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#2 桜彩る温泉街にて
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暁の空がほのかに色づく時間帯の清桜ヶ丘を初めて歩いた。
朝を迎えてなお紺色の空に輝く月光と星影は、しかし、次第に昇りくる陽で徐々に光度を落としつつもある。駅へと歩んでいく俺たちを、見送ってくれるように最期まで優しく照らしてくれて……。
「綺麗だ……これもアルバムに入れたいぐらいにな。……一枚だけ、いいか?」
「うん。じゃあ僕も」
愛する町の、未だ知らぬ姿をフィルムと目の両方に焼き付け……、
「よし、行こっか。日菜太」
東の空が白みゆく町を、再び親友と並び歩いた。
目をこすりながらも始発電車で出発し、長い旅路の末、異郷の地に辿り着いた。
南の地方とはいえ、まだ少し肌寒さを感じる浅春の時節は、確かな春の訪れを告げる風を駅のホームに吹かせて俺たちの被毛をなびかせる。
目、耳、鼻、ヒゲ、手足、尻尾。「んんーっ」と上体を伸ばし、体全体で春の恵みを享受した日菜太は上機嫌に口を開く。
「こっちでも陽射しぽかぽか、さいっこーの活動日和って感じ? さてはてるてる坊主の効果出たな!」
そう言って、リュックにストラップとしてつけている布製のてるてる坊主――レッサーパンダを模したマスコット――を手に取り、喜色を浮かべる。
「予報が的中したんだ。っていうかソレ、消費期限切れなんじゃねーの?」
「むむむ……。でもっ! 僕が心込めて作れば効果あるはずなんだぞー?」
「卒業式の時のはダメダメだったぜ? 俺のもおまえのもどっちもな、ハハハ!」
そう、悲しいことにてるてる坊主は涙に対しては全く効果が出なかったのである……。
あの日から三週間が経過した今でこそ自虐的に笑い飛ばせるが、俺たち二人は最後の最後でクラスのギャン泣き選手権トップ2を飾りに飾ったのだった。
「あ・れ・は・べ・つ・な・のー! 涙はともかぁく!今まで作ってきたんは全部ご利益あったんやからっ」
さては信じてないなと、ぷんすこ頬を膨らませた日菜太が何気なく発した『今まで』という言葉が胸に引っかかる。
今まで……確かにそうだった。
海へ行った時。寺社へ紅葉を撮りに行った時。雪山へ登った時。俺たちが旅をする前には必ず作るんだった。効果の程は定かではないが、全て快晴に恵まれたのは事実だ。
じゃあ“これから”は?
やっぱり今日が最後なのか?
離れ離れになってしまうけど、またこうやって一緒に……。
「……そうだった。おまえのだけは信じてやってもいいかもな。天気に関しては、だけど」
てるてる坊主は気持ちの象徴なのだ。最初こそ「子供っぽい、非科学的だ」と冷笑していたが、日菜太の想いに気づいてからは考えを改めた。じっと何もせずに天候という運命を待ち受けるより、まじないに縋ってでも変えようとする――大切に思ってくれているんだ、俺との時間を。
『ありがとう』口にしかけた言葉を、声という形にすることなく腹の奥へと押しやる。そう、いつも通りだ。特別感を出すな。最後だとか、今日でおしまいだとか、先のことを気にしていては楽しめるものも楽しめない。アルバムに収める写真も濁っちまうってもんだ。
「えへ、そうこなくっちゃ!」
『おまえのてるてる坊主は信じてやってもいい』俺の言葉を耳にするなり、日菜太の顔がパアッと明るくなる。変わらず表情がころころと変わって忙しいやつだが、そんなところが日菜太のチャームポイント。その愛らしい微笑みひとつで、胸のつかえはいとも容易く下りてしまうのだった。
ふと、上空を見上げた。
今日の空は雲ひとつない快晴。一天に気持ちよく広がるスカイブルーを見ていると、てるてる坊主への信仰心が高まってゆくようだ。
ここ数日は雨続きだったり、やや季節外れの雹が降ったりと天候は荒れ気味だったが、うららかな春光は素晴らしい一日の幕開けを予感させてくれる。
「見てみろよ桜も。やっぱり満開は綺麗だな」
改めて周囲を見渡せば、大小さまざまな桜の樹が小さな駅舎を取り囲むように咲き誇っており、安着を祝賀されているように錯覚をしてしまう。俺たちの到着と同時に蕾が一斉に綻んで満開になった、そんな気すらもしてくる。
行き交う列車の風圧で、ひらりふわりと舞い散る花びらが、夢見心地な春を演出してくれて胸の高鳴りをはっきりと感じた。
「良い写真いっぱい撮れそう?」
「ああ。おまえを唸らせるようなヤツをな」
「へへへ、僕も負けてられんなー」
毎年見てるのに目にするたび新たな風情を感じるのは、同好会活動を通じて養われた慧眼と、磨かれたフィルターを通して見る桜に心惹かれていることの証拠。それは隣にいる日菜太も同じのようで、すっかり高揚した素振りを見せるのだった。
桜に想いを馳せる傍ら、バスに乗り込み、目的地たる温泉街へと向かう。
今回の撮影は“和の春”をテーマに設定した。「アルバムのラストは旅立ちの春で締めくくろう」という日菜太の提案で、清桜ヶ丘よりも一歩先に花咲く南の地方、春の温泉街へ行こうという話にまとまったのだ。
『何気に僕たち温泉行ったことなかったんよねー。僕温泉大好きだし、良い機会だっ』
バスに揺られること小一時間。
温泉街へと降り立った俺たちは、硫黄の香りに包まれたノスタルジックな昭和の街並みを目にして感嘆の声を上げた。豪華絢爛に咲き乱れる春の証がこの街の情景をさらに彩り、情感と旅情が泉のように湧き上がってくる。
興奮を抑えきれず、尾がふわりと揺れてしまう。
「旅行ってのはこうでなきゃなー?」
舌をペロッと出して俺の尻尾をちょいと指で突いた日菜太は、ご機嫌に尻尾を揺らして足早に宿の方へと歩いて行く。どうやらお見通しだったらしいけれど、旅に来ればいつものことなので殊更張り合うつもりはない。
待てよと一言、ずんぐり縞模様の尻尾を追いかけ肩を並べる。
続く歓談の中、両脇をレトロな商店と民家に挟まれた石畳の道を進みゆく。石の階段を登ったその先、まさに旅行誌の温泉街特集ページで見かけた通りの、もとい、それ以上の見事な情景がそこにはあった。
勾配のある街の中心を流れる川に、涼しげな音を立てる数段の小滝。大正ロマンな宿が連なるその奥には、一面をピンク色に装いを変えた春の山々を望むことができる。
少し坂を上った先にあるウッドテイストな橋より街を眺むと、上空からは桜の花びらが舞い降りてきて、ボルテージは最高潮へ至った。
「夜にはこのランプに火も灯るのか……」
まるで旧時代の街へとタイムスリップしたかのような感覚に襲われ、単に「すげえ」と拙い感想が漏れ出るのみ。語彙力の無さを痛感した。
観光シーズン真っ盛りなこともあり、街は老若男女多数の観光客でごった返しているものの、情緒たっぷり、秀麗な光景であることには変わりない。
最後の活動という側面をもはや忘れているであろうほどにウズウズした様子の日菜太は気合十分で、耳をピクピク、ヒゲをぴんと張りながら、今にもカメラを構えんと絶えず左右を見回している。それは俺も同じだ。どんな構図で、どこから何を撮ろうかと、楽しい悩みは尽きない。
はやる気持ちを抑え込み、先に宿でチェックインを済まして、カメラ以外の荷物を置いて出る。
壮麗の景色下でコイツを携えると、鼻息を荒くしてしまうのはいつからの癖だろう。条件反射の犬みたいだと思えば、妙におかしくって心のうちで笑ってしまう。
興奮というのはエネルギーを過剰に消費するらしく、二人仲良く腹を「ぐぎゅるる」と鳴らした。
「あはっ、ヒュウもお腹鳴るんね」
「日菜太の方が音デカかったぞ」
撮影ポイントを探しながら腹を満たせるということで、食べ歩きを楽しむことに決めた。
「おまえなぁ……そろそろ加減ってものを覚えてみたらどうだ? 夕飯食えなくなるぞ」
……暴飲暴食。
カメラを首から下げたレッサーパンダはその愛くるしい見た目とは裏腹に、ご当地のお団子や饅頭、肉まんに齧り付き、流行り廃りの狭間にあるタピオカティーを貪り飲むなどして、凄まじい健啖ぶりを見せつける。その上特大チキンまで買ってくるもんだから、「飢えた肉食獣かよ……」と若干引き気味なツッコミを入れたところ、
「まだまだこんなもんじゃないぞ! ヒュウもいっぱい食っときなよー? ここでしか食べれないもんを腹いっぱい、ね!」
せっかくだからと、逆に諭されてしまう。今ここでしかできないことに精一杯興じる――実に日菜太らしい考え方だと思った。
「分かったよ。何にすっかな……お、あれは」
ふと、目についた饅頭屋の前で足を止めた俺は硝子棚の中でカラフルに陳列された動物饅頭に強く心惹かれる。好みの動物や図形を三つ組み合わせて、おでん串みたくできるのが可愛いとかで人気を博しているらしい。
普段ならこんな可憐なものは買わない(買えない)ところだけれど、今日は日菜太の口車に乗せられてやろう。
せっかくだ、買ってやるぞ!――意気揚々とディスプレー前まで来たは良いものの、「どれになさいますか?」と当たり前の事を聞かれただけで狼狽えてしまった俺は、「おすすめで……」と持ち前の小心さを発揮した……。
「やけに可愛らしいのんにしたなー!?」
「勘違いすんなよ。俺はあくまでおすすめを頼んだだけだ」
(あンの狐の店員やりやがった……!)
「僕もそれ買ってくる!」
……なんだって? いくらなんでも食い意地を張りすぎだ。
「というかソレ、二人でおそろしてたらカップルみたいやね」
その場でタッタッと足踏みをしている日菜太に指摘されてドキリと胸が鳴る。
『カップル』……その単語を耳にして頬に赤みが差していく俺の手には、デフォルメされた狼とハートとレッサーパンダのまんじゅう串が。
「まあいいや」と、饅頭屋目掛けて走って行った日菜太を止めるにはもはや手遅れで、手元のそれに視線を落とす他ない。なんだかピンクのハートが憎たらしく俺を嘲笑っているように見えてくる。「あの子のことが好きなんでしょう」そんな幻聴までもが聞こえてきそうだ。
日菜太が好き――否定のしようもないんだけれど、望んでもいなかったハート饅頭風情に言われるのは違う。こいつだけ一撃で喰ってやった。
しかし今一度考えてみれば、俺だけがこれを持っていたらただの日菜太LOVEの重いヤツだが、お揃いにすることでそれだけは免れるではないか。……なんだ、止めることなんてない。
数分後、戻ってきた日菜太の手には狼とレッサーパンダを模した饅頭串があるが……。
「裏切りやがったな」
お揃いにするんじゃなかったのか。なんだ、その真ん中に輝く星型は。
黄色の星形饅頭を見てチクっと胸が痛んだ。
ハートではなくて星。そこに深い意味なんてないはずなのに、いちいち邪推して悲観的になる自分に嫌気がさしてしまう。
そんな俺の心模様も知らずに、早速齧り付いている大喰らいレッサーパンダ。美味い美味いと舌鼓を打って「ごちそうさま!」と手を合わせた後、本日二度目の舌ペロをして弁解の言葉を述べる。
「さすがにハートは恥ずかしいなーって」
「……そうかよ」
日菜太は頭を搔きつつ、複雑な表情を浮かべている俺に視線を移して「それともヒュウはカップルがよかったん?」と、ニヤリ一転。
『バカ、そんなんじゃねえ。カップルなんて……』と、頭ごなしに否定して保身をすべきだろうか? 果たして自分の凍傷だけで済むだろうか? もし万が一、俺のことを好いていてくれたら日菜太を傷つけることに……。
以前なら選んでいたであろう誤りの選択肢だが、もう間違えない。
ここは一つ、鍛えられたポーカーフェイスで逆手を取りにでもいってやろう。尻尾の件のお返しということにでもしておけば問題ない。
「別に嫌じゃねーけどな、日菜太とならカップルでも。聞くそっちこそどうなんだよ」
さて、どうでてくる?
薄氷を踏む思いで、しかし、表情だけは取り澄まし、最後の饅頭――レッサーパンダ饅頭――を口に入れようとしたその刹那、短く響いた無機質音に耳がピクリと跳ねた。
パシャッ――なじみのシャッター音が聞こえ、俺の顔を捉えるレンズが目前に。
「!?」
は……写真? ここで? 俺を? まるで意図がわからん……。
突拍子もない奇行に目を白黒させて驚く間もなく、理由は告げられた。
「へへん、いい顔撮れたぞ! なんかヒュウ珍しい表情しとったからつい撮っちゃったな」
二の句が継げないとはまさにこのこと。日菜太のエキセントリックな言動には慣れたつもりだったが、またもや意表を突かれてしまった。
「たははっ、これは傑作だー! 日菜アルバムの候補に入れよーっと」
モニターを見て子供のはしゃぎ声をあげる日菜太。
珍しい表情、傑作と聞いて、興味とも不安ともつかない感情が突如として膨れ上がってくる。そしてそれはカメラを奪い取る衝動へと変換された。
「おっとあぶない! 今ここで見せるわけにはいかんなぁ、へへへ」
雑踏の中、チビデブは小回りを効かせて逃げゆくのなんので全く追いつきやしない。
「日菜太待てコラ、見せやがれ!」
「聞こえな~い! あとで見せたげるよー!」
鬼ごっこが数分続いたところで、ぜぇはぁと息も絶え絶えになり、体力の無さに我ながら辟易する。
「……降参だ降参! 戻ってこい日菜太!」
白旗をあげると、日菜太はけろっとした顔で戻ってきた。
「さてさて、じゃんじゃか写真撮ってかんとお日さま沈んじゃうよー」
(いったいどの口が言いやがる……)
「僕はさっきので1枚、ヒュウはまだ0枚。悔しかったら何か撮っといでよ。場所の目星は付けたんでしょ?」
……人はそれを『悔しい』とは言わない。訂正させるのも疲れた俺は賢くエネルギーを節約し、本来の目的に注力することにした。
「ようやく活動開始だな」
腰を上げて向かう先は、やはり下段の橋だ。あのポイントなら、滝と橋を主軸としたローアングルで街全体を余すことなく捉えることができるはずだ。難点は大正ロマンの宿と春山景色が少々犠牲になるといったところだが、その二つについては後でフォーカスしたものを別で撮ればいい。
思案に暮れながら、小橋の上に着いた。カメラバッグより相棒を取り出すと、黒の機器は春光を受けてきらりと輝く。心なしか、それは俺の期待に応えんと奮起しているように見えた。
ファインダーを覗き込んでF値と露出補正を調整し、試しに一枚撮ってみる。
「む……悪くはないけど、イマイチ決まらないな。ホワイトバランスを変えてみるか」
少ししゃがみ込んだりしてアングルの微調整をしていると、
「…………なんでおまえの顔が写るんだ」
見慣れた顔がドアップで映し出された。
「えへへ、そのまま撮ってくれてもええんよー?」
全く、人のことを勝手に撮ったかと思えば、今度は映り込んだり……。悪戯盛りなガキっぽいったらありゃしない。
「宿の方撮りに行ったんじゃなかったのか?」
悪びれる様子もない日菜太に訊ねると、普段よりも幼さを滲ませた声で言う。
「ヒュウが何撮るんか思ってなー」
それにね、と付け加え、ニコッと笑みを強めた。
「やっぱり僕ヒュウと一緒がいいや。僕もこの場所考えてたんやし、どうせなら!」
「なんだそれ、今度は甘えん坊かよ」
ぷっと吹き出した俺は、素直に可愛いと思ったのと同時に、その表裏ないイノセントな心に羨望の念を抱いた。
俺もそうなれたらどれだけ楽になれるだろうと。吐露し尽くして楽になってしまいたいと。
「レッサーパンダは気まぐれなのさ、えへ」
日菜太はいつも俺の近くで一緒にいてくれる。その距離が近ければ近いほど、愛おしさが激しく迸ってきて自分が失われそうになっていく。
自分を取り戻すように、吠えた。
「こっち側は俺の狩場だから譲らねぇぞ。向こう側はくれてやる」
「なに狩場って、あはは! ヒュウも偶には狼な気分? ええよ、僕向こうから撮るからそっちは任せた!」
互いに唸らせるやつをね、タッと足音を立てて、日菜太は駆けていった。
「……調子狂うぜ」
朱に染まりかけた顔全体を覆い隠すようにファインダーを覗き込み、神経を研ぎ澄ませる。
ホワイトバランスを変えたためか、写りに関しては申し分ない。春らしさを十分に醸し出せていると思う。あとはアングルだ。
腰を屈めたり、腕を伸縮させ、構図に悩みあぐねた末に、突如として脳にビビビッと電気信号が流れた。
光よし、通行人もなし、そして風に舞う桜の花びら。やっと見つけた――今だ!
シャッターを切り、すぐさま確認する。
「……良い!」
それはまだまだ未熟で、一般的な“型”に嵌らない奇を衒った一枚なのかも知れない。けれども、それでいい。俺はこの刹那の一枚が、大好きだ。
俺にとっての撮影とは、己の感性に導かれるまま、琴線に触れたものを3:2の平面に切りおさめていくことだ。難しいことはまだまだ分からない。いざとなったら後からでも勉強すればいい。
だからこそ俺は“今この瞬間の俺”が「好き」と感じたものを「好きなように」を撮り収めていこうと思う。それは、現時点の俺にしか撮影できないもので、冬月氷優そのもののキロクでもある。そういった写真こそアルバムに残すべきだと考えている。
「撮りたいと思ったもの、好きなように撮れたと思ったらそれがヒュウにとっての正解」
――そう言ってくれたから、
「ヒュウの写真は、ヒュウそのものみたい。そういうとこが僕、好きだなー」
――俺の写真を好きだと認めてくれるから、自信を持って相棒を構え続けることができる。
「ふっふー、こっちも良いのん撮れたぞ! そうだ、ヒュウー!こっちこっちー!」
心の満足が会心の笑みとなって顔に表れていたに違いない。めざとい日菜太は俺の表情に気付いたのだろう、右手と赤茶の縞尻尾を大きく振って俺を呼んでいる。
何だと思って、日菜太の元へ行くと、
「今度はちゃんと撮ってあげる。ほらほら、そこ立って! あっちの山見上げとってね」
どうやら、俺を被写体にするつもりのようだった。
有り体に言えば、俺は写真同好会に属しておきながら、写真に写されるのが苦手なのだ。自己と向き合えない心の弱さと、自己肯定感の無さ。またそんな自分への嫌悪感がそう思わせるのだろうな……。
だが、日菜太にだったら曝け出せる。見せる弱さなどもはやない。寧ろ撮ってもらって、俺を見てほしい。日菜太のメモリーに残れるのならば本懐だと考えてしまうのは、やはり少し重いだろうか。……重いな。
「終わったらおまえも撮ってやるよ。バッチリ二回分、おあいこだぜ」
「りょうかいっ! さ、撮るよーカッコよく撮ってやるよー!」
温泉街に風が吹く。
またしてもタイミングを見計らったように、桃色の花片が春風に運ばれてくる。
澄んだ顔で遠方に聳え立つ春山を見やっていると、独特な掛け声が聞こえた。
「日菜足すヒュウはーっ、はいっ!チーズ撮ろーり!」
幾度となく耳にすれども図らず頬が緩んでしまう。
それは相変わらず無茶苦茶で、命名センスのへったくれもない珍妙な掛け声。
だけれども同時に、この世に一つしかない俺だけのための特別な言葉でもあるのだ。
レンズを向けられることを厭う俺が少しでも自然体でいられるようにと、日菜太の編み出した魔法の掛け声。その言葉で、俺の口元が容易く綻ぶことを日菜太はよく知っている。
俺はその想いに応えたい。とびっきりの自然体で、優しいと評してくれる笑顔をフィルムに焼き付けてやる。
ちっぽけな灰色狼が、恩人に遺せるものなんて、それぐらいしかないのだから。
無機質なのに、やけに温かみのあるシャッター音が弾けた。
「最っ高の一枚! 撮れたよーっ!」
尻尾を揺らしながら、ドタドタと駆け寄ってきて「おあいこする番ね」と言う。
「さ、僕のこと、好きなように撮ってよ。そのままヒュウアルバムに載せちゃって!」
好きなように撮れ――その言葉の意味するところは『ヒュウの撮る写真は何でも好き』。
日菜太の心意気が、沁みるように嬉しくて堪らない。そんなところが好きで好きでどうしようもない。
「とびっきりのヤツを、な」
爪が手のひらに食い込む勢いの握力で拳をギュッと握り締める。
言葉で恋情を伝えられないのなら、
行き場の失った想いをぶつけるなら、
今、まさにここが勝負所なのだと、その意気でレンズを眩しい太陽へと向ける。
凍らせた恋も、返しきれない恩も感謝も、離別の哀しみも、何もかも全てを昇華させて込めよう、この一枚に!
(頼むぜ、相棒……!)
先程よりも強い電気信号が流れて……シャッターを、切った。
モニターが映し出すのは、花片でピンクがかった和の春と青空が融合した背景に輝く想い人。やや顔にフォーカスし、人懐っこい太陽スマイルを湛えて、大きくピースをしているその一枚は、この世の何よりも愛おしく思えた。
(あぁこれは……! 最高に眩しくて可愛いぞ!日菜太!)
最高の一枚を日菜太に贈れる――なんて幸せな気分だろう。
湯気と灯籠の灯りが、星影の瞬きを弱めて、夜の露天風呂に微細な光を降り注がせる。
同好会活動の有終の美を飾るのに、これ以上の恵まれた環境や日が他にあるとは思えない。それほどまでに、今日という一日は美しくて幸せに満ち溢れていて、だけれども、日が暮れてしまうとどこかもの哀しくて……。
(でも、夜桜も綺麗なんだよな。こうして温泉に浮かぶ花びらとか風情たっぷりだ)
「お腹いっぱいで温泉入れるなんて最高! 見晴らしも良くって気持ちええね」
いまだ溌剌と、エネルギーが切れる兆候を見せない日菜太は俺の正面、小岩に腰掛けて下半身を湯に沈め、上半身を外気に晒している。でっぷりと張ったお腹をゆっくりとさすり、胃を落ち着けているようだ。
「にしても!良い湯だなー。ゆーこーせーぶんっての?いっぱい入っとる気がする」
「温泉好きのくせに何も知らなさそうな言い方だな……」
「気持ちええ贅沢しとる時に化学のことなんか考えたくないもん! いいモンはいいの!」
俺たちはあの後、街を散策する傍ら撮影スポットを巡った。足湯にも入ったして、この街の全てを、和の春を満喫した。
街中のランプに火が灯りはじめる宵闇迫る頃合いになり、後ろ髪を引かれる思いを断ち切って宿へと帰ってきた。
成果を披露し合う時間も瞬時にして過ぎ去り、豪華な夕食が部屋へと運び込まれて、それを平らげ……そして今、客室備え付けの湯殿を堪能しているという具合だ。
日菜太の言うとおり、本当に贅沢だと思う。山麓に位置する温泉旅館では、入浴しながらも自然の恵沢を心ゆくまで享受できる――それも源泉掛け流しで、だ。
三月の下旬ともなれば、寒さが幾分かやわらぎつつも、頭部に吹く冷たい夜風と温かい湯との塩梅が絶妙で心地良い。
硫黄の香りが色濃く漂う春の営みの中、想いを寄せる親友との湯浴み。ちょろちょろと快く奏でられる音色を聴いていると、極楽へと足を踏み入れた心地を覚えて表情が緩んでくる。
「高い金出した甲斐があるってもんだ。料理も抜群に美味かった」
「んね! 多かったのに全部食べれちゃった」
それにしても、昼食にあれだけ食っといて晩飯もよくその腹に入ったもんだと驚き呆れてしまう。元々脂肪が堆積しているのに、膨れ上がった胃袋でとんでもない大きさになっている腹部は、針で突けば風船の如く破裂してしまいそうである。
「……すげーお腹だな。それじゃ自分のアソコ見にくいだろ」
下腹部へ視線をやると、悲しきかな、腹部の大きさとは反比例しているソレが揺れるまでもなく小さく佇んでいる。
「ぷっ、ただでさえ小せぇのにな」
個別の露天風呂だから、シモな話題だって口にできるのは思わぬメリットだった。もっとも、当の本人にとっては嬉しくもない指摘らしく、
「んなー!?ほ、ほっとけー! 僕だってチンチンおっきい時は大きいんだぞ……たぶんっ!」
そこまで言って、顔を赤らめ俯いてしまった。
おっきい時とは、つまり……勃起状態の事を言っているのか。
恥ずかしいから口に出せないのか、性知識が乏しすぎるが故なのか定かではないが、どっちにしろ、
(勃つと大きい……? これで? ウソだな……)
そう思ってしまった。
「まぁなんだ……日菜太はこれからって感じもするしな? 大きさが全てでもないし、そもそも今のままの方が可愛いっていうか、さ」
「それ褒めとんの!? 嬉しくない!」
両手を股間に置いて隠したりなんかもしちゃって……なんて分かりやすくて可愛いやつ。
子どもっぽい日菜太も、一応は年頃思春期の男子として気にしているのだと初めて知った。何せ今までこう言ったセンシティブな話題には触れてこなかったので。
「うぅ~、さっき見たけど、ヒュウのおっきくてオトナで……僕んとは大違いで……ええなぁ……」
チラリと羨望の眼差しを俺の股間に向ける。俺は肩までしっかりと湯に浸かっており、この距離では見えやしないはずなのだが、陰部に視線を遣られる面映さと、日菜太の愛おしいいじらしさが下腹部を疼かせ……このままじゃマズいと。
「だー! わ、悪かった。もうこの話はやめにしようホント悪かった……えーっと、そうだ!」
別に俺は人のコンプレックスを好んで刺激し続けるような酷なオオカミではない。それに、見られることでギンギンに屹立するソレを晒すのだけは勘弁だったので、急いではぐらかした。
「……橋で撮ってくれた写真、すっごい良かった」
唐突な賞賛に日菜太の顔が上がった。琥珀色の目を一段と煌めかせて、次なる言葉を待っている。
(これも照れるっての! てか俺、話題の逸らし方ヘタクソすぎだ……)
でもまぁ、これぐらいなら正直に伝えても良いかな。そう判断して本心を吐露する。
「なんつーか、その……おまえに写される俺、すっごい好きだ。自分でも驚くぐらいに良い顔してて、自然に笑ってて……俺、自分のこと嫌いなのに、おまえの写真に写る俺だけは嫌いになれねぇ」
「ヒュウくん」
ハッとする。言ってて「しまった」と。
日菜太があだ名を「くん」付けで呼ぶ時は咎める時。その声は、悲しみを纏った声音だった。
「『自分のこと嫌い』なんて言っちゃダメ。ヒュウは自分で思っとるより良い子なんやから。僕が保証するって、もう言わんって約束したでしょ?」
子どもを優しく宥める幼稚園の先生のように言った。
「それに! ヒュウは僕に写されんでも良い顔しとるよ。僕いっつも見とるからこれも保証してあげる!」
天使の微笑みを湛えて親指を立てるその姿に、
「……!」
ドキっと胸が鳴り、心臓が早鐘を打つ。
今度は胸のあたりが急激に疼き始めて少し息苦しさを覚える。
星形饅頭を見た時に感じたチクチクとは異なる、見えない手で軽く心臓を撫で回されるような感覚……。
「……わりぃ。前に約束したもんな……。もう言わねえよ」
「うん、素直でよろしい! 自信持っとるヒュウ、その方が僕好きだな」
その『好き』に特別な意味はない。
知っているはずなのに、息が苦しいはずなのに、全身が蕩けだすようなこの幸福感……それに包まれゆく心地がして、あぁこの感覚は……。
(くそくそっ、この気持ちだけはダメなんだ……!)
顔を覗かせるのは、凍結させて蓋で覆い隠していたはずの恋心。
「……す……き、……!」
融けて、気持ちが言葉という形になって零れ出てきそうになる。
やめろ、やめろ――!
それだけは何があっても言うな――!
「好きと言うのはなっ、も、もちろん日菜太の風景写真も好きだぞってことだっ。もっとじっくり見たかったな! さっき撮った夕景とか、灯りのついた宿とか、いっぱい撮ってたろ? 風呂上がったらまた見せ合おうぜ? ん、そういえばあの饅頭食べてる時の写真もまだ――」
零れだしてしまいそうな万感の思いを再び凍らせようと足掻けば足掻くほどに、自分でも何を伝えたいのか分からなくなってくる。なんともばつが悪い……。それでも脳内アラートが響き、かろうじて軌道修正を行ってくれたらしい。
矢継ぎ早に言葉を紡ぐことしかできない今の俺は確実に氷の狼失格だ。
(な、な、なんで今日の俺、こんなに……)
ピクピクッと忙しなく跳ね続ける耳を認めた日菜太は、口の端をニイッとつりあげて言う……俺の言葉を遮って。
「今日のヒュウなんかヘン? 首輪しとる犬みたいに従順?素直というか、何だろなー?」
「! ……まぁ、な。卒業してから吹っ切れたのかもな」
「卒業……かぁ。そうだなぁー僕たちもう卒業したんなー。あの時は思いっきり泣いて、素直に全部吐き出して、なんだか気持ちよかったなぁ」
感慨深そうに呟き、足で湯をバシャバシャさせて満点の星空を見上げる日菜太。その表情は大泣きした卒業式の時とは打って変わって、感情が読みにくい。
「……?」
「素直といえば――」
そう言いかけて再び俯きがちになった日菜太は、神妙にかしこまった。
手をギュッと膝の上で握りしめ、太い縞々の尻尾を大きくくねらせている。
「――僕も、素直になって言わんとならんことがあるんやった」
言葉の端々にケツイを滲ませたような、重々しい口調で言った。
瞳が僅かに琥珀色を強めたように見える。しかし、それは怯えともとれるような色でもあって……。
「ね、ヒュウ。ちょっと真面目な話してもいい?」
いつもなら目を合わせてくれるのに、今は視線を交差させまいとあちらこちらに彷徨わせている。耳まで寝かせている始末だ。
「真面目な話? な、何だよ、薮から棒に」
明らかに様子がおかしいと思いつつ、続きを促した俺は妙な胸のざわつきを感じていた。
「さっきの、あの“答え”、返すよ。今からめっちゃ喋るけど、聞いてね」
暫し、回想。
(さっきの……答え? あ…………)
風と声が、一斉に止んだ。
耳に入るのは源泉掛け流しの水音のみ。それすらも次第に遠ざかり、何もかもが聞こえなくなるよう。
静寂が、湯殿を包む。
俺は瞬時に感じ取った。覚悟と不安とが入り混じった色を双眸に宿した日菜太から何が告げられるかを。それを悟るなり、激しさを増していく動悸。強く早い鼓動は頭に大量の血を昇らせる。
あの時鏡越しに見た自分の顔と、今の日菜太の顔に通じるものがあったのだから。
(俺と、カップル……その答え……!)
「あん時の写真ね、別になんともない写真なの。ただヒュウが饅頭食べかけてるだけの、それでも顔に出とったの。ヒュウに謝んなきゃ。僕ずっとずっこいことしてたから……ヒュウの気持ちに向き合えずにカメラで逃げちゃったから……!」
「俺の、気持ち…………」
固唾を飲んだ。ゴクリと喉が鳴ったかと思えば、心臓もバクバクと鼓動をさらに強めて、命の音を体の中心部より激しく響かせる。
黙っているしか、できない。
恐怖のあまり、尻が湯船の底に引っ付いてしまったかのように身動きが取れない。
まさかまさか、全部顔から漏れて気付かれていたとでも言うのか?
「ごめん。僕全部知っとった。ううん、今日のあの時確信に変わった。ヒュウってば全然ポーカーフェイスじゃないんよね……。ごめんねっ、僕、気づかんフリしちゃってた……! でも、でもっ僕ね……!」
「!!! 待て日菜太俺はっ……俺から言っ――!」
「やっぱり、ヒュウは僕のこと……。うぅん、いいや。ちゃんと僕の方から“答え”、出さんとね」
「ッ――!!!」
温泉の熱が、頭を巡る血の熱さが思考能力を奪い尽くし、脳だけでなく全身を緩慢とさせる。日菜太の発する言葉を予見できれども、クラクラした頭は最適解を捻り出すことも、言葉を紡ぐことすらも許さない。
耳先まで真っ赤に紅潮させて、勇気を振り絞って初めて名前を呼んだ茜色のメモリー。あの時以上に今の俺は真っ赤で、熱で耳がへしょげてしまっているのが判る。
そして、俺が切望していた“答え”は日菜太の口から、訥々と、ゆっくりと紡がれた。
「……いい、よ……僕、ヒュウと、カップルで。……ううん。カップルが、いいの……!!!」
心臓が、跳ねる。
血液が、燃える。
視界が、翳む。
全てが、融ける。
破れてしまう一歩寸前の心臓とは、こんなにも外に音が漏れ響くぐらいに活発なものなのだろうか。
意識が遠のいてしまいそうな程に熱い血が頭へと昇って、脳内を駆け巡って、直に頭が割れるのではないか。
身体への物理的な負荷に加えて、カオスに渦巻いた感情の束までもが襲いかかる。
有頂天?――手にすることは叶わないと、俺には許されないと思い込んでいた……それでも諦めきれなかった一縷の望みが今、想い人の口より確かに示されたのだから。
狂恋?――同じ色の感情を向けられていると知って、さらに激しく、未だかつてないほどに潜熱を高める恋の焔、迸る愛情。それらが俺を支配し尽くしている。
自己嫌悪?――本心に背き続けて、自己にも日菜太にも向き合えなかった臆病な自分が赦せない。ポーカーフェイスで上手く逃げられていると思い違いをしていた自分が恥ずかしくて大嫌いだ。
解放感?――凍らせていた想いも全部全部、もう隠すことなんて何もないという清々しさ。バレていた気付かれていた。氷塊が、全て融解した。そう思えば不思議なぐらい気楽で、勇気さえ湧いてくる。
ならば。
俺がやることは一つしかない。
「でもっ!僕分かんないよっ……分っかんない……! この気持ちが何なのか、ヒュウとおんなじ気持ちなのかも全然分っかんないよ……! 僕もヒュウも男同士なのに、親友同士なのにっ、こんなのヘンって分かっとるのに、でも僕、カップルになりたいって思っとるってことは、やっぱり僕、ヒュウのこと――!」
霞んだ視界に、琥珀色を潤ませて戸惑う日菜太の姿が入る。
心に初めて芽吹いたであろう感情に怯え震えて、葛藤していて……。
狂おしいほどに愛おしいと、思った。
寄り添ってその想いに応えたいと、強く思った。
(今度こそ……! もう逃げねぇッ!!)
今にも喪失してしまいそうな、朦朧とする意識を必死に繋ぎ止めて、
「お、俺からっ! 言わせ……ろ!」
これ以上日菜太にその先の言葉を言わせるわけにはいかないから、腹を括って俺から伝えるのだと。
熱く硬いケツイを言の葉にコンバートして。
ずっと胸底で凍らせてひた隠しにしてきた、それでも今もなお激しく燃える氷の想いを解き放って。
氷塊を融かされ、自らも融かし尽くして、昇華させ得た蛮勇を振るって。
俺は今からサイテーな告白をする。
「す……す……好き、だ……!!!大好きだ日菜太ッ!!! 俺はっ、今日ここまで!ずっと……!オマエのことが好きで好きで大好きでっ、ずっとずっと大切に想ってて!――」
ああ、なんてずっこい俺。望まない“答え”を聞くことを拒んで逃避して、いざ望む“答え”を確信するや否や、弾みが付いたように全てを告白しようとする。弱さと卑怯の権化……それ以外の何者でもない。
だから、カミサマはそんな卑怯なオオカミに天罰を下したのだろうな。
バシャンと大きな水音が立ったのが最後だった。
「!? …ュウ!?ど……したの!?し……り!しっか……してッ!!!」
見えない。
屈託なく太陽のように眩しく笑う日菜太の顔が。顔面蒼白で俺を心配してくれているであろうその顔すらも、今はもう目にすることができない。
聞こえない。
いつも朗らかに「ヒュウ」と俺を呼ぶ声が。状況に戦慄して叫びだしているであろうその声すらも、今はもう耳にすることができない。
徐々に白み、遠くなりゆく意識。
日菜太が、遠くに離れていく。
それなのに、微かに感じるのは――。
(あれ、俺は今……? 目も見えず、耳も聞こえない……はず……。頭が痛くて息苦しくて意識もほとんどない……こんなにも満身創痍なのに、何だろう……。なんだかとても温かくて、ウレシイ……? シアワセ……?)
朝を迎えてなお紺色の空に輝く月光と星影は、しかし、次第に昇りくる陽で徐々に光度を落としつつもある。駅へと歩んでいく俺たちを、見送ってくれるように最期まで優しく照らしてくれて……。
「綺麗だ……これもアルバムに入れたいぐらいにな。……一枚だけ、いいか?」
「うん。じゃあ僕も」
愛する町の、未だ知らぬ姿をフィルムと目の両方に焼き付け……、
「よし、行こっか。日菜太」
東の空が白みゆく町を、再び親友と並び歩いた。
目をこすりながらも始発電車で出発し、長い旅路の末、異郷の地に辿り着いた。
南の地方とはいえ、まだ少し肌寒さを感じる浅春の時節は、確かな春の訪れを告げる風を駅のホームに吹かせて俺たちの被毛をなびかせる。
目、耳、鼻、ヒゲ、手足、尻尾。「んんーっ」と上体を伸ばし、体全体で春の恵みを享受した日菜太は上機嫌に口を開く。
「こっちでも陽射しぽかぽか、さいっこーの活動日和って感じ? さてはてるてる坊主の効果出たな!」
そう言って、リュックにストラップとしてつけている布製のてるてる坊主――レッサーパンダを模したマスコット――を手に取り、喜色を浮かべる。
「予報が的中したんだ。っていうかソレ、消費期限切れなんじゃねーの?」
「むむむ……。でもっ! 僕が心込めて作れば効果あるはずなんだぞー?」
「卒業式の時のはダメダメだったぜ? 俺のもおまえのもどっちもな、ハハハ!」
そう、悲しいことにてるてる坊主は涙に対しては全く効果が出なかったのである……。
あの日から三週間が経過した今でこそ自虐的に笑い飛ばせるが、俺たち二人は最後の最後でクラスのギャン泣き選手権トップ2を飾りに飾ったのだった。
「あ・れ・は・べ・つ・な・のー! 涙はともかぁく!今まで作ってきたんは全部ご利益あったんやからっ」
さては信じてないなと、ぷんすこ頬を膨らませた日菜太が何気なく発した『今まで』という言葉が胸に引っかかる。
今まで……確かにそうだった。
海へ行った時。寺社へ紅葉を撮りに行った時。雪山へ登った時。俺たちが旅をする前には必ず作るんだった。効果の程は定かではないが、全て快晴に恵まれたのは事実だ。
じゃあ“これから”は?
やっぱり今日が最後なのか?
離れ離れになってしまうけど、またこうやって一緒に……。
「……そうだった。おまえのだけは信じてやってもいいかもな。天気に関しては、だけど」
てるてる坊主は気持ちの象徴なのだ。最初こそ「子供っぽい、非科学的だ」と冷笑していたが、日菜太の想いに気づいてからは考えを改めた。じっと何もせずに天候という運命を待ち受けるより、まじないに縋ってでも変えようとする――大切に思ってくれているんだ、俺との時間を。
『ありがとう』口にしかけた言葉を、声という形にすることなく腹の奥へと押しやる。そう、いつも通りだ。特別感を出すな。最後だとか、今日でおしまいだとか、先のことを気にしていては楽しめるものも楽しめない。アルバムに収める写真も濁っちまうってもんだ。
「えへ、そうこなくっちゃ!」
『おまえのてるてる坊主は信じてやってもいい』俺の言葉を耳にするなり、日菜太の顔がパアッと明るくなる。変わらず表情がころころと変わって忙しいやつだが、そんなところが日菜太のチャームポイント。その愛らしい微笑みひとつで、胸のつかえはいとも容易く下りてしまうのだった。
ふと、上空を見上げた。
今日の空は雲ひとつない快晴。一天に気持ちよく広がるスカイブルーを見ていると、てるてる坊主への信仰心が高まってゆくようだ。
ここ数日は雨続きだったり、やや季節外れの雹が降ったりと天候は荒れ気味だったが、うららかな春光は素晴らしい一日の幕開けを予感させてくれる。
「見てみろよ桜も。やっぱり満開は綺麗だな」
改めて周囲を見渡せば、大小さまざまな桜の樹が小さな駅舎を取り囲むように咲き誇っており、安着を祝賀されているように錯覚をしてしまう。俺たちの到着と同時に蕾が一斉に綻んで満開になった、そんな気すらもしてくる。
行き交う列車の風圧で、ひらりふわりと舞い散る花びらが、夢見心地な春を演出してくれて胸の高鳴りをはっきりと感じた。
「良い写真いっぱい撮れそう?」
「ああ。おまえを唸らせるようなヤツをな」
「へへへ、僕も負けてられんなー」
毎年見てるのに目にするたび新たな風情を感じるのは、同好会活動を通じて養われた慧眼と、磨かれたフィルターを通して見る桜に心惹かれていることの証拠。それは隣にいる日菜太も同じのようで、すっかり高揚した素振りを見せるのだった。
桜に想いを馳せる傍ら、バスに乗り込み、目的地たる温泉街へと向かう。
今回の撮影は“和の春”をテーマに設定した。「アルバムのラストは旅立ちの春で締めくくろう」という日菜太の提案で、清桜ヶ丘よりも一歩先に花咲く南の地方、春の温泉街へ行こうという話にまとまったのだ。
『何気に僕たち温泉行ったことなかったんよねー。僕温泉大好きだし、良い機会だっ』
バスに揺られること小一時間。
温泉街へと降り立った俺たちは、硫黄の香りに包まれたノスタルジックな昭和の街並みを目にして感嘆の声を上げた。豪華絢爛に咲き乱れる春の証がこの街の情景をさらに彩り、情感と旅情が泉のように湧き上がってくる。
興奮を抑えきれず、尾がふわりと揺れてしまう。
「旅行ってのはこうでなきゃなー?」
舌をペロッと出して俺の尻尾をちょいと指で突いた日菜太は、ご機嫌に尻尾を揺らして足早に宿の方へと歩いて行く。どうやらお見通しだったらしいけれど、旅に来ればいつものことなので殊更張り合うつもりはない。
待てよと一言、ずんぐり縞模様の尻尾を追いかけ肩を並べる。
続く歓談の中、両脇をレトロな商店と民家に挟まれた石畳の道を進みゆく。石の階段を登ったその先、まさに旅行誌の温泉街特集ページで見かけた通りの、もとい、それ以上の見事な情景がそこにはあった。
勾配のある街の中心を流れる川に、涼しげな音を立てる数段の小滝。大正ロマンな宿が連なるその奥には、一面をピンク色に装いを変えた春の山々を望むことができる。
少し坂を上った先にあるウッドテイストな橋より街を眺むと、上空からは桜の花びらが舞い降りてきて、ボルテージは最高潮へ至った。
「夜にはこのランプに火も灯るのか……」
まるで旧時代の街へとタイムスリップしたかのような感覚に襲われ、単に「すげえ」と拙い感想が漏れ出るのみ。語彙力の無さを痛感した。
観光シーズン真っ盛りなこともあり、街は老若男女多数の観光客でごった返しているものの、情緒たっぷり、秀麗な光景であることには変わりない。
最後の活動という側面をもはや忘れているであろうほどにウズウズした様子の日菜太は気合十分で、耳をピクピク、ヒゲをぴんと張りながら、今にもカメラを構えんと絶えず左右を見回している。それは俺も同じだ。どんな構図で、どこから何を撮ろうかと、楽しい悩みは尽きない。
はやる気持ちを抑え込み、先に宿でチェックインを済まして、カメラ以外の荷物を置いて出る。
壮麗の景色下でコイツを携えると、鼻息を荒くしてしまうのはいつからの癖だろう。条件反射の犬みたいだと思えば、妙におかしくって心のうちで笑ってしまう。
興奮というのはエネルギーを過剰に消費するらしく、二人仲良く腹を「ぐぎゅるる」と鳴らした。
「あはっ、ヒュウもお腹鳴るんね」
「日菜太の方が音デカかったぞ」
撮影ポイントを探しながら腹を満たせるということで、食べ歩きを楽しむことに決めた。
「おまえなぁ……そろそろ加減ってものを覚えてみたらどうだ? 夕飯食えなくなるぞ」
……暴飲暴食。
カメラを首から下げたレッサーパンダはその愛くるしい見た目とは裏腹に、ご当地のお団子や饅頭、肉まんに齧り付き、流行り廃りの狭間にあるタピオカティーを貪り飲むなどして、凄まじい健啖ぶりを見せつける。その上特大チキンまで買ってくるもんだから、「飢えた肉食獣かよ……」と若干引き気味なツッコミを入れたところ、
「まだまだこんなもんじゃないぞ! ヒュウもいっぱい食っときなよー? ここでしか食べれないもんを腹いっぱい、ね!」
せっかくだからと、逆に諭されてしまう。今ここでしかできないことに精一杯興じる――実に日菜太らしい考え方だと思った。
「分かったよ。何にすっかな……お、あれは」
ふと、目についた饅頭屋の前で足を止めた俺は硝子棚の中でカラフルに陳列された動物饅頭に強く心惹かれる。好みの動物や図形を三つ組み合わせて、おでん串みたくできるのが可愛いとかで人気を博しているらしい。
普段ならこんな可憐なものは買わない(買えない)ところだけれど、今日は日菜太の口車に乗せられてやろう。
せっかくだ、買ってやるぞ!――意気揚々とディスプレー前まで来たは良いものの、「どれになさいますか?」と当たり前の事を聞かれただけで狼狽えてしまった俺は、「おすすめで……」と持ち前の小心さを発揮した……。
「やけに可愛らしいのんにしたなー!?」
「勘違いすんなよ。俺はあくまでおすすめを頼んだだけだ」
(あンの狐の店員やりやがった……!)
「僕もそれ買ってくる!」
……なんだって? いくらなんでも食い意地を張りすぎだ。
「というかソレ、二人でおそろしてたらカップルみたいやね」
その場でタッタッと足踏みをしている日菜太に指摘されてドキリと胸が鳴る。
『カップル』……その単語を耳にして頬に赤みが差していく俺の手には、デフォルメされた狼とハートとレッサーパンダのまんじゅう串が。
「まあいいや」と、饅頭屋目掛けて走って行った日菜太を止めるにはもはや手遅れで、手元のそれに視線を落とす他ない。なんだかピンクのハートが憎たらしく俺を嘲笑っているように見えてくる。「あの子のことが好きなんでしょう」そんな幻聴までもが聞こえてきそうだ。
日菜太が好き――否定のしようもないんだけれど、望んでもいなかったハート饅頭風情に言われるのは違う。こいつだけ一撃で喰ってやった。
しかし今一度考えてみれば、俺だけがこれを持っていたらただの日菜太LOVEの重いヤツだが、お揃いにすることでそれだけは免れるではないか。……なんだ、止めることなんてない。
数分後、戻ってきた日菜太の手には狼とレッサーパンダを模した饅頭串があるが……。
「裏切りやがったな」
お揃いにするんじゃなかったのか。なんだ、その真ん中に輝く星型は。
黄色の星形饅頭を見てチクっと胸が痛んだ。
ハートではなくて星。そこに深い意味なんてないはずなのに、いちいち邪推して悲観的になる自分に嫌気がさしてしまう。
そんな俺の心模様も知らずに、早速齧り付いている大喰らいレッサーパンダ。美味い美味いと舌鼓を打って「ごちそうさま!」と手を合わせた後、本日二度目の舌ペロをして弁解の言葉を述べる。
「さすがにハートは恥ずかしいなーって」
「……そうかよ」
日菜太は頭を搔きつつ、複雑な表情を浮かべている俺に視線を移して「それともヒュウはカップルがよかったん?」と、ニヤリ一転。
『バカ、そんなんじゃねえ。カップルなんて……』と、頭ごなしに否定して保身をすべきだろうか? 果たして自分の凍傷だけで済むだろうか? もし万が一、俺のことを好いていてくれたら日菜太を傷つけることに……。
以前なら選んでいたであろう誤りの選択肢だが、もう間違えない。
ここは一つ、鍛えられたポーカーフェイスで逆手を取りにでもいってやろう。尻尾の件のお返しということにでもしておけば問題ない。
「別に嫌じゃねーけどな、日菜太とならカップルでも。聞くそっちこそどうなんだよ」
さて、どうでてくる?
薄氷を踏む思いで、しかし、表情だけは取り澄まし、最後の饅頭――レッサーパンダ饅頭――を口に入れようとしたその刹那、短く響いた無機質音に耳がピクリと跳ねた。
パシャッ――なじみのシャッター音が聞こえ、俺の顔を捉えるレンズが目前に。
「!?」
は……写真? ここで? 俺を? まるで意図がわからん……。
突拍子もない奇行に目を白黒させて驚く間もなく、理由は告げられた。
「へへん、いい顔撮れたぞ! なんかヒュウ珍しい表情しとったからつい撮っちゃったな」
二の句が継げないとはまさにこのこと。日菜太のエキセントリックな言動には慣れたつもりだったが、またもや意表を突かれてしまった。
「たははっ、これは傑作だー! 日菜アルバムの候補に入れよーっと」
モニターを見て子供のはしゃぎ声をあげる日菜太。
珍しい表情、傑作と聞いて、興味とも不安ともつかない感情が突如として膨れ上がってくる。そしてそれはカメラを奪い取る衝動へと変換された。
「おっとあぶない! 今ここで見せるわけにはいかんなぁ、へへへ」
雑踏の中、チビデブは小回りを効かせて逃げゆくのなんので全く追いつきやしない。
「日菜太待てコラ、見せやがれ!」
「聞こえな~い! あとで見せたげるよー!」
鬼ごっこが数分続いたところで、ぜぇはぁと息も絶え絶えになり、体力の無さに我ながら辟易する。
「……降参だ降参! 戻ってこい日菜太!」
白旗をあげると、日菜太はけろっとした顔で戻ってきた。
「さてさて、じゃんじゃか写真撮ってかんとお日さま沈んじゃうよー」
(いったいどの口が言いやがる……)
「僕はさっきので1枚、ヒュウはまだ0枚。悔しかったら何か撮っといでよ。場所の目星は付けたんでしょ?」
……人はそれを『悔しい』とは言わない。訂正させるのも疲れた俺は賢くエネルギーを節約し、本来の目的に注力することにした。
「ようやく活動開始だな」
腰を上げて向かう先は、やはり下段の橋だ。あのポイントなら、滝と橋を主軸としたローアングルで街全体を余すことなく捉えることができるはずだ。難点は大正ロマンの宿と春山景色が少々犠牲になるといったところだが、その二つについては後でフォーカスしたものを別で撮ればいい。
思案に暮れながら、小橋の上に着いた。カメラバッグより相棒を取り出すと、黒の機器は春光を受けてきらりと輝く。心なしか、それは俺の期待に応えんと奮起しているように見えた。
ファインダーを覗き込んでF値と露出補正を調整し、試しに一枚撮ってみる。
「む……悪くはないけど、イマイチ決まらないな。ホワイトバランスを変えてみるか」
少ししゃがみ込んだりしてアングルの微調整をしていると、
「…………なんでおまえの顔が写るんだ」
見慣れた顔がドアップで映し出された。
「えへへ、そのまま撮ってくれてもええんよー?」
全く、人のことを勝手に撮ったかと思えば、今度は映り込んだり……。悪戯盛りなガキっぽいったらありゃしない。
「宿の方撮りに行ったんじゃなかったのか?」
悪びれる様子もない日菜太に訊ねると、普段よりも幼さを滲ませた声で言う。
「ヒュウが何撮るんか思ってなー」
それにね、と付け加え、ニコッと笑みを強めた。
「やっぱり僕ヒュウと一緒がいいや。僕もこの場所考えてたんやし、どうせなら!」
「なんだそれ、今度は甘えん坊かよ」
ぷっと吹き出した俺は、素直に可愛いと思ったのと同時に、その表裏ないイノセントな心に羨望の念を抱いた。
俺もそうなれたらどれだけ楽になれるだろうと。吐露し尽くして楽になってしまいたいと。
「レッサーパンダは気まぐれなのさ、えへ」
日菜太はいつも俺の近くで一緒にいてくれる。その距離が近ければ近いほど、愛おしさが激しく迸ってきて自分が失われそうになっていく。
自分を取り戻すように、吠えた。
「こっち側は俺の狩場だから譲らねぇぞ。向こう側はくれてやる」
「なに狩場って、あはは! ヒュウも偶には狼な気分? ええよ、僕向こうから撮るからそっちは任せた!」
互いに唸らせるやつをね、タッと足音を立てて、日菜太は駆けていった。
「……調子狂うぜ」
朱に染まりかけた顔全体を覆い隠すようにファインダーを覗き込み、神経を研ぎ澄ませる。
ホワイトバランスを変えたためか、写りに関しては申し分ない。春らしさを十分に醸し出せていると思う。あとはアングルだ。
腰を屈めたり、腕を伸縮させ、構図に悩みあぐねた末に、突如として脳にビビビッと電気信号が流れた。
光よし、通行人もなし、そして風に舞う桜の花びら。やっと見つけた――今だ!
シャッターを切り、すぐさま確認する。
「……良い!」
それはまだまだ未熟で、一般的な“型”に嵌らない奇を衒った一枚なのかも知れない。けれども、それでいい。俺はこの刹那の一枚が、大好きだ。
俺にとっての撮影とは、己の感性に導かれるまま、琴線に触れたものを3:2の平面に切りおさめていくことだ。難しいことはまだまだ分からない。いざとなったら後からでも勉強すればいい。
だからこそ俺は“今この瞬間の俺”が「好き」と感じたものを「好きなように」を撮り収めていこうと思う。それは、現時点の俺にしか撮影できないもので、冬月氷優そのもののキロクでもある。そういった写真こそアルバムに残すべきだと考えている。
「撮りたいと思ったもの、好きなように撮れたと思ったらそれがヒュウにとっての正解」
――そう言ってくれたから、
「ヒュウの写真は、ヒュウそのものみたい。そういうとこが僕、好きだなー」
――俺の写真を好きだと認めてくれるから、自信を持って相棒を構え続けることができる。
「ふっふー、こっちも良いのん撮れたぞ! そうだ、ヒュウー!こっちこっちー!」
心の満足が会心の笑みとなって顔に表れていたに違いない。めざとい日菜太は俺の表情に気付いたのだろう、右手と赤茶の縞尻尾を大きく振って俺を呼んでいる。
何だと思って、日菜太の元へ行くと、
「今度はちゃんと撮ってあげる。ほらほら、そこ立って! あっちの山見上げとってね」
どうやら、俺を被写体にするつもりのようだった。
有り体に言えば、俺は写真同好会に属しておきながら、写真に写されるのが苦手なのだ。自己と向き合えない心の弱さと、自己肯定感の無さ。またそんな自分への嫌悪感がそう思わせるのだろうな……。
だが、日菜太にだったら曝け出せる。見せる弱さなどもはやない。寧ろ撮ってもらって、俺を見てほしい。日菜太のメモリーに残れるのならば本懐だと考えてしまうのは、やはり少し重いだろうか。……重いな。
「終わったらおまえも撮ってやるよ。バッチリ二回分、おあいこだぜ」
「りょうかいっ! さ、撮るよーカッコよく撮ってやるよー!」
温泉街に風が吹く。
またしてもタイミングを見計らったように、桃色の花片が春風に運ばれてくる。
澄んだ顔で遠方に聳え立つ春山を見やっていると、独特な掛け声が聞こえた。
「日菜足すヒュウはーっ、はいっ!チーズ撮ろーり!」
幾度となく耳にすれども図らず頬が緩んでしまう。
それは相変わらず無茶苦茶で、命名センスのへったくれもない珍妙な掛け声。
だけれども同時に、この世に一つしかない俺だけのための特別な言葉でもあるのだ。
レンズを向けられることを厭う俺が少しでも自然体でいられるようにと、日菜太の編み出した魔法の掛け声。その言葉で、俺の口元が容易く綻ぶことを日菜太はよく知っている。
俺はその想いに応えたい。とびっきりの自然体で、優しいと評してくれる笑顔をフィルムに焼き付けてやる。
ちっぽけな灰色狼が、恩人に遺せるものなんて、それぐらいしかないのだから。
無機質なのに、やけに温かみのあるシャッター音が弾けた。
「最っ高の一枚! 撮れたよーっ!」
尻尾を揺らしながら、ドタドタと駆け寄ってきて「おあいこする番ね」と言う。
「さ、僕のこと、好きなように撮ってよ。そのままヒュウアルバムに載せちゃって!」
好きなように撮れ――その言葉の意味するところは『ヒュウの撮る写真は何でも好き』。
日菜太の心意気が、沁みるように嬉しくて堪らない。そんなところが好きで好きでどうしようもない。
「とびっきりのヤツを、な」
爪が手のひらに食い込む勢いの握力で拳をギュッと握り締める。
言葉で恋情を伝えられないのなら、
行き場の失った想いをぶつけるなら、
今、まさにここが勝負所なのだと、その意気でレンズを眩しい太陽へと向ける。
凍らせた恋も、返しきれない恩も感謝も、離別の哀しみも、何もかも全てを昇華させて込めよう、この一枚に!
(頼むぜ、相棒……!)
先程よりも強い電気信号が流れて……シャッターを、切った。
モニターが映し出すのは、花片でピンクがかった和の春と青空が融合した背景に輝く想い人。やや顔にフォーカスし、人懐っこい太陽スマイルを湛えて、大きくピースをしているその一枚は、この世の何よりも愛おしく思えた。
(あぁこれは……! 最高に眩しくて可愛いぞ!日菜太!)
最高の一枚を日菜太に贈れる――なんて幸せな気分だろう。
湯気と灯籠の灯りが、星影の瞬きを弱めて、夜の露天風呂に微細な光を降り注がせる。
同好会活動の有終の美を飾るのに、これ以上の恵まれた環境や日が他にあるとは思えない。それほどまでに、今日という一日は美しくて幸せに満ち溢れていて、だけれども、日が暮れてしまうとどこかもの哀しくて……。
(でも、夜桜も綺麗なんだよな。こうして温泉に浮かぶ花びらとか風情たっぷりだ)
「お腹いっぱいで温泉入れるなんて最高! 見晴らしも良くって気持ちええね」
いまだ溌剌と、エネルギーが切れる兆候を見せない日菜太は俺の正面、小岩に腰掛けて下半身を湯に沈め、上半身を外気に晒している。でっぷりと張ったお腹をゆっくりとさすり、胃を落ち着けているようだ。
「にしても!良い湯だなー。ゆーこーせーぶんっての?いっぱい入っとる気がする」
「温泉好きのくせに何も知らなさそうな言い方だな……」
「気持ちええ贅沢しとる時に化学のことなんか考えたくないもん! いいモンはいいの!」
俺たちはあの後、街を散策する傍ら撮影スポットを巡った。足湯にも入ったして、この街の全てを、和の春を満喫した。
街中のランプに火が灯りはじめる宵闇迫る頃合いになり、後ろ髪を引かれる思いを断ち切って宿へと帰ってきた。
成果を披露し合う時間も瞬時にして過ぎ去り、豪華な夕食が部屋へと運び込まれて、それを平らげ……そして今、客室備え付けの湯殿を堪能しているという具合だ。
日菜太の言うとおり、本当に贅沢だと思う。山麓に位置する温泉旅館では、入浴しながらも自然の恵沢を心ゆくまで享受できる――それも源泉掛け流しで、だ。
三月の下旬ともなれば、寒さが幾分かやわらぎつつも、頭部に吹く冷たい夜風と温かい湯との塩梅が絶妙で心地良い。
硫黄の香りが色濃く漂う春の営みの中、想いを寄せる親友との湯浴み。ちょろちょろと快く奏でられる音色を聴いていると、極楽へと足を踏み入れた心地を覚えて表情が緩んでくる。
「高い金出した甲斐があるってもんだ。料理も抜群に美味かった」
「んね! 多かったのに全部食べれちゃった」
それにしても、昼食にあれだけ食っといて晩飯もよくその腹に入ったもんだと驚き呆れてしまう。元々脂肪が堆積しているのに、膨れ上がった胃袋でとんでもない大きさになっている腹部は、針で突けば風船の如く破裂してしまいそうである。
「……すげーお腹だな。それじゃ自分のアソコ見にくいだろ」
下腹部へ視線をやると、悲しきかな、腹部の大きさとは反比例しているソレが揺れるまでもなく小さく佇んでいる。
「ぷっ、ただでさえ小せぇのにな」
個別の露天風呂だから、シモな話題だって口にできるのは思わぬメリットだった。もっとも、当の本人にとっては嬉しくもない指摘らしく、
「んなー!?ほ、ほっとけー! 僕だってチンチンおっきい時は大きいんだぞ……たぶんっ!」
そこまで言って、顔を赤らめ俯いてしまった。
おっきい時とは、つまり……勃起状態の事を言っているのか。
恥ずかしいから口に出せないのか、性知識が乏しすぎるが故なのか定かではないが、どっちにしろ、
(勃つと大きい……? これで? ウソだな……)
そう思ってしまった。
「まぁなんだ……日菜太はこれからって感じもするしな? 大きさが全てでもないし、そもそも今のままの方が可愛いっていうか、さ」
「それ褒めとんの!? 嬉しくない!」
両手を股間に置いて隠したりなんかもしちゃって……なんて分かりやすくて可愛いやつ。
子どもっぽい日菜太も、一応は年頃思春期の男子として気にしているのだと初めて知った。何せ今までこう言ったセンシティブな話題には触れてこなかったので。
「うぅ~、さっき見たけど、ヒュウのおっきくてオトナで……僕んとは大違いで……ええなぁ……」
チラリと羨望の眼差しを俺の股間に向ける。俺は肩までしっかりと湯に浸かっており、この距離では見えやしないはずなのだが、陰部に視線を遣られる面映さと、日菜太の愛おしいいじらしさが下腹部を疼かせ……このままじゃマズいと。
「だー! わ、悪かった。もうこの話はやめにしようホント悪かった……えーっと、そうだ!」
別に俺は人のコンプレックスを好んで刺激し続けるような酷なオオカミではない。それに、見られることでギンギンに屹立するソレを晒すのだけは勘弁だったので、急いではぐらかした。
「……橋で撮ってくれた写真、すっごい良かった」
唐突な賞賛に日菜太の顔が上がった。琥珀色の目を一段と煌めかせて、次なる言葉を待っている。
(これも照れるっての! てか俺、話題の逸らし方ヘタクソすぎだ……)
でもまぁ、これぐらいなら正直に伝えても良いかな。そう判断して本心を吐露する。
「なんつーか、その……おまえに写される俺、すっごい好きだ。自分でも驚くぐらいに良い顔してて、自然に笑ってて……俺、自分のこと嫌いなのに、おまえの写真に写る俺だけは嫌いになれねぇ」
「ヒュウくん」
ハッとする。言ってて「しまった」と。
日菜太があだ名を「くん」付けで呼ぶ時は咎める時。その声は、悲しみを纏った声音だった。
「『自分のこと嫌い』なんて言っちゃダメ。ヒュウは自分で思っとるより良い子なんやから。僕が保証するって、もう言わんって約束したでしょ?」
子どもを優しく宥める幼稚園の先生のように言った。
「それに! ヒュウは僕に写されんでも良い顔しとるよ。僕いっつも見とるからこれも保証してあげる!」
天使の微笑みを湛えて親指を立てるその姿に、
「……!」
ドキっと胸が鳴り、心臓が早鐘を打つ。
今度は胸のあたりが急激に疼き始めて少し息苦しさを覚える。
星形饅頭を見た時に感じたチクチクとは異なる、見えない手で軽く心臓を撫で回されるような感覚……。
「……わりぃ。前に約束したもんな……。もう言わねえよ」
「うん、素直でよろしい! 自信持っとるヒュウ、その方が僕好きだな」
その『好き』に特別な意味はない。
知っているはずなのに、息が苦しいはずなのに、全身が蕩けだすようなこの幸福感……それに包まれゆく心地がして、あぁこの感覚は……。
(くそくそっ、この気持ちだけはダメなんだ……!)
顔を覗かせるのは、凍結させて蓋で覆い隠していたはずの恋心。
「……す……き、……!」
融けて、気持ちが言葉という形になって零れ出てきそうになる。
やめろ、やめろ――!
それだけは何があっても言うな――!
「好きと言うのはなっ、も、もちろん日菜太の風景写真も好きだぞってことだっ。もっとじっくり見たかったな! さっき撮った夕景とか、灯りのついた宿とか、いっぱい撮ってたろ? 風呂上がったらまた見せ合おうぜ? ん、そういえばあの饅頭食べてる時の写真もまだ――」
零れだしてしまいそうな万感の思いを再び凍らせようと足掻けば足掻くほどに、自分でも何を伝えたいのか分からなくなってくる。なんともばつが悪い……。それでも脳内アラートが響き、かろうじて軌道修正を行ってくれたらしい。
矢継ぎ早に言葉を紡ぐことしかできない今の俺は確実に氷の狼失格だ。
(な、な、なんで今日の俺、こんなに……)
ピクピクッと忙しなく跳ね続ける耳を認めた日菜太は、口の端をニイッとつりあげて言う……俺の言葉を遮って。
「今日のヒュウなんかヘン? 首輪しとる犬みたいに従順?素直というか、何だろなー?」
「! ……まぁ、な。卒業してから吹っ切れたのかもな」
「卒業……かぁ。そうだなぁー僕たちもう卒業したんなー。あの時は思いっきり泣いて、素直に全部吐き出して、なんだか気持ちよかったなぁ」
感慨深そうに呟き、足で湯をバシャバシャさせて満点の星空を見上げる日菜太。その表情は大泣きした卒業式の時とは打って変わって、感情が読みにくい。
「……?」
「素直といえば――」
そう言いかけて再び俯きがちになった日菜太は、神妙にかしこまった。
手をギュッと膝の上で握りしめ、太い縞々の尻尾を大きくくねらせている。
「――僕も、素直になって言わんとならんことがあるんやった」
言葉の端々にケツイを滲ませたような、重々しい口調で言った。
瞳が僅かに琥珀色を強めたように見える。しかし、それは怯えともとれるような色でもあって……。
「ね、ヒュウ。ちょっと真面目な話してもいい?」
いつもなら目を合わせてくれるのに、今は視線を交差させまいとあちらこちらに彷徨わせている。耳まで寝かせている始末だ。
「真面目な話? な、何だよ、薮から棒に」
明らかに様子がおかしいと思いつつ、続きを促した俺は妙な胸のざわつきを感じていた。
「さっきの、あの“答え”、返すよ。今からめっちゃ喋るけど、聞いてね」
暫し、回想。
(さっきの……答え? あ…………)
風と声が、一斉に止んだ。
耳に入るのは源泉掛け流しの水音のみ。それすらも次第に遠ざかり、何もかもが聞こえなくなるよう。
静寂が、湯殿を包む。
俺は瞬時に感じ取った。覚悟と不安とが入り混じった色を双眸に宿した日菜太から何が告げられるかを。それを悟るなり、激しさを増していく動悸。強く早い鼓動は頭に大量の血を昇らせる。
あの時鏡越しに見た自分の顔と、今の日菜太の顔に通じるものがあったのだから。
(俺と、カップル……その答え……!)
「あん時の写真ね、別になんともない写真なの。ただヒュウが饅頭食べかけてるだけの、それでも顔に出とったの。ヒュウに謝んなきゃ。僕ずっとずっこいことしてたから……ヒュウの気持ちに向き合えずにカメラで逃げちゃったから……!」
「俺の、気持ち…………」
固唾を飲んだ。ゴクリと喉が鳴ったかと思えば、心臓もバクバクと鼓動をさらに強めて、命の音を体の中心部より激しく響かせる。
黙っているしか、できない。
恐怖のあまり、尻が湯船の底に引っ付いてしまったかのように身動きが取れない。
まさかまさか、全部顔から漏れて気付かれていたとでも言うのか?
「ごめん。僕全部知っとった。ううん、今日のあの時確信に変わった。ヒュウってば全然ポーカーフェイスじゃないんよね……。ごめんねっ、僕、気づかんフリしちゃってた……! でも、でもっ僕ね……!」
「!!! 待て日菜太俺はっ……俺から言っ――!」
「やっぱり、ヒュウは僕のこと……。うぅん、いいや。ちゃんと僕の方から“答え”、出さんとね」
「ッ――!!!」
温泉の熱が、頭を巡る血の熱さが思考能力を奪い尽くし、脳だけでなく全身を緩慢とさせる。日菜太の発する言葉を予見できれども、クラクラした頭は最適解を捻り出すことも、言葉を紡ぐことすらも許さない。
耳先まで真っ赤に紅潮させて、勇気を振り絞って初めて名前を呼んだ茜色のメモリー。あの時以上に今の俺は真っ赤で、熱で耳がへしょげてしまっているのが判る。
そして、俺が切望していた“答え”は日菜太の口から、訥々と、ゆっくりと紡がれた。
「……いい、よ……僕、ヒュウと、カップルで。……ううん。カップルが、いいの……!!!」
心臓が、跳ねる。
血液が、燃える。
視界が、翳む。
全てが、融ける。
破れてしまう一歩寸前の心臓とは、こんなにも外に音が漏れ響くぐらいに活発なものなのだろうか。
意識が遠のいてしまいそうな程に熱い血が頭へと昇って、脳内を駆け巡って、直に頭が割れるのではないか。
身体への物理的な負荷に加えて、カオスに渦巻いた感情の束までもが襲いかかる。
有頂天?――手にすることは叶わないと、俺には許されないと思い込んでいた……それでも諦めきれなかった一縷の望みが今、想い人の口より確かに示されたのだから。
狂恋?――同じ色の感情を向けられていると知って、さらに激しく、未だかつてないほどに潜熱を高める恋の焔、迸る愛情。それらが俺を支配し尽くしている。
自己嫌悪?――本心に背き続けて、自己にも日菜太にも向き合えなかった臆病な自分が赦せない。ポーカーフェイスで上手く逃げられていると思い違いをしていた自分が恥ずかしくて大嫌いだ。
解放感?――凍らせていた想いも全部全部、もう隠すことなんて何もないという清々しさ。バレていた気付かれていた。氷塊が、全て融解した。そう思えば不思議なぐらい気楽で、勇気さえ湧いてくる。
ならば。
俺がやることは一つしかない。
「でもっ!僕分かんないよっ……分っかんない……! この気持ちが何なのか、ヒュウとおんなじ気持ちなのかも全然分っかんないよ……! 僕もヒュウも男同士なのに、親友同士なのにっ、こんなのヘンって分かっとるのに、でも僕、カップルになりたいって思っとるってことは、やっぱり僕、ヒュウのこと――!」
霞んだ視界に、琥珀色を潤ませて戸惑う日菜太の姿が入る。
心に初めて芽吹いたであろう感情に怯え震えて、葛藤していて……。
狂おしいほどに愛おしいと、思った。
寄り添ってその想いに応えたいと、強く思った。
(今度こそ……! もう逃げねぇッ!!)
今にも喪失してしまいそうな、朦朧とする意識を必死に繋ぎ止めて、
「お、俺からっ! 言わせ……ろ!」
これ以上日菜太にその先の言葉を言わせるわけにはいかないから、腹を括って俺から伝えるのだと。
熱く硬いケツイを言の葉にコンバートして。
ずっと胸底で凍らせてひた隠しにしてきた、それでも今もなお激しく燃える氷の想いを解き放って。
氷塊を融かされ、自らも融かし尽くして、昇華させ得た蛮勇を振るって。
俺は今からサイテーな告白をする。
「す……す……好き、だ……!!!大好きだ日菜太ッ!!! 俺はっ、今日ここまで!ずっと……!オマエのことが好きで好きで大好きでっ、ずっとずっと大切に想ってて!――」
ああ、なんてずっこい俺。望まない“答え”を聞くことを拒んで逃避して、いざ望む“答え”を確信するや否や、弾みが付いたように全てを告白しようとする。弱さと卑怯の権化……それ以外の何者でもない。
だから、カミサマはそんな卑怯なオオカミに天罰を下したのだろうな。
バシャンと大きな水音が立ったのが最後だった。
「!? …ュウ!?ど……したの!?し……り!しっか……してッ!!!」
見えない。
屈託なく太陽のように眩しく笑う日菜太の顔が。顔面蒼白で俺を心配してくれているであろうその顔すらも、今はもう目にすることができない。
聞こえない。
いつも朗らかに「ヒュウ」と俺を呼ぶ声が。状況に戦慄して叫びだしているであろうその声すらも、今はもう耳にすることができない。
徐々に白み、遠くなりゆく意識。
日菜太が、遠くに離れていく。
それなのに、微かに感じるのは――。
(あれ、俺は今……? 目も見えず、耳も聞こえない……はず……。頭が痛くて息苦しくて意識もほとんどない……こんなにも満身創痍なのに、何だろう……。なんだかとても温かくて、ウレシイ……? シアワセ……?)
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