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第66話 侯爵令嬢は男爵令嬢を庇護する
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「隠しルートだぁ!」
突然ルルが立ち上がり叫び声を上げたことに全員が驚き、視線がルルに集中したが、当の本人はお構いなしだ。
「そうですぅ!『しろくろ』の隠しルートじゃないですかぁ。なんで私はこの事を忘れてたんだろ」
「いったいどうしたの?ルルちゃん、何か思い当たることでもあった?」
「ありますあります!思いっきりあります!証拠ありますぅ!」
「え?治療薬の不正の証拠?どうしてルルちゃんがそんなことを……」
「『しろくろ』の隠しルート攻略に必要なイベントに隠しルートの悪役コラーディン伯爵の不正を暴くものがあるんですぅ」
「ちょっと待って!ルルちゃんの言っている意味が分からないわ」
エルゼやイダーイにはルルの言葉の意味を理解できなかった。しかし、『しろくろ』の概要を聞いているリリとアンナにはルルの言うことが分かる。2人は素早く目配せした。
「ルル!落ち着いて座りなさい」
アンナは音も無くルルの背後を取ると、彼女の両肩に手を乗せた。
「え?」
途端にルルはストンと椅子に落ちるように腰を落としアンナを見上げて戸惑った。
「エルゼ様お人払いをお願いします」
周囲の侍女たちに目を走らせると、エルゼはリリの意図を理解して眉を顰めた。
「リリちゃん?」
「事はとても重大なのです」
「イダちゃんも?」
「できれば……無理なら決して他言しないよう誓約を」
エルゼは侍女たちに手で合図を送ると、彼女たちは静かに一礼して部屋から退出した。
「イダちゃんもそれでいい?」
「私ごときが王妃殿下やリリーエン嬢に逆らえるはずもありません。仰せのままに他言しないと誓約いたします」
イダーイが誓約するとリリは頷いた。
「これからルルが話す内容はデリケートな問題です。知られればルル自身も危険になりますが、それ以上に国情を不安定にしかねないものです」
「それ程のもの?」
「聞いた者の判断しだいですが……ルル、私とアンナに話した前世の事をもう一度エルゼ様に聞かせてもらえる?」
「え!?あ、はい……」
ルルはリリたちに語った自分の前世で遊んだ乙女ゲーム『白銀と黒鋼の譚詩曲』がこの世界と酷似していることをエルゼとイダーイに説明した。
その話を黙って聞いていたエルゼとイダーイの顔が真剣に、そして険しくなっていく。やがてルルが全てを話し終えると2人は深く溜息を吐いた。
「これはなんとも……俄には信じ難いお話しですな」
「そうね。だけどこれが真実ならリリちゃんが人払いを願った意味が理解できるわ」
「ええ、この件は内密にすべきでしょう」
「ルルちゃん、この事をリリちゃんとアンナちゃん以外に誰かに話した?」
「い、いえ……私が転生者だって家族に知られたくなくて……」
自分が転生者だとバレると家族の絆が壊れてしまうのではないかとの不安がルルに前世の記憶を他人に伝える事を躊躇わせていた。
「セスなら大丈夫だと思うけど、今回は助かったわね。前世持ちはこの世界ではそれなりにいるから自分を卑下する必要はないわ」
「ですが、ルルーシェ嬢の場合はこのまま黙っておいた方が良いでしょう」
「どうしてですか?」
「まずルルちゃんの身の安全のためよ。貴女の言う乙女ゲームの通りに世界が動いているなら、ルルちゃんは未来を知る予知能力者と変わらない。その価値は計り知れないもの」
「で、でも絶対にゲーム通りになっているわけじゃないし、お話も僅か数年のもので、私は大した情報を持っているわけでもありませんよ?」
「ルルちゃん、実際は関係ないの。周りがどう思うかよ」
「おそらくルルを巡って血生臭い争奪戦が繰り広げられるでしょう。ルミエン家も人質の価値がでて狙われる可能性が高いわ」
「そ、そんなぁ!」
リリの指摘にルルは悲鳴を上げた。自分のせいで家族の平穏な生活が崩れる。その想像はルルを心胆寒からしめるには十分だった。
「他にもこの話が巷に流れた時の混迷を想像すると頭が痛いわね」
エルゼは本当に頭痛を覚えたかのように、こめかみに指を当てた。
「そんなにまずいですかぁ?」
「まずいわね」
「まずいわ」
「まずいでしょうな」
一斉に言われてたじろぐルルの背後に立つアンナが彼女の耳に顔を近づけた。
「自分の一生がゲームだと言われたら貴女はどう思います?」
「それは……」
「自分がゲームのキャラクターだなんて思いたくはないでしょう?」
「確かに」
「人心は間違いなく乱れ、最悪パニックになるかもしれない。それに一部にはルルちゃんを抹殺しようとする者も現れるでしょう」
「えぇ!どぉしてですかぁ!?」
「ルルちゃんを消せば解決すると考える者は一定数いるでしょう。理論的ではないし理不尽なんだけど人とはそういう生き物よ」
「だからリリ様は最初に会った時の別れ際に乙女ゲームについて口止めされたのですよ」
魂魄置換して初めて再会した別れ際にリリはルルに転生者であることを周囲に知られないように厳命していた。
「ルルちゃんが転生者であることも一応この場だけの話としておきましょう」
エルゼの提案に一同は頷いた。
「それで、続きを話してもらえるかしら。今回の事件解決の糸口があるのでしょう?」
「あ、はい。実は……」
ルルの話では攻略対象の中に隠しキャラとして王弟殿下ギルバート・シュバルツバイスがおり、その攻略にあたって悪役となるゲルハルト・コラーディン伯爵の悪事を暴くものがあるとのことだった。
「そのイベントというのが屋敷の隠し部屋にある10年前の不正に関する証拠を掴むものなんですぅ」
「待ちなさいルル!貴女はリリ様がマリアヴェル・コラーディンと友人になったとの話の時にゲルハルト・コラーディンのことを話さなかったではないですか!」
アンナの鋭い指摘にルルの目が泳ぎだす。
「だ、だってぇ、リリ様がマリーと友達になったって嬉しそうにしているから話しづらくって……」
言い訳をするが、アンナの追及は止まらない。
「貴女は猫妖精のことも伝え忘れていたでしょう!」
「あれは……その……シャノワが私にとって当たり前すぎて伝え忘れたんですぅ」
「このポンコツが!他にも何か伝えていない事があるんじゃないいんですか?」
「ほ、他ですかぁ?」
ルルは首を捻って腕を組む。
「そうですねぇ。この世界は乙女ゲームなんでスキルの概念が無いとか?」
「……それはまさかリリ様のデュアルコンパイルは存在していなかったと?」
「とーぜんありませんよぉ」
「このお馬鹿!その情報が先に入手できていればポンポコリンなどという怪しい男をリリ様に合わせずに済んだものを!」
「いえ私はポンポン侯爵です」
「貴方は黙っていなさい!」
「はいぃぃぃ!!!」
アンナに一喝されイダーイはひっと首をすくめた。アンナはそんなイダーイには一瞥もくれず、前に座るルルの両肩をがっしりと掴む。
「今のうちに洗いざらい吐き出しなさい!」
「そんなご無体な。もっと具体的に言ってもらわないと……」
「アンナちゃん落ち着いて。今はコラーディン関係の事に絞りましょう」
エルゼに嗜められアンナは素直に引き下がりエルゼにバトンを渡した。
「それじゃあルルちゃんが知っている範囲でコラーディンの不正の内容と隠し部屋の場所、そこにあるという証拠について教えてちょうだい」
エルゼに促され、ルルはゲームで10年前の流行病の治療薬を不正に横流した事件にコラーディン伯爵が悪役として絡んでいること、彼の書斎の隠し部屋の中に詳細な記録があることなどを覚えている限り詳細に語った。
「なんとかその証拠を押さえれば治療薬の件での立件は可能ね」
「それは私が屋敷に潜入して入手いたします」
「それはルルちゃんが作った魔術を使って?」
リリの言葉にエルゼの目に剣呑な光が灯る。
「それは……」
「あ、あれは原理を話しただけでぇ実際にはリリ様が創作した魔術ですぅ」
言い淀むリリに代わりルルがそう主張したが、エルゼはかぶりを振る。
「同じことよ……リリちゃんはもう分かっているでしょう?」
唇を軽く噛み俯くリリを見るエルゼの目がスッと細くなる。
「リリちゃんを監視していたのだから学園や昨夜のベルクルドで使用した魔術も把握しているわ……
確かに前世の記憶持ちは様々な知識でこの世界に恩恵を齎してくれるわ。でもルルちゃんの『おとめげーむ』や魔術の原理に関する知識は危険よ。
今回は私だけに露呈したことで済んでいるけれど状況によってはルルちゃんを危険に晒すところだった……
リリちゃん……貴女のとった行動が軽率だったって分かるわね?」
「……はい」
「待ってください!リリ様は私やマリーのためを思って……」
「いいのルル」
自分を庇おうとするルルを止めて、リリはエルゼに頭を下げた。
「私の行動は迂闊でした。この件に関しては……」
「分かっているわ。私の方でなんとかしましょう」
「ありがとうございます。それでルルとマリーの身柄のことなんですが……」
「いいわ。2人のことはリュシリュー家に一任します」
「エルゼ様!」
パッと顔を明るくするリリにエルゼは人差し指を唇に当ててくすりと笑う。
「言ったでしょ。私はリリちゃんもルルちゃんも敵にしたいわけじゃないって」
「よろしいのですか?本当なら王家が介入してもおかしくない案件です」
喜びながらもリリは一応の警戒からエルゼの意図を確認する。
「私はエルゼ様がルルは拘束するのではないかと思っておりましたが……」
「え!?私って逮捕されちゃうんですかぁ!」
ルルはぎょっとするが、エルゼはひらひらと手を振って否定した。
「ルルちゃんはリリちゃんに預けた方が却って国に有用だと判断しただけよ。リリちゃんなら悪いようにはしないでしょ?」
「ありがとうございます!」
喜色を隠さないリリとは逆にルルは理解できていない様子で首を傾げた。
「それってどういうことですかぁ?」
「相変わらず安定の馬鹿っぷりですね」
「ヒドイ!アンナさんは安定の鬼畜ですぅ!」
「そんなことを言っていいのですか?」
「ど、どういう事ですかぁ?」
「貴女はルミエン家を含めてリュシリュー家の庇護下に入るのです。恐らくリリ様は貴女とマリアヴェル・コラーディンを専属侍女にするおつもりなのでしょう」
アンナは「そうですよね?」とリリに確認をすると、リリはこくりと頷いた。
「近くに置いておけば何かと守りやすいですから。これからよろしくね」
「リ、リリ様ぁ!一生ついていきますぅ……ぐぇ!」
感極まったルルがリリに抱き着こうと席を立ち上がると、その首根っこをアンナに掴まれた。
「これからは私が貴女の先輩兼指導係になるでしょう」
「ヒィィィ!」
冷たい笑いを浮かべて間近に迫ったアンナの顔にルルは悲鳴を上げた。
リリは転生ヒロインを侍女にするのは厭わない。むしろこれから楽しそうです……
~~~~~後書きコント~~~~~
アンナ「さあルル!これから貴女は私の部下です!」
ルル「えぇ!私はリリ様の専属じゃないんですかぁ?」
アンナ「馬鹿ですか!まずは一から教育が必要でしょう。これからは私を師匠と崇め、敬って諂うように!」
ルル「私はリリ様に教育してもらいたいですぅ1」
アンナ「主人が直接指導するわけないでしょう!」
ルル「でもアンナさんの指導って厳しいだけで意味無さそうだしぃ、リリ様に手取り足取り教えてもらった方が……うへへへへ」
アンナ「何ですかその嫌らしい顔は!リリ様から手取り足取り腰取り組んずほぐれつなど私の目の黒いうちは絶対に許しません!」
ルル「いや私そこまで言ってませんよ?」
突然ルルが立ち上がり叫び声を上げたことに全員が驚き、視線がルルに集中したが、当の本人はお構いなしだ。
「そうですぅ!『しろくろ』の隠しルートじゃないですかぁ。なんで私はこの事を忘れてたんだろ」
「いったいどうしたの?ルルちゃん、何か思い当たることでもあった?」
「ありますあります!思いっきりあります!証拠ありますぅ!」
「え?治療薬の不正の証拠?どうしてルルちゃんがそんなことを……」
「『しろくろ』の隠しルート攻略に必要なイベントに隠しルートの悪役コラーディン伯爵の不正を暴くものがあるんですぅ」
「ちょっと待って!ルルちゃんの言っている意味が分からないわ」
エルゼやイダーイにはルルの言葉の意味を理解できなかった。しかし、『しろくろ』の概要を聞いているリリとアンナにはルルの言うことが分かる。2人は素早く目配せした。
「ルル!落ち着いて座りなさい」
アンナは音も無くルルの背後を取ると、彼女の両肩に手を乗せた。
「え?」
途端にルルはストンと椅子に落ちるように腰を落としアンナを見上げて戸惑った。
「エルゼ様お人払いをお願いします」
周囲の侍女たちに目を走らせると、エルゼはリリの意図を理解して眉を顰めた。
「リリちゃん?」
「事はとても重大なのです」
「イダちゃんも?」
「できれば……無理なら決して他言しないよう誓約を」
エルゼは侍女たちに手で合図を送ると、彼女たちは静かに一礼して部屋から退出した。
「イダちゃんもそれでいい?」
「私ごときが王妃殿下やリリーエン嬢に逆らえるはずもありません。仰せのままに他言しないと誓約いたします」
イダーイが誓約するとリリは頷いた。
「これからルルが話す内容はデリケートな問題です。知られればルル自身も危険になりますが、それ以上に国情を不安定にしかねないものです」
「それ程のもの?」
「聞いた者の判断しだいですが……ルル、私とアンナに話した前世の事をもう一度エルゼ様に聞かせてもらえる?」
「え!?あ、はい……」
ルルはリリたちに語った自分の前世で遊んだ乙女ゲーム『白銀と黒鋼の譚詩曲』がこの世界と酷似していることをエルゼとイダーイに説明した。
その話を黙って聞いていたエルゼとイダーイの顔が真剣に、そして険しくなっていく。やがてルルが全てを話し終えると2人は深く溜息を吐いた。
「これはなんとも……俄には信じ難いお話しですな」
「そうね。だけどこれが真実ならリリちゃんが人払いを願った意味が理解できるわ」
「ええ、この件は内密にすべきでしょう」
「ルルちゃん、この事をリリちゃんとアンナちゃん以外に誰かに話した?」
「い、いえ……私が転生者だって家族に知られたくなくて……」
自分が転生者だとバレると家族の絆が壊れてしまうのではないかとの不安がルルに前世の記憶を他人に伝える事を躊躇わせていた。
「セスなら大丈夫だと思うけど、今回は助かったわね。前世持ちはこの世界ではそれなりにいるから自分を卑下する必要はないわ」
「ですが、ルルーシェ嬢の場合はこのまま黙っておいた方が良いでしょう」
「どうしてですか?」
「まずルルちゃんの身の安全のためよ。貴女の言う乙女ゲームの通りに世界が動いているなら、ルルちゃんは未来を知る予知能力者と変わらない。その価値は計り知れないもの」
「で、でも絶対にゲーム通りになっているわけじゃないし、お話も僅か数年のもので、私は大した情報を持っているわけでもありませんよ?」
「ルルちゃん、実際は関係ないの。周りがどう思うかよ」
「おそらくルルを巡って血生臭い争奪戦が繰り広げられるでしょう。ルミエン家も人質の価値がでて狙われる可能性が高いわ」
「そ、そんなぁ!」
リリの指摘にルルは悲鳴を上げた。自分のせいで家族の平穏な生活が崩れる。その想像はルルを心胆寒からしめるには十分だった。
「他にもこの話が巷に流れた時の混迷を想像すると頭が痛いわね」
エルゼは本当に頭痛を覚えたかのように、こめかみに指を当てた。
「そんなにまずいですかぁ?」
「まずいわね」
「まずいわ」
「まずいでしょうな」
一斉に言われてたじろぐルルの背後に立つアンナが彼女の耳に顔を近づけた。
「自分の一生がゲームだと言われたら貴女はどう思います?」
「それは……」
「自分がゲームのキャラクターだなんて思いたくはないでしょう?」
「確かに」
「人心は間違いなく乱れ、最悪パニックになるかもしれない。それに一部にはルルちゃんを抹殺しようとする者も現れるでしょう」
「えぇ!どぉしてですかぁ!?」
「ルルちゃんを消せば解決すると考える者は一定数いるでしょう。理論的ではないし理不尽なんだけど人とはそういう生き物よ」
「だからリリ様は最初に会った時の別れ際に乙女ゲームについて口止めされたのですよ」
魂魄置換して初めて再会した別れ際にリリはルルに転生者であることを周囲に知られないように厳命していた。
「ルルちゃんが転生者であることも一応この場だけの話としておきましょう」
エルゼの提案に一同は頷いた。
「それで、続きを話してもらえるかしら。今回の事件解決の糸口があるのでしょう?」
「あ、はい。実は……」
ルルの話では攻略対象の中に隠しキャラとして王弟殿下ギルバート・シュバルツバイスがおり、その攻略にあたって悪役となるゲルハルト・コラーディン伯爵の悪事を暴くものがあるとのことだった。
「そのイベントというのが屋敷の隠し部屋にある10年前の不正に関する証拠を掴むものなんですぅ」
「待ちなさいルル!貴女はリリ様がマリアヴェル・コラーディンと友人になったとの話の時にゲルハルト・コラーディンのことを話さなかったではないですか!」
アンナの鋭い指摘にルルの目が泳ぎだす。
「だ、だってぇ、リリ様がマリーと友達になったって嬉しそうにしているから話しづらくって……」
言い訳をするが、アンナの追及は止まらない。
「貴女は猫妖精のことも伝え忘れていたでしょう!」
「あれは……その……シャノワが私にとって当たり前すぎて伝え忘れたんですぅ」
「このポンコツが!他にも何か伝えていない事があるんじゃないいんですか?」
「ほ、他ですかぁ?」
ルルは首を捻って腕を組む。
「そうですねぇ。この世界は乙女ゲームなんでスキルの概念が無いとか?」
「……それはまさかリリ様のデュアルコンパイルは存在していなかったと?」
「とーぜんありませんよぉ」
「このお馬鹿!その情報が先に入手できていればポンポコリンなどという怪しい男をリリ様に合わせずに済んだものを!」
「いえ私はポンポン侯爵です」
「貴方は黙っていなさい!」
「はいぃぃぃ!!!」
アンナに一喝されイダーイはひっと首をすくめた。アンナはそんなイダーイには一瞥もくれず、前に座るルルの両肩をがっしりと掴む。
「今のうちに洗いざらい吐き出しなさい!」
「そんなご無体な。もっと具体的に言ってもらわないと……」
「アンナちゃん落ち着いて。今はコラーディン関係の事に絞りましょう」
エルゼに嗜められアンナは素直に引き下がりエルゼにバトンを渡した。
「それじゃあルルちゃんが知っている範囲でコラーディンの不正の内容と隠し部屋の場所、そこにあるという証拠について教えてちょうだい」
エルゼに促され、ルルはゲームで10年前の流行病の治療薬を不正に横流した事件にコラーディン伯爵が悪役として絡んでいること、彼の書斎の隠し部屋の中に詳細な記録があることなどを覚えている限り詳細に語った。
「なんとかその証拠を押さえれば治療薬の件での立件は可能ね」
「それは私が屋敷に潜入して入手いたします」
「それはルルちゃんが作った魔術を使って?」
リリの言葉にエルゼの目に剣呑な光が灯る。
「それは……」
「あ、あれは原理を話しただけでぇ実際にはリリ様が創作した魔術ですぅ」
言い淀むリリに代わりルルがそう主張したが、エルゼはかぶりを振る。
「同じことよ……リリちゃんはもう分かっているでしょう?」
唇を軽く噛み俯くリリを見るエルゼの目がスッと細くなる。
「リリちゃんを監視していたのだから学園や昨夜のベルクルドで使用した魔術も把握しているわ……
確かに前世の記憶持ちは様々な知識でこの世界に恩恵を齎してくれるわ。でもルルちゃんの『おとめげーむ』や魔術の原理に関する知識は危険よ。
今回は私だけに露呈したことで済んでいるけれど状況によってはルルちゃんを危険に晒すところだった……
リリちゃん……貴女のとった行動が軽率だったって分かるわね?」
「……はい」
「待ってください!リリ様は私やマリーのためを思って……」
「いいのルル」
自分を庇おうとするルルを止めて、リリはエルゼに頭を下げた。
「私の行動は迂闊でした。この件に関しては……」
「分かっているわ。私の方でなんとかしましょう」
「ありがとうございます。それでルルとマリーの身柄のことなんですが……」
「いいわ。2人のことはリュシリュー家に一任します」
「エルゼ様!」
パッと顔を明るくするリリにエルゼは人差し指を唇に当ててくすりと笑う。
「言ったでしょ。私はリリちゃんもルルちゃんも敵にしたいわけじゃないって」
「よろしいのですか?本当なら王家が介入してもおかしくない案件です」
喜びながらもリリは一応の警戒からエルゼの意図を確認する。
「私はエルゼ様がルルは拘束するのではないかと思っておりましたが……」
「え!?私って逮捕されちゃうんですかぁ!」
ルルはぎょっとするが、エルゼはひらひらと手を振って否定した。
「ルルちゃんはリリちゃんに預けた方が却って国に有用だと判断しただけよ。リリちゃんなら悪いようにはしないでしょ?」
「ありがとうございます!」
喜色を隠さないリリとは逆にルルは理解できていない様子で首を傾げた。
「それってどういうことですかぁ?」
「相変わらず安定の馬鹿っぷりですね」
「ヒドイ!アンナさんは安定の鬼畜ですぅ!」
「そんなことを言っていいのですか?」
「ど、どういう事ですかぁ?」
「貴女はルミエン家を含めてリュシリュー家の庇護下に入るのです。恐らくリリ様は貴女とマリアヴェル・コラーディンを専属侍女にするおつもりなのでしょう」
アンナは「そうですよね?」とリリに確認をすると、リリはこくりと頷いた。
「近くに置いておけば何かと守りやすいですから。これからよろしくね」
「リ、リリ様ぁ!一生ついていきますぅ……ぐぇ!」
感極まったルルがリリに抱き着こうと席を立ち上がると、その首根っこをアンナに掴まれた。
「これからは私が貴女の先輩兼指導係になるでしょう」
「ヒィィィ!」
冷たい笑いを浮かべて間近に迫ったアンナの顔にルルは悲鳴を上げた。
リリは転生ヒロインを侍女にするのは厭わない。むしろこれから楽しそうです……
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ルル「えぇ!私はリリ様の専属じゃないんですかぁ?」
アンナ「馬鹿ですか!まずは一から教育が必要でしょう。これからは私を師匠と崇め、敬って諂うように!」
ルル「私はリリ様に教育してもらいたいですぅ1」
アンナ「主人が直接指導するわけないでしょう!」
ルル「でもアンナさんの指導って厳しいだけで意味無さそうだしぃ、リリ様に手取り足取り教えてもらった方が……うへへへへ」
アンナ「何ですかその嫌らしい顔は!リリ様から手取り足取り腰取り組んずほぐれつなど私の目の黒いうちは絶対に許しません!」
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