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龍王と冒険者ギルド
63話目
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かつてアナシスタイルの東方は豊かな大地と豊富な雨量、水捌けの良い土壌の三拍子が揃っており、大陸作物生産の6割を支えていた。
しかしながら今現在は残酷なほど荒涼たる大地へと変貌しており、かつての面影は見る影もない。アナシスタイル東方は数十年に及ぶ血で血を洗う紛争地域へと姿を変えて久しいからだ
その原因を作ったのは、たった一体の最上位魔獣によるものだった
魔獣の名は個体名ケイオス・ブラネ・リュッネッダー(少なくとも300年前は唯のスライム)星を撃ち落とす者という二つ名で畏れられている。
最上位魔獣に対しての情報は少ないが、とある渡航者の遺された手記によれば、ケイオスの外観は星と同じ形をしているとされ、つまりは巨大な球体上の形をしている。海の様に青く透き通っており、体の内側に見たこともないほど巨大な正八面体の魔石が鎮座しているのが伺える。また本体の周りを無数の衛星が飛び回り、普段は海面にて浮遊移動を緩慢に行っているとも記されている。
僅かながら存在のみが知られているケイオスは聖皇暦1453年の深夜未明コーニューの岬に突如として姿を現した
ケイオスの攻撃方法は内蔵している魔石から得られる莫大な魔力を束ねて撃ちだす砲撃だ。しかしその威力は計り知れず、攻撃力は最上位魔獣の中でも屈指、空に浮かぶ星すら撃ち落としてしまうと云われている。
だが今回はそうではなかった。魔力を極限まで抑えて、無数の衛星を介しての正確無比な狙撃で静かに迅速に沿岸部を制圧していったのだ。
魔導教会トラオムがその事態を把握した時には既に東部沿岸一帯から命と呼べる存在は姿を消していた。
たった一体で未曾有の被害をもたらして尚も大陸内部にまで侵攻を続けるケイオスの暴威を止めるために立ち上がったのは、東方の盟主ネーテルガル王国であった。ネーテルガル王国を中心に対ケイオス東部戦線は構築され、ネーテルガル王国騎士団長を筆頭に、当時のSランク冒険者2名。聖国から派兵された剣聖。魔導教会からも数名の上級魔導師を招集し、周辺国家の兵力も全て合わせたら30万は下らないだろう
しかし最上位魔獣の強さは、この世界で最強の存在である始祖に次ぐ。それがどの様な意味を持つのか、思い知らされる事となる
戦闘を開始して半日の時点で、戦線に参加した9割以上が戦死。東部戦線はあっさりと崩壊した。
最終的には、通りすがった当時の皇国の第七守護者によりケイオスは討滅されたのだが、最上位魔獣の最も恐ろしい理由は、その高い戦闘能力ではなく、存在の復活、また身体の核を司る魔石を破壊され形状崩壊を起こす際に、瘴没を引き起こす事だ
瘴没とは、その地点を中心に半径数十キロを高濃度の瘴気により汚染する現象だ。これによりケイオスが倒されるまでに死んだ数とは比較にならないほどの、生命が魔獣と化し大地に溢れる事となった。
また汚染された大地の中にはネーテルガルの首都タングステンも含まれており、これによりネーテルガル王国は事実上消滅。東方の半分の大地と4割近くの人命が失われた結果となった
最終的には、瘴気に汚染されていない大地を残された人間たちによる奪い合う内戦が現在まで続く形となっているのだ……
†††
我はアーカーシャ。やんごとなき理由により、大金が必要となった哀れな龍だ。
我が生きてかれこれ17年近いのだが、気付いたことがある。世の中金!金が全てなのだ!
最低な考えかもしれないが、事実そうなのだ。金で幸せは買えないという言葉がある。確かにそうかもしれない
だが諸君らは思い違いをしている。金とは幸福を買うための代物ではない。悲しみを減らすためのものなのだ。
だってそうだろう。金があれば、買えるべき物を買えるし、必要なサービスだって受けれる。余計な節制も我慢も不要なのだ。金はあればあるだけ困らないが、無ければ困るだけなのだ
そんな金を得る為には仕事をする必要がある。故に仕事をするという発想に至るのは、至極当然の帰結だろう。今回そんな金を得るためにキプロウなる小さな町を訪れていた
「龍の背中に初めて乗ったぜ、中々快適だな」
「アーカーシャのお陰で早くに着きましたね」
「先輩見てください。祭りの準備をしてる感じしますよ!」
「忙しそうですね。冬越の感謝祭でも開くのでしょう。知ってますか? あれって元々はティムール大陸の北方地域から伝来してきたんですよ」
「へぇ、物知りだな」
姫は自身の隣に立つ大男トーチカさんに怪訝そうな顔を向ける
「……所で、なぜ貴方も一緒にいるのですか?」
「おいおい 連れないこというなよ……変な下心はないからな?一応言っておくが。
エレインさんに言われたんだよ。今回だけ先輩としてついて行くようにってな……全く、
……まあ心配する気持ちも分かるけどよ。慣れてない初めての依頼だと結構依頼者とトラブルになるケースもあるからな」
姫と花ちゃんは強いかもしれないが冒険者ド新人だし、慣れた人がいるってのはそれだけで心強い
ただ心配なことが一つある。依頼の報酬って俺含めて4人で4等分するのだろうか?簡単な依頼と言っていたので、報酬もそう多くはないだろう。ぐぬぬ
「そ そこのきれいな おねーさん!お おはなを買っていきませんか! 」
振り返ると、辛うじて服としての機能を果たしたボロボロの布切れを纏っている子供が数輪の白い花を手に持って、我らに声をかけてきた様子だった。奥の壁際にはコソコソとさらに幼い子供たちが見える事から、この7,8歳程度の子がもしかして面倒を見ているのだろうか
「このおはなは! かれない雪のお花で!ずっとキレイにさくことができます! ……えとえと おねーさんみたいなキレイな人にふさわしーおはな……です!」
子供ながらに生きるのに必死なのだろう。緊張しながらも、暗記した言葉を大きな声で伝える。その様はなんていうか痛々しかった。
姫が前に出て、子供の目線に合わせて屈む
「素敵なお花さんね お一つ幾らなのかしら?」
「え、えとえと! ど、銅貨いちまいになります!」
「あら お得ね! じゃあ4輪全て頂こうかしら。幾らになるのかな?」
「ま、まってください!おはなよっつだから……えとえと」
子供は指を折りながら、必死に計算をしている。
我の前世の国では一定の年齢までの教育は義務であった。だからといって自分が恵まれているとは思わなかったが、そうか、あれは異なる国や地域によっては、特別で恵まれた境遇と、いうことになるのか……考えた事なかったな
時間をかけて子供はおずおずと不安そうに答えを口にする
「おはなはよ、よっつだから、銅貨もよっつ……?になります」
「……ごめんなさい。待ち合わせが銀貨しかないの。銀貨4枚でいいかしら?」
「あ……え、お、おつり?な、なくて、あ……!」
途端に顔を青ざめさせる子供。銀貨を見たことがないのか、差し出された銀貨を前にたじろぎ手を引っ込めようとする子供の手をすかさず取り、姫は銀貨を握らせる
「お釣りは要らないわ」
「あ、ありがとーございます!きれーなおねーさん!」
「頑張ってね」
花の咲いた笑顔に姫はいつもと違う屈託のない笑みを浮かべる。一連のやりとりを見て、我としてはとても良いもの見れたと思うのだが、花ちゃんとトーチカさんの反応は余りよろしくなかった
「あんたお人好しだな。子供の物乞いなんてここらじゃ珍しくもない。一々構ってらんねーぞ」
「自分としても雪先輩の事を悪く言いたくはねえです。でも、一生助けるつもりがないのなら、あんな事すべきじゃないとは思います」
飢えた人がいるのなら、魚を与えるのではなく、釣り方を教えてあげるべきという格言がある。この考えはもしかしたら正しいのかもしれない
姫も少しだけバツが悪そうに苦笑いを浮かべる
「そうね。私の善意は一時しのぎのものかもしれない。でも、だからといって、子供を突き放すだけっていうのは、少し、ね……」
暫く歩くと、同じようなやり取りを何度かすることになった。言わんこっちゃないと頭を抱える2人の心の声が聞こえてくるようだ。
それなりに装いが比較的立派な男性に声をかけられる
「よくぞキプロウにおいでくださいました。ギルドの皆様。私が町長のドムックです。
立ち話もなんですし、ささ、家の中へどうぞ」
そう言われ、ドムック町長の家の中へと通される
しかしながら今現在は残酷なほど荒涼たる大地へと変貌しており、かつての面影は見る影もない。アナシスタイル東方は数十年に及ぶ血で血を洗う紛争地域へと姿を変えて久しいからだ
その原因を作ったのは、たった一体の最上位魔獣によるものだった
魔獣の名は個体名ケイオス・ブラネ・リュッネッダー(少なくとも300年前は唯のスライム)星を撃ち落とす者という二つ名で畏れられている。
最上位魔獣に対しての情報は少ないが、とある渡航者の遺された手記によれば、ケイオスの外観は星と同じ形をしているとされ、つまりは巨大な球体上の形をしている。海の様に青く透き通っており、体の内側に見たこともないほど巨大な正八面体の魔石が鎮座しているのが伺える。また本体の周りを無数の衛星が飛び回り、普段は海面にて浮遊移動を緩慢に行っているとも記されている。
僅かながら存在のみが知られているケイオスは聖皇暦1453年の深夜未明コーニューの岬に突如として姿を現した
ケイオスの攻撃方法は内蔵している魔石から得られる莫大な魔力を束ねて撃ちだす砲撃だ。しかしその威力は計り知れず、攻撃力は最上位魔獣の中でも屈指、空に浮かぶ星すら撃ち落としてしまうと云われている。
だが今回はそうではなかった。魔力を極限まで抑えて、無数の衛星を介しての正確無比な狙撃で静かに迅速に沿岸部を制圧していったのだ。
魔導教会トラオムがその事態を把握した時には既に東部沿岸一帯から命と呼べる存在は姿を消していた。
たった一体で未曾有の被害をもたらして尚も大陸内部にまで侵攻を続けるケイオスの暴威を止めるために立ち上がったのは、東方の盟主ネーテルガル王国であった。ネーテルガル王国を中心に対ケイオス東部戦線は構築され、ネーテルガル王国騎士団長を筆頭に、当時のSランク冒険者2名。聖国から派兵された剣聖。魔導教会からも数名の上級魔導師を招集し、周辺国家の兵力も全て合わせたら30万は下らないだろう
しかし最上位魔獣の強さは、この世界で最強の存在である始祖に次ぐ。それがどの様な意味を持つのか、思い知らされる事となる
戦闘を開始して半日の時点で、戦線に参加した9割以上が戦死。東部戦線はあっさりと崩壊した。
最終的には、通りすがった当時の皇国の第七守護者によりケイオスは討滅されたのだが、最上位魔獣の最も恐ろしい理由は、その高い戦闘能力ではなく、存在の復活、また身体の核を司る魔石を破壊され形状崩壊を起こす際に、瘴没を引き起こす事だ
瘴没とは、その地点を中心に半径数十キロを高濃度の瘴気により汚染する現象だ。これによりケイオスが倒されるまでに死んだ数とは比較にならないほどの、生命が魔獣と化し大地に溢れる事となった。
また汚染された大地の中にはネーテルガルの首都タングステンも含まれており、これによりネーテルガル王国は事実上消滅。東方の半分の大地と4割近くの人命が失われた結果となった
最終的には、瘴気に汚染されていない大地を残された人間たちによる奪い合う内戦が現在まで続く形となっているのだ……
†††
我はアーカーシャ。やんごとなき理由により、大金が必要となった哀れな龍だ。
我が生きてかれこれ17年近いのだが、気付いたことがある。世の中金!金が全てなのだ!
最低な考えかもしれないが、事実そうなのだ。金で幸せは買えないという言葉がある。確かにそうかもしれない
だが諸君らは思い違いをしている。金とは幸福を買うための代物ではない。悲しみを減らすためのものなのだ。
だってそうだろう。金があれば、買えるべき物を買えるし、必要なサービスだって受けれる。余計な節制も我慢も不要なのだ。金はあればあるだけ困らないが、無ければ困るだけなのだ
そんな金を得る為には仕事をする必要がある。故に仕事をするという発想に至るのは、至極当然の帰結だろう。今回そんな金を得るためにキプロウなる小さな町を訪れていた
「龍の背中に初めて乗ったぜ、中々快適だな」
「アーカーシャのお陰で早くに着きましたね」
「先輩見てください。祭りの準備をしてる感じしますよ!」
「忙しそうですね。冬越の感謝祭でも開くのでしょう。知ってますか? あれって元々はティムール大陸の北方地域から伝来してきたんですよ」
「へぇ、物知りだな」
姫は自身の隣に立つ大男トーチカさんに怪訝そうな顔を向ける
「……所で、なぜ貴方も一緒にいるのですか?」
「おいおい 連れないこというなよ……変な下心はないからな?一応言っておくが。
エレインさんに言われたんだよ。今回だけ先輩としてついて行くようにってな……全く、
……まあ心配する気持ちも分かるけどよ。慣れてない初めての依頼だと結構依頼者とトラブルになるケースもあるからな」
姫と花ちゃんは強いかもしれないが冒険者ド新人だし、慣れた人がいるってのはそれだけで心強い
ただ心配なことが一つある。依頼の報酬って俺含めて4人で4等分するのだろうか?簡単な依頼と言っていたので、報酬もそう多くはないだろう。ぐぬぬ
「そ そこのきれいな おねーさん!お おはなを買っていきませんか! 」
振り返ると、辛うじて服としての機能を果たしたボロボロの布切れを纏っている子供が数輪の白い花を手に持って、我らに声をかけてきた様子だった。奥の壁際にはコソコソとさらに幼い子供たちが見える事から、この7,8歳程度の子がもしかして面倒を見ているのだろうか
「このおはなは! かれない雪のお花で!ずっとキレイにさくことができます! ……えとえと おねーさんみたいなキレイな人にふさわしーおはな……です!」
子供ながらに生きるのに必死なのだろう。緊張しながらも、暗記した言葉を大きな声で伝える。その様はなんていうか痛々しかった。
姫が前に出て、子供の目線に合わせて屈む
「素敵なお花さんね お一つ幾らなのかしら?」
「え、えとえと! ど、銅貨いちまいになります!」
「あら お得ね! じゃあ4輪全て頂こうかしら。幾らになるのかな?」
「ま、まってください!おはなよっつだから……えとえと」
子供は指を折りながら、必死に計算をしている。
我の前世の国では一定の年齢までの教育は義務であった。だからといって自分が恵まれているとは思わなかったが、そうか、あれは異なる国や地域によっては、特別で恵まれた境遇と、いうことになるのか……考えた事なかったな
時間をかけて子供はおずおずと不安そうに答えを口にする
「おはなはよ、よっつだから、銅貨もよっつ……?になります」
「……ごめんなさい。待ち合わせが銀貨しかないの。銀貨4枚でいいかしら?」
「あ……え、お、おつり?な、なくて、あ……!」
途端に顔を青ざめさせる子供。銀貨を見たことがないのか、差し出された銀貨を前にたじろぎ手を引っ込めようとする子供の手をすかさず取り、姫は銀貨を握らせる
「お釣りは要らないわ」
「あ、ありがとーございます!きれーなおねーさん!」
「頑張ってね」
花の咲いた笑顔に姫はいつもと違う屈託のない笑みを浮かべる。一連のやりとりを見て、我としてはとても良いもの見れたと思うのだが、花ちゃんとトーチカさんの反応は余りよろしくなかった
「あんたお人好しだな。子供の物乞いなんてここらじゃ珍しくもない。一々構ってらんねーぞ」
「自分としても雪先輩の事を悪く言いたくはねえです。でも、一生助けるつもりがないのなら、あんな事すべきじゃないとは思います」
飢えた人がいるのなら、魚を与えるのではなく、釣り方を教えてあげるべきという格言がある。この考えはもしかしたら正しいのかもしれない
姫も少しだけバツが悪そうに苦笑いを浮かべる
「そうね。私の善意は一時しのぎのものかもしれない。でも、だからといって、子供を突き放すだけっていうのは、少し、ね……」
暫く歩くと、同じようなやり取りを何度かすることになった。言わんこっちゃないと頭を抱える2人の心の声が聞こえてくるようだ。
それなりに装いが比較的立派な男性に声をかけられる
「よくぞキプロウにおいでくださいました。ギルドの皆様。私が町長のドムックです。
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