チェンジ!魂魄置換大作戦~悪役令嬢リリーエン・リュシリューは何が起きても困らない~

古芭白あきら

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第57話 侯爵令嬢はジョーカーを切る

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 勝てないと宣言した人間からの突然の降伏勧告に。赤髪の団長を含めて傭兵団の男たちは意味が分からず唖然とした。

 そんな彼らに対してリリは悠然といつもの微笑を湛える。

「貴方が仰ったのでしょう?確かに私は人を殺したことがありません。だから人を殺したくはないのです」

 リリがふふふと声を出して笑うと、男たちはそのリリの不敵な雰囲気に飲まれた。

「ですが『なるべく』です。私は貴方がたの命を自分よりも優先するような聖女ではありません」

 いつの間に構築したのか、リリは右腕の魔術構文を周りの男たちに誇示した。

「残念ながら剣で貴方には勝てませんが、私は魔術こっちの方が得意なんですよ」

 唖然とする男たちにリリは可憐に微笑む。

「私は魔術師なんです」
「うそだろ……」
「団長とこれだけ切り結べる魔術師とか……」
「はったりだろ?」

 周りの団員たちが騒ぎ出す。

「そして確かに私には実戦経験がありません。貴方がたのような手練れを相手に手加減をする余裕を私は持ちません。私は臆病なので、確実に死オーバーキルを与える魔術ものを使います」
「馬鹿な!そんな強力な魔術を1人で行使できるはず……」
「このお姉さん本気みたいだよ」

 男たちの中で今までずっと沈黙していた金髪の少年が徐に口を開いた。それに赤髪の団長のみならず団員たちも少し驚いた表情をした。

「ウソだろ?」
「マジ……それにあの魔術構文見てよ。1人であれだけ膨大な魔術言語を高速で生成してる。最低でも王宮魔術師クラスだよ。魔術師って言うのはハッタリじゃない」

 感情の起伏を余り感じさせない少年の指摘に、赤髪の団長は乾いた笑いを浮かべ、ガシガシと頭を掻く。

「おいおい、俺は魔術師相手に剣で手古摺てこずってたのかよ」
「撤退推奨。どんな魔術か知らないけど、まず無事では済まないと思う」
「できるわきゃねぇだろ」

 やはり淡々と献言する少年に軽く一喝して、赤髪の団長はリリの右手の方の若いが茶髪に白いものが混じった団員に目配せアイコンタクトをした。その赤髪の団長のやり取りを見逃さなかったリリは嫌な予感を覚えた。

──奥の手・・・を用意しといた方がよさそうですね。

「まったく、とんでもねぇ隠し球を出しやがって」
「どうされますか?私としては諦めてもらえると助かりますが……」

 赤髪の団長はまだ焦っている様子はない。先ほどの目配せのこともある。リリは周囲の団員たちへの注意も怠らなかった。

「言ったろ……できない相談だ。それにこっちにも奥の手はあるんだぜ!」

 そう言った瞬間、先ほどアイコンタクトを取っていたリリの右手側の男に動きがあった。リリの方に両腕を向けると一瞬光ったように見えた。

 と、その男が全身から汗を噴き出し片膝をついた。それと同時にリリの右腕に構築されていた魔術構文が跡形もなく消え去った。

──魔術構文は魂魄内で編まれるという仮定が正しければ、視覚化された魔術構文を破壊しても魔術の発動に影響はないはず……

 だが、魔術の発動が阻まれたようで、魔術を起動できない。

──魂魄内に干渉されて根元から魔術構文を破壊されたと考えるべきでしょうか?

「どうだ!魔術構文破壊マギブレイカー!こんな能力の存在を知っているやつはいないからな。対処のしようもあるまい」

 思いっきりドヤ顔の赤髪の団長。お前の力じゃないだろとの突っ込みをしたくなるが、魔術を阻害されたリリに焦りはなかった。

「素直に大したものだと感心します。構文の構造が分からず、規模の大小にも関わらずに魔術を無効化する。かなり強力な能力です」
「くっくっくっく……さあ、降参するんだ」
「残念ですが、私の奥の手の方が一枚上手のようです」

 勝ち誇る赤髪団長に、リリは左腕の魔術構文を見せつけた。

 並列魔術構文編纂デュアルコンパイル

 リリは念のために同じ魔術構文を別に編み上げていた。

 恐らく能力の保持者だろうと思われる茶髪の団員が、未だに片膝をついて消耗している姿を一瞥すると、今度はリリが不敵な笑いを浮かべた。

「確かに強力な能力ちからですね。ですがそうそう連発はできないのでしょう?私の方はまだまだいけますよ?」

 唖然としている男たちを尻目に、リリは再び右腕に魔術構文を構築した。

「馬鹿な!同時に2つの魔術を発動だと!?」
「ありえねぇ!そんな能力聞いたことがない!」
「魔術の並列運用は成功例がないはずじゃ……」
「こんな出鱈目なヤツにどうやって勝てっていうんだ」

 もう赤髪の団長を含めて傭兵たちの顔から余裕は全て消え去っていた。戦意を失っている者もいるようだ。

「……正真正銘の化け物かよ」

 苦虫を噛み潰したような表情で、リリを睨み付ける赤髪の団長。他の団員たちも気圧されて無意識に後退る。

 その中で金髪の少年は変わらず無表情だったが、急にきょろきょろと辺りを見回し始めた。

「団長……何か近づいて来る。逃げた方がいい……」

 赤髪の団長にそっと近づくと小さな声で警告を発した。

「やばめか?」
「それなりに多勢だと思う。たぶん警邏の連中じゃないかな?」
「……仕方ねぇ。引き上げだ!」

 言うが早いか、男たちはリリを警戒しながらも、サッと引き上げて闇の中へと消えていった……



 リリは剣術で勝てなくても困りません。魔術の方が得意だから……

~~~~~後書きコント~~~~~


アンナ「それではいきますよ!『アンナ~スト……」
ルル「待って!待って!待ってくださいぃぃぃ!!!」
アンナ「まったく、今度はなんですか?」
ルル「どうしてこっち向いているんですかぁ!」
アンナ「それは貴女に直に『アンナストラッシュ』を見せるためです」
ルル「こっち向いてたら私が食らっちゃうじゃないですかぁ!エルゼ様に向けて放ってくださいよぉ」
アンナ「いちいち注文が多いですね。王妃様に向けて放ったら不敬罪でしょう」
エルゼ「そぉよぉ。それに『アンナストラッシュ』受けたら、さすがに私も無事じゃ済まないし」
ルル「いやいやいやいや!エルゼ様でも受け止められない技なんですかぁ!それ私が受けたら死んじゃいますってぇ」
アンナ「文句が多いですよ!そんなことでは『アンナストラッシュ』の習得は夢のまた夢」
エルゼ「そうよぉ。『アンナストラッシュ』習得のため」
ルル「それおかしくないですかぁ!」
アンナ「私は何か間違っていますでしょうか?」
エルゼ「え?何かいけないかしら?」
ルル「私は魔術が使いたいんであって、『アンナストラッシュ』を使いたいんじゃありません!」
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