チェンジ!魂魄置換大作戦~悪役令嬢リリーエン・リュシリューは何が起きても困らない~

古芭白あきら

文字の大きさ
上 下
41 / 94

第31話 侯爵令嬢は男爵令嬢の秘密を聞く

しおりを挟む
「それで最後はライル様のことね」

 アンナが落ちついたところで、リリは最後の問題について切り出した。
 2人の背後に立つアンナは先ほどの狂瀾ぶりが嘘のようにいつもの感情を見せない表情に戻っていた。
 ルルはそんなアンナをチラチラと警戒しながら、リリの質問にため息がでそうだった。

「どうしても話さないといけませんか?」
「どうしても話せない?」

 それには答えずルルはじっとリリを見詰めた。

「今日ライル様たちが接触してきたわ。このまま誤魔化し続けることはきないでしょ?」
「殿下たちに魂魄置換のことを話すのは?」
「できれば最後の手段にしたいわ」
「どうしてですか?殿下たちなら力になって……」
「私との婚約を破棄する陰謀わるだくみの最中でしょ?それにやはりライル様たちには話すわけにはいかないの」
「どうしてですか?殿下たちはとても良い人たちだと思います。きっと協力して……」

 リリはルルの言葉を手で制した。

 リリはルルがあの側近3人たちとだいぶん気心が知れたのだろうと思った。人当たりのよいライルとお人好しのあの3人だ。今のルルを見れば打ち解けていてもおかしくはない。

 リリのこの予想はあたっていた。
 ルルはライルとその側近3人に強い仲間意識を持っていた。
 無理もない。学園に入り友人がいない孤立した状態で、同じ企みを遂行している仲だ。自然と仲良くなったのだろう。

「ルル……そうねライル様たちはとても気持ちのよい方がたよね。でも……」

 リリはライルやあの3人が貴族としては問題でも人としてはお人好しの好感の持てる人物だとは思っている。正直に言えば彼ら3人の能力だけの野心の強い兄弟たちよりも人として彼らは信用できるだろう。だからライルは彼らを側近にしたのだ。

 だが、今回の件ではそれは関係ないのだ。

「私もね最初は周囲に露見してもよいかと思っていたの。だけどルルも魂魄置換の話を聞いたでしょ?」

 リリはかみ砕いてルルに説明を始めた。
 先の襲撃、偶然も否定できないがタイミング的に今回の件に関わるだろうこと。
 エルゼやアンナの言うように、この魂魄置換に大きな陰謀の可能性があること。
 魂魄置換の話をして協力を仰いだら、その者達にも累が及ぶ可能性があること。
 禁忌術を使った王家を狙う陰謀ならば犯人は高位貴族である可能性が高いこと。
 そして、高位貴族が犯人なら側近達の親族の中に犯人がいる可能性もあること。

「だからライル様たちに話すわけにはいかないの。ライル様だけでもだめよ。ライル様とあの側近たちはとても強い信頼関係があるわ。ライル様に秘密を共有させてあの3人に対する負い目は負わせたくないわ」
「……はい」

 ルルもライルたちがとても仲のよい友人関係であることは分かっている。今までその輪の中にいたのだ。だから、その関係性を壊したくはない。

「ルル。ライル様の婚約破棄が擬態なのは予想がついているの。全部を無理に話せとは言わない。ルルの話せる範囲でお願いできないかしら?」

 ルルは目を閉じてじっと考え出した。リリはそんなルルをじっと見詰め、特に話を促すこともなく沈黙を守った。

 誰もが言葉を発せず、ただ言葉のない空間がこの場を支配し、重い空気が時間とともに流れていく。

「……私には前世があるんです」

 やがて、ルルは目を開けるとその重い空気を払う一言を発した。
 リリは微動だにしない。ただ、ルルの話すのにまかせた。

「そしてこの世界はその前世でした乙女ゲームの世界にそっくりなんです」
「この世界?乙女ゲーム?」

 リリは聞き慣れない単語に小首を傾げたが、ルルは構わず話し続ける。

「はい……私の前世はこの世界の住人ではありません」

 リリとアンナは軽く頷いた。魔天の1人ギベン・デルネラも別世界からの転生者であり、この世界には一定数の転生者の存在は認知されていた。

「……それで、この世界は私の前世の世界にあった乙女ゲーム『白銀しろ黒鋼くろ譚詩曲バラード)にそっくりなのです!」


 リリはルルの衝撃の激白にも怯まない。リリは全てを受け入れる強さがあるから……


~~~~~後書きコント~~~~~


ルル「あれぇ~?2人ともあまり驚かないんですねぇ?」
アンナ「今さら転生者の1人や2人……」
ルル「え!?私以外にも転生者が?」
アンナ「貴女ものをホントに知らないのですね」
ルル「ぐっ!すみません」
アンナ「この世界には昔から転生者が何人も出現しているんですよ。その知識が色々なところで活きています。魔術でもギベン・デルネラが大きな貢献をしています」
ルル「あ!やっぱりギベン・デルネラって転生者だったんだぁ。ゲームでは『七魔天』なのに、ここでは『八魔天』だったからおかしいと思ったんですぅ」
アンナ「魔天もゲーム設定だったのですか……」
ルル「そっか~私だけじゃなかったんだぁ」
アンナ「ええ、それに私も……ふっふっふっふっふっ」
ルル「え!?」
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】 乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...