紡子さんはいつも本の中にいる

古芭白あきら

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第1話 綴る世界①「佐倉綴の世界」

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 人は何か一つくらいは特技があるものだ。
 当たり前のように誰もが持っているもの。

 そう、この世界は異能アビリティに満たされている。

 誰もが一人に一つ特別な異能を持って生まれてくる。それはまるで人に与えられた個性のようなもの。

 だから、異能=個性である固定観念はこの世界では当たり前。そのせいで、どこでも、誰もが、きまって聞いてくる。

つづる君の異能アビリティは何?』

 自己紹介、履歴書、面接、合コン……

 別に誰も悪気があって聞いているのではないのはわかるよ?

 この質問は能力の優劣を競うために聞いているのでもない。ただ、それは話のネタに、会話のきっかけにちょうど良い話題なだけなんだ。

 だから、そんな質問は『趣味は何?』みたいな質問と同じようにありふれた日常。

 だけど僕はそれに答えられない。
 だって、僕には異能が無いから。

 小さな火を出したり、コップ一杯の水を出したり、拡声器のように声を大きくしたり、微妙なものから爪がただ伸びたり、1秒先の未来を読んだりと使い道の分からないものまである。

 それはホントに取るに足りない能力。無くても困らないものばかりだし、あっても特に何かが有利になるわけでもない。

 それでもやっぱり持っているのは羨ましい。

 本来なら誰でも異能アビリティは自然と使える。不思議と使い方が自然と頭に思い浮んでくるんだそうだ。

 だけど、僕には何も思い浮かばない。
 だって、僕は異能を持ってないから。

 僕は何も無い……何も無い……

 誰もが例外なく持っているものを僕は持っていない。
 それが恥ずかしくて、悔しくて、苦しくて、キツい。

 そんな風に僕が落ち込んでいれば、数少ない友人たちは慰めてくれる。

『気にすんなよ、異能なんてほとんど意味の無い能力ばっかだぜ?』

 それは正しいのかもしれない。

 だけど……それでも……やっぱり、みんなと違うのはツラい。

 みんなの当たり前の日常が僕の世界の中には無い。

 その事実が僕を打ちのめす。

 異能に溢れた世界の中で僕だけが違う世界を生きている。

 そんな僕の……佐倉つづるが紡ぐ世界が大嫌いだった。

 いつも壊れてしまえ、無くなってしまえと願っていた。

 あの日までは……書院しょいん紡子つむぎこさん……あの女性ひとに会うまでは……

 紡子さんに出会って、僕の世界は大きく変わったんだ……
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