チェンジ!魂魄置換大作戦~悪役令嬢リリーエン・リュシリューは何が起きても困らない~

古芭白あきら

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第24話 侯爵令嬢は治癒を施す

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 アンナはリリの側にスッと寄ると耳元で囁いた。

「ここでは耳目を集めてしまいます」

 その言葉にリリも軽く頷いて了承した。

「そうねですね。リュシリュー様。馬車への同乗を許可してくださいますでしょうか?」

 突然声をかけられたリリーエン・リュシリューは体をビクッと一瞬振るわせた。

「は、はい!ど、ど、どうぞ」

 挙動不審な自分の姿にリリは苦笑いした。

──アンナの言うとおりこれでは耳目を集めてしまうわね。

 リリが黙礼を返すとリリーエン・リュシリューを筆頭にリリ、アンナと続いて車内へ乗り込んだ。

 3人を乗せるとリュシリュー家の紋章の意匠が凝らされた馬車キャリッジは学園からリュシリュー家の所有する王都の屋敷タウンハウスへと向かう道をゆっくりと走り始めた。

「あ、あのリリ様……リリーエン様でよろしいのですよね?」

 自分の姿で自分の名前を呼ばれることに可笑しみを感じリリはクスリと笑った。

「ええ、そうよ。私はリリーエン・リュシリュー。ふふ、『リリ』と呼んでもいいですよ。貴女はルルーシェ・ルミエンね?」
「はい……『ルル』とお呼び下さい」
「ええ。そうさせてもらいます。皆さん私を『ルル』と呼ぶから馴染んでしまって」

 微笑むリリを見てルルはとても自分の姿とは思えなかった。笑い方1つ上品で別人のような気がする。

「たった1日のことなのに可笑しいですよね」

 クスクスと今度は砕けた感じで笑うリリにルルはエルゼの雰囲気を感じた。

──リリ様ってエルゼ様に似てる?だけど学園では……

 目の前にいる自分の姿のリリが多分に茶目っ気のあるエルゼのようだと思ったが、ゲームでのリリやライルと共に噛みついていた時のリリはむしろリリの母メネイヤ・リュシリューに似ていた。とルルは思った。

 まあ、エルゼにしろメネイヤにしろルルからすれば萎縮してしまう相手だ。

──ううう、自分の姿なのに圧力オーラが凄い。

 馬車という密閉空間でリリの持つ独特な雰囲気にルルは飲まれ気味で、緊張して黙り込んでしまった。が、突然アンナが話に割って入った。

「それにしても……」

 アンナはリリを頭の天辺からあしの爪先まで舐めるように眺めて大きく嘆息した。

「リリ様……おいたわしや。そのような不器量なお姿に」
「何でですか!?可愛いでしょ?それなりに美少女でしょ私!」

 自分の容姿をディスられてルルは激おこだ。しかし、アンナは気にしない。

「リリ様……くっ!見る影もありません」
「アンナさんヒドイ!リリ様と私の姿じゃ違って当たり前じゃないですか!」
「プッ!クックッ……ふふ……だ、だめ……あははは」

 2人の気安いやり取りにリリは可笑しくなって笑い出すと止まらなくなった。その目に涙を溜めて笑うリリの姿に撫然な表情のアンナとルル。

「笑い過ぎて涙が……2人ともたった1日で随分と仲良しさんになったのね」
「「なってません!」」

 みごとに声を揃えて否定する2人の姿にリリはお腹を抱えて笑い出した。

「本当に凄いわ。アンナがこんなに心を許すなんて」

 リリには分かっていた。アンナがルルの緊張をほぐすためにわざと先程のようなやり取りをしたのだと。

──アンナが随分と気にかけている。やはり悪いではないのでしょうね。

「笑い過ぎですリリ様」

 少し険のある目で非難するアンナが照れ隠しをしていることぐらい長い付き合いのリリには分かっていた。が、あまり揶揄うものでもないし、今は時間がない。

「ふふふ。ごめんなさい。そうね時間がないからさっそく情報交換ね。まずは今日のお互いのできごとについて話をしましょう」

 リリがアンナたちに会うまで過ごした出来事について手短に話し、次に促されたアンナが昨日から今までのことを簡単に説明していく。

「まだ1日経過していないのに随分と濃厚な日を過ごしたものね」
「私たちの方はリリ様ほどではないと思いますが」
「アンナさんにはそうでしょうが、私はエルゼ様にお会いしただけで濃厚すぎますよ!」

 ルルの物言いにリリはクスクスと笑いながら「そうね」と頷いた。あのエルゼの相手はルルにはきついだろうと。

「ですがエルゼ様のご協力を頂けるのなら助かります」
「はい。魂魄置換に関してはエルゼ様から情報が入るものと……」
「エルゼ様、専門家に伝手があるみたいなこと言ってましたもんね」
「連絡が入ったらリリ様にもお知らせします」

「ええ、おねが……」と、突然だった。馬が嘶き、馬車が急停車した。

「きゃっ!」と悲鳴をあげ狼狽するルルをリリが支え、アンナは素早く御者への連絡窓を開けて状況を確認するため覗きこんだが「ちっ!」と舌打ちしてすぐに閉じた。

「リリ様、襲撃です!御者が矢を射られたようです」
「ここは街中ですよ!?」
「いやぁ!!」
「ルル落ち着いて!大丈夫です。私たちがついています。アンナ!」

 声をかけられたアンナは口に黒のグローブを咥え、左手に指ぬきのグローブを装着しているところだった。その黒の指ぬきグローブには両手とも魔刻石が埋め込まれているのが見て取れる。魔道具であった。

「リリ様、敵は私が!」
「分かりました。私は御者を診ます。ルルは中に隠れていて」
「そんな!アンナさん1人で戦うんですか!?」

 悲鳴のような声を上げたルルをチラリと見ると、いつも無表情のアンナが背筋が凍るような不敵な笑いを浮かべた。

「問題ありません」
 そう言い残して馬車を飛び出して行くアンナ。

「大丈夫。アンナは強いから」
 リリはルルに笑いかけると続いて馬車の外へ降りて行った。御者の様子を見にいったようだ。

 中にいるよう言われたルルだったが居ても立っても居られず、また1人でいる不安に耐えられず2人の後を追った。

 外に出ればアンナは既に襲撃者と相対しており、リリの方は血を流して倒れている御者の近くで魔術構文を編んでいる最中だった。

「リリ様!」
「ルル!どうして外に……いいえ、私の傍から離れないで」
 リリは今から馬車へ戻すよりも自分の傍らに置いておく方が安全だと判断した。

──早急に治療しないと。

 リリは並列魔術構文編纂デュアルコンパイルで2つの魔術を行使した。止血の魔術と殺菌洗浄の魔術。洗浄が済むと止血の魔術はそのままに傷口を塞ぐ魔術構文を構築。通常、複数の術者でしか行えない治療をリリは単独で行っていた。

──リリ様すごい……

 その光景にルルは驚愕した。
 しかし、ただリリの規格外の魔術の使い方に驚いただけではない。

「治癒魔術?この世界に治癒魔術はないはずじゃ……」

 魔術は魔力を使った学問である。事象を具現化するには、具現化する事象を理解していなければならない。つまり、ルルの前世のように生体の知識が不足しているこの世界で治癒はできないはずだった。

「治癒魔術ではないわよ。『医療魔術』。『八魔天』の1人ギベン・デルネラが生み出した魔術よ」
「『医療魔術』?『八魔天』?」

 リリの言葉にルルは首を傾げた……


 リリは医療魔術もお手のもの。だけどルルはゲームとの違いに戸惑っています……


~~~~~後書きコント~~~~~


ルル「やっぱりリリ様は凄いですぅ!」
アンナ「当然です。リリ様は女神の如きお方ですから」
ルル「だけどリリ様の話し方変わっていませんか?」
アンナ「貴女に合わせて砕けた感じを出していらっしゃるのでしょう」
ルル「ええ~でも私あんなしゃべり方じゃないですよぉ?」
アンナ「ギャップの差でしょう」
ルル「ギャップですか?」
アンナ「リリ様が完璧すぎるのです。そして貴女がポンコツ過ぎるのです」
ルル「アンナさんヒドイ!」
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