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第36話 侯爵令嬢は宿敵(と書いてネコと読む)と対峙する
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リリは猫が嫌いです
自分勝手だし、
気まぐれだし、
すぐいなくなるし、
躾ができないし……
リリが近づけば毛を逆立て威嚇する
一瞥して期待を持たせるのに近寄らない
リリは思うのです
やはり猫より犬がいい
犬は躾ができる
撫でさせてくれる
言うことをきく
逃げ出さない
つまりは……
「私は犬派です!猫はお呼びじゃありません!」
ビシッと目の前の黒の子猫を指差し宣言するリリ。
「ニャ~」
それに返事をするのは一匹の黒い子猫。
ルミエン家に帰り着き、馬車を送り返して屋敷に帰ってきたリリを玄関で迎えた黒い子猫だった。リリの態度に不思議そうに小首を傾げて見上げた姿は愛らしい。
「何ですかその顔は!そんな顔しても私は騙されませんよ!」
黒い子猫は右に傾げていた首を、今度は逆に左に傾げて「ミャッ?」と疑問を投げかけるように一声上げた。
「くっ!かわい……いえ!その程度で私が過去に受けてきた屈辱、絶望、悲哀が消えることはないのです!」
リリが幼少期から今まで猫から受けてきた数々の仕打ち。
側に寄って手を差し出せば威嚇され、
気のある素振りに近づけば逃げられ、
野良達はリリを見て蜘蛛の子散らし、
飼い主から手渡されても暴れられる。
ああ、哀れ。
リリは滂沱の血涙を流し決意を表明した。
「私は猫如きには屈しません!!!」
∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻
ガール・ミーツ・キャット♪
ルミエン家の小さなエントランスでその出会いがあった。
幸せの予感にこの猫が運命だと感じたという。
リリはロマンスの神様にどうもありがとうと感謝した。
そのリリの細い腕にはしっかりと黒い子猫が鎮座していた。
あの後この黒い子猫はトテトテとリリに近寄ると、その小さな体をリリの足にすり寄せ甘えてきた。そのしなやかで温かい体、柔らかく滑らかな毛触り。
猫に甘えられたことのないリリはその至高の感触に秒で堕ちたという……
犬派?
何それおいしいの?
猫が嫌い?
馬鹿なのその人?
もはや過去の恩讐など頭から消え去りリリの顔面は幸せ状態で崩壊だ。
腕の中でリリに撫でられても安心したようにスリスリしてくる子猫にリリの猫に対する敵意はあっさりと崩れ去っていた。
──うちの子可愛いチョー可愛い!
(注:リリの飼い猫ではありません)
──全世界の愛猫家達も嫉妬すること間違いなしです!
リリはあっちこっち撫でまくってやりたい放題だ。
まるで今までの鬱憤を晴らすが如く触りまくりだ。
しかし、黒い子猫は特に嫌がる素振りもみせずに、「ニャ~」と甘えた声を出す。
しかもリリが話しかけるとまるで言葉が分かるかのような素振りを見せる。
じっさい、尻尾に触ると嫌そうにし、リリが「ここはダメですか?」と聞くとコクリと頷いたのだ。
これにはリリも驚いた。べつだん回答を求めての問いかけではなかったのに……
──うちの子賢いチョー賢い!
(注:リリの飼い猫ではありません)
──世のブリーダーたちも大絶賛すること請け合いです!
だが、この怪奇現象も子猫の愛らしさに撃沈したリリにはもはやそのようなことはどうでもよかった。
──ああ、この可愛さ、この賢さ。まさに話に聞く猫妖精のようです。
『ケット・シー』
魔法を操る猫の魔獣のことである。大人しい種で危害を加えない限り人に害をなさないことから幻獣もしくは妖精として分類するよう主張する学者もいる。よって『ケット・シー』=『猫妖精』と現在では表記されており、一般人からは妖精として扱われている。
幼精期にはほとんど猫と変わらない生態と容姿だが、成長すると体長1m弱ほどの大きなサイズになるものや尻尾の数が増えるものなどがいる。そして最大の特徴は精神魔法(魔術ではない)を操ることだ。好奇心は強いがそれ以上に警戒心も強く人里には滅多に下りてこないため見かけたら幸運がやってくるとも言われている。
王都は都会であり、リュシリュー領の領都も栄えているため当然リリは一度もその姿を見たことはない。
まあ、そんなことはリリにはどうでもいい。
リリにとって問題なのは触らせてくれる、抱かせてくれる、撫でさせてくれる、甘えてくる猫がいることなのだ。
そして、リリはそんな出会いに浮かれまくり……油断していた。
物事、自分にとって都合のよいことが起きている時には罠があるものだ。
「お、お姉ちゃん……」
子猫のベルベットの様な毛並みを堪能し、悦に入っていたリリにかけられた声に振り返れば、この世の終わりかの様に絶望した表情のネネがポツンと立っていた。
「あ、ネネちゃん。ただい……」
子猫を抱えて撫で撫でしながらネネに声をかけようとするとヒックヒックとネネが嗚咽を漏らした。
「シャノワにお姉ちゃんとられた~」
ネネの大きなお目々から大粒の涙が溢れ出す。
ネネはその小さい両手でスカートを握りしめ大声でワーと泣き出した。
リリは大慌てだ。
「ち、違うのよ。私はネネちゃん一筋だから」
そう言いながら子猫を抱き撫でているので説得力ゼロである。
まさしく浮気の代償。
──ああ、駄目だと分かっているのに手が!手がぁぁぁ!
艶やかで滑らかな触り心地。
小さく暖かく可愛らしい存在。
撫でる手には微かな筋肉の動きが伝わり小さいながらも生きている感動を与える。
抱き上げた体から伝わる小さい鼓動はその小ささを認識させ愛おしさを助長する。
リリの強力な自制心を持ってしても抗えない誘惑。
「ネネが……ヒック、アサお姉ちゃん……ヒック、こまらせたから……ネネよりシャノワのことが好きなの?」
──ああ、ネネちゃんが泣いています。だけど、だけど……
「ミャッ!」
手を離そうとすると子猫が抗議の声を上げるのだ。
大きなつぶらな瞳で見上げるのだ。
黒く艶々の毛並みはベルベットのように心地良いのだ。
撫でると暖かく柔らかく。
──このモフモフ、フカフカが憎い!
「お姉ちゃん・・ヒック、すぐかえって・・ヒック、こなかったのはネネが・・グス、ワルい子だから?」
ネネの涙腺は完全崩壊だ。
しかし、両腕で抱える黒猫が邪魔でネネを抱き締めることができない。
これがアンナの言っていた前門の天使、後門の妖精!
前門の天使の所に行きたいが、後門の妖精も捨てがたい。どちらにも行きたいが為にどちらにも行けないジレンマ!
なんということだ。身動きが取れない。
「はっ!この猫妖精は罠ね!」
「何馬鹿なこと言ってるの」
突然腕の中の子猫が取り上げられた。母セシリアだ。
「さっさとネネをあやしなさい。貴女の帰りが遅くて大変だったのよ。いつも聞き分けのいいネネが玄関から離れずグズってて」
猫の拘束から解放されたリリは脱兎の如くネネに駆け寄り素早く抱き竦めた。
「うぁん!お姉ぢゃ~ん!」
「ああ、ごめんなさいネネちゃん。私が悪かったわ」
ネネは必死にリリにしがみつきグスグスヒックヒックと嗚咽を漏らす。
「ネネちゃん。お姉ちゃんがいけなかったの。泣きやんで!」
「う~~~グス、ヒック、グス」
浮気ダメ絶対!
この時、セシリアは姉妹の感動の再会シーンだけどなんか違うと思ったという。
「ニャッ!ニャッ!」
何やらシャノワが母の腕の中で抗議の声を上げながら暴れている。
「コラっ!シャノワ大人しくしなさい」
セシリアは暴れるシャノワを強引に抑え込んだが、シャノワは余計に暴れ出し遂にセシリアの手を引っ掻いた。
「シャノワ!!」
セシリアは力一杯シャノワを投げつけた。
「お、お母様!!!」
リリは驚愕だ。あの優しい母がいたいけな子猫を投げたのだ。
ネネを撫で回す手も止まり顔面蒼白になったリリを更に驚愕の事実が襲う!
投げられたシャノワが空中でクルッと回転すると床の上にスタッと着地したのだ。いや、猫なら当然できる芸当だろう。
2本の後ろ足だけで立ったのでなければ……
「え?……」
しかもシャノワは2本の後ろ足だけでトテトテとリリの方に歩いて来るではないか。その姿は愛嬌があり、愛々しいのだがどこかシュールでもある。羽飾りのついた帽子と長靴が似合いそうなその黒い子猫にさしものリリも茫然だ。
「大丈夫よ。シャノワはまだ子供だけどケット・シーなんだから」
「ケット……シー?」
──これが!?
足元で屹立して制服のスカートの裾をカリカリするシャノワ。それを大きく見開いた目で見た。
「貴女と契約した妖精でしょ」
リリは口をアウアウとさせ言葉もない。まさしく開いた口が塞がらない状態だ。
──ルル!貴女はこんな重要なことを私に伝えなかったの!?
猫妖精は山奥でひっそり生活していて田舎でも滅多に見かけないのだ。王都にいることは通常ありえない。ましてや契約しているなど稀有中の稀有だ。天文学的確率の低さだ。
これは何を置いても伝えるべき最重要事項だ。
あのルルのことだ、悪意は無いだろう。
きっとわざとでも無いだろう。
本当に忘れていただけなのだろう。
おそらくは彼女には日常過ぎて、当たり前過ぎて、失念していただけなのだろう。
──悪気はなかったのよね。悪気は。だけど……だけど……
唖然とするリリの視線の先でネネとシャノワがお互い威嚇し、牽制しながらリリの取り合いを繰り広げていた。
しかし、そんな可愛らしい争いよりもリリの頭を占める事柄があった。
──ルル!貴女ホントーにポンコツだったのね!!
リリは心の中で絶叫したという。
リリは猫がいても困らない。困らなかったのに……
~~~~~後書きコント~~~~~
アンナ「……」
ルル「……何ですかその目は!?」
アンナ「貴女ヒロインなのにホント残念仕様ですね」
ルル「シャノワのことはちょっと伝え忘れてただけじゃないですかぁ!」
アンナ「本当に『ポンコツ』がステータスにあるんじゃないんですか?」
ルル「これ乙女ゲームですよ?そんな設定ありませんから」
アンナ「そうですか?貴女ならありそうですが。試しに言うてみぃ、ほれステータスオープン言うてみぃ」
ルル「まったく……『ステータスオープン』!ほらでな…い……え!?」
アンナ「出たんですね」
ルル「あ!ネネの出る続編はRPG要素があるんだっけ」
アンナ「続編の影響ですか」
ルル「えぇっと……うわ!能力値すごっ!魔力保持容量(最大MP)とか化け物レベル!」
アンナ「(魔術使えない貴女には宝の持ち腐れ……いえ、魔道具兵装で強化する手が!いつか魔改造しますか……ふっふっふっふっ)」
ルル「へぇスキル画面もある。あっ!『称号』欄もあ・・る?」
アンナ「どうしました?かたまって動かない。まるで屍のようだ」
ルル「……」
アンナ「あ!あったんですね!『ポンコツ』あったんですねw」
ルル「(TдT)うぅ~~~」
アンナ「うわははは!涙滲ませて、悔しいのぉ悔しいのぉ」
ルル「わ~ん!(ポカポカ)」
リリ「ホント仲良いわねぇ貴女たち」
自分勝手だし、
気まぐれだし、
すぐいなくなるし、
躾ができないし……
リリが近づけば毛を逆立て威嚇する
一瞥して期待を持たせるのに近寄らない
リリは思うのです
やはり猫より犬がいい
犬は躾ができる
撫でさせてくれる
言うことをきく
逃げ出さない
つまりは……
「私は犬派です!猫はお呼びじゃありません!」
ビシッと目の前の黒の子猫を指差し宣言するリリ。
「ニャ~」
それに返事をするのは一匹の黒い子猫。
ルミエン家に帰り着き、馬車を送り返して屋敷に帰ってきたリリを玄関で迎えた黒い子猫だった。リリの態度に不思議そうに小首を傾げて見上げた姿は愛らしい。
「何ですかその顔は!そんな顔しても私は騙されませんよ!」
黒い子猫は右に傾げていた首を、今度は逆に左に傾げて「ミャッ?」と疑問を投げかけるように一声上げた。
「くっ!かわい……いえ!その程度で私が過去に受けてきた屈辱、絶望、悲哀が消えることはないのです!」
リリが幼少期から今まで猫から受けてきた数々の仕打ち。
側に寄って手を差し出せば威嚇され、
気のある素振りに近づけば逃げられ、
野良達はリリを見て蜘蛛の子散らし、
飼い主から手渡されても暴れられる。
ああ、哀れ。
リリは滂沱の血涙を流し決意を表明した。
「私は猫如きには屈しません!!!」
∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻∻
ガール・ミーツ・キャット♪
ルミエン家の小さなエントランスでその出会いがあった。
幸せの予感にこの猫が運命だと感じたという。
リリはロマンスの神様にどうもありがとうと感謝した。
そのリリの細い腕にはしっかりと黒い子猫が鎮座していた。
あの後この黒い子猫はトテトテとリリに近寄ると、その小さな体をリリの足にすり寄せ甘えてきた。そのしなやかで温かい体、柔らかく滑らかな毛触り。
猫に甘えられたことのないリリはその至高の感触に秒で堕ちたという……
犬派?
何それおいしいの?
猫が嫌い?
馬鹿なのその人?
もはや過去の恩讐など頭から消え去りリリの顔面は幸せ状態で崩壊だ。
腕の中でリリに撫でられても安心したようにスリスリしてくる子猫にリリの猫に対する敵意はあっさりと崩れ去っていた。
──うちの子可愛いチョー可愛い!
(注:リリの飼い猫ではありません)
──全世界の愛猫家達も嫉妬すること間違いなしです!
リリはあっちこっち撫でまくってやりたい放題だ。
まるで今までの鬱憤を晴らすが如く触りまくりだ。
しかし、黒い子猫は特に嫌がる素振りもみせずに、「ニャ~」と甘えた声を出す。
しかもリリが話しかけるとまるで言葉が分かるかのような素振りを見せる。
じっさい、尻尾に触ると嫌そうにし、リリが「ここはダメですか?」と聞くとコクリと頷いたのだ。
これにはリリも驚いた。べつだん回答を求めての問いかけではなかったのに……
──うちの子賢いチョー賢い!
(注:リリの飼い猫ではありません)
──世のブリーダーたちも大絶賛すること請け合いです!
だが、この怪奇現象も子猫の愛らしさに撃沈したリリにはもはやそのようなことはどうでもよかった。
──ああ、この可愛さ、この賢さ。まさに話に聞く猫妖精のようです。
『ケット・シー』
魔法を操る猫の魔獣のことである。大人しい種で危害を加えない限り人に害をなさないことから幻獣もしくは妖精として分類するよう主張する学者もいる。よって『ケット・シー』=『猫妖精』と現在では表記されており、一般人からは妖精として扱われている。
幼精期にはほとんど猫と変わらない生態と容姿だが、成長すると体長1m弱ほどの大きなサイズになるものや尻尾の数が増えるものなどがいる。そして最大の特徴は精神魔法(魔術ではない)を操ることだ。好奇心は強いがそれ以上に警戒心も強く人里には滅多に下りてこないため見かけたら幸運がやってくるとも言われている。
王都は都会であり、リュシリュー領の領都も栄えているため当然リリは一度もその姿を見たことはない。
まあ、そんなことはリリにはどうでもいい。
リリにとって問題なのは触らせてくれる、抱かせてくれる、撫でさせてくれる、甘えてくる猫がいることなのだ。
そして、リリはそんな出会いに浮かれまくり……油断していた。
物事、自分にとって都合のよいことが起きている時には罠があるものだ。
「お、お姉ちゃん……」
子猫のベルベットの様な毛並みを堪能し、悦に入っていたリリにかけられた声に振り返れば、この世の終わりかの様に絶望した表情のネネがポツンと立っていた。
「あ、ネネちゃん。ただい……」
子猫を抱えて撫で撫でしながらネネに声をかけようとするとヒックヒックとネネが嗚咽を漏らした。
「シャノワにお姉ちゃんとられた~」
ネネの大きなお目々から大粒の涙が溢れ出す。
ネネはその小さい両手でスカートを握りしめ大声でワーと泣き出した。
リリは大慌てだ。
「ち、違うのよ。私はネネちゃん一筋だから」
そう言いながら子猫を抱き撫でているので説得力ゼロである。
まさしく浮気の代償。
──ああ、駄目だと分かっているのに手が!手がぁぁぁ!
艶やかで滑らかな触り心地。
小さく暖かく可愛らしい存在。
撫でる手には微かな筋肉の動きが伝わり小さいながらも生きている感動を与える。
抱き上げた体から伝わる小さい鼓動はその小ささを認識させ愛おしさを助長する。
リリの強力な自制心を持ってしても抗えない誘惑。
「ネネが……ヒック、アサお姉ちゃん……ヒック、こまらせたから……ネネよりシャノワのことが好きなの?」
──ああ、ネネちゃんが泣いています。だけど、だけど……
「ミャッ!」
手を離そうとすると子猫が抗議の声を上げるのだ。
大きなつぶらな瞳で見上げるのだ。
黒く艶々の毛並みはベルベットのように心地良いのだ。
撫でると暖かく柔らかく。
──このモフモフ、フカフカが憎い!
「お姉ちゃん・・ヒック、すぐかえって・・ヒック、こなかったのはネネが・・グス、ワルい子だから?」
ネネの涙腺は完全崩壊だ。
しかし、両腕で抱える黒猫が邪魔でネネを抱き締めることができない。
これがアンナの言っていた前門の天使、後門の妖精!
前門の天使の所に行きたいが、後門の妖精も捨てがたい。どちらにも行きたいが為にどちらにも行けないジレンマ!
なんということだ。身動きが取れない。
「はっ!この猫妖精は罠ね!」
「何馬鹿なこと言ってるの」
突然腕の中の子猫が取り上げられた。母セシリアだ。
「さっさとネネをあやしなさい。貴女の帰りが遅くて大変だったのよ。いつも聞き分けのいいネネが玄関から離れずグズってて」
猫の拘束から解放されたリリは脱兎の如くネネに駆け寄り素早く抱き竦めた。
「うぁん!お姉ぢゃ~ん!」
「ああ、ごめんなさいネネちゃん。私が悪かったわ」
ネネは必死にリリにしがみつきグスグスヒックヒックと嗚咽を漏らす。
「ネネちゃん。お姉ちゃんがいけなかったの。泣きやんで!」
「う~~~グス、ヒック、グス」
浮気ダメ絶対!
この時、セシリアは姉妹の感動の再会シーンだけどなんか違うと思ったという。
「ニャッ!ニャッ!」
何やらシャノワが母の腕の中で抗議の声を上げながら暴れている。
「コラっ!シャノワ大人しくしなさい」
セシリアは暴れるシャノワを強引に抑え込んだが、シャノワは余計に暴れ出し遂にセシリアの手を引っ掻いた。
「シャノワ!!」
セシリアは力一杯シャノワを投げつけた。
「お、お母様!!!」
リリは驚愕だ。あの優しい母がいたいけな子猫を投げたのだ。
ネネを撫で回す手も止まり顔面蒼白になったリリを更に驚愕の事実が襲う!
投げられたシャノワが空中でクルッと回転すると床の上にスタッと着地したのだ。いや、猫なら当然できる芸当だろう。
2本の後ろ足だけで立ったのでなければ……
「え?……」
しかもシャノワは2本の後ろ足だけでトテトテとリリの方に歩いて来るではないか。その姿は愛嬌があり、愛々しいのだがどこかシュールでもある。羽飾りのついた帽子と長靴が似合いそうなその黒い子猫にさしものリリも茫然だ。
「大丈夫よ。シャノワはまだ子供だけどケット・シーなんだから」
「ケット……シー?」
──これが!?
足元で屹立して制服のスカートの裾をカリカリするシャノワ。それを大きく見開いた目で見た。
「貴女と契約した妖精でしょ」
リリは口をアウアウとさせ言葉もない。まさしく開いた口が塞がらない状態だ。
──ルル!貴女はこんな重要なことを私に伝えなかったの!?
猫妖精は山奥でひっそり生活していて田舎でも滅多に見かけないのだ。王都にいることは通常ありえない。ましてや契約しているなど稀有中の稀有だ。天文学的確率の低さだ。
これは何を置いても伝えるべき最重要事項だ。
あのルルのことだ、悪意は無いだろう。
きっとわざとでも無いだろう。
本当に忘れていただけなのだろう。
おそらくは彼女には日常過ぎて、当たり前過ぎて、失念していただけなのだろう。
──悪気はなかったのよね。悪気は。だけど……だけど……
唖然とするリリの視線の先でネネとシャノワがお互い威嚇し、牽制しながらリリの取り合いを繰り広げていた。
しかし、そんな可愛らしい争いよりもリリの頭を占める事柄があった。
──ルル!貴女ホントーにポンコツだったのね!!
リリは心の中で絶叫したという。
リリは猫がいても困らない。困らなかったのに……
~~~~~後書きコント~~~~~
アンナ「……」
ルル「……何ですかその目は!?」
アンナ「貴女ヒロインなのにホント残念仕様ですね」
ルル「シャノワのことはちょっと伝え忘れてただけじゃないですかぁ!」
アンナ「本当に『ポンコツ』がステータスにあるんじゃないんですか?」
ルル「これ乙女ゲームですよ?そんな設定ありませんから」
アンナ「そうですか?貴女ならありそうですが。試しに言うてみぃ、ほれステータスオープン言うてみぃ」
ルル「まったく……『ステータスオープン』!ほらでな…い……え!?」
アンナ「出たんですね」
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アンナ「続編の影響ですか」
ルル「えぇっと……うわ!能力値すごっ!魔力保持容量(最大MP)とか化け物レベル!」
アンナ「(魔術使えない貴女には宝の持ち腐れ……いえ、魔道具兵装で強化する手が!いつか魔改造しますか……ふっふっふっふっ)」
ルル「へぇスキル画面もある。あっ!『称号』欄もあ・・る?」
アンナ「どうしました?かたまって動かない。まるで屍のようだ」
ルル「……」
アンナ「あ!あったんですね!『ポンコツ』あったんですねw」
ルル「(TдT)うぅ~~~」
アンナ「うわははは!涙滲ませて、悔しいのぉ悔しいのぉ」
ルル「わ~ん!(ポカポカ)」
リリ「ホント仲良いわねぇ貴女たち」
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