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第27話 侯爵令嬢は自分の力の秘密を知る
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リリの母メネイヤとの突然の邂逅。
無事とは言えないが、3人は彼女の前から逃げるように去った。
そして今は3人以外には誰もいない部屋の中で顔を突き合わせている。
そこはリリたち3人が人目を忍んで集まれる場所。
リュシリュー家の王都の屋敷のリリの部屋。
リリにとってここは住み慣れた部屋。
ルルと入れ替わってから、まだ1日経過していないはずなのに……
──何もかもみな懐かしい……
テーブルに着き感慨に浸っているリリの対面に座っているルルは対照的にわたわたしていた。
「バ、バレましたよね?」
「まあ、そうでしょうねぇ」
焦るルルにのんびり返すリリ。
「ど、どうするんですか?」
「アンナどうしましょうか?」
おたおたするルルに呑気にアンナに振るリリ。
「とうぜん王妃様に丸投げです!」
「そうねエルゼ様にお任せするのがいいわね」
淡々としているアンナと飄々としているリリ。
「どうしてそんなに落ち着いてるんですかぁ!?」
ルルは何か納得できないものを感じた。
「どうしてと言われても……どうしようもないものね?」
「左様でございますね」
落ち着き払っているリリに対してルルは感情が爆発した。
「だいいちリリ様のお母さんだって薄情過ぎます。貴族の矜持だか知りませんが、娘が入れ替わったんですよ。それに気がついたなら心配してもいいじゃないですかぁ!」
ルルは立ち上がりテーブルをバンッと強く叩いた。ルルのこの激しい感情は家族から愛情を与えられなかった前世の傷口である。
それは前世で離婚直後の母の無情の沈黙。
母の行き場のない怒りを向けられた怒り。
前世の過程でルルは求めて得られなかった愛情。
リリとメネイヤの愛情が見えない関係にルルは昔の自分を重ねてしまったのだ。
感情が抑えられなくなったルルの頬を涙が流れ落ちた。
ルルはハッとして椅子に座ると顔を隠すように俯いたが、嗚咽だけは隠すことができなかった。
下に顔を向けるルルを見詰めていたリリは席をたちルルの横にそっと移動すると、何も言わずアンナがサッと椅子を用意してきた。
そんなアンナに視線を送って礼を言って用意された席に着くと俯いているルルの堅く握られた拳にそっと手を乗せた。
ビクッとルルは体を震わせる。リリに向けた顔は涙でぐちゃぐちゃになっており、リリとメネイヤとの関係がルルの過去の何か嫌なものに抵触したのだとは理解できた。
「リリ様ぁ、わた、し……だって、ヒック、愛してる……だったら、心配したって、ヒック……優しい言葉かけてくれたって!こんなの……リリ様、ヒック……かわいそ……」
──きっと同情してしまっているのね。私と母とそして……過去の自分に。
かなり取り乱している。ルルは何か愛情に敏感に、怯えて、飢えている。
違和感はある。あのルミエン家でそれはとても溢れている。
だけどルルには何か抱えている闇があるのだろう。とリリは思った。
リリは優しくルルの頭を撫でて、労るようにその頭を胸に抱きしめた。
「大丈夫よルル。お母様は私のことをとても愛してくれているのよ」
「ヒック、ほ、ほんと、に?」
「ええ本当に。だってお母様すぐ私に気がついたでしょ。姿が変わって気づける人は普通いないわ。普段から私をよく見ている証拠。それだけ私のことを見ていてくれているのは愛情の深い証拠よ。厳しい方で誤解を受けやすいだけなのよ?」
胸に抱かれていたルルはリリを見上げた。
少し落ち着いてきたのか涙がだいぶん引いてきたようだ。
「ごめんなさい……勝手なことばかり」
「しようがないわ。お母様も私もとても不器用だから。お互い上手く愛情を表現できないのよ……ふふ、ルルはこんな私たちを心配してくれるのね。優しい娘」
「ちが、私は自分勝手で……」
何か訴えようとしたルルの唇にリリは人差し指を軽く当てて封じた。
「この話はもうおしまい」
「はい、午後の講義を無断欠席してまで作った時間です。話を進めましょう」
これ以上はこの話題はルルにとってよくないだろうとリリは話を切り上げ、アンナはその意を素早く正確に読み取った。
一見すると冷たく感じるアンナの言動。しかし、これこそ彼女が相手を慮っている態度なのだとリリには分かっていた。
リリは母が厳格でも困らない。その奥底にきちんと母の愛があると分かっているから……
~~~~~後書きコント~~~~~
ルル「うわぁん!」
アンナ「何ですか突然?」
ルル「リリ様がすっごく優しいですぅ」
アンナ「まあ女神の如きお方ですから」
ルル「凄いですぅ!最高ですぅ!尊いですぅ!」
アンナ「ふふふ……もっと敬ってへつらえ!」
ルル「リリ様の優しさがすごく身に沁みますぅ!」
アンナ「ん?身に沁みる?」
ルル「鬼畜に囲まれてたから」
アンナ「なんだと!!!」
無事とは言えないが、3人は彼女の前から逃げるように去った。
そして今は3人以外には誰もいない部屋の中で顔を突き合わせている。
そこはリリたち3人が人目を忍んで集まれる場所。
リュシリュー家の王都の屋敷のリリの部屋。
リリにとってここは住み慣れた部屋。
ルルと入れ替わってから、まだ1日経過していないはずなのに……
──何もかもみな懐かしい……
テーブルに着き感慨に浸っているリリの対面に座っているルルは対照的にわたわたしていた。
「バ、バレましたよね?」
「まあ、そうでしょうねぇ」
焦るルルにのんびり返すリリ。
「ど、どうするんですか?」
「アンナどうしましょうか?」
おたおたするルルに呑気にアンナに振るリリ。
「とうぜん王妃様に丸投げです!」
「そうねエルゼ様にお任せするのがいいわね」
淡々としているアンナと飄々としているリリ。
「どうしてそんなに落ち着いてるんですかぁ!?」
ルルは何か納得できないものを感じた。
「どうしてと言われても……どうしようもないものね?」
「左様でございますね」
落ち着き払っているリリに対してルルは感情が爆発した。
「だいいちリリ様のお母さんだって薄情過ぎます。貴族の矜持だか知りませんが、娘が入れ替わったんですよ。それに気がついたなら心配してもいいじゃないですかぁ!」
ルルは立ち上がりテーブルをバンッと強く叩いた。ルルのこの激しい感情は家族から愛情を与えられなかった前世の傷口である。
それは前世で離婚直後の母の無情の沈黙。
母の行き場のない怒りを向けられた怒り。
前世の過程でルルは求めて得られなかった愛情。
リリとメネイヤの愛情が見えない関係にルルは昔の自分を重ねてしまったのだ。
感情が抑えられなくなったルルの頬を涙が流れ落ちた。
ルルはハッとして椅子に座ると顔を隠すように俯いたが、嗚咽だけは隠すことができなかった。
下に顔を向けるルルを見詰めていたリリは席をたちルルの横にそっと移動すると、何も言わずアンナがサッと椅子を用意してきた。
そんなアンナに視線を送って礼を言って用意された席に着くと俯いているルルの堅く握られた拳にそっと手を乗せた。
ビクッとルルは体を震わせる。リリに向けた顔は涙でぐちゃぐちゃになっており、リリとメネイヤとの関係がルルの過去の何か嫌なものに抵触したのだとは理解できた。
「リリ様ぁ、わた、し……だって、ヒック、愛してる……だったら、心配したって、ヒック……優しい言葉かけてくれたって!こんなの……リリ様、ヒック……かわいそ……」
──きっと同情してしまっているのね。私と母とそして……過去の自分に。
かなり取り乱している。ルルは何か愛情に敏感に、怯えて、飢えている。
違和感はある。あのルミエン家でそれはとても溢れている。
だけどルルには何か抱えている闇があるのだろう。とリリは思った。
リリは優しくルルの頭を撫でて、労るようにその頭を胸に抱きしめた。
「大丈夫よルル。お母様は私のことをとても愛してくれているのよ」
「ヒック、ほ、ほんと、に?」
「ええ本当に。だってお母様すぐ私に気がついたでしょ。姿が変わって気づける人は普通いないわ。普段から私をよく見ている証拠。それだけ私のことを見ていてくれているのは愛情の深い証拠よ。厳しい方で誤解を受けやすいだけなのよ?」
胸に抱かれていたルルはリリを見上げた。
少し落ち着いてきたのか涙がだいぶん引いてきたようだ。
「ごめんなさい……勝手なことばかり」
「しようがないわ。お母様も私もとても不器用だから。お互い上手く愛情を表現できないのよ……ふふ、ルルはこんな私たちを心配してくれるのね。優しい娘」
「ちが、私は自分勝手で……」
何か訴えようとしたルルの唇にリリは人差し指を軽く当てて封じた。
「この話はもうおしまい」
「はい、午後の講義を無断欠席してまで作った時間です。話を進めましょう」
これ以上はこの話題はルルにとってよくないだろうとリリは話を切り上げ、アンナはその意を素早く正確に読み取った。
一見すると冷たく感じるアンナの言動。しかし、これこそ彼女が相手を慮っている態度なのだとリリには分かっていた。
リリは母が厳格でも困らない。その奥底にきちんと母の愛があると分かっているから……
~~~~~後書きコント~~~~~
ルル「うわぁん!」
アンナ「何ですか突然?」
ルル「リリ様がすっごく優しいですぅ」
アンナ「まあ女神の如きお方ですから」
ルル「凄いですぅ!最高ですぅ!尊いですぅ!」
アンナ「ふふふ……もっと敬ってへつらえ!」
ルル「リリ様の優しさがすごく身に沁みますぅ!」
アンナ「ん?身に沁みる?」
ルル「鬼畜に囲まれてたから」
アンナ「なんだと!!!」
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