チェンジ!魂魄置換大作戦~悪役令嬢リリーエン・リュシリューは何が起きても困らない~

古芭白あきら

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第60話 侯爵令嬢は王妃に謁見する

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 そのルルの祈りが天に届いたわけではないが、間もなく馬車は城門にまで到着し、リリの来訪と目的を告げた。

 特に咎められることもなく城門を通されればそこは王族の領域。王族と城勤めでない限りは招かれた者以外には入ることの許されない空間。同じシュバルツヴァイス王国にありながら他から隔絶された絶対不可侵の区画。

 そんな場所にちょっと前までリリは当たり前のように出入りしていた。だが、ルルの体になってからは初めて。

 この橄欖かんらん宮もなんだか懐かしい。

 アンナに先導され、リリはルルと並んで宮殿の中を歩く。

 ルルはいつも穏和な笑みを絶やさないリリの表情が固いことを不思議に思った。

──リリ様が緊張してる?

 珍しいと思った。ルルから見てリリは泰然として、いつも笑顔で余裕のある姿しか思い浮かばない。

 エルゼの待つ茶室に案内され、リリを先頭に入室すると、テーブルでは既にお茶を楽しみながら3人を待つエルゼがいた。

 リリは普段通りのカーテシーでエルゼに挨拶をする。

「エルゼ様……ご無沙汰しております」
「2週間と経っていないっていうのに久しぶりって感じね」

 いつも通りにこにこ顔のエルゼに対してリリはいつもとは違う凍った表情。

「エルゼ様にはお変わりなく……」
「他人行儀ねぇ。いつも通りエルゼちゃんでいいわよ」
「……王妃様。本日はお招きいただき恐悦至極に存じます」
「……あら、随分とお冠ねぇ」

 リリの対応に、笑顔のまま目を細めるエルゼ。表情は笑顔のままなのだが、その眼光は周囲の者の心胆を寒からしめるほどに鋭い。

「まるで喧嘩でもしにきたみたい」

 その声音も温度が幾分下がったようにルルには思えた。

 だが、リリは全く動じることなく、真っ向からその視線を受け止めた。

「それとも本気で私とやり合うつもり?」
「エルゼ様の出方しだいでは……」
「ふーん」

 淑女にあるまじき腕組み、不敵な笑いを浮かべリリを睥睨する

 リリはそれでも怯まない。ルルとマリーの未来がかかっている。引き下がるわけにはいかない。

──ひ、ひえぇぇぇ!

 その2人の言い合いバトルを2人に挟まれて間近で見せられているルルは内心戦々恐々だ。

「エルゼ様は全てをご存知だったはずです」
「全て?何のことかしら」

 鋭く切り出すリリにエルゼはすっとぼけた。だが、リリはその程度で諦めるほどヤワではない。

「魂魄置換のことも、その黒幕がコラーディン伯爵であることもご存知でしたね」
「あら私が?どうしてそう思うの?」

 厳しい顔付きのリリとは対照的にエルゼは悪戯っ子のような笑みを浮かべて楽しそうだ。

「私とルルの魂魄置換が行われた次の日、入れ替わっていることに直ぐお気づきになられたとか」
「それならメイも同じでしょ?」
「ええ、ルルが迂闊にも『アンナ』と呼んでしまったそうですから」

──あ!あれってそれでバレたんだ。

 今になって自分の迂闊さに気がつくルルであった。

「ですが、エルゼ様の前ではそうではなかった……アンナから話は聞いておりますよ」
「そうねぇ……ルルちゃんが間抜ケフンゲフン、可愛かったから気がついたのよ」

──間抜けって言った!間抜けってぇ!

 ルル涙目である。

「まあ、ルルがまぬ……迂闊なところがあるのは認めます」

──リリ様までぇ!

 ルル滝のような滂沱の涙だ。

「エルゼ様はルミエン家の状況も把握していらっしゃったとか。たかだか男爵家の内情を」
「ルミエン家は私の友人が嫁いだところよ。気にかけちゃいけない?」

 エルゼはクスクス笑う。リリの方にも特に動揺は見られない。この程度の揺さぶりでどうにかなる相手とは思っていないからだ。

「それに、『魂魄置換について知識のある知己の者がいる』と仰ったそうですね?」
「それが何か?」
「随分と都合がよろしいのですね」
「……」
「魂魄の魔術言語研究はこの国では禁忌です。研究者もかなり限られるでしょう。最初から魂魄の魔術言語を調べていたのではありませんか?」
「まだ起きてもいなかったのに?どうして?」
「10年前」

 リリの言葉にエルゼの表情が消えた。

「エルゼ様は事件の発端から既にご存知……」
「ええ、いいわ。認める」
「え!?」

 リリはこの程度でエルザが折れるとは思っていなかった。その為、簡単に認めたエルゼに意表を突かれてしまった。そのエルゼはリリの様子にしてやったりといった感じだ。

「知っていたわ。魂魄置換のことも、コラーディン伯爵のことも、そして……10年前のこともね」
「随分とあっさりお認めになるのですね」

 エルゼはいつものようにテーブルに肘をついて頬杖をつくとニヤニヤと笑う。

「私は別にリリちゃんやルルちゃんと争いたいわけじゃないもの」

 リリはじっとエルゼを見つめた。

──エルゼ様は何を狙っているの?

 表情にこそださないが、エルゼの意図が読めずリリは混乱した。

──今まで隠してここで切り札カードを切ってくる意味……

 自分に貸しを作るためだろうか?

 それは十分にありえる。ライルの思惑は置いておいて、リリは将来ライルと結婚して王太子妃になる予定である。嫁姑の争いは既に始まっているのかもしれない。大層な陰謀もエルゼにとってはその程度のものだ。

 それとも自分に次期王妃としての自覚を促しているのだろうか?

 それも考えられることだ。王太子妃となれば次期王妃である。リリは間違いなくこの国の同年代の令嬢の中で最も優秀である。それはエルゼも認めるところだろう。しかし、同時にエルゼは知っている。リリは周りが思っているほど冷淡でもなければ強くもない。むしろ甘い人間だ。今のうちに釘を刺しているのかもしれない。

 しかし、それだけではないようにリリには思えた。

──だけど今はマリーとルルの方が大事です。

 リリはとりあえずエルゼの企みについて考えることを止めた。

「じゃあ、そのことも踏まえて魂魄置換のお話を進めましょう」

 エルゼの合図で側仕えの侍女が恭しく跪礼して部屋を辞す。おそらく別室で待機している魔術研究者を迎えに行ったのだろう。

「今からこちらに来てもらうわ」

 それ程は間を置かず侍女が40前後くらいの痩身の男を連れて戻ってきた。

 その男は青のコートに白のスカーフ、黒系統のブリーチズを身に付けた研究者というより伊達男のような出で立ち。シルバーブロンドをオールバックにし、晒す目鼻立ちは整った中々の美形であった。

──おお!イケオジですぅ!

 ルル大喜び!


 リリはイケオジが出てきてもときめかない。だけどルルは大興奮のようです……


~~~~~後書きコント~~~~~


ルル「う~む……これはなかなか眼福ですぅ」
アンナ「貴女ホントにオジン趣味ですね」
ルル「えー!いいじゃないですかぁ」
アンナ「歳上がダメとはいいませんが……」
ルル「もしかしてアンナさんはショタコンですかぁ?」
アンナ「殺しますよ(怒)」
ルル「まあ冗談はさておき歳上ってよくないですかぁ?」
アンナ「まあ頼りない若造よりはマシではありますが」
ルル「そうでしょそうでしょ」
アンナ「ですが分かっているのですか?」
ルル「え?何がですかぁ?」
アンナ「貴女は『永遠のゼロ』ですよ」
ルル「その呼び名は不本意ですぅ!」
アンナ「貴女の意思など関係ないのです。どう足掻いても貴女とオッサンの並んだ構図は犯罪チックです」
ルル「……そう言えばムゥも捕まってました」orz
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