様……」

 そこにいたのは悪魔ロッドバロン……
 やはり私の配役はコニールなのね……
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