上 下
39 / 94

第29話 侯爵令嬢は男爵令嬢と戯れる with 暴走侍女

しおりを挟む
「もう少し詳しく知りたいわ」

 リリは自分の秘密に少しずつ近づいているのを感じた。

「おそらく王妃様のおっしゃっていた伝手はこの魔力と魂の関係性を研究をしている者かと。その者に尋ねられたら宜しいのでは?」
「そうね……今、考えても何もできないわね」

 リリは少し残念な気持ちもあったが、どのみち今はこの件に関して推測を広げることしかできない。と、はやる気持ちを抑えた。ここであれこれ考えても結論は出まい。

 だから、

「状況はおそらく魂魄置換。現状ではこれに関して何もできない以上は、この件に関してはエルゼ様の連絡が来るまで保留としましょう」

 今やるべきことを考えよう。と、気持ちを切り替えた。

「そうなれば私とルルは当面このままの状態ね。今後どうするかを早急に決めないと」

 リリの言葉にルルは不安そうに胸の前で両手を握った。

「私、このままじゃ不安です!リリ様の真似なんてできません!!」
「心配無用!ポンコツに女神の如きリリ様と同じ振る舞いなど期待しておりません」
「アンナさん私にばかり当たりが強くないですかぁ!?」
「私はリリ様以外にはこんなものです」
「鬼、鬼畜、悪魔!」
「ふふふ」
「「笑わないでください!!」」

 息の合っている2人のやり取りにリリは少し安堵した。
 はたから見れば突き放したようなアンナの態度もルルの不安を和らげるための思いやりであることはリリには分かっている。

──ルルはアンナに任せれば安心ね。だけれども……

 大丈夫だと思うが、一方でリリの胸中に一抹の寂しさがよぎった。

 リリとアンナの間には信頼関係があるが、それは主従関係の上でのことだ。今のアンナとルルのように気安い友人同士みたいなものはない。その間柄をリリは眩しくも、羨ましくも感じる。

──感傷に浸っていても仕方がないですね。

 自分の気持ちにそっと蓋をしてリリはルルに優しい笑顔を向けた。

「ルル、大丈夫よ。ちゃんとアンナが守ってくれるわ」
「ホントーですかぁ?」

 リリの言葉にアンナに疑惑の視線を送るルル。
 当のアンナは涼しげな顔で我関せずだ。自分のことなのに……

「ええ。だって今のルルは私だから。絶対守ってくれるわ」

 リリはアンナを見てにっこりと笑顔を送った。

「アンナは変態なの。私の容姿のみを溺愛しているだけだから中身は問わないわ!」
「はい私は変態です!リリ様の超絶美貌のみ溺愛していますのでリリ様の美体が損なわなければ中身はどうでもいいのです」

 主人の辛辣な評価もアンナにはご褒美だ。
 内容にも関わらず誇らしげな顔でカミングアウトするアンナ。

「変態は認めるんですね……」

 その発言の内容とドヤ顔にルルはドン引きだ。

「だけどアンナさん、人は外見だけではありません!優しさや思いやりといった心も大切だと思います!」
「はっ!優しさ?思いやり?」

 小馬鹿にしたように鼻で笑うアンナ。とんでもない侍女である。

「そんなのまやかしです。人の内面なんて付け合わせのパセリです。無くても困りません。メインディッシュは外見です。外見が良ければそれで良いのです!絶対です!」

 アンナ節炸裂!
 もはやアンナの爆進を止める手段はない。
 まあ、リリは止めるつもりが毛頭ないが。むしろ楽しげだ。
 この侍女にしてこの主人ありだ。

「聖女の様な清らかな心を持つドブスと性格イマイチだけど超絶美少女がいて漢はどちらを伴侶に選ぶと思います?100人漢がいたら1000人の漢が性格イマイチな超絶美少女選びますよ。アンナリサーチに間違いはありません。絶対です!」
「何ですかそのリサーチは!回答者が増えてるし!だいたいそんなことありませんよぉ!顔より性格だと言ってくれる素敵な男性だっていますぅ!」

 なに夢見てんだこいつといった顔をして、ケッ!とアンナは嘲笑する。
 アンナ節の最中はこの侍女ほんとに態度が悪い。

「ふん!顔なんて関係ない?性格が良い方が好き?優しさ思いやりに惚れた?ちゃんちゃらおかしいです。へそで茶が沸きそうです」

 アンナの吐く毒は止まらない……

「目で見えもしない実体の無い不確かなものにどうやって懸想けそうするんですか?そんな戯言ざれごとを吐くやつらはむっつりです。そいつらもホントは美少女の方がいいし、漢は皆おっぱい聖人ですから大きな胸が大好物なのです!絶対です!」

 何がそこまで彼女を駆り立てるのか……

「それをむっつりどもは誤魔化すので質が悪いです。なんだかんだ言ったって、容姿が悪い、胸の小さい女性を男どもは選びません。何故なら須く漢は皆エロいからです!絶対です!」

 何という暴論!
 世の漢たちはこの暴言侍女に意義を申し立てしなければなるまい。

「む、胸なんてただの脂肪の塊です。エロい人にはそれが分からんのです」

 持たざる代表者ルルは胸のサイズにコンプレックスがあるのだ。思わず自身の胸に手をやる。

──あ、大きい!

 今はリリの体だからあたり前である。ホッと安堵するルルだが、それは胸の大きさが重要事項だと認めているようなものだ。

 そんな様子のルルを勝ち誇った目で見るアンナ。

「ふふん!エロくない漢などいないのだからやはり漢はみなオッパイ聖人です」
「そんなことありません!胸なんて外見に囚われず美しい内面を見てくれる立派な男の人だっていますぅ!」

 ルルは希望を持ちたい夢見るお年頃なのだ。
 胸の大きさなんて関係ない大丈夫。きっと自分にも優しく労りのある男性が現れる、と。

 アンナはそんなルルを残念な子を見るような目をした。
 ふ~やれやれと肩をすくめて首を左右に振る。

「貴女の内心は筒抜けです。残念ですが漢が100人いればエロい漢は10000人いるのですアンナリサーチは絶対です!」
「計算がおかしい!?」
「1匹のエロい漢を見たら100匹のエロい漢がいるからアンナ計算はばっちりです!絶対です!」
「そんな男の人たちを黒い悪魔みたいに言うなんて!」

 アンナはルルの両肩をガシッと掴み、諭すような、悲しいようなそんな瞳を向けた。

「いいですかルル。漢は皆エロい!それこそ人類が繁栄した真理です」
「急に話が大きくなった!?」
「悲しいけどこれ真実なのよね」
「うわぁん!リリえもーん!アンナさんがヒドイことばっかり言いますぅ!」

 外野で楽しんでいたリリは突然ルルに泣きつかれたが、黒鋼アダマンタイト級のリリはその程度では動揺を見せずに澄まし顔だ。リリエモンって何かしらとは思ったが。

──あ!これ調度いいかもしれないわね。

 ふと、リリはあることを思いつき、今の状況を利用することにした。

──さて、どう流れを作ろうかしら……

 リリは普段とは違う、どこか黒いにやっと不敵な笑いを浮かべた。


 リリは目の前の言い争いにも困らない。むしろどこか楽しんでいます……


~~~~~後書きコント~~~~~


ルル「アンナさん!何ですか上の暴言は!?」
アンナ「暴言?どこが?真理と言ってください」
ルル「どこがですかぁ!」
アンナ「エロス……それこそ人類繁栄の絶対心理!
ルル「愛でしょう!愛がなければ人類に未来はありません!」
アンナ「愛……何ですかそれ?」
ルル「ほら、あるでしょう?アンナさんにだって相手のことを思いやる気持ちがぁ!」
アンナ「なるほど……相手を想うのですね」
ルル「分かってくれましたか?」
アンナ「大丈夫ですよ。貴女の胸のサイズやロリ顔にも懸想けそうする変態漢は一定数いますから」
ルル「そんな変態の想いはいりません!」
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...