氷塊は太陽と桜温泉に融かされて

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#3 春の旅立ち

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 夢を見た。

 チビの日菜太におぶられて清桜ヶ丘せいおうがおか記念公園を歩く夢だ。全ての蕾が綻び、満開に咲き誇った四月初旬の遊歩道公園を、二人占めでのんびりと歩く。短いけれど、思い描いていた幸せが凝縮された、夢のような夢。


  一、桜の桃源郷

 俺は夢の中でも微睡んでいた。春真っ盛りの草木や花々の色濃い香りが風に運ばれ、日菜太の後頭部の匂いがそっと鼻腔をくすぐる中、トットッ、と一定のリズムで揺すられる極上の一眠り。それはまるで揺り籠の中にいるような安心感。垂れ耳の赤ん坊だったあの頃に戻ったみたいだった。
 遥かなる上空から降り注ぐ春の陽光が、薄霧のフィルターで濾過され程よく背中をあたためてくれて、日菜太の背と俺の腹部が密着して心地良い熱が生まれる。
 いい匂いで、温かくて、シアワセだ。

 ポンポン。うつらうつらとした俺を背に乗せ、腿の裏に触れてくる日菜太。何やら話しかけているみたいだけど、うまく聞きとれない。そうだ、俺は今寝ているからだ。きっと、「ヒュウ、綺麗だから見てみて! 見んともったいないぞ!」と言っているに違いないと思ったので、「ああ、そうだな」と、むにゃむにゃ生返事をしながらに、片目を少しだけ開ける。
 一目見ただけで焼きついた記憶と合致したそこは見渡す限りの桜色の桃源郷。
 力強く荘厳でありながら優美。豪華絢爛に咲き乱れ、心を掴んで離さない清桜ヶ丘の桜並木が作り上げる幽玄の世界に胸が打たれる。少し曲がりくねった道の両側から、天を覆い尽くすように枝を伸ばし合い、まるで競い合うかのようにして花を咲かす様は、桜のトンネルと表現するほかない。
 ああ、これだ……! 星の数ほどありそうな薄桃色の花びらが空一面に広がっている幻想的な景色……日菜太ともう一度歩きたいと夢見た清桜ヶ丘の桜道――去年のそれよりも特別美しく、まるで清桜ヶ丘ではないどこかの別世界に足を踏み入れたような気さえする。
 すごいや、ほんっとにきれいだなぁと、月並みな、しかし心からの純粋無垢な感想をソプラノボイスに乗せる。
 声のトーンだけで判る心の踊りよう。クリクリの目をさらに見開き、キラキラとさせて桜の虜になっていることは想像に容易い。
 写真に収めなくてもいいのかよ? と、カメラストラップを引っ張って伝えようとしたけれど、日菜太はカメラを下げていなかった。そういえば俺も今日は持ってきていなかったっけ。
 パシッ、パシンッ。「ちゃんと見とる!? 満開だよっ満開!」と言いたげな、興奮気味の二発を俺の尻に食らわせる。
 そんなに叩かなくても、ばっちり起きているしこの目で見ているよ。
 カメラは忘れてしまったけれど、今はこの上ない“幸せ”に浸っていないともったいない。感慨無量だ。満開の清桜ヶ丘を、またこうして一緒に歩けているのだから。
 そう、満開――ただでさえ短い寿命の桜たちは、花盛りをちょうど今迎えたばかり。昨日でも明日でも、数時間前でも数時間後でもない。今だ。今この瞬間が一番美しく、今だけしか入れない儚い桜のエデン。しかしひとたび風が吹けばすぐさま終わりを迎える、脆く弱々しい清桜ヶ丘の春……。
 でも、また日菜太と歩けた。最も美しい状態の桜道を、もう一度歩き見ることができた! 
 夢が叶っている今この瞬間をカメラで切り取って、写真みたく永久に時が止まったままだったらいいのにな。
 極限状態の春から抜け出さずに、果てしなく日菜太とゼロ距離でひっついて悠久の時を過ごしていたいと、ウトウトしながらに願うのだった。
 清桜ヶ丘の春よ、太陽の温もりよ、どうか永遠に……。


  二、噴水広場

 ぺたぺた、ぺたり トットットットッ
 小くてどこか頼りない背中に俺を乗せたレッサーパンダは、意外にも文句一つ垂れることなく、へたることもなく、意気揚々と遊歩道公園を北の方へ進んでゆく。
 少しすると、ぺたんと寝た耳が水の音と、舗装された石畳の道を歩く足音を拾い始めたので、噴水広場が近いことを悟った。
 思えば噴水での思い出は、初めて出逢ったあの日の帰り道、日菜太にここを紹介してから始まった。大層気に入ったらしく、俺たち二人が一緒に写った写真を撮ったのも同日のこと。
『友達記念の一枚だっ』なんて、照れ臭いことを満面の笑みで言ってのける日菜太に惹かれていったのだと、当時の俺はまだ気がつきやしなかった。
 あの日から、噴水広場を通るルートが俺たちの帰り道になった。
 多少回り道になるとのことだったが、本人にとってはそれほど重要なことではないらしく、日菜太が言うには「ゆっくり行けば回らない」そうだ。……急がば回れを逆に言っただけじゃねえか! すぐに気づいてツッコんだっけ。

 心地良い水音の源がすぐそこにある。目を閉じたままでも、音と霧のように細かい水飛沫がそう伝えてくれる。
 同好会の帰りは、この大きな噴水の淵に腰掛けて残ったお菓子を食べながら話をしたものだ。お互いのことをもっと知ろうと際限もなく話に花を咲かし続けてなかなか家に帰ろうとしなかった。すっかり日が暮れる頃までいるもんだから二人ともよく蚊に刺されて……懐かしいな。
 たわいもない話から、撮り方のコツ、明日はどこに何を撮りにいくだとか、撮影旅の計画など未来の話……時にはちょっぴり真面目な話をしてみたり。
『写真撮り続ける理由、かぁ。最初はね、このカメラくれたじいちゃんに良いモン見せたるぞって張り切っとってさ」
『おじいさんへの恩返しみたいなもんか?』
『平たく言えばそうかも? でもその内に僕が見てきたモノとか景色、そん時に感じたものをもっと多くの人と共有したいと思えてきてなー。んで、同好会始めてみたの』
『それで俺が誘われたってワケだ』
『くふふっ、あんな寂しそうな顔してる子放っておけんかった』
『うるせ』
『だから僕の撮る理由は“幸せのおすそ分け!”……って言えればカッコええけど、寂しがりの僕にちゃんとできとるかなぁ? あとはここで生きた証作りとか? たはは、こりゃジジくさいか!』
『そいつぁジジくせぇや。でも、どっちも悪くないと思うぞ』
『ね、ヒュウは? ヒュウこそどうなのさ?』
『……俺は……なんとなく、だ! カメラ持ってるとなんとなく落ち着くからだ』
『それもヒュウらしいや。けど、いつか見つかるとええね。ヒュウだけの写真撮る理由』
 ……あん時ゃ言えなかったなぁ。
『もう見つけてる。おまえが撮るから俺も撮り続けるんだよ』って。
『もう一つ、俺の撮る写真が何か感動を残して、そんでお返しができたらいいな』って。
 どっちもおまえと一緒にいるための理由なんだって……。
 日菜太と共に噴水の音を聞いていると、在りし日の、キラキラとした数多の思い出と記憶が奔流となって頭の中を流れだす。振り返って想いを馳せる度に、楽しく、心地良くて、幸せで満ち溢れた大切な日々に思えてくる。輝く日々はあっという間に過ぎていったけれど、こうして今でも覚えている、思い出せる。
 再び、腿の裏をポンと叩かれる。「んね! 僕もここでの時間大好きやった。だから全部、ぜーんぶ覚えとるよ!」と、応えているような気がした。日菜太も同じく懐かしがって、同じ思い出と感情を共有しているのだと思うと、胸のあたりがぽかぽかと温かくなっていくのを感じた。
 目を瞑りながら、後ろから日菜太をひしと抱きしめるように腕にぎゅっと力を込めた。
 もう迷わない。「好き」の気持ちを凍らせて蓋なんかしない。自分を偽ったりもせず、日菜太にもウソをつかない。
 大好きだ。離さない。もっと一緒にいよう。
 抱きしめながらにこんなことを思えば思うほどに、疼く恋情がさらに刺激されて心臓はやがて早鐘を打ち始める。
 恥ずかしい音を聞かれたっていい。むしろ今だけは聞いてもらいたい心の音。言葉の代わりに、心臓の音がありったけの想いを伝えてくれるとそれはそれで楽かも知れない。
 ハートとハートの距離を縮めて一つになってしまいたい一心で、日菜太を後ろから抱きすくめる。
 この激しい鼓動が日菜太のものと共鳴すればいいのに……。そんな淡い一縷の期待を込めて、もう一度力強く大胆に、ギュッと。
 ペチペチペチっ。再び尻を叩かれた。
 こらこら、乗せてあげてんだから大人しくするの。おおかたこのような意味合いだろうか? ちょっとやりすぎたかな。

 トコトコ トットットットッ
 日菜太は北へ北へ歩き続ける。
 快い水の音が、次第に遠ざかってゆく。


  三、短い桜トンネルの前で

「ヒュウってば起きて。もうじき駅の前んとこ着くよ。はいっ降りる準備したした!」
 嫌だ。駅は嫌いだ。
 この背中を離したくない。この町から離れたくない。日菜太が側に居てくれないと心細くて何もできない。地面に足をつけた途端に何もかもが終わってしまう……どうしてかそのような予感がするから離したくない。降りたくない。
 ない……のに、
「ほーらっ、着いたよ! ヒュウ起きて! もう桜も見納めだよ」
 ハッとして瞼を開けると、最後の桜道に差し掛かる入り口のところまでおぶられてきていて、こぢんまりとした木造の駅舎は目と鼻の先だった。
 記念公園を北の方角に歩いた遊歩道の果てにある駅の名は――『終点 清桜ヶ丘』
「だーいじょうぶ! 僕たちどこまでもずっと一緒だっ!!」
 日菜太は安心させるように一際大きな声を出して、俺を背中から下ろす。
「んーっしょ。ふぅ~重たかったぁ」
 とうとう両足が地面についてしまった。
 嫌だ、嫌だ……。駅になんて行きたくない。ぬくもりとハートを遠ざけないでくれ……。
「こらこら、ちゃんと尻尾上げて前向いて自分の足で歩くの! まったく、ヒュウは手が焼ける子だな~」
 振り向いて差し伸べてくれた手を、ガシッと、咄嗟に、縋るように掴んでいた。
「……もうっ、甘えんぼさんはどっちなのさ」
 そうは言いつつも、手をぎゅっと握ると、そっと力を込めて握り返してくれる。
 その小さな焦茶色の手は、今でも温かくて、変わらず俺を優しく融かしてくれる確かなぬくもりだった。不思議なぐらいに温かくて、安堵感に包まれるはずなのに、何故だろう……どうして涙が込み上げてきちまうんだ。
「ふふふっ。ええよ、握っとってあげる! 僕も……ううん、なんでもない。一緒に歩こ」
 ゆらりゆらゆら ふわりふわふわ
 縞々の大きく太い尻尾が照れを表すように揺れているのを横目に、手を引かれて最後の桜トンネルを歩み進む。
 ここを抜けると駅に着いてしまう。
 足取りは言わずもがな重いまま。駅に向かうのを拒んで、氷結していくかの如く固まって動かなくなっていく足を、それでも一歩ずつ、ゆっくりと進める。
 日菜太が歩調を合わせて、手を握っていてくれるから俺はかろうじて歩けているのだと思う。
 不甲斐なさ、申し訳なさ、悲しさ。諸々のダークブルーの感情が手の温かさに融かされて消えゆく。安心感、幸福感といったものに上書きされても、笑顔を取り繕って笑おうとすると、心臓の辺りがきゅっと縮まっていよいよ目が潤みはじめる。
 笑った顔を見せて、安心させたいのに……。
 夢叶って、こんなにも綺麗な道を日菜太と一緒に歩けて嬉しいはずのに、いったい何が足りないというのだろう。
 涙を見せまいと、泣き顔を隠して歩くのがひどく辛くて苦しかった。


  四、花風桜吹雪

「ありがとね」
 桜道の終わりが近づいてきた頃、ひたと歩みを止めた日菜太はポツリと一言こぼす。
 すると風が吹き荒み、あたりにたちこめていた薄霧を晴らす。それは力強くも、どこか優しさを感じさせる春の嵐だった。身を刺すような冷たさはもはや薄れているけれど、似ている……あの時の、あの風に。
「ずっと僕の側で、僕を想っとってくれて」
 くるりと俺の方へ向きを変えて、言葉を続ける。
「そんで、ごめんね。僕ヒュウのことずっと苦しめとったし、僕自身も分かんなくて苦しかった」
 春の嵐は止まない。樹々を揺すって花弁を散らし、風がそれを一枚一枚丁寧に拾い上げる、花と風の美しいコラボレーション。一度見たら二度と忘れられない、見事な桜吹雪を吹かせる。
 しかし、それは時間にして僅か数十秒。風が物凄い勢いで花吹雪を吹かせたかと思えば、その十秒後には園内を彩る桜の花が全て散り尽くしていた。
 樹から、公園から、街から、色が失われてゆく。
「でもね、それ以上に嬉しかった! ヒュウのホントの気持ちあんな大声で聞けて、僕もやっとこさ分かった」
 つぶらな琥珀色の双眸は俺の目を捉えて離さない。片時も目を逸らそうとせず、俺が逸らすことも許してはくれない。そんな真っ直ぐに輝く瞳で……、

「僕もね、ヒュウのこと、だーい好きだよ」

 聞きたかった。ずっと。恋焦がれてからずっとずっと堪らなく聞きたかったその言葉に耳先の、いや、全身の痙攣が止まらない。
 透き通ったソプラノボイスによる「好き」の一言は、身体の中心部にある生命の原動をより一層力強く稼働させるエネルギーとなり、身体の熱を発生させる。胸がいっぱいになり、熱い涙が溢れ返って目元を伝う。
「――――」
 けれども言葉は出てこない。
 氷塊が融けて消え去ったはずの今、何度でも伝えたい。俺も大好きだと心の底から叫びたい……。
 なのに喋れない。あの時と同じように……。
 
 あの時って――?


  五、終点 清桜ヶ丘

 いつとはなしに、ただ一人線路内に降り立っていた。花は散り尽くし、手を引いてくれる日菜太すらもいない色の消え去った世界は、しかし線路の続くその道だけが色付いて輝いている。
 それは黄色の絨毯。桜に代わって、黄色い菜の花の群生がつくる一本の途。
 線路に沿って広大無辺に咲き広がっていく無数の菜の花は、日を受け輝き、風を受け靡く。手前の花が風に揺られ、またその先の花が揺れていく美しい連続性は、ドミノ倒しを連想させる。進むべき道はあっちだと言わんばかりに、レールに沿って、ざわわ、ざわわと、靡き続ける黄色の花々。
 
 ――ここからは自分たちで歩かないとだね――

 突如、頭の中に声が響いた。
 妙に聞き覚えのある声……もとい音色は、卒業前の二月に俺を鼓舞してくれたあの風のものだ。確証こそ無いが、なんとなしにそうだと判る。
 霧を晴らしたのだって、桜を散らしたのだって、きっとこの風の仕業だ。線路内へ俺を連れてきたのだってそうかも知れない。
「線路内を歩けだなんて、列車が来たら危ないじゃないか。それにここはどこなんだ?」

 ――見たままの終点駅だよ。だから列車はこれ以上先へは来てくれない。同時に始発駅でもあるんだけれど、それは君たち次第――

 分からない。清桜ヶ丘駅は終点駅でも始発駅でもないはずだ。それに、こんな菜の花の道だって見たことがない。ここは本当に清桜ヶ丘なのだろうか……いや、そんなことは後回しだ。
「日菜太!日菜太はどこ行った!?どこ行けば日菜太に会える!?」

 ――日菜太くんは先に発ったよ。けれどもキミにも途が見えている。花も教えてくれている。だから大丈夫だ。歩き続けていればきっと着くし、絶対会えるよ。その途の先で日菜太くんは待ってくれているんじゃないかな――

 風が耳を撫でていくと、不思議なことにさっきまで何も持っていなかった手にはレッサーパンダのてるてる坊主が握り締められていて――形見のように思えてしまった。日菜太の代わりにボクが雨避けになったげると、手のひらよりそう伝えている気がした。
(ちがう、違う……! それじゃダメなんだ……俺にはあいつが!日菜太だけが俺の!)
 必要だから。太陽だから。
 ただの雨避けなどではなく、この世で一番大好きで、かけがえのない大切なともだちだ。
 日菜太の代替なんて、つとまるわけがない!
 地面を強く蹴って、がむしゃらに走り出す。凹凸で走りづらい線路を、何度も転びそうになりながら、風に揺られる菜の花の導きを受けて無我夢中で駆ける。
「待ってくれ日菜太! お願いだ……俺をっ、おれを置いて行かないでくれっ!!!」
 たった一人のパートナーの名を叫ぶ。
「せっかく好き同士になれたのに……!」
 独りは嫌だと、二人春の中にとどまっていようと、遠くに離れゆく日菜太に向かって必死に吠える。
「ずっと一緒だってっ、一緒に行くって……そう言ったじゃないか日菜太っ!!!」
 届くわけでもないのに、手を伸ばさずにはいられなかった。
 

 終いは儚く唐突に。
 それは清桜ヶ丘に吹雪く桜の如く。
 清らかな風が春を運び、風が片づけゆく。
 一陣の風が吹き、不思議な夢は途切れども色は残る。




 元の現実に引き戻され、重い瞼を開けると、霞む視界は和室の天井を捉えた。
(……やっぱり、夢……。ここは……宿の部屋か?)
 蛍光灯は消えている。部屋全体がほんのりと橙色に染められているのは、インテリアランプの灯りによるものだろうか。
(何でここで寝てんだ……? 今は何時だ? 最後どこでどうして……っ日菜太は!?)
 意識は混濁とし、思考が追いつかない。ぼんやりと覚醒しきっていない頭を回転させ、状況を一つ一つ整理する。
 ここは宿で俺たちの部屋。今は間違いなく夜。頭痛もなく、息苦しくもない。涙で顔が濡れていることを除けば身体に異変はなさそうだ。額には濡れたタオルが乗っていて、布団を被って寝ていて……ただし服は着ていない?
(すっ裸……ということは)
 最後覚えているのは確か露天風呂。そこまで思い出して、
(そうか俺、倒れたんだっけな)
 ヒートショックか何かで意識を失ったのだという結論を導き出した。
 日菜太が倒れた俺を介助してくれて、面倒を見てくれたことも容易に推測できる。
 両方の意味で謝意が尽きない。
(日菜太には面倒かけちまったな。朝んなったら詫びねーと……ってか俺!なんで倒れた!? 日菜太にどこまで何を言った……!?)

 ――好き、だ……!!!大好きだ日菜太ッ!!!――

 徐々に明瞭としてくる意識。
 フラッシュバックする一世一代の大告白。
 ポッカリと抜け落ちていた数時間前の記憶が、ジグソーパズルのピースをはめられていくように修復されていく。顔から火がボッと出そうになり、熱で片耳が萎れて寝てしまう。
「……全部。全部、吐き零しちまったんだな」
 そして記憶が正しければ、日菜太はまごつきながらも俺のことを思慕してくれていて『カップルがいい』と、確かにそう言った。それがトリガーとなって俺から気持ちを伝えたはずだ。
(『ヒュウのこと、だーい好きだよ』……あれはさすがに夢、だよな……? じゃあ正式な返事はまだか。俺がブッ倒れたせいで…………ん?)
 記憶が復元されたところで、何やら腹部に重りが乗っていることにも気がついた。
 顔を起こすと、その重みは布団の上にちょこんと乗っかった日菜太の右腕によるものだと分かった。どうやら日菜太は俺のすぐ横、脇腹に顔を埋めるような体勢――左腕を腕枕にしており、両足を少し曲げて丸まるように眠っている。
 寝落ちするまで心配をかけていたことに、申し訳なさで喉がきゅっと縮まるのと同時に、心配してもらえたことを心から嬉しく思った。腹の上の小さな手が愛おしくてたまらない。
 改めて眠っている姿に目を向けると、
(なんだその格好は!)
 日菜太は浴衣をはだけさせて、ひどく無防備な格好をさらしていた。
 それはまるで焦茶色の小山のよう。ふくよかで、なだらかな曲線を描いた腹部は浴衣がはだけて、指を入れたくなりそうな深さのヘソまでチラリと覗かせている。その下では、日菜太愛用の白ブリーフが浴衣の隙間から光を放ち輝いていて、局部では控えめな主張が見てとれて……。
 ドキドキ、ドクン。
 なんと艶かしい……。全裸よりもはるかに溢れるエロスで眠気が一気に吹っ飛び、心拍が早まる。……が、しかし、そんなことよりも優先すべきは、日菜太を布団に戻してやること。その格好のままだと風邪を引くだろうし、なにより俺も生まれたままの格好……つまり全裸だ。
 熟睡している内に衣類を身につけてしまおうと、腰を起こして腹に乗った右腕をどける。起こさないようにそおっと……よし。幸いにも敷布団が隣り合わせだ。ずんぐりレッサーパンダをゴロンと一転がしでナワバリへ帰す。
(……!)
 仰向け状態になって元の布団に戻せたはいいものの、浴衣が完全にはだけてしまった。焦茶のずんぐり体型はその全貌を明らかにして、お腹の収縮・膨張運動を見せる。薄暗闇の中、股を大の字に広げ、下半身の白ブリーフを煌めかせて、すやすやと気持ちよさそうに寝入っている日菜太に不純な気持ちを抱かずにはいられなかった。
 決して狙ってやったわけではない。これは不慮の事故だ!
 性なる欲望をくすぐられつつも、布団を被せるついでに軽く帯を結び直してやろうと、全裸のまま掛け布団からそっと出た。
 裸同然の無防備で、全くの無警戒。幼さを残した丸っこい体つき――直に十八歳の誕生日を迎えるとは思えない――に、あどけない寝顔で眠る姿が目に映る。
「日菜太……」
 名前を呼べども、ぴょこんと耳を跳ねさせて返事することもなく、くぅくぅ寝息を立てて眠り続ける。
 ならばと思い、四つん這いで忍び寄り、寝息をうかがうようにして顔を覗き込む。
 まるで天使……なんて可愛い寝顔なんだろう。
 目を瞑っていると、普段にも増してこんなにもあどけなくなるものかと、驚きと愛おしさの混じった感情が頭の中で渦巻く。
 このとびっきり可愛い顔を写真に撮って、ヒュウアルバムにこっそり忍ばせておくというのはアリだろうか。ともすれば犯罪になりかねない、やや危ないサプライズについて考えを巡らせながら、つい体の方へと視線をやってしまう。
(うぐ……無防備すぎるんだって……!)
 はだけた浴衣からのぞく豊満な胸部、腹部、むちっとした下半身に見入っていると、ふと邪な考えが頭をよぎる。
 撮ったり触ったりはダメ……ならば、それ以外なら……。
 俺と違ってフワフワで、柔らかくて手触りの良い毛並み……間近で嗅ぐといったいどんな匂いがするだろうか?
 日菜太の匂いは知っている。嬉しいことがあるとよく飛びついてくるから、その時に鼻が匂いをキャッチする……。
 しかし、直接被毛に鼻を埋めて嗅ぐのは流石に経験がない。
(……ちょっとだけ。ちょっと顔近づけて鼻を動かすだけだ)
 日菜太の匂いを肺いっぱいまで吸い込んで嗅ぎ尽くしたい。その衝動は止められないと、分かってしまった。
 こうなってしまってはやむを得ない。
 布団に手をつき、首筋に鼻先を寄せて、思いっきり息を吸う。刹那、ボディーソープの甘い香りに包まれた、ほのかに湿った汗の酸っぱい匂い――昔持っていたぬいぐるみの懐かしい匂いも多分に含まれていると感じた――が鼻から頭に一気に抜けていく。同時に脳へ電気信号が流れて、なんとも形容し難い興奮感に満たされる。きっと俺の今の脳は快楽物質で蝕まれていることだろう……ああっ、病み付きになってしまいそうだ。
 くんくん。スンっ、スンスンスンスンッ。
 愛おしい、愛おしい愛おしい愛おしい。
 食べたい、食べたい食べたい食べてしまいたい。
 このまま首筋や耳にガブリと齧り付いて、歯形を残したい。日菜太を俺だけのものにしたい。俺が愛した証を生涯消えない歯形として痕をつけたい……。
 そうしたいのはやまやまだが、痛みを与えるのは気が引けるというか、今それをすると確実に起こしてしまう。
 まだまだ起きる気配がないので、ポンポンっと頭を撫でて、小さな鼻にポチッと触れる。
「……夢でのお返しだ」
 フワフワで柔らかい、触れていて気持ちいい被毛に体を擦り付けて、好きだと叫びながらまぐわうとどれほど気持ちいいことだろう。
(ごめんな日菜太。こんなこと考えちまうぐらいにおまえのことが好きで好きで堪らないみたいなんだ……)
 劣情を制御しきれずに、眠っている親友を無断で嗅ぎ回った挙句、不埒な妄想まで巡らせてしまったことに今更罪悪感が湧き上がってきた。
(う……このままじゃただのヘンタイだ……)
 そうだ。こんなヘンタイ的行為をするために日菜太の体勢を変えたのではない。帯を結んで布団を掛けてやるという本来の目的を思い出して、腰付近にあるであろう帯を探していると、あるものが視界に映り込んだ。
 ソレを目の当たりにした途端、目が丸くなるのと同時に、尻尾がブワッと毛を逆立てて膨らんだ。

「!?!?!?」

 唖然、呆然、愕然……日菜太の下半身、白ブリーフに大きなテントが張られつつあったので。
 驚きのあまり三度見した。間違いない。間違いなくこれは……
(寝勃起……!!!)
 目を釘付けにされるとは、まさにこのことを言うのだと思う。徐々にムクムクッと膨れ上がっていく股間部に魅入られ、目を離すことができない。
 やがて、ブリーフの内部でビンッと聳り勃つ一本の支柱は立派な三角のテントを張り上げた。
「! 勃ったら意外に……!」
 テントは存外大きく見えて、言うなれば膨張率があるタイプだった。
 だが、その膨らみ具合を目にしてもなお信じがたいと感じてしまうのは、入浴時に見た日菜太のモノがあまりにも矮小サイズだったからだ。本人談によると『おっきい時は大きい』とのことらしいが、コンプレックスを抱えた素振りを交えていたというのも、そのように感じさせる一因になっていると思う。
 そのせいだろうか、中身をこの目で直接確かめてやりたいと、好奇心や探究心という綺麗な名を借りただけの獣欲が脳内を満たしてしまう。
(日菜太の……チンチン……フル勃起の……!)
 呼吸が早くなり、乱れだすのが判る。
 ゴクリ、バクンバクンと、またもや喉と心臓が大きく音を立てた。
 ただし、心臓の方はあの時とは別種の血、滾った雄の血を体中に送り出して体内を駆け巡らせる。
 ハッと我に返った時には、既に純白の小山に右手が吸い寄せられるように伸びていた。
(クソっ、いくらなんでもコッチはダメに決まってんだろ!? 何考えてんだ俺は!)
 日菜太のソレに触れる直前、理性の制動により、すんでのところで手を引っ込めた俺は耳を引っ張り、頭を掻きむしった。
 一線を越えたイケナイことだと、思った。
 これこそ心の奥底で凍らせて蓋をしておくべき衝動だと、思った。
 眠っている親友に、それも命まで救ってもらった恩人にそんなことをするなんて、アンフェアである以前に人としてサイテーの行いに他ならない。
(この手の汚れは二度と落ちないんだぞ! それにもし仮にバレてみろ、そん時はもう完っ全に拒まれちまう! そっちの方が告白するよりもフラれるよりも何万倍も怖いだろ!? 思いとどまれ俺!これ以上はもうやめとけ!)
 理性は警告を続け、一応の機能を果たし続ける。
 しかし、一度熱を帯びてしまった劣情は恋心と同じようにとどまることを知らない。理性による制止を振り解き、熱膨張を続けて果てしなく膨れ上がってゆく。見たい、触りたいと、内から邪な衝動がとめどなく湧き上がる。
 間違いも正解も解ってはいる。
 日菜太の生理現象を見て見ぬふりをして布団を掛けてやるべき。今夜あったことを何もかも忘れ、服を着てそのまま寝る。朝何食わぬ顔で謝意を伝える。唯一の正解であり、それ以外の選択肢などあり得ない……あってはならないはずなのに、そんなこと頭では理解しているのに、手と視線は動いてくれず……、
「うぐうううううぅぅぅぅぅ!!!」
 押し殺した声で悶えるしかできない。
 ビックン、ビックンと、パンツの中で激しく脈打って蠢いているソレを眼前で見せつけられてしまっては、湧き上がる一方のリビドーを抑え込むのは困難……否、不可能なのが正直なところ。
(たった一目だけでいい……日菜太のっ、日菜太のチンチン見てみてぇよぉ触ってみてぇよぉ! でもそれをやっちまうと一生罪背負ったまま生きることに……。そもそもまだ付き合ってもねえ、それどころか日菜太の口から返答すら聞けてないのにこんなのッ……いやカップルだとか告白云々以前に同意なくこんなことすりゃ道義にもとるってヤツだ!! いやでもしかしだ!もう既に嗅ぎ回ったという罪は犯しちまったし、コレは今しかない絶好の機会でもあってだな、それに『バレなきゃ大丈夫』って昔日菜太も言……ってー!何言ってんだ!ダメだダメだダメなんだよッ!!!)
 諸々の弁明と良心の呵責を秤に掛ける。
 全裸で四つん這いのまま葛藤を続けていると、俺のソレも誘発されたようにトクントクンと脈打ちを強める。徐々に熱と芯を持ち始めて、かつてない早さと勢いでビン勃ち状態になり……、
(うおっ、やばっ! 家じゃねえんだぞ!)
 布団の上に粘液性のある透明な液を垂らしてしまった。
 一向に鎮まる気配のない日菜太のソレに連鎖反応を起こして掻き立て続けられる獣欲。
 もはや後戻りが効かないほどにギンギンに勃ちあがった真っ赤な我が息子は、軽く一握りするだけで大量のカウパーを滴らせる。
 こんなことなら出発の日にでも一発抜いてから来ればよかったと、今更ながら後悔の念を抱いたところでどうしようもない。既に手詰まり寸前な状況……。
 そこへ更なる追い討ちをかけるように、

「んっ……ぅ、ヒュウ……、いい、よ。ヒュウとなら、ぼく……っふぅっ……んっ」

 脳をとろけさせる甘ったるい呻き声を寝言として漏らす。股間のソレをさらにビクつかせ、白い膨らみの山頂に染みを広げながら、気持ちよさそうに腰をへこへこと動かすのだ。
「……っ!!!」
 淫靡な声を伴った動作は、興奮をピークへ至らせたと同時に、俺は夢精の兆しを嗅ぎとった。
 幼さしかない、あどけない寝顔とのギャップが激しい日菜太の無意識下で行われる性器の夜間暴走。普段“性”の片鱗すら感じさせない日菜太が、今はこんなにも雄としての証拠を如実に示しつけている。その事実が下腹部に血を廻らせる。陰部の奥を疼かせてカウパー液を更に生成させて滴らせる。バクンバクンと心臓を高鳴らせる。白の膨らみへと右手を伸ばさせる……。
「日菜太すまん……卑怯でサイテーな俺を赦してくれっ!」

 もう、限界だ。

 この卑しい獣欲に抗う術を残念なことに持ち合わせていなかった。制御のレベルが未熟だったか、あるいは今喪ったか。
 なんでもいいか。そう思った時、何かが千切れる音がした。
 恐らくそれの正体は、さっきまで飢えた狼を縛り付けてくれていた首輪。
 理性という首輪を外されて、引き止めてくれるものを喪った俺は、次第にこう考えるようになった。
 今からやる行為は日菜太を守るため。旅館のシーツやら浴衣を汚れから守るためには致し方ない、と。至って正当な行為なのだ、と自己に言い聞かせる。
(精液ぶちまけるよりマシだ……120パーセントそうだ絶対そうに決まってる!)
 日菜太も俺とならいいと承諾してくれていた(寝言だが)。それに日菜太は優しい。こんな俺でも受け入れてくれたのだから。初めて出逢ったあの頃のように、きっと……。
 そして今もなお視界の真ん中で忙しなくビックンと跳ねている白の膨らみ。
 チンチンもこんなに苦しそうに助けを求めているじゃあないか……気付いてやれなくて悪かった。今、出してやるからな。

(日菜太の……日菜太の……ッ!)

 背徳感を捨て去り、蠢くパンツの膨らみへと震える手を伸ばす。距離が縮まるにつれてバッサバッサと千切れそうに振れる尻尾に、加速度的に分泌され滴る涎。もはや意思ではどうにもならない体の動きは、俺ではない何者かに支配されているようだった。
(起きないでくれよ! 穏便に済ましてやるからな……!)
 まずは指で一突き。
 生まれて初めて触った他人の性器――それも想いを寄せる親友のもの――はまるで骨のような硬い芯を持っているのかと思わせるほどガチガチに硬化していた。
 指で摘むように日菜太の息子へ触れると、即座にビクリと跳ね、敏感な反応を見せた。持ち主の方はまだ起きる気配を見せない。
(面白え……! 何日抜いてねぇとこんなになんだ? そもそも日菜太はちゃんとオナニーしてんのか!?)
 日菜太の自慰行為……。幼気ある顔と声で一心不乱に竿を扱く友の姿を妄想するだけで、滾った血が股間部の一点に集中していくのを感じる。触れずともツーッと糸をひいて垂れる大量の透明汁。布団が汚れようがもう知ったことではない。
(俺の、俺のせいじゃない!)
 動物的な本能の赴くままに、隆起したそこを手全体を使って優しくふわりと握ってみる。テントの張り具合そのままといった感じで、長さこそないものの……、
「っ! やっぱ意外と太ぇ! もしかしたら俺のよりも……」
 日菜太のソレはやや厚めのブリーフ越しということを差し引いても太めサイズと評してよい。「おっきい時は大きい」はあながち間違ってはいなかった……!
 そして情けないことにも、自分の息子と握り比べて判る直径サイズの敗北……。俺のものよりも僅かに太くて握り心地が良い……。
 こんなに幼くて可愛い顔しときながら……勃ってない時はあんなに小さかったくせに……。
 生まれたての小さなジェラシーは歪み、やがて嗜虐心へ変貌を遂げる。
 ぎゅうううっと手に力を入れて刺激を与えると、手の内でビクッビクッと大暴れする日菜太のペニス。パンツ越しでも伝わる大脈動は、まるで心臓に触れているかのような感覚を覚えさせ、エクスタシーを肉球から直に伝えてくる。
「ふっ、ぅあ! っ……ふぅ……んんぅ」
 こうして握り続けていると、日菜太は寝息を荒げて、頬をほんのり赤く染める。
(おまえはどこまでエロくて可愛いんだ……!)
 寝ながら性器を鷲掴みにされて、恍惚の表情を堪えては荒くなる吐息。握ってみて改めて認識できる硬度、サイズ具合……。興奮度を表すメーターが一気にマックスへ振り切れてしまうのに十分すぎる要因だった。
 未だかつてないほどの風圧を産んでいる尻尾に、へそに張り付きそうな勢いで硬く、熱く、真っ赤に反り返って今にも精を噴き出しそうな陰茎。その二つが俺の興奮度合いを物語る。まだパンツの中を見たでもないのに、だ。
 触って楽しむのも大概に、ブリーフのゴム部分に手をかけると手がわなわなと震えだす。日菜太を恋の対象とみなしてから密かに執着し続け、時にはいかがわしい想いを馳せて散々自慰行為に使ってきた日菜太の秘部――それも雄の血で海綿体がフルに占められている状態のモノを、いよいよこの目で、間近で余すことなく見られるのだから。
(日菜太の、フル勃ち……!)
 心臓が飛び出てきそうな激しい動悸が止まないまま、パンツをグイッと引っ張り下げると、ぶるるっと元気よく顔を出したソレに思わず息を呑む。ピンッと雄々しく、勇ましく天を衝いている日菜太の陰茎はまさに日菜太そのもの――一目で日菜太の息子だと判るモノだった。平常時からは想像もつかないほど膨張し、パンパンに怒張しきったソレは、日菜太の体型と同じく横に太く、しかし縦には短い。
 一般的な基準に照らせば、決して大きいとは言えないものの、普段見せる幼さや、風呂の場で盗み見た通常状態とのギャップゆえか、とても大きく立派なものに感じる。
 案にたがわず、完全に勃起していても、先端まですっぽり皮が被っている皮余りでもあり、外見そのものは子どものよう。しかしそれでも包皮の先端部は精液が混じった大量のカウパーで滲んでおり、今にも溢れて垂れ流れそうな勢いの良さ。太い竿に負けず亀頭部もぷっくらと、カリ首は包皮の内よりしっかりと段を作って主張している。ベールに覆われ隠されているにすぎないそれは一見すると子どものようで、実際はもう大人なのだ。
(美味しそう……。た、食べたい……ッ)
 愛おしくもあり、雄々しさを持ち合わせているペニスに対し、獣欲をさらに昂らせてしまう。可愛いものを口に入れたい、食べてしまいたいという感情は、一般の人にも備わっていると耳にしたことがある。それに、首筋に歯を立てるよりかはよっぽど安心安全。大丈夫、俺の思考は正常だ……。
(チンチンを食べる……?? そうだ、口で受け止めてやればいいんだ! そうすれば何も汚さずに済むし、なによりも……!)
 日菜太の子種を飲める!
 そうと決まれば善は急げだ。
 厚い包皮に覆われている頭部を露出させるべく、生のソレをそっと握る。太短いペニスはかわらず硬度を保ったまま熱を持っており、手の内で精の解放を欲するように暴れまわる。
「もう逃げられねえっての。さぁて……」
 思わず舌舐めずりをしてしまう。
 暴れん棒をホールドしたまま根元の方へと包皮をずり下げる……刺激を与えすぎないようにゆっくり、そっと……むにゅっ、にゅるるっ――
「ふぅ、んあっ……!! ぁ……んっ、うぅぅ……ッ」
 亀頭の三分の一ほどが顔を見せたところで、またしても官能的な呻き声があがる。
 ぷっくら膨れ上がった亀頭が包皮口に引っかかり、痛みを与えてしまったかと一瞬不安に思ったが、そのままするりと全て剥けきったので杞憂に終わった。
 ベールを剥がされた桃の果実は完全に熟していて、薄暗闇にありながらも艶かしいてかりを放ってその全容を露わにする。鈴口からとめどなく流れ溢れるカウパー液が興奮と射精欲を一段と掻き立て、脳内が得も言われぬ感情に支配される。
 皮が被っていたうちは可愛くもあったが、こうして剥いてみると、しっかり生殖器としての機能を果たせる逞しい雄のペニスであることを嫌でも認めざるを得ない。……穢れ知らずの真っピンクな亀頭であることと、極端に短いことを除けば、だが。
 これから口内に含み入れ、味わい尽くすのだと思うと、血に刻み込まれた狼の習性ゆえか、つい鼻を近づけて匂いを嗅がずにはいられなかった。
 くんくん――一嗅ぎした瞬間、えずいてしまうほどの刺激臭トラップが鼻を襲った。
「う゛っ……」
(さては日菜太のやつ、昨日一日洗ってねえな……)
 汗と、尿と、我慢汁と、精液。それらが包皮の内部で混在し合って醸し出される独特のニオイがむわっと沸き立ち、鼻腔の奥深くを突き刺して脳に強烈な刺激を与えるも、しかし鼻は嗅ぐことをやめない。
「くせえのに、止まんねえッ」
 スンスンっ、スンスンスンスンッ。
 決して心地良い匂いなんかではなく、むしろその逆のはずなのに、嗅げば嗅ぐほど脳みそが蕩けて快楽の海に溺れていく……。
 獣欲に身を任せ、思いのまま盛大に射精してしまいたい衝動をぐっと堪えて、あらゆる感覚で日菜太の秘部を堪能する。
 視――噴出寸前で怒張しきって、血管を張り巡らせた太短い竿と、真っピンクの風船の如く膨れ上がったベルの形をした、汁でヌメヌメになった艶やかな亀頭。
 聴――絶えずに漏れ、部屋に響く日菜太の熱い吐息に、甘いよがり声。
 嗅――鼻が曲がってしまいそうな、フェロモンにも似た刺激臭。ほのかに香る日菜太の甘くて酸っぱい体臭。
 触――握っていると肉球より伝わり来る興奮の大脈動、海綿体の充血で膨らむ感触。
 五感のうち味覚を除く四つを使って、まさしく全身で楽しむように夜這いしている時だった。
 突然陰部の奥が耐え難い快感をともなった疼きに襲われる。
「――ッく!?」
 危険信号の高圧電流が脳へと一気に迸る。
 触れてすらいないのに、まさか……まさかこんなことが本当に自己の身に起こり得るのだろうか。
 陰茎の付け根のあたりから急速に精が尿道を迫り上がって、快感が脳天に突き抜けていく……ひとたび陰茎を握れば、いや、触れずとも直に大噴火を起こしてしまう、危険な予感――!
(ひ……!!! ダメっダメだ!絶対出すな堪えろッ!)
 ガクガクと足腰が小刻みに震えて腰から砕けてしまいそうになる。
(何も見るなッ!何も考えるなッ!)
 膝立ちのまま、目を瞑って、心を無に。明鏡止水の心持ちで歯を食いしばる。
 何としてでも抑えなければならない。そうしなければ日菜太に向かって精液を射ち放ってしまうという、最悪の結末を迎える。
 日菜太が夢精して汚れてしまわないようにしていたはずが、このままでは本末転倒もいいところだ。転倒どころか人生が終了すると言っても過言ではない。
 込み上がってくる射精感をいなせ!
 絶対に射精してはならないとセルフコントロールに苦心している間、無慈悲にも意志とは逆に決壊の時は近づいてくる。
 堪えて抑圧するのが苦しいはずなのに、かつて経験したことのないレベルの快感が大津波となって襲ってきて……。
 寸止めの快楽状態を保ちたくもあり、思う存分に解放してしまいたく――つい気が緩んで、心のどこかで出すことを許した刹那、恐れていたその時はきてしまった。

「はぁ……っ! ぐっ…………出ちま……うッ!……――!!!」

 声すらも抑えきれず、堪えきれず、遂に陰茎の先より精がドロッと溢れ、勢いよく何度も射ち放たれ続ける。
「うがっ……! フーッ!……だ、だめ、だ……! ……と、止まんねぇ……っ」
 ビジュっ、ぼたぼたっと、耳に入ってくる悍ましい音に加え、生臭く青臭く漂う白濁液のツンとした臭いが今しがた犯した罪を物語ると同時に、飛んでいた理性を取り戻させた。

 日菜太を俺の精液で汚してしまった。

 恐ろしさのあまり、ギュッと閉じたままの目が開けられない。自分の犯した過去最大で過去最低の罪を認めたくない。日菜太にかかった白い痕跡を見るのが恐ろしくてたまらない。
(おれは……おれはなんてことを……なんて酷いことを……!)
 全身の痙攣が止まない。それは脳を蝕んで甘く食い殺すような究極の快感ゆえか、言い表しようのない恐怖ゆえか、或いは他の原因によるものなのか、はたまたその全部によるものか。解らないし、もはやどうだっていい。覆水盆に返らずなのだ。罪は消せない。
「おれ、最低だ…………サイテーだ…………日菜太に嫌われちまう…………」
 絶望の淵に立っていると、自己嫌悪のドス黒い感情が湧いて止まらずに心を覆い尽くす。
 嫌い。自分が嫌いだ。大嫌いだ。
 憎い。数分前の自分が憎い。日菜太に合わす顔がなくて、爪で顔を引っ掻き回したいほどに。
 卑怯者。痴れ者。未熟者。獣物……!
 自己を罵ったところで今更過去を改変できるわけでもないのは百も承知。あとになって臍を噛んでもどうしようもないのはこの俺がよく分かっているはずだ。とは言え、逆にそうすることでしか自分を保っていられない気がして、精神的自傷に走り続ける。
 俺は夢を壊した。取り返しの付かないことをしてしまったから……。
 離れ離れになってもまたいつの日か、大好きな生まれ故郷で、大好きな日菜太と大好きな桜を見るという夢を、“夢”で、ではなく、そう遠くない将来“現実”で叶える未来を潰してしまった。
 日菜太へのお返しも、アルバム交換も全て叶わない。
 無論、それは日菜太との関係が今日限りで崩壊するから。胸が張り裂けるような、耐え難い苦痛で息が細まる一方で、最後の最後にあんな素敵な夢を見られただけ幸せ者だと諦観している自分もいる。
 もう二度と叶いやしない、美しい夢を日菜太の側で見ることなど……もう二度と許されないというのに……!
 腹立たしい。忌々しい。日菜太を、夢を諦めようとしていることが赦せない。
 結局何をどう考えようと、全ては自己嫌悪に繋がってしまう。まともな精神状態ではないのは自明の理だ。
 こうして行き場を失った数多の感情は大粒の涙へと形を変える。
 涙を流す権利などもはや喪失しているのに、泣きたいのは俺じゃなくて日菜太の方だろうに、解っていても涙を堪えきれずに雫は落ちる。
 ぽたりと小さく響く音が切ない。無性に虚しくて、何もかもがどうでもよく思えたその時――

「ヒュウ……」

 膝すらも崩れて項垂れる中、布団の擦れる音と共に俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。日菜太の声だ……軽蔑され、否定され、果てには絶縁を突きつけられる……。
 怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。何よりも怖くて辛くて受け入れ難い。
 分かっていても心の準備などできるわけもない。
 ああどうか幻聴でありますように。あわよくば全て夢でありますように……。心の中で愚か極まりない祈りを捧げている間にもう一度耳が声を拾う。
「ヒュウぅぅ…………」
 おかしい。
 どうやら幻聴の類いではないらしいその声は、怒りや嫌悪が込められておらず、寧ろ甘美な響きで、どこか甘えているような声音。絶望感に打ちひしがれ、身震いする身体を宥める甘ったるい声で……。
 耳が信じられなかった。
(な…………んで……? あんな酷いことやったってのに……)
 嗅がれたくない体を嗅ぎ回り、触られたくない大事なとこを触って夜這いし、その挙句自爆しただけに止まらず日菜太を汚したこの俺が許されるなんて、にわかには信じがたい。
 日菜太は次に何を言うのだろうか……全く想像がつかずに、言葉が発されるのをただ怯えて待っていた。

「ヒュウっお願い……。触って……もっとぼくの、触って……!」

 ……なんだって?
 唐突で突拍子もない言葉に耳が立ち、涙で滲む目を見開かずにはいられなかった。
 目を開けた先では、ほとんど全裸でぺたんと座り込む日菜太の姿がぼんやりと見える。
 次第に明瞭となってくる視界は、目がとろんとした恍惚の表情――いささか苦しそうにも見える――で顔を赤らめ、股間の太短いモノをひくひくと屹立させながら、俺の顔を見つめる日菜太を捉える。
 案の定、日菜太は精液でべっとり汚れており、顔にまで跡がついている始末だ。見るに堪えない汚れきった姿は、俺を再び罪悪感の谷底に引きずり戻す。
 そんな俺をものともせず、日菜太は頬を染め、もじもじと身体をくねらせて懇願するのだった。
「ねえヒュウってば、お願いだよぉ……ぼくもう限界だ……」
 思考と感情の大渋滞。まるで頭が追いつかない。
 確かめるように、恐る恐る聞き返す。
「ひ、日菜太……怒ってねぇ、のか……? それに……さ、触るって何を……」
「もうっ、顔見りゃ分かんでしょ! 怒っとらんから……その、早くここ触ってよ……」
「俺のっ、俺のしたこと、ちゃんと分かってんのか……? 許して……くれるのか?」
「こっちも見りゃ分かるっての! 温泉で急に倒れたかと思ったら、元気に一人で気持ちようなっていっぱい白いの出して! 朝んなったらお風呂入り直しだ!」ぷんぷん。
 怒って……なさそうな、怒っているような……。
 だが少なくとも、俺を拒絶するような憎悪を伴った本気の怒りではないことだけは理解できる。
「僕もヒュウと同じように、しゃ……しゃすい?あれれ、なんて言うんだっけな? ……っともかく!もうなんか限界っぽいから気持ちようなりたいの! ほらほらっ、はーやーくーぅ!触った触ったぁ!」ピコンピコン。
 残る問題は日菜太の言う「触る」場所なのだが……。
 亀頭が露出したままになっている日菜太の息子へと視線を遣る。
(……触るって、やっぱりソコのこと……なのか?)
 最終確認の意を込めて小首を傾げる。すると即座に頭から湯気を出し、さらに捲し立てる精液まみれのすっ裸レッサーパンダ。
「だあああああーっ!!もおっ!! ヒュウのバカ!アホ!恥っずいことなんべんも言わせんなーっ!! 僕のチンチン触ってって言っとんの! さっきまで散々僕のん触っとったクセに今更しらばっくれるなんてぜぇーったい許さないかんね!」ぷんすこ。
 許された……ような、許されていないような……。
 あぁでもこの感じ――今は状況が状況だが、いつもの太陽が登り始めて明るく照らされる、幸せの黄色に満ちた日常感……。閉ざされていた暗い心が日菜太の明るい色に染められていく。
 俺は本当に許されていいのだろうか?
 また日菜太の側にいていいのだろうか?
 もう一度、ささやかな夢を見てもいいだろうか?
 日菜太はこんな俺のことをまだ想ってくれているだろうか――?
 聞いて、受け入れられて、許しをもらってからでないと俺たちは先に進めない。或いはただの盲信――日菜太の口からあの言葉を引き出したいがための単なる思い込みや口実に過ぎないのかも知れない。
「日菜太……俺のこと、どう思ってるか先に聞いていいか?」
 意を決して「正直に頼む」と、昨日と今日で二回目の問い。レッサーパンダ饅頭を思い出して胸がドキドキする。
「僕がヒュウのことどう思っとんのかって? そうだな~正直に言うとだなー」
 判決を言い渡される被告人の心境で、心臓の動きとは反比例に硬直していく尻尾。
 対する日菜太のそれはゆらりと揺れており、裁判官の余裕を感じさせる。
 日菜太はコクンと首を傾げて言った。
「……おやすみ中の僕のこと脱がして、チンチン剥いて遊んどったヘンタイオオカミくん?」
 ガクッと拍子抜け。ドキドキ音は呆気なくドキリ!と弾けるに終わった……。
「! ち、ちが…………いや……違く、ない……な……。けど聞きてぇのはそっちじゃなくて!」
「そっちじゃなくてどっちなのさ~? 僕よりチンチン大っきいってこと?」
「それも違え!」
「じゃあ何だろなー? 分っかんないなあ」
 ニッシッシという表現がぴたり適切といった茶目っ気ある顔をして、俺を困らせてやろうという意図が見え透く。
 仕返しのつもりなのか、日菜太なりのフォローのつもりなのか真意ははっきりしないが、自然と頬の力が抜けていくのを感じる。
「……おまえ、分かってて言ってるだろ!」
「ぷっ、くふふっ……たははは! あーもう、おっかしいぃ~」
 唐突に腹を抱えて笑い転げ出す日菜太。
「な、なんだよ」
「だって、だって僕たちさっきからすっぽんぽんでさ、ぷふふふーっ! 何言ってんだろーって!」
「おまえがチンチン触ってとか言い出すからだな…………くっ、ハハハ! ホントになんだよそれ」
「ふふ、笑った」
「?」
「ヒュウがやっとええ顔になった。いつもの、僕が大好きなヒュウの顔」
 聞くや、再び熱を取り戻し始める心臓。それは熱く、早く、本来の機能以上の過剰な働き。息苦しさを伴うのに、どうしてか今だけは無駄だとは思えなくて。
 はっきりとした“答え”など聞かずとも、いつものやりとりだけで十分だと心の片隅で解ったつもりになっていたけれども、やっぱり俺は欲深く愛に渇いた狼だったのだと思い知ることになった。
「僕がヒュウのこと嫌いになるわけないじゃん。そりゃあちっとは驚いたけどさ、でも、ヒュウだからいいの。怒るも許すも何もないの! だからもう心配せんでね? 悲しい顔なんてナシナシ!」
 言葉よりも、感情よりも先に身体は動いた。
 胸にダイブする勢いで飛びついて日菜太を布団に押し倒してしまう。乱暴なハグだとは分かっていても止められない。
「ありがとう……っ、ごめん、ごめんなぁ……!」
「いいってば! ほんっと、ヒュウはしょうがない甘えたさんだっ。……身体、なんともなくてほんとに良かった……っ」
 背に回された両腕は優しく俺を包み込む。赤児を宥めるようにポン、ポンと触れたり、被毛を掻き分けるように撫で回す。そしてギュウッと力が込められハートとハートの距離が最も近づいたその時、鼓動がはじけて愛情が一気に迸った。
「好きだっ! 大好きだ日菜太……!!!」
「んふ、それさっき聞いた。ぼくも、おんなじ。ヒュウのこと好き。だいすき」
 耳元で囁かれる飾り気のない「好き」の一言は、今や迷いや怯えといったものがなく、透き通っていた。それは真っ直ぐピュアでありながらも、しかし、ともだちとしての「好き」を超えた特別な意味の「好き」であることの証明だった。
「ずっとずっと好きだった……おれにいっぱいくれたおまえが好きで、可愛いおまえが好きで、いつも一緒にいてくれたおまえとこうしてっ、おれ……おれっ……今最高にうれしい……」
 想いが交わって一つになれた喜び。
 背中から一方的に抱きしめるのではなく、向かい合って抱擁し合える幸せ。
 伝えたい気持ちがありすぎて言葉に詰まる。
 後になって思い返すと恥ずかしさのあまり暫く日菜太の顔を直視できなくなるかも知れないが、今この瞬間だけはそんなことどうでもよかった。
 とにかく胸の最奥部が熱くて熱くて仕方がない。
「ぼくも、優しいヒュウがだいすき。ぼくのことよく想ってくれとるヒュウがだいすきっ」
「……! おれ、シアワセだ……っ」
 人生における幸せの絶頂期なるものがあるとするなら、それはきっと今だ。キロクなどできようもないし、する必要もない。
 匂いと温もりを一生覚えていられるように、日菜太に負けじと、これでもかと言うほどに強く抱きしめ返す。溢れる愛を言葉では上手く表現できないから、こうやって伝えるしかない。
「うん、うんっ……! おんなじだっ。ぼくも、うれしいっ。しあわせ!」
 矢印が一方通行から双方向へ変わった印は、言葉だけでなく日菜太の心臓の音にもあらわれていた。トクン、トクンと、小さく愛おしい心音は今や激しく高まっており、同じ早さ、同じ音を響かせ合う。
 それだけで十分だった。
 言葉数が少なくても、言の葉に想いを乗せきれなくても、ハートの共鳴だけで溢れる気持ちを伝え合えるから。
 互いが互いを求めるハグを交わし続け、俺たちは一つに、“つがい”になれた。



 時刻は丑三つ時も過ぎ去る、夜の最も深い頃。
 電球色のランプが程よい薄暗さを部屋にもたらす中、肌寒さをすっかり忘れて大の字に寝転がっていた。
 眠気がさしてきておもむろに瞼を閉じる。真っ暗闇な瞼の裏と胸に去来するは、数えきれないたった一日のこと。
 清桜ヶ丘の暁から始まり、駅舎を取り囲む桜、レトロな温泉街に、美しく儚い春の夢。日菜太と肩を並べて歩き、色とりどりの景色を目にしてきた。夢を叶えかけては壊しかけ、絶望感や自己嫌悪といった卒業旅行には似つかわしくないものまで味わった。ひた隠しにしてきた想いを盛大に解き放って告白もしたし、抱擁もし合えた。悲願の好き同士にもなれた。
 なのに、今は自分でも不思議なぐらいに心穏やかでいる。夢での清桜ヶ丘や風が暗示していた離別の時も刻一刻と迫ってきているのに、怖くも寂しくも感じない。恐らくだが、それは満たされすぎたゆえの一時的な反動によるものだろう。
「ねぇねぇ、ヒュウぅ」
 相思相愛になれた至高の充実感と、抱擁の余韻に浸ったまま、夢の国に誘われる一歩手前の時だった。またもや甘えた声で俺の名前が呼ばれる。
 何だと思い、どうしたんだと訊くと、
「さっき僕が言っとったの、やってくれる……? アレ、本気だかんね」
 ……さよなら、夢の国。
 無理矢理一気に覚醒させられ、飛び起きる勢いで体を起こす。
「ヒュウお願い……」
 いつの間にか元気よく勃起していた股間のモノをヒクヒクと動かせながら、モジモジ気恥ずかしそうな上目遣いでポツリ。
 その意味するところを瞬時に理解した俺はつい額をコリっと掻いて、「本当に触っていいんだな」と言いかけたが、くどいようにも思えたので「分かった」とだけ短く返した。
(聞き返すとまた怒りそうだし、寝てる間に散々触ったし……な)
「よし、おいで。その格好のまま、こっちな」
 今なお全裸のまま、しかし芯を持ち硬くなりだした股間だけは掛布団で覆い、膝立ち状態で俺の前へ来るように伝えた。
「なーに今さら隠してんのさ、ヒュウくん?」
「……俺のはいいっての」
「つられて大っきくなったん~? ヒャクパーそうでしょ! ヒュウのえっち!」
「だあああそうだよ! なんか悪いか!?」
 できるだけ平静を装おい、こっそり鎮める算段だったのだが、こうもぴたりと図星を指され言い逃れできない事実を口にされては開き直ることしかできなかった。
 布団を取っ払い、斜め上方向にいきり勃った自慢(?)の息子を見せつけるようにして――
「というかそれ言っちゃおまえだってな、俺に匂い嗅がれて寝勃起させまくってじゃねーか! チンチンも洗ってねぇし!」
「ふぇ!? 僕の匂いまで嗅いだん!? チンチンも匂ったん!?」
「んや! そ、れは……、違…………違わ、ない……デス……」
 ――一矢報いてやろうと反撃。……からの華麗なる自爆。
「やっぱり! ヘンタイさんだー!」
 さっきまでの威勢はどこへやら、尻尾を丸めて狼狽する自分に我ながら辟易しつつも、首をぶるると振って脱線していた話を元に戻す。
「どっちもどっちだっつの! それはまあ置いといて……さ、触るぞ……?」
「ん! 頼んだ!」
 互いに膝立ち状態で向かい合う。日菜太は勃起した皮被りのモノを正々堂々と恥じる風もなく晒して、鼻をふすふすと鳴らしている。
(こんなエロい顔もすんだな……)
 それはかつて一度も見せたことのなかった親友の新たな表情。
 幼いとばかり思っていた日菜太も、性なる欲に飢えた雄の表情を浮かべることができるのだ。いつもの愛らしい日菜太が遠ざかったような気がして、興奮の中に身を紛させていた一抹の寂しさが顔を覗かせた。
 震える手を伸ばし、たゆんとぶら下がった小ぶりの睾丸を下から掬い上げるように触る。
(日菜太のタマ、ふわふわで柔らけえっ……)
 柔らかくて気持ちのいい触り心地に思わずうっとりとしつつも、ゆっくり揉み始めるや否や、
「んっ……」
 目をキュッと瞑り、可愛らしい嬌声を漏らす。尻尾を立ててビクリと体を震わせてもいる。
(一瞬で元の顔に戻ったぞ)
 そこにもはや雄の顔はなく、やっぱり日菜太は日菜太のままなんだと胸を撫で下ろした。
 十回にも満たない数ほど揉んでいると、絶えずヒクヒクと跳ねる竿の先端より透明な液が溢れ始める。はあはあと息も上がって苦しそうに見える。
「あんだけ触って触って言ってたくせにちょっとキンタマ触っただけでもう出しちまいそうだな?」
「んな!違うやいっ! ヒュウの触り方がやらしいだけなのーっ!」
「今は褒め言葉として受け取っておこうかな? ……さて、棒の方も触ってくぜ」
 そう言って触れようとした直前、「待って、ヒュウ」と制止がかかる。
「ぼくも……ヒュウの触っていい? ね、いいでしょ? おあいこ」
 突然の交換条件を持ち込まれ、気恥ずかしさで一瞬困惑したが、日菜太と触り合いっこができるだなんて願ったり叶ったりだ。断る理由が全くなかった。
「ああ」小さく首を縦に振ると、「いよっし! じゃあ……せーの!で触るよっ」と、興奮気味の日菜太。
 心拍が早まる。
 自分以外の手で性器に触れられる未知なる感覚への期待感と、再び日菜太の竿を握れる悦びで、体が火照り出す。

「「せーのっ」」

「ッ!?!?」
 合図が終わると同時に、一斉に逆立つ全身の被毛。
「……! ん、ぐっ……!」
 堪えても堪えきれずに漏れる声。
 快感は想像していたよりも数倍以上だった。
 それは器用な弄り方によるものではなく、むしろその逆。好奇心旺盛な子どもが物珍しいものに触るようにベタベタと亀頭や竿を握っては離し、また握る。
「んがっ、はぁ……!!」
 亀頭に擦れる手のひらの被毛――レッサーパンダ特有のものだ――がこそばゆくて腰が抜けてしまいそうになり、知らず知らずのうちに息を止めていたほど。
 もちろん日菜太のモノを堪能している余裕など微塵もない。
 これでは一方的に果ててしまうのも時間の問題だと思い、
「お、おい! ひなっ……ちょ、タンマだタンマ……!」
 今度はこちらからストップを乞うた。
「んもー何だよー?」
 日菜太は頬を膨らませながらも手を止めてくれた。ひとまずは助かった……。
「おまえのその手!んなのズルだろ! ふわふわすぎてこそばゆいんだって!」
 すかさず抗議するのは、今の状況は俺にとって不公平すぎるだからだ。
「ヒュウこそ僕んこと言えないぐらいちょー敏感だっ。こんなでっかいくせに! そおら、うりゃうりゃあー!」舌をペロッと出して再びベタベタ、ニギニギ。
 何が不公平なのかと言うと……、
「ぁギャッ!?!? わふっ……、こらっやめんか日菜太! ……あのな! おまえのはすっぽり可愛く皮被ってるからヘーキなだけなんだよッ!」
 日菜太のペニスは包皮という名の鉄壁ガードで敏感な粘膜部分、言わば最も性感帯の集中した部位が守られているのに対し、俺のモノは剥き出し。つまりは防御力の差が顕著なのだ。
「ちゃんと皮剥いて頭出せ頭!」
 ぶっくらと膨れあがっている皮被りの亀頭をつついて、対等にするよう――露出させるように促す。
「……ヒュウのが勝手に剥けとるだけでしょ」
 やや俯き加減で互いのモノを見比べ、口を尖らせ気味に言った意味が俺には分からなかった。
「? だからおまえも剥くんだって。その方が気持ち良くなれるんだぜ?」
「やって。ヒュウがやって」
 まるで駄々をこねる子ども。
 語気と尻尾の動きから察するに、どうやら機嫌を損ねさせてしまったらしいが、その原因に心当たりがない。
「俺が剥いてやるのは別に構わんけどよ、さっきから何プリプリしてんだ? 何か怒らすこと――」
「怒っとらんっ!!!!!」
「ど、どうしたんだよ!?」
 かつてこれほどまでに言葉と感情が一致していないやつを見たことがない……。
「ぅ…………僕の……、バカにした……」
 今にもぐずり出しそうな潤み声でポツリとこぼす。
 バカにした? 俺が? 日菜太の?
 ……あった。一つだけ思い当たる節がある。
「……ひょっとしてチンチンか?」
「ん」
 首さえ降らず、ぶっきらぼうな一声だけで肯定。
 暫し回想……。
 確かに風呂の場では「小さい」と、雄としての尊厳を傷つけるようなことを言ってしまった。
 けれどもさっきはそのことには触れていないし、もしあるとするならば包茎を意識させる言動が多かった気が……ってそれか!
 触れ合う直前まで特別恥じる素振りを見せなかったのに、差を意識した途端に……というやつだろうか? まったく、日菜太ごころは理解し難い……。
「バカになんかしてねーよ。可愛らしいとは思うけど、それが良くないなんて一言も言ってないぞ」
 デジャヴかと思った。まさかこんな短期間のうちに二回も雄のシンボルの件で日菜太を慰める羽目になるとは想像すらしなかったので。
 機嫌を直してもらえるように宥め続ける。
「むしろおまえらしくて俺は好きだけどな」
 日菜太ならきっと見抜いてくれると信じて、嘘偽りない思ったままのことを伝えると、徐々にゆらゆら揺れを大きくしだす尻尾。
「あとあんまり認めたかねぇけど、俺のより太いんだから自信持てって!」
 事実、直径サイズの敗北は僅差ではあるが、夜這いの際に痛感したところである。不本意ではあるが、認めざるを得ない……。
「それホント? 僕の方が太いの?」
「……ああ。お前もさっき触ったろ」
「へへっ、じゃあじゃあ! 引き分け?」
 ……目を輝かせて勢いのままドローに持ち込もうたってそうは問屋が卸さない。
「いいや断じてそれは違う! 認めねぇ! 俺の勝ちだ!」
 慰めるつもりが、つい躍起になって反論してしまっている。
(勝ち負けに拘ってる俺もまだまだ青くさいガキだなぁ……)
「と、とにかくだな! 俺はおまえのチンチンをバカにしちゃいないし、おまえのはおまえので良いとこあんだからそう卑屈になるなってこと!」
 分かったらさっさと続きやるぞ――強引な勝ち逃げを決めた。
 もう疲れたから寝てしまいと思いながらも、気を取り直して触り合いを続行する。
 すっかり萎れて元の矮小サイズに戻っていた日菜太のモノを、硬くなるまで指先で弄び続けること数十秒。
 ムクリ、ムクリと太く、見違えるまでに肥大化していく過程は非常に興味深い。
「あの大きさからなんでこんなにデカくなんだ?」半ば胸中が漏れ出る形で訊いてしまった。「知らんっ」と頬を膨らまされ、危うく振り出しに戻るところだった。
「剥いてくぞ。まだ射精すんなよ」
 失言を誤魔化すように、陰茎を摘み、下腹部の方へ。
「んぁっ、チンチン剥かれんのっ、気持ちええ、ね……」
 大量のカウパーと精が混じってできた無数の泡に塗れた、ぶっくら太く、真っピンクに充血した亀頭が徐々に姿を見せる。
 むにゅるっ、にゅるっ――
 包皮口の締め付け感が余程気持ち良いのだろう、日菜太のペニスはさらに硬く大きく勃起し、ビクッ、ビクンッと脈動の速度を上げた。
「こ、腰抜けちゃう……かもっ……、んひゃうっ!」
 包皮の上から揉みしだくようにして、再び厚めのベールを根元の方に向かって剥がしていく。
 むにゅりっ、ぬるるんっ――皮をカリ首までずり下げ、汁でヌトヌトにてかった亀頭を全て露出させる。
「あ……ぁ、んぅぅぅ……!」
 甘美な恍惚フェイスに、よがり声。
 剥きあげただけで鈴口より止めどなく溢れてくるカウパーは絶えず布団に垂れ続ける。極め付けに膝腰をガクガク震わせ、文字通り全身で快感を物語っているが、まだまだ序章。事前準備が済んだに過ぎない。
「おいおい、大丈夫か……?」
(そうか。忘れかけてたけど夢精寸前だったんだっけ……)
「だいじょ……ぶ、だっ……!」
 こいつの言う「大丈夫」は実際大丈夫でないことが多いのだが、直に果てるのは自明なのだからこの際あまり気にしなくてもいい。
「よし。準備はいいな?」
「ば、ばっちこいっ!」
 掛け声を発すれば、すぐさま快感の波が電気信号となって脳を直撃する。来たるべき刺激に備えようとしているのか、体がゾクゾクとし、尻尾の動きが激しさを増すばかり。
 日菜太とこのような形で触れ合えるのも今夜限りのことだ。
 その空気感はさながら一大決戦の火蓋が切られる直前の緊張感。
 双方の心臓の音が響き伝わりそうな距離感で、俺たちは――
「「せーのっ」」
 再び合図の言葉を揃えて口にし、互いの秘部を握り合った。
「あがっ……!!」「ひうっ!?」
 再度のふわふわハンズ攻撃で急所を突かれ、仲良く喘ぎ声をあげる。
 すぐにイきそうな――だが、まだ耐えられる……!
 さすがに二度目と言ったところか、ほんの少し耐性がついており、日菜太のモノを堪能する余裕もできた。
 大量の天然ローションを纏った亀頭は、触れると冷んやりした感触を肉球に与え、しかし肉棒には熱く滾った血液が流れており、生あたたかさ、激しい脈打ちも感じ取れる。
 ぬちゃ――
 たった一扱きするだけでクチュクチュと卑猥な音を響かせる。
「んっ……ふうっっ……、なんかっ、チンチンのとこジンジンするっ、けどっ」
 甘く色っぽい声で喘ぐも、なんとか必死に堪え付いてくる日菜太は、
「ぼくもっ、やられっぱなしじゃ……、ないっんよ……!」
 何か企みでもあるのか、はたと目つきを変えて琥珀色の瞳をきらりと光らせた。
「はあっ……んふうっ…………、ヒュウ覚悟ぉーっ!!」
 そう言って始めたのはまさかの――両手擦り。
 右手だけで俺のペニスを握り扱いていたのだが、なんと左手も使い始めた。
 小さなふわふわの手で俺の陰茎を包み込み、根元から先端まで一気にズリあげる。綱引きをするようにして陰茎を高速で手繰り寄せるのだった。
「ッあ゛、はあっ!? や!めっ……、やめろおっ!」
 激しく悶える俺の姿に味を占めた日菜太は、扱く力をさらに強める。
「ふっふぅ……っ、これで、ど、どおだっ」
 技巧もへったくれもない力任せの手コキ。ただ俺を気持ちよくさせ、射精に導くためのひたむきな手淫。
 手のひらの被毛と肉球を我慢汁でヌトヌトにし、
 ぬちゃぬちゃっ、くちゃり、くちゅっ……ずりゅんっ――ひたすら扱き、擦りあげる。
 敏感な陰茎を弄られながら蕩けた顔で懸命な両手擦りを続ける姿はあまりに愛おしく、見ているだけで射精してしまいそうな感覚を催させる。それに加えこの凄まじい刺激……。
 募りゆく愛おしさと興奮が大量の精となって今にも大噴火を起こしそうだ。
「んがっッ、アががが!!! はふっ、ぅうッ!……おまえ、エロすぎ……!」
「んんぅ……ヒュウこそっ、触り方っ、……ひやんっ! なんかっ、ぃやだあっ……」
「グッ…………出したかったら、我慢せず、ひぐ!? 出しても、いんだぞっ」 
「んっ、そっちこそぉ、も一回、出しちゃえ、ばっ!」
「な、におぅ! 触ってって言ったのっ、わふっ……おまえの方、だろ……がッ!」
 皮を先端まで戻し、また一気に剥く。そのピストン運動……は、これまでのやり方。
 包皮の締め付けにより刺激するやり方を変え、亀頭だけを集中的にグリグリ握り回して攻める。反転攻勢だ。
「きゅうッ!?!?!? でもっ、まだ……っ、まだ我慢だっ! ヒュウが先か、同時がええのっ!」
 ぼくもう限界だとか抜かしておきながら意外に……を超えて相当しぶとい日菜太。ベロをだらんと出し、熱い吐息を荒げ、ガチガチに膨らませた陰茎を暴れさせるも、まだ果てるつもりは毛頭ないらしい。
 ならば、俺にも心づもりがある。
「わふふっ、そうかよっ。ならばコレでフィニッシュだ! 気持ち良くイかせてやる、よっ、日菜太っ!」
 一気に間合いを詰め、顔からマズルを迎えに行くようにして、
「んっっ、んーッ!?!?」
 接吻。日菜太のマズルを奪った。
(ヘヘッ、卑怯な狼で悪いな……! でも好き同士だったらこんなのもいいだろ?)
 間を置かずに口へ舌をねじ込む。
 薄く長い舌を日菜太の大きなベロに無理矢理絡ませて口内を犯し尽くす。息と息、舌と舌に唾液と唾液。それぞれが混じり合い、快楽をまたさらに増幅させる。
 カウパー汁で塗れた互いの陰茎を擦り合わせたままのディープキス。自分でやっておきながら、想像の域を遥かに超えた究極の快感だ。睾丸の奥深くがムズムズとし、泉の如く湧き上がってくる射精感に身を任せて解放するのもさぞかし気持ち良いだろうが、俺の案はこれで終わりではない。
(おれもおまえも、もう限界近そうだから……な!)
 ラストスパートをかけるべく、日菜太の太短いペニスに自分のソレを近づけて覆い被せ――粘膜と粘膜を密着させる兜合わせ。
 そのまま亀頭をぎゅうううっと握る。揉む。擦る。
「んんんんーっ、んーッッ!?!?」
(ひ……!!!ッぐ!? 初めてやったけど、なんっだ!?何なんだコレ……!?)
 粘膜の触れ合いが気持ちいいのか、日菜太と陰茎を重ね合わせる行為そのものに尋常じゃない興奮を感じるのか解らない。
 ただ解るのは、今にも意識が飛びそうなことと、同時に絶頂を迎えるということだけ。
 白みゆく意識の中、息が止まった。
 脈動もピタリと止み、尿道の内部より迫り来るもので二本の陰茎が大きく怒張したその刹那。

「「――っ!!!」」

 堰き止めていたものは大噴出を起こし、鈴口より白く濁った液がドプドプっと溢れ出た。
 手に握る二本の、大きさも太さも異なる陰茎は勢いよく大量の精液を吐き出し、腹部に生温かい粘液を何度も何度も射ち合う。
 そしてようやく長い射精が終わった頃、日菜太の腰が充電切れのロボットのようにカクッと抜け落ちた。それに伴い、口と口も離れる。
「ひ、ひもひいい…………」
 トロットロに呆けた恍惚顔を浮かべ、精液で汚れに汚れまくった布団へ横向きに倒れ込む日菜太。……ただし、俺の手を引きながら。
「ひなた…………」
 同様に腰が抜けていた俺はそのまま共に布団へ崩れた。

 全て出し切ったという満足感。それと表裏をなす虚無感。冷め止まぬ興奮感をそれぞれ持ったまま横になると、日菜太と視線がぶつかる。するとすぐに顔全体がほのかに紅潮していくのを感じた。
 俺は今どんな顔をしているのだろう?
 分からないけれど、きっと快感で蕩けに蕩けて、バツが悪そうな恥ずかしい顔をしているに違いない。そう思うと途端に何かを言って、顔から気を逸らさせようと口が勝手に動いた。
「……おまえな、ヒートアップしすぎだっ」
 自分を棚に上げてこういうことを言うのは些か疑問に感じざるを得ないが、事実、日菜太の精を出させてやればそれで終わる話だった。
「それを触り合いしたいだの言うからだな、こんなに汚しちまったじゃないか。っていうか、日菜太……すんごい量出したな」
 それなのに、牛乳瓶一本を逆さまにしてしまったのかと錯覚する量の精液を二人で吐き出してしまった。億劫な後処理のことを考えるだけで気が滅入る。もっとも牛乳のようにサラリとした液体であればまだ楽ではあるものの、残念ながらどろりと粘っこい濃厚なミルク。被毛にべっとり染み渡った精液のツンとした臭いが鼻を突く。
「そういうヒュウこそっ。いきなりチューしてくるし、二回目なのにこんなに出すし」
「言うな言うな! おまえがしぶといからだ」
「んふふ、頑張って耐えた方でしょ?」
 何やら自慢げに鼻を鳴らす。
「その分爆発したけどな」
「でも、気持ち良かったなぁ! あんなん初めてだっ」
「……ああ、そうだな」
 気持ち良かった。刹那的な快楽に溺れ、束の間の快感が何もかも忘れさせてしまったほどに……。そしてまた“いつか”続きをやりたいと、そう思った時。
「――ね、ヒュウ」
 無意識にも口元を強く結び、曇った面持ちになっていたのだろう。
 瞬時に起こるは、以心伝心。
 瞳の奥に籠った憂愁の色を見透かされ、胸のうちが瞬時にして日菜太に伝わってしまったように、その逆も然り。
 日菜太が今何を思っているのか、次に紡ぐであろう言葉が曖昧ながらも頭の中にスッと流れ込んでくる。
「僕たちさ、ずっとずーっと一緒だよね」
 憂色をほんのりと浮かべ、縋るような湿り気を含んだ双眸で見つめてくる。
(ずっと一緒、か……)
 日菜太だってずっと頭の片隅で感じていたんだ。健気にいつも通り明るく振る舞っていたけれど、無理もない。あの日あんなに目を腫らすまで泣いたんだ。
 泣きじゃくる日菜太をなんとか慰めるために「ずっと一緒にいてやる」と、言い放ったのを覚えている。
(……あれは俺の方こそ言ってほしかった言葉だった。そうか、だから夢でも……)
 無責任で衝動的な言葉に思えたけれど、今は違う。
 物理的な距離こそ離れてしまう。毎日合わせていた顔が数ヶ月ごとに一度だけ、或いはそれ以上に……。
 だが、今や心こそ一緒だ。矛盾などではなく、一時的に離れたとしてもこの先ずっと一緒にいることはできる。
 そうであってくれと、そっと日菜太の手を握る。
「なーに当たり前のことを。おまえが俺の夢に出てきて、そんで言ったんだぜ? 『僕たちどこまでもずっと一緒だー!』ってな」
「ヒュウも夢見たん!? それって清桜ヶ丘やった!?」
 夢、清桜ヶ丘と聞いて、ピクリと反射的に立ち上がる両耳。
 まさかこんな奇想天外な、奇跡にも近いことがあるのかと、驚き半分喜び半分で日菜太の双眸をがっしり見据える。
「公園の桜道を日菜太と歩いた。綺麗で、不思議な夢だったよ」
「おんなじ……おんなじだ……!」
 同一の夢を見ていたことが嬉しくて強い安堵を感じたという風に、日菜太は俺の手をギュッと握り返す。
 ああそうだ! 俺たちは同じ夢を見られるぐらいには考えてることも同じで、寂しがりで、今では心を通わせた立派な好き同士だ。
「だから大丈夫だ! こんな奇跡起こせるぐらいなら一緒にいることぐらいどうってことねーよ!」
 それは他でもない俺自身の強い願望でもある。日菜太を励ましつつ自分にも言い聞かせているようだった。
「じゃあ僕たち大丈夫だっ!」
 くしゃっと破顔させて、いつもの晴れやかな顔に戻った。
「ああ! 絶対大丈夫だ!」
 すっかり安心しきった日菜太は眠気を催したのか、目をとろんとさせはじめ、握っている手の力を落とし、クリクリの目をそっと閉じる。
「いっしょ……いっしょ、かぁ……!」
 まさに今眠りに落ちゆくといった声色で反芻する日菜太へ、「一緒だ」と、そっと一言、微笑み返す。
 返事はそれ以上なかった。
 すやすやと寝息を立て、再び眠りに落ちた日菜太。心なしかその顔はいつもよりも愛おしく、寝ていても眩しいとさえ思えるのだった。

 なんだかほんの少しだけてるてる坊主になれた気分だ。




  六、Re-Graduation
 
 月日が経つのは早いもので、卒業の日からあっという間の一ヶ月。時は三月の末日一日前、三月三十日。
 場所は清桜ヶ丘記念公園。噴水に続く道は閑寂と、遠くで車の走る音と、足元から二つの足音が聞こえるだけ。かつての通学路を、いつものように並んで歩いていた。
 そんな今日は、完成したアルバムの交換をする日で、かつ日菜太の誕生日。もう一つ付け加えると、日菜太が旅立つ日でもある。
 寂しくないと言えば真っ赤なウソになる。
 三年間……それも毎日飽きずに過ごした最愛の友との離別は、生活の大半がそのまま抜け落ちてしまうのと同義……。気を抜けば抑えている喪失感に押し潰し返され、その果て、涙のダムが決壊を迎えるという強い予感がある。
 けれど今日一日だけ……せめて日菜太を見送るまでは上を向いて笑っていようと思う。何も無理をしようとしているのではない。ただの自然体。いつもの俺らしくいるまでだ。
 笑顔で見送ることこそが最高の贈り物になると信じて。
(きっと、絶対……今日は忘れられない楽しい一日になる)
 ふと空を仰ぎ見ると、開花の準備真っ最中で忙しいことを示しているように赤みを帯びた幾つもの蕾が春空をバックに風で揺られている。
 その下、桜トンネルとなる予定の道をゆく俺の隣には、後頭部で手を組む日菜太。
「桜、惜っしいなあ~っ」
 せっかくカメラ持ってんのになぁ、ちぇーっ。そんな言葉が聞こえてきそうな顔をしているのも無理はない。清桜ヶ丘に春の息吹が漂い始めてしばらくだが、今年の開花は去年に比べて少し遅く、桜の花は一つたりとも咲いていない。
「満開までほんの一週間ってとこか」
「そん頃は僕たちもうここにおらんなー?」
 生まれ故郷の誇る圧巻の色景色を見られず、今年は夢叶わずだ。そう思うと些か感傷的になってしまうが、それも一年間だけの辛抱。
「じゃあまた来年見に帰ってくるまでだ」
 必ず戻ってくる……俺も、おまえも、大好きなこの町へ。
「再来年は?」
「もちろん。その次の年も次も次もずっとだ」
「じゃあゴールデンウィーク!」
 それは盲点だった! 言うなれば灯台下暗し。綺麗な桜に囚われるばかりで、すっかり一年後のことしか考えていなかった。
 桜が見られなくとも、ただこうして近くで一緒にいられるだけでよかった。桜は俺たちを付加的に彩ってくれていたに過ぎない。
(ゴールデンウィークか……!)
 ニヤリと口元が緩む。
「ああもちろん!帰ってくる!」
 今からでもひと月先が待ち遠しく思えてどうしようもないほどに舞い上がる心。全身がウズウズとする。
「よっし! そうと決まれば……」
「決まれば?」
「日菜太!おぶってやるっ! 背中乗れ!」
「なんでえーっ!?」
 期待と興奮で燃え滾る気持ちを何かにぶつけて発散しなければ、体が乗っ取られてしまいそうだった。その手段として、夢と逆のことをしてやろうと咄嗟に思いついた。
 いつまでも手を引かれたり、おぶられたままの俺ではいられない。
 日菜太をおぶって噴水広場まで走ろう!
「背の割にケッコー重いの、知っとる……んよね?」
「75キロだろ? 俺よりも重てえの」
「な、74キロだっ!」
「へっ、上等。今なら何だっていける気がするよ」
「僕のせいで転けるとかナシだかんね……!」
 大事な荷物――カメラと日菜アルバムの入った鞄――を預かり、腰を屈めると、遠慮がちに乗ってくる日菜太。直後、ズッシリとした確かな重みが襲ってきた。
「うぐうッ!」
「無理せんでね……?」
「なんのっ、これしき……!」
 キリリ、歯を食いしばりながら……、
(日菜太に負けてられるかっ!)
「さ、行くぞ! ベロ噛むなよ?」
 興奮半分、意地半分で、地面を蹴り出す。
 身に受くるは清桜ヶ丘の清らかな春の風と陽射し。桜の木の枝越しに漏れる春陽は暖かく、四月の粒子を潤沢にはらんでいる。着く頃には汗が滴っているに違いない。
 日菜太を背負い北の方角に向かって駆け抜ける最中、この道に桜が花咲いていたら……そう思わないわけではない。もっと爽快な気分を味わえるだろう。
 しかし、もう十分だった。
 なんたって今の俺はとびっきり良い顔をしているからだ。希望に満ちた春らしく気持ちのいい、そんな顔。確かめようもないが、今だけはなんとなく判る。

 タッタッタッタッタッ トットッ
「はあっ、はあっ……」
 ダッシュでおぶってきた代償は重く、ぜえはあ息を弾ませて噴水の縁に腰掛け体力の回復を待った。
「よしよし。ヒュウ頑張ったなぁ」
 背をさすってもらい、やがて落ち着いてきたところで本日の主目的を切り出す。
「そろそろアレ、やるか」
「やろうやろう、アレ!」
「頼んだぜ、“会長”さんよ!」
 それは言うまでもなく日菜足すヒュウアルバムの交換――ただしとびっきり特別の。
 ただ渡し合って終えるだけでは面白味がない。そう考えた俺たちは、交換会に“ある儀式”を組み込むことにした。
「んっんん!」
 立ち上がってこちらに向き直った日菜太は咳払いをし、身に付けてもいない腕時計を見るふりをした。
「えー、それではただいまより、清桜ヶ丘高校写真同好会(仮)の卒業式を始めます!」
 柔らかい笑みを浮かべたまま、幼い声を精一杯引き締めて式の開会を宣言する。
 何を隠そう、“儀式”とは俺たち二人だけの卒業式のことだ。
 同好会活動の集大成――『日菜足すヒュウアルバム』の交換を終えるとと同時に、写真同好会(仮)も今日をもって終わりを迎える。これは次に一歩踏み出すための、避けては通れない儀式なのだ。
「一同、起立っ。礼っ」
 思わず吹き出してしまいそうになるのを堪え、掛け声に従う。
「写真同好会(仮)会員、冬月氷優!」
「会長、笹原日菜太!」
「以上、二名! 順に前へ! これより、卒業証書授与式を行います!」
 予定どおりに名前を呼び合い、小さな式は順調に進行していく。
 姿勢を正して、一歩進み出ると交わる視線。本番にも関わらず、にこりとウインクする仕草が可憐な会長さん。
 アルバムを卒業証書に見立て、手渡す準備をしている“会長”は何を言ってくれるだろう?
 リハーサルでやったのはここまで。
 式の段取りこそ決まっていれども、この先の台詞はお互いシークレットサプライズ。日菜太の裁量だ。ただ、「楽しくて笑っちまうようなやつをな」と抽象的な注文をしておいた。
 高揚が止まらない。
 今にも笑い出しそうな日菜太は大きく息を吸い込み、長いメッセージを口にした。
「冬月氷優君、写真同好会(仮)の卒業おめでとうございます。って……んん?言ってみるとちょっと固いな? まあいつも通りでいいや!ヒュウ卒業おめでとう! ヒュウとは三年間ずっと一緒のクラス、同好会で、色んな場所に出掛けて、色んなモノを見てきて、色んな写真を撮り続けてきました。ついこないだは桜の温泉街にも行って春の先取りをしてきました。写真には残らんかったけど、忘れられない思い出もたくさんできました。でも、そんな同好会(仮)も今日限りでおしまい。寂しいけど卒業です。だから――今日から僕は“仮”じゃない本当の写真同好会を始めようと思います! ヒュウ!これからも僕と一緒に写真撮り続けると、側で笑ってくれると誓って! 誓わんとコレ、絶対渡さんからなっ!」
 結婚の誓いに強迫めいたものを混ぜ合わせたような、日菜太らしい風変わりなメッセージにクスッとさせられた。
「これからもよろしく頼むな」
 誓いの印に日菜太からアルバムを受け取り、右手を差し出した。
「こっちこそ! これからもいっぱい、ずっとずっとよろしくねっ」
 眩しい笑みで固い握手を交わし、三年前のあの頃と全く同じように手をぶんぶんと振るのだった。変わらない手の温かさと仕草が始まりのあの日を思い出させる。無性に懐かしく感じて、また日菜太と一緒の同好会でいられるのが堪らなく嬉しくて、つい感極まって涙を零しそうになるのをグッと飲み込んだ。
 こうして俺は卒業と同時に契りを交わし、新たに発足した写真同好会の一号メンバーとなった。
「ヒュウのアルバムも貰おっかな!」
 今度は俺が卒業証書を渡し、日菜太が卒業する番。
 考えてきた言葉をきちんと伝えられるだろうか。読んでる途中で涙を見せてしまわないだろうか。そんな一抹の不安が頭をよぎると、ふわりと風が耳を撫でていく。わだかまりを優しく包み込んで、遠く彼方へ吹き飛ばすように。
 たったそれだけで心強かった。それだけで前向きになれた。
 立ち位置を交代し、日菜太と同じように大きく息を吸い込む。肺を占める清桜ヶ丘の暖かい空気は心の酸素。
(今日は素晴らしい日なんだ)
 アルバムを目の前に持ち、読み上げるふりをする。
「日菜太、卒業おめでとう。そしてお誕生日おめでとう。……新たなる写真同好会設立もおめでとう」
「ぷくっ、ふふ……! おめでとう言い過ぎだ!」
「し、仕方ねーだろ! 今日はたくさんめでたい日なんだからよ」
 若干台詞が飛んで違和感大ありの出だしになったが、妙に自分らしいと思えば緊張感はどこへやら。
 気持ちを入れ直してメッセージを伝える。顔が燃えるような照れくささに耐えつつ、真面目かつ笑顔で、ありったけの感謝と祝福を込めて……!
「一年の時、俺は日菜太に出逢って同好会に入る決断をして良かったと心から思ってる。塞ぎ込んでた俺を見つけ出してくれて、俺に世界を見せてくれて、ありがとう。おかげで三年間毎日が幸せで本当に楽しかった。……いや、これからもずっと、だな。楽しくする!また一緒に写真を撮りに行こう!新しいアルバムにも俺たちの思い出を入れていく! さ、これは俺からの約束の印だ! 日菜太!おめでとう!!」
「約束、だかんね!」
「ああ、誓ったからな!」拳をコツンと突き合わせ、贈るは約束と親愛の証。
 ヒュウアルバムが日菜太の手に渡り、写真同好会(仮)のエピローグ――ペアアルバムの交換が済む。
 これにて旧同好会としての活動に綺麗なピリオドが打たれる。その軌跡はこのアルバムの中と記憶の中で永遠に残り続け、俺たちは新たなスタートを切ることができる。
 冬の暮れに吹いた風は囁いた。卒業するからって終わるわけではない、と。まるでこうなることを見透かしていたかのように……。
 今やすっかり陽気な風は、そんなこと言ったっけなあ、とどこ吹く風で耳と尻尾をくるくると撫でていく。
「んん? やったらニヤニヤしとんなー?」
「なんでもねえよ。ただ今日はいい日だなって」
「……うん! 今日はいい日だっ。エヘヘ!」
「さ、締めの言葉頼むぜ、新会長さん!」
 りょうかいっ!任せて! と、再び咳払いをした、小さくも頼もしい会長は式を締めくくる。
「以上をもちまして、清桜ヶ丘高校写真同好会(仮)の卒業式を終了しますっ!」
 今日という日に相応しい、終始晴れやかな雰囲気での“終わりと始まり”。感慨深い二つを同時にくぐり抜け、二人だけの卒業式は幕を閉じた。
 
「ニュー同好会祝いのんも合わせて二枚! いっくよ~っ!」
 三脚にカメラを載せ、噴水を中心に据えるように調整していた日菜太は、タイマーの設定をも終え、ダッシュで戻ってくる。
 短い腕を俺の肩に精一杯伸ばし、肩を組めた俺たちはレンズを見つめ――
「「日菜足すヒュウはーっ、はい!チーズ撮ろーり!」」
 魔法の掛け声を発すると……パシャリ。
 シャッター音が軽快に弾けた。
「次はジャンプだっ! ヒュウ飛ぶよ!」
「おうよ!」
 一緒に飛び上がり、再び……パシャッ。

 モニターには、澄み切った笑顔で頬をほんのりと染めている二人の姿が映し出されていた。

 
 式と撮影の後はお決まりのように、貰ったアルバムを早速開く俺たち。
 小さな青春の一ページ目を飾るのは、三年前の五月、同じ噴水広場での始まりのメモリー。
 ネクタイの色は一年生であることを表す水色だ。まだまだ新品の制服に身を包み、新たな友を得たばかりのちっぽけな灰色狼は、緊張で少し肩がこわばっているように見える。
 それでも、その双眸には希望の色が浮かんでいる。
 遅れてやってきた春に胸をときめかせ、噴水を背にして日菜太の隣に座っている俺はとびっきり良い笑顔で写っていた。

 そして最後のページには、今しがた撮った二枚が加わる。


  七、始発 清桜ヶ丘

 壊れ物でも扱うようにアルバムを腕に抱いて、北へ向かう。
 日が落ちるまで思い出に浸っていたかったが、そうも我儘を言っていられない。
 お見送り――。別れの時はすぐそこまで来ていた。
 当の本人は呑気そうにお菓子の詰め合わせ缶――誕生日プレゼントのうちの一つだ――を抱え、美味しそうな咀嚼音を立ててクッキーを食べているのだが、普段よりも垂れ気味で動きの少ない尻尾を見ればその心境は明らかだった。
「ん~これ! めちゃ美味しいなぁ! ヒュウももっと食べる?」
 健気にも決して顔には出そうとはせず、「ほらほらっ、チョコあげる!」と、差し出してくる。
 わざとらしさすら感じる底なしの明るさは、ひとえに俺を悲しませないための気遣い。俺はその想いに応えなければならない。
「お、サンキューな。貰っとくよ」
 受け取って口に放り込むと、口の中に広がるビターチョコレートの味。
 甘いくせして、味わうほどにほんのり苦くて。
 美味しいくせに、すぐに溶けてなくなりやがる……。
 悲しいくせに、明るくて楽しくて。
 別れが辛いから時間が早く経ってほしいのに、今日が終わらなければいいのにって……。
 チョコレートの複雑な味は、今の俺たちのように思えてならなかった。
「チョコ美味かったよ。このお菓子缶当たりみたいだな」
「さっすがヒュウ!」
「結構値段したんだぜ? 大事に食べろよ?」
「うん! 電車乗るまで……ちゃんと残しとくっ」
 素直に缶の蓋を閉めたかと思った日菜太は、
「……やっぱあともう一個だけ!」と、再び蓋を開け、お菓子を口に運んだ。
「ん~っ、美味しいなー!」
 タッと駅舎の方に向かって駆け出し、前を行くその背中がひどく小さく感じられてしまったので、つい空を見上げて目を背けてしまう。挙動の一つ一つが空元気に見え、胸がきゅっと締め付けられる……。
 それでも日菜太は俺が一人では歩けなかった道を、凛々しく、勇敢にも進みゆく。たとえそれが哀情を紛らわすためであったとしても、乗り越え、強く逞しく、前を向いて歩こうとするのだ。
(日菜太……!)
「行かないでくれ」と、日菜太の背中に飛びつきそうな衝動に駆られかけた刹那、風変わりな着信音が前方より鳴り響く。おかげで正気を取り戻し、危ないところだったと内心冷や汗を流すのと同事に、果たして涙を見せるのがそこまで悪いことなのかと考え直してしまう。
「――うん。もうすぐ駅んとこ着く。――わかっとるって! んじゃ、切るね」
 通話を終えた日菜太は俺の元に戻ってきて、
「母さん。車で荷物持ってもう駅に来てくれとるって。僕たちも早く行こっか!」
 いつもの顔で、いつもの調子で言うのだった。
(おまえは強いなぁ……)
 アルバムを強く抱き抱えて、俺たちは駅まで歩いた。


 人影が疎な昼下がり。清桜ヶ丘駅構内の改札の前。
 日菜太は登山に持っていく用の大きさほどあるリュックを背負って、お母さんとこちらに歩いてくる。
 おばさんは日菜太より背が少し高く、顔もそっくりのベビーフェイスで年齢を感じさせない。親子そのままといった感じがいつ見ても微笑ましい。
「どうも」
 軽く会釈する。
「氷優くん……」
 また“貰って”しまいそうな気がしたので、赤く腫れぼったい目をなるべく見ずに、日菜太とそっくりの鼻を見て次なる言葉を待った。
「氷優くんは明日……なのよね」
 明日とは、俺が旅立つ日のことだ。
 清桜ヶ丘――この地に生まれ、十八年。住み続けるほどに、共に歩いて写真に撮り納めるほどに恋しく思えて。日菜太に恋情を抱いたのと同じように、いつの間にやら情が移っていた……そんな生まれ故郷を明日には巣立つ。これも卒業の一環だ。
「はい。明後日が入学式ですから」
 辛さを顔に出さずに肯定すると、声のトーンを落とすおばさん。
「そっか……一気に寂しくなっちゃうなぁ……。何回も引越しはしてきたけど、見送る側ってこんな感じなんだなぁ……って、ダメよね。二人は良い顔してるってのに私だけ辛気臭くなってちゃ」
 大きく息を吸い込んでは短かく吐く。
「……また素敵な写真見せに戻ってきてね」
「はい。必ず見せに帰ってきます」
「またご飯食べに来たって、泊まりに来たって良いからね。ううん、そうしてほしいぐらい。私、待ってるから」
「はい……ありがとう、ございます」
 慈愛に満ち溢れた言葉が心に突き刺さり、涙を誘う寸前の時だった。
「母さんそれなんだけどさ、ゴールデンウィークには戻るってさっき約束したんよ。だからそのつもりでね!」
 やりとりをじっと聞いていた日菜太が話を遮った。
 喉のところでつかえていた息がふぅと短く漏れ出る。助けられた。ナイスだ日菜太と心の中で親指を立てる。
「ね、ヒュウ?」と、無邪気な顔を向けてくる日菜太に目配せし、約束の追認。
「……ということなので、またお邪魔させてもらいます」
 おばさんは少し目を丸くした後、表情を綻ばせた。
「二人ともほんと仲良しね。私なんだか元気出てきちゃった。……氷優くん、これからも日菜太のことをどうかよろしくね」
「俺の方こそ。これからもお世話になります」
 頭を下げると、すっかり晴れやかな顔になっていた。
「ええ、ええ、よろしくね……!」
 直後、尻尾がビクッと小さく膨らんだ。おばさんがやにわに俺の手を取ったからだ。日菜太によくやられ慣れているとは言え、突然の握手には驚かずにはいられない。それが伝わったのかして、おもむろに手が離される。
「…………」
 束の間の沈黙が訪れ、なんとも気まずい雰囲気。
 振り払うように口を切ったのはおばさんだった。
「そろそろ……電車、来る時間ね」
「そうですね。それじゃ行きましょうか」
「え!? 母さんも来るん?」
「ううん。私はここまで。……きっと帰り運転できなくなっちゃうから」
 ふふ、と小さく笑ってみせた日菜太のお母さんは続ける。
「笑えてる顔でお見送りしたいから、ね。……氷優くん……、頼んだわね」
 後半の言葉は俺だけに聞こえるようにぽそりと呟かれた。
 頼まれたことはただのお見送りではない。おばさんは私の代わりに笑ってあの子を送り出して、と言っているのだ。
 涙は溢れ出てくるかも知れない。声も震えているかも知れない。それでも前だけは向いて、笑顔は絶やさない。
「分かりました」
 強く頷く。込み上がってくる涙を身体のどこかへ追いやるようにして。絶対に笑って見送ってやるんだとケツイを燃やして。
「行くか、日菜太! ……っと、その前にちゃんと挨拶しとけよ?」
 背中をポンと押し、お母さんの前へやる。
 じっと目を逸らさずに母と言葉を交わす。
「ほんっとすぐ帰るかんね」
「ひと月先ね。しばらく家が静かになっちゃうな」
「電話もするし心配なんていらんよ!」
「それより生活が心配だわ。掃除も洗濯もちゃんとするんよ? お菓子ばっか食べてちゃダメよ? ご飯だって――」
「それ何回も聞いたって! 背も声もこんなだけど、僕もう大人なんやから」
「もう大人、かぁ……。そうよね。今日でもう十八だし、こんなに強くて良い子になってくれたんだものね」
 眼前で繰り広げられる美しい親子愛に胸打たれつつ、俺も似たような道を通るのだろうと、明日の光景がうっすらと脳裏を掠める。
 見送る側と発つ側。明日には両方経験することになる。試練とも言うべきこの二つを乗り越え、俺は日菜太みたいな“強い子”――大人と言うべきか――になることができるのだろうか?
 そんなことを考えていると、
「あ、そだ! 今日の夜ご飯だけど、撮って送るから楽しみにしとってよ!」
 くすぐったそうに頭を掻いている日菜太は話を戻した。変わらない照れ隠しに思わず心が安らぐのは、おばさんも同じのようで、「楽しみにしてる」と、目を細めてゆっくり頷くのだった。
 しかし時はそんな俺たちをお構いなしに、皆の上を無慈悲かつ平等に流れゆく。
 日菜太は改札の上、駅の時計を見上げ、出発の時が迫っていることを知る。
 名残惜しさのあまり表情に翳りを隠しきれず、それでもなおしっかり笑みを湛えて暫し別れの挨拶を伝える。
「ちゃんと勉強して、もっと良い写真撮れるようなってくるから!」
「うん。待ってる」
「……母さんありがとね。そんじゃ僕、行ってくるよ」
「っ……!」
 一人でゲートを抜けようと背を見せた日菜太へ、思いがけず後ろから抱きしめるような動きを見せたおばさんはハッと踏みとどまった。その姿は数十分前の俺のものと全く同じ。見ているのがひどく切なくてこれ以上は心が保ちそうになかった。
 短くお辞儀をし、日菜太の後に続く。
 切符が自動改札機に吸い込まれる間際、
「……日菜太! 行っておいで」
 お母さんは強く声を張り上げて日菜太を見送った。
「行ってきます!」
 後ろへ振り向いた日菜太の顔も見えなかったけれど、きっと二人ともとびきりの笑顔を見せ合っていたのだろう。そう信じることにした。
 見送りのあたたかい視線を背に浴びながら、俺たちは改札をくぐり抜ける。
 決して振り返ろうとせず、背中で精一杯の感謝と「行ってきます」を伝えるようにして。


 ホームで電車を待つ俺たちはかつて漂ったことのない不思議な空気感に包まれ無言だった。息苦しいとも、気まずいとも異なる無言。
 日菜太に何か声をかけようとした。でも、なんて言えばいいのか分からなくて、何かの拍子に泣き崩れるのが怖くて黙していた。
「…………」
 実は一つ、渡し損ねていたものがある。手紙だ。祝福のメッセージや感謝の言葉などを乱暴に書き殴った、手紙と呼べるか分からないもの。それを送り出す最後の時に「これは玉手手紙だから今開けちゃダメだぞ」なんて冗談めかして渡すつもりだった。しかしお互い涙脆くなっている今、果たして渡すべきなのかとタイミングに悩みあぐねているうちにも迫り来る出発時刻。
 一分……二分……。過ぎゆく時間が惜しい。なのに行動へと移せない自分がもどかしく恨めしい。
 そして、出発時刻になる――が、電車はこなかった。
 どうやら数分遅延しているらしく、そのことを知らせるアナウンスが流れる。
 神さまか何かのいたずら。そうとしか思えない。
(今だ。今しかねぇ……)
 最後のチャンスの到来だと、手紙を取り出そうとした時に「よかったぁ」――日菜太が伸びをして沈黙を破った。
「なぁなぁ、ヒュウ」
「なんだ?」
「僕今日は頑張ったと思わん?」
 頑張った――その言葉が耳に入るなり「ああやっぱりな」と思った。
 小さな太陽のようなレッサーパンダは今日一日雨を降らすことなく、周りを照らしあげた。本当によく頑張って耐えたと、そう思う。
「卒業式もちゃんとやったでしょ? 笑って写真も撮ってさ、母さんにも良い顔で『行ってきます』って……言えた」
「……おまえは本当に強いな」
「へへ、ヒュウと一緒だかんね。強いとこ、見せんとなーって。でも――」
 ポツリ。一呼吸ほどの沈黙を挟み、

「もう充電、切れちった。たはは……」

 蚊の鳴くような声でそう付け加えた日菜太は、俯いて肩を震わせていた。
「…………」
 驚いて口をつぐんだのではない。
 来るべくしてその時がやってきてしまった。故に少しだけ安堵した。そんな心理状態。
「だからご褒美にさ、ちょっとだけ……胸、貸してくんない? そんで思いっ切り、ぎゅーって。おねがい」
 耳を平たく寝かせ、涙声で小刻みに震えている姿に「あとちょっとの辛抱だ」「泣くな」と、そんな野暮なことなど言えるはずがなかった。
「電車……来るまでだからな。最後にはちゃんと笑えよ」
「うん。ありがと。約束、する」
「……よく、よく頑張った……っ」
 腕を広げると俺の胸に顔を埋め、堪えていた涙をそっと漏らす。
「おかげで最高の一日になった。俺の方こそ、ありがと……な」
 啜り泣く日菜太は徐々に声を大きくして、慟哭する。
「ふえっ……! ひぐっ、ヒュウううっ……ううううう……っ!!!」
 不器用で、慰めがヘタな俺は今度こそ何も言わずに、ただ日菜太の望んだ通りにぎゅっと抱擁する。
「やだよおっ!!!ちゃんと一緒に卒業してもっ!ずっとずうっと一緒って約束して同好会もう一回始めてもっ!!ぼくやだよぉ!!!また会えるの分かっとってもっ、は、離れ離れは……やだ、いやだよお……っ! わああああああああああああっ!!!」
 時々大雨が降ったっていい。悲しい時には思う存分泣いたっていい。
 最後は笑顔で……また次に会うときも笑顔で、朗らかな声で俺の名前を呼んでくれればそれでいい。
「俺も肩、借りる」
 今日は何があっても泣かねえ。
 日菜太に負けてたまるか。
 見送る側が泣いてちゃ発つ方も行くに行けねえ。
 そんな気概や信念をにわか造りで固めてできた、呪縛とも言うべき涙の防波堤だが今は、もう……。
 呆気なく日菜太の涙に崩壊させられ、抑圧していた感情が大粒の涙となって溢れかえる。
「日菜太っ!!!日菜太ぁああああっ!!!!!」
 恥も外聞もなく、駅のホームにて抱き合って泣き叫ぶカタルシスに時間の許す限り浸った。



 恵風は運んだ。清桜ヶ丘の地に立派な春を。
 春風は乗せる。桜の蕾を綻ばせるための暖かい空気を。
 清風は連れる。東から西へと、轟く音と共に列車を“始発駅”へ……。

 ――俺は笑ってるぞ!! 日菜太も笑え!! いつもみたいに笑え!!――

 日菜太は約束を守った。
 嵐の後は晴天とはよく言うもので、ひとしきり泣いた後、涙いっぱい滲んだ顔の上に満面の笑みを浮かべた。

『ヒュウありがとね。もう涙出んぐらい泣いたなぁ』
 何度か目をパチパチとさせながら、満足気に顔を上げる。
『全くだ。俺この服着て帰るんだぜ?』
『僕だって肩んとこだけ色違いの服で電車乗るけど?』
『ぷはっ! なんだその顔みてぇな変な模様』
『おあいこさまっ! ヘヘ!』
 涙と鼻水にまみれた部分を互いに指差し、無邪気な子どもみたいに笑っているこの時間が一秒でも長く続けばいいのにと思った。けれどもそうはいかない。――電車だ。遅延していた電車がホームへと入ってくる。
『日菜太、これ』
『お手紙?』
『ああ。正確には“玉手手紙”だ。向こう着くまで封開けちゃダメだからな』
 手紙というものは実に照れくさい。目の前で読まれるとなおらさ。目を見て気持ちを直接伝えるよりも恥ずかしいかも知れない。
『開けちゃうと?』
『煙が出て日菜太がアライグマになる』
『ぷくくっ!……あっはは! 年取るんじゃなくて種族変わるん!そりゃ怖いなっ!』
 ヒュウのギャグ最高だとケタケタ笑う姿が見れた。それだけで手紙を書いた価値があったと、昨日の自分を心の中で称賛した。
『そん中にはこれからの同好会でやりたいことと、行ってみたいとこも書いてある。おまえも何か思い付いたらすぐ教えろよ?』
 気持ちの良い返事をした日菜太は『そうだ!』と、頭に電球を光らせ、何やらリュックを漁り出す。
『ヒュウにこれあげる』
 そう言って取り出したのは、レッサーパンダの布製てるてる坊主。
『ただしっ!』
 僕の方も条件付きだと言わんばかりの勢いで、にこやかに言い添える。
『明日は泣かんこと! 次会う時にちゃんと持ってくること!』
『もし泣いたり忘れたりしたら?』
『耳貸して――』
 耳元でこしょこしょと呟かれた言葉に、腹が捩れるほど笑った。


(ギャン泣きしたり大笑いしたりで忙しい日だったな)
 貰ったものを胸に抱え、来た道を戻る俺は回想に耽っていた。
(でも……すごく良い日だった。楽しかったしな)
 それにしても日菜太の“あの言葉”のインパクトが強烈すぎて、今にも思い出し笑いをしそうになるのを堪えていたぐらいだ。
(『僕よりチンチン小っちゃくなるよ』……あいつ、最後にホントすげーこと言ったなぁ)
 だから俺は気が付かなかった。
 開花直前の真っ赤な蕾をつけた枝下の道。その途中、風が教えてくれて立ち止まると、それは見えた。
「お、あれは……!」

 桜の花は、もうじき顔を見せる。
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