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龍王と冒険者ギルド
62話目
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白と赤。2人の女性の妙な威圧感を肌で感じながらも弱小ギルドに入りたいという言葉は男たちの空気を弛緩させるのに十分であった
「ぷぷぷ このギルドは止めておいたほうがいいよ、おねーさん」
「どうしてですか?」
そう言われて、白一色で染まっている女性 雪姫が不思議そうに小首を傾げる
「どうしてって 見て分からない?
こんな薄汚くて弱っちいギルドなんて入る価値ないじゃーん。それにちゃんとしたところに入らないと後で後悔することになるよー?」
「ギャハッハッハ。ゲラシーの言う通りさ。それに あんたら美人だからこんな所より俺らの所にしろって、な?後悔はさせないぜ?
なんたって俺たちはあの略奪者たちの王様だ。こっちの方が色々と良い思いができる」
「……くっ」
侮蔑も含めてではあるが残酷にもその言葉は事実である。基本的に依頼のランクに応じて相場がある(お手伝い程度なら最低ランクのFで小銅貨3枚 魔獣討伐が行えるCランクは小金貨5枚が最低ラインとされている)
故に低ランクだが金払いが良い、高ランクでも報酬が更に際立って優れている等の依頼は人気があるが、その殆どが大手や有名なギルドの元に集まる。故に弱小や地方ギルドに良い案件が回ってくることは稀有であり、依頼は誰もやりたがらない割に合わない物が必然的に多くなるからだ。
キツい上に安い。加えてギルドの手厚いサポートも含めるなら、どちらを選ぶのが賢いかなど考えるまでもないだろう
「そう その様子だとそちらは随分と有名なギルドなのね。貴方たちは」
下品に嘲笑ってる男たちはこのギルドの者ではないのだろう。悔しそうに俯いて拳を震わせている中年の男性と傍に寄り添う女性だけが件のギルド員なのだろうと雪姫は推測する
「でもギルド加入を断るなら、貴方の口から直接聞きたいわね どうなのかしら? だめなの?」
雪姫は俯いてる男、フィッツの方へ視線を注いでいる
「チッ…!人の忠告はちゃんと聞けって…!
良いから来いっ!悪いようにはしねえから」
それが気に入らず、男の1人が無造作に手を伸ばす。しかし、それを許さなかった花が阻む様にその手を掴んだ。目には明らかな怒りを燃やしながら、そしてその憤怒を飲み込むように赤い獣がニコリと不敵に笑った
「なに汚い手で雪先輩に気軽に触れようとしてんだ」
それが合図と言わんばかりに握る力を強めていく
「あ?離s……よぉぉぉ!!?
うががが。痛てて手手手っ!!!」
「手が……なに?」
屈強なはずの大男とは対照的に華奢な少女に手を捻られただけでまるで子供のように情けない悲鳴を男はあげていた。男の仲間たちはそれを演技だと勘違いした様だが誤りだ
赤空花は半分が人でもう半分がライカンである。
男も常日頃からギルドの様々なクエストで鍛え上げただけあり、常人と比べると遥かに優れた恵体だ。しかしそれがなんだ?
人とライカンには生まれた時点で既に天と地ほどに身体能力に隔たりがある。子供のライカンですら、駆ければ馬より早く駆けれるし、地面から跳躍しても家の屋根に簡単に飛び乗れる、殴れば木々をへし折り、握れば石を砕くことができる。
では、ライカンの赤子にすら出来ることが大人の人間に出来るのか?答えは否だ。
半分とはいえ、当然その血を引く花の力が人間と比較になるはずも無く、軽く握られるだけでもただの人間にとっては万力の如き締めつけと変わらないだろう
「手、離、離、離せっ!」
「人に頼むときは、離してください、じゃない?」
「てめえ、いいからさっさとその手を離しやがれっ!」
男の仲間たちもその様相から流石に只事ではないと感じ取ったのか、全員がほぼ同時に剣を抜いた。しかし花はそんなのを意にも介しておらず、ギロリと獣のような瞳孔を細めて周りを睨みつけた
「花 オイタが過ぎるわよ」
「違うんです! だって、こいつらが……」
雪姫の嗜める言葉に慌てて漸く花は手を離すが相当に痛かったのか、男は黒く鬱血した手をさすりながらベソをかいている
「この、イカれ女が!どう落とし前つけてくれんだ」
「てめぇらこそ、人のギルドで武器を抜くなんて何考えてやがる!」
「おいおいフィッツさんよ。そっちのクソガキはうちのギルドの者に先に手を出したんだ。何もしないっていうのはこちらの沽券に関わるんだよ」
興奮した怒声が飛び交う中。
ピンッ!空気が張り詰める音と共に全ての抜き身の剣が突然と男たちの手を離れて天井に勢いよく突き刺さった
「チッ 未来の怪物様のお帰りか」
その光景で誰がこれをしたのか一瞬で理解したリーダー格の男だけが外を睨みつける
「可愛い女性2人にムサイ男共がよってたかって、それも武器を持ち出すなんて、それこそ恥の上塗りだろうよ。違うか?略奪者共」
「セントールの壊し屋」 「怪物の再来」 「破壊を告げる者」
その声を聞いて怯えたように男たちが次々に彼の二つ名を口にする
そして現れた。屈強な男たちと比べても更に大柄な人物が部屋の中へ入ってくる。金髪で筋骨隆々、角張った輪郭と鋭い眼光の精悍な面構えの青年であった
「トーチカ! 戻ったか」
大男のトーチカを見た瞬間に、フィッツの終始険しそうな顔に初めて綻びが見て取れた
「おう。親っさん戻ったぜ ギルドの為とはいえ流石に高難易度依頼10個連続は張り切りすぎて疲れちまったぜ……で、うちのギルドで略奪者共がデカい顔していやがるってのはどういう了見なんだ? なあバイデ・ワルター支部長さんよ」
「ちっ……帰るぞ、お前たち」
トーチカと呼ばれた男性は相当な実力者なのだろう。有無を言わせない言葉の圧に先ほどまでの大きな態度は完全になりを潜めた男たち。唯一リーダー格のバイデのみがトーチカを睨み続ける事からもそれは明らかだ
「トーチカ・フロル
いくら待ってもあいつらはもう戻ってこねえよ。だからお前もこっちに来い。こんな所は早く見切りをつけろ」
「お前みたいにみっともなくか……?ぶっ飛ばされないうちに消えろよ。なに 昔のよしみだ。今回は大目にみてやる」
「みっともねえのはどっちだよ
いつまでも拘って未練たらしい奴」
捨て台詞と共にバイデと呼ばれたリーダー格の男は手を挙げながら、驚くほど静かに男たちを引き連れてギルドを出て行った
外にいた龍王を見て男たちが悲鳴をあげたのは、余談である
ーーー†††ーーー
「ではギルドのタグを発行手続きに入ります。魔法水晶に手を当てて魔力を流してください」
ギルド員認識票。通称タグは渡航者の中でも一際変わり者で知られる"白痴"により作られた遺物である。
魔法水晶により使用者の魂と魔力波長を観測し、その情報をタグに焼き付けるのである。
偽造防止加工の術式が施されており、シンプルだが強力なプロテクトを施すこの術式を破る魔法は最早開発されないとまで云われている。
またB級以上のタグであればギルド管理局の名の下にアナシスタイル大陸。ティムール大陸。エルガルム大陸内の立ち入り禁止区域や魔迷宮の立ち入りが容認されているほど付加価値が高まる
「えっとお名前は」
認識票の鋳造前に情報入力が幾つかある。久しぶりの新規加入者に若干浮かれながらエレインは手を止める
「玻璃で良いわ。偽名だけど」
(偽名だけど!?)
「じゃあ自分は苺水晶で!」
(じゃあ!!?)
少し面食らったがエレインは気を取り直して、言われた通りに名を入力する。冒険者になる際の名前は偽名でも良いのだ。そういう輩は多くいると話には聞いていた。冒険者を兼業する人も多くいて、その中には高らかに自分は冒険者だと公言出来ない事情を持つ名士も存在するからだ。のっぴきならぬ事情を持つ者か唯の変人か。故に一度だけエレインは確認をする
「玻璃さんと苺水晶さんで良いのね?
やり直しは出来ないわよ」
「ええ お願いします」
澱みなく雪姫が応える
「玻璃さん 苺水晶さん これからよろしくお願いしますね。私はこのギルドで依頼の発注や備品の管理をしています エレイン・ルフィーナ」
「あそこで顰めっ面で話しているおじさんがファイレ・フィッツ 現在ギルドマスター代理
隣の好青年の方が我がギルド唯一の高位冒険者トーチカ・フロルさんです」
「かなり強いですね あの人」
花の言葉にエレインが嬉しそうに同意する
「ええ 実力だけなら最高位冒険者にも遜色ないと思います。ただ、とある方たちから認められるまでは上がるつもりはないみたいですけどね」
「登録は終わったみてえだな」
「ええ、これからよろしくお願いしますね。ギルドマスター」
「うへへ、ギルドマスター 若い娘に言われると気持ちいいぜ~」
その言葉にフィッツは嬉しそうだが、エレインが少しだけムッとして、横にいたトーチカも呆れたように忠告した
「おいおい親っさん 知らねえのか? そういうの世間じゃセクハラって言うんだぜ」
「う……!そうなのか これからは言動に気を付けないといけねえな」
「はいはい……!これまでも女性いたんですけどね!主に私が!若くなくてごめんなさいね!どうせ私は三十路でもう綺麗でもなんでもないんで気なんて使う必要なかったですよね!」
「急に怒って どうした エレイン……
もしや機嫌が悪いって……あの日、なのか?」
「死ねばいいのに」
「そういうとこだぞ 親っさん……」
閑話休題
「早速だ。簡単な依頼でもしていくかい。新人の女の子2人にいきなり危ない依頼はあれだから、エレイン」
「は?馴れ馴れしく呼び捨て?」
「エレインさん……手頃な依頼の紹介とか、はい
してあげたらどうでしょうか」
「親っさん……!
ところで外にいた龍はあんたらの使い魔か?」
「ええ まあ そうですね」
「おいおい そりゃまじか。逸材じゃねえか!
よし、抜けたホエルとケイの行うはずだった討伐依頼をしてもらおう。そうしよう」
「管理局より通達がありまして、規定が改定されました。これからは新人がいきなり討伐依頼は受けれなくなっています」
「えっ?」
「魔獣はともかく、討伐指定のある魔物もだめなのか?ゴブリンとかスケルトンはDランク討伐だった筈だし、龍を使い魔にしてるんだぜ?この程度なら」
トーチカの問いにエレインは小さく首定した
「全ての討伐依頼がこれからはCとなりますのでダメですね。新人が受けれるのはDランクまでの依頼となります」
「くぅ……」
「ふう……なら2人のやるはずだった依頼は俺に回してくれていい」
「お二人はどういったものがやりたいですか?」
「自分は雪先輩がやりたいもの!」
「強いて言うなら偉大なる龍王様が……やりたがるもの。報酬は度外視でいいから、出来るだけ人助けになるようなものがいいわね」
「……でしたら、アナシスタイル東側諸国でキプロウという小さな町があるのをご存知ですか?
二月も前に土砂崩れにより、幾つかの街道がダメになっているみたいなのです」
「二月も放っておくってその土地を治めてる国や貴族は何もしてないの?」
「苺水晶様の言うのもごもっともです。ですがご存知の通り、今は封印されてますが、あの災厄を引き起こした最上位魔獣のケイオスにより東部一帯を治めていたネーテルガル王国が崩壊してから、あそこは未だに国が割れての内戦状態。そこに人員を割く余裕はないのです」
「そこは推察出来てました。では質問を変えましょう。依頼が発注されてるのに、どのギルドもやらないのはなぜですか?」
そこでエレインの顔が苦虫でも潰したような顔になって、先ほどとは打って変わってしどろもどろと説明を始める
「……この依頼は本来ならBクラスの労力がいる依頼です。時間も人出も要るのですが、あそこはなんというか財政状況が良くなくて、支払いに期待できないといいますか、依頼主も貴族ではなくキプロウの町長なのでEランク程度の報酬が限界となってまして、その、ですね」
雪姫が手で制し、エレインの言葉を止める。言葉では何でもすると言っても、いくらなんでも慈善活動に近いこんな依頼受けてくれるわけがないと分かっていた。だとしても内心エレインは肩を落とさずにいられなかった。
仕方ないのだ。龍を従えているなら、この程度の依頼容易に行えるであろう。しかし出来るとやるを一緒くたにすべきではない。損得を度外視したお人好しでもなければこんなものやるわけがないのだ
「つまり、労力に対して報酬が見合ってないから誰もやりたがらない。そういうことですね?」
「おいおいエレイン。いくら何でも流石にこんな依頼を新人にいきなり振るなよ」
フィッツの非難も尤もだ。エレインは小さく謝罪する
「も、申し訳ございません……最初の依頼はやはり少しでも良い案件ですよね」
「やりますよ」
「え?ほ、本当に?」
「はい。人助けが出来るなら報酬は別に何でも良いのですよ、私たちは。そもそもが、私みたいに優秀で実力もあってお金目当てなら、さっきのギルドの勧誘にのってたと思いません?」
それを聞いて皆が目を丸くして笑いを吹き出した。特にトーチカは涙が出るほど屈託なく笑っている
「最高だな あんた!」
「そうなのです 雪先輩は最高なのです」
「こいつはとんでもない変人だぜ」
「え もしかして先輩をバカにしてる?」
「褒めてんだよ!」
「だったら良いですが、自分の目が赤いうちは雪先輩の悪口は許さないです!」
何はともあれ、雪姫は自分の使い魔が気に入りそうな依頼を受けることにした。尚。当のアーカーシャは無償に近い依頼を受けることになり、悲嘆に暮れることとなった
「ぷぷぷ このギルドは止めておいたほうがいいよ、おねーさん」
「どうしてですか?」
そう言われて、白一色で染まっている女性 雪姫が不思議そうに小首を傾げる
「どうしてって 見て分からない?
こんな薄汚くて弱っちいギルドなんて入る価値ないじゃーん。それにちゃんとしたところに入らないと後で後悔することになるよー?」
「ギャハッハッハ。ゲラシーの言う通りさ。それに あんたら美人だからこんな所より俺らの所にしろって、な?後悔はさせないぜ?
なんたって俺たちはあの略奪者たちの王様だ。こっちの方が色々と良い思いができる」
「……くっ」
侮蔑も含めてではあるが残酷にもその言葉は事実である。基本的に依頼のランクに応じて相場がある(お手伝い程度なら最低ランクのFで小銅貨3枚 魔獣討伐が行えるCランクは小金貨5枚が最低ラインとされている)
故に低ランクだが金払いが良い、高ランクでも報酬が更に際立って優れている等の依頼は人気があるが、その殆どが大手や有名なギルドの元に集まる。故に弱小や地方ギルドに良い案件が回ってくることは稀有であり、依頼は誰もやりたがらない割に合わない物が必然的に多くなるからだ。
キツい上に安い。加えてギルドの手厚いサポートも含めるなら、どちらを選ぶのが賢いかなど考えるまでもないだろう
「そう その様子だとそちらは随分と有名なギルドなのね。貴方たちは」
下品に嘲笑ってる男たちはこのギルドの者ではないのだろう。悔しそうに俯いて拳を震わせている中年の男性と傍に寄り添う女性だけが件のギルド員なのだろうと雪姫は推測する
「でもギルド加入を断るなら、貴方の口から直接聞きたいわね どうなのかしら? だめなの?」
雪姫は俯いてる男、フィッツの方へ視線を注いでいる
「チッ…!人の忠告はちゃんと聞けって…!
良いから来いっ!悪いようにはしねえから」
それが気に入らず、男の1人が無造作に手を伸ばす。しかし、それを許さなかった花が阻む様にその手を掴んだ。目には明らかな怒りを燃やしながら、そしてその憤怒を飲み込むように赤い獣がニコリと不敵に笑った
「なに汚い手で雪先輩に気軽に触れようとしてんだ」
それが合図と言わんばかりに握る力を強めていく
「あ?離s……よぉぉぉ!!?
うががが。痛てて手手手っ!!!」
「手が……なに?」
屈強なはずの大男とは対照的に華奢な少女に手を捻られただけでまるで子供のように情けない悲鳴を男はあげていた。男の仲間たちはそれを演技だと勘違いした様だが誤りだ
赤空花は半分が人でもう半分がライカンである。
男も常日頃からギルドの様々なクエストで鍛え上げただけあり、常人と比べると遥かに優れた恵体だ。しかしそれがなんだ?
人とライカンには生まれた時点で既に天と地ほどに身体能力に隔たりがある。子供のライカンですら、駆ければ馬より早く駆けれるし、地面から跳躍しても家の屋根に簡単に飛び乗れる、殴れば木々をへし折り、握れば石を砕くことができる。
では、ライカンの赤子にすら出来ることが大人の人間に出来るのか?答えは否だ。
半分とはいえ、当然その血を引く花の力が人間と比較になるはずも無く、軽く握られるだけでもただの人間にとっては万力の如き締めつけと変わらないだろう
「手、離、離、離せっ!」
「人に頼むときは、離してください、じゃない?」
「てめえ、いいからさっさとその手を離しやがれっ!」
男の仲間たちもその様相から流石に只事ではないと感じ取ったのか、全員がほぼ同時に剣を抜いた。しかし花はそんなのを意にも介しておらず、ギロリと獣のような瞳孔を細めて周りを睨みつけた
「花 オイタが過ぎるわよ」
「違うんです! だって、こいつらが……」
雪姫の嗜める言葉に慌てて漸く花は手を離すが相当に痛かったのか、男は黒く鬱血した手をさすりながらベソをかいている
「この、イカれ女が!どう落とし前つけてくれんだ」
「てめぇらこそ、人のギルドで武器を抜くなんて何考えてやがる!」
「おいおいフィッツさんよ。そっちのクソガキはうちのギルドの者に先に手を出したんだ。何もしないっていうのはこちらの沽券に関わるんだよ」
興奮した怒声が飛び交う中。
ピンッ!空気が張り詰める音と共に全ての抜き身の剣が突然と男たちの手を離れて天井に勢いよく突き刺さった
「チッ 未来の怪物様のお帰りか」
その光景で誰がこれをしたのか一瞬で理解したリーダー格の男だけが外を睨みつける
「可愛い女性2人にムサイ男共がよってたかって、それも武器を持ち出すなんて、それこそ恥の上塗りだろうよ。違うか?略奪者共」
「セントールの壊し屋」 「怪物の再来」 「破壊を告げる者」
その声を聞いて怯えたように男たちが次々に彼の二つ名を口にする
そして現れた。屈強な男たちと比べても更に大柄な人物が部屋の中へ入ってくる。金髪で筋骨隆々、角張った輪郭と鋭い眼光の精悍な面構えの青年であった
「トーチカ! 戻ったか」
大男のトーチカを見た瞬間に、フィッツの終始険しそうな顔に初めて綻びが見て取れた
「おう。親っさん戻ったぜ ギルドの為とはいえ流石に高難易度依頼10個連続は張り切りすぎて疲れちまったぜ……で、うちのギルドで略奪者共がデカい顔していやがるってのはどういう了見なんだ? なあバイデ・ワルター支部長さんよ」
「ちっ……帰るぞ、お前たち」
トーチカと呼ばれた男性は相当な実力者なのだろう。有無を言わせない言葉の圧に先ほどまでの大きな態度は完全になりを潜めた男たち。唯一リーダー格のバイデのみがトーチカを睨み続ける事からもそれは明らかだ
「トーチカ・フロル
いくら待ってもあいつらはもう戻ってこねえよ。だからお前もこっちに来い。こんな所は早く見切りをつけろ」
「お前みたいにみっともなくか……?ぶっ飛ばされないうちに消えろよ。なに 昔のよしみだ。今回は大目にみてやる」
「みっともねえのはどっちだよ
いつまでも拘って未練たらしい奴」
捨て台詞と共にバイデと呼ばれたリーダー格の男は手を挙げながら、驚くほど静かに男たちを引き連れてギルドを出て行った
外にいた龍王を見て男たちが悲鳴をあげたのは、余談である
ーーー†††ーーー
「ではギルドのタグを発行手続きに入ります。魔法水晶に手を当てて魔力を流してください」
ギルド員認識票。通称タグは渡航者の中でも一際変わり者で知られる"白痴"により作られた遺物である。
魔法水晶により使用者の魂と魔力波長を観測し、その情報をタグに焼き付けるのである。
偽造防止加工の術式が施されており、シンプルだが強力なプロテクトを施すこの術式を破る魔法は最早開発されないとまで云われている。
またB級以上のタグであればギルド管理局の名の下にアナシスタイル大陸。ティムール大陸。エルガルム大陸内の立ち入り禁止区域や魔迷宮の立ち入りが容認されているほど付加価値が高まる
「えっとお名前は」
認識票の鋳造前に情報入力が幾つかある。久しぶりの新規加入者に若干浮かれながらエレインは手を止める
「玻璃で良いわ。偽名だけど」
(偽名だけど!?)
「じゃあ自分は苺水晶で!」
(じゃあ!!?)
少し面食らったがエレインは気を取り直して、言われた通りに名を入力する。冒険者になる際の名前は偽名でも良いのだ。そういう輩は多くいると話には聞いていた。冒険者を兼業する人も多くいて、その中には高らかに自分は冒険者だと公言出来ない事情を持つ名士も存在するからだ。のっぴきならぬ事情を持つ者か唯の変人か。故に一度だけエレインは確認をする
「玻璃さんと苺水晶さんで良いのね?
やり直しは出来ないわよ」
「ええ お願いします」
澱みなく雪姫が応える
「玻璃さん 苺水晶さん これからよろしくお願いしますね。私はこのギルドで依頼の発注や備品の管理をしています エレイン・ルフィーナ」
「あそこで顰めっ面で話しているおじさんがファイレ・フィッツ 現在ギルドマスター代理
隣の好青年の方が我がギルド唯一の高位冒険者トーチカ・フロルさんです」
「かなり強いですね あの人」
花の言葉にエレインが嬉しそうに同意する
「ええ 実力だけなら最高位冒険者にも遜色ないと思います。ただ、とある方たちから認められるまでは上がるつもりはないみたいですけどね」
「登録は終わったみてえだな」
「ええ、これからよろしくお願いしますね。ギルドマスター」
「うへへ、ギルドマスター 若い娘に言われると気持ちいいぜ~」
その言葉にフィッツは嬉しそうだが、エレインが少しだけムッとして、横にいたトーチカも呆れたように忠告した
「おいおい親っさん 知らねえのか? そういうの世間じゃセクハラって言うんだぜ」
「う……!そうなのか これからは言動に気を付けないといけねえな」
「はいはい……!これまでも女性いたんですけどね!主に私が!若くなくてごめんなさいね!どうせ私は三十路でもう綺麗でもなんでもないんで気なんて使う必要なかったですよね!」
「急に怒って どうした エレイン……
もしや機嫌が悪いって……あの日、なのか?」
「死ねばいいのに」
「そういうとこだぞ 親っさん……」
閑話休題
「早速だ。簡単な依頼でもしていくかい。新人の女の子2人にいきなり危ない依頼はあれだから、エレイン」
「は?馴れ馴れしく呼び捨て?」
「エレインさん……手頃な依頼の紹介とか、はい
してあげたらどうでしょうか」
「親っさん……!
ところで外にいた龍はあんたらの使い魔か?」
「ええ まあ そうですね」
「おいおい そりゃまじか。逸材じゃねえか!
よし、抜けたホエルとケイの行うはずだった討伐依頼をしてもらおう。そうしよう」
「管理局より通達がありまして、規定が改定されました。これからは新人がいきなり討伐依頼は受けれなくなっています」
「えっ?」
「魔獣はともかく、討伐指定のある魔物もだめなのか?ゴブリンとかスケルトンはDランク討伐だった筈だし、龍を使い魔にしてるんだぜ?この程度なら」
トーチカの問いにエレインは小さく首定した
「全ての討伐依頼がこれからはCとなりますのでダメですね。新人が受けれるのはDランクまでの依頼となります」
「くぅ……」
「ふう……なら2人のやるはずだった依頼は俺に回してくれていい」
「お二人はどういったものがやりたいですか?」
「自分は雪先輩がやりたいもの!」
「強いて言うなら偉大なる龍王様が……やりたがるもの。報酬は度外視でいいから、出来るだけ人助けになるようなものがいいわね」
「……でしたら、アナシスタイル東側諸国でキプロウという小さな町があるのをご存知ですか?
二月も前に土砂崩れにより、幾つかの街道がダメになっているみたいなのです」
「二月も放っておくってその土地を治めてる国や貴族は何もしてないの?」
「苺水晶様の言うのもごもっともです。ですがご存知の通り、今は封印されてますが、あの災厄を引き起こした最上位魔獣のケイオスにより東部一帯を治めていたネーテルガル王国が崩壊してから、あそこは未だに国が割れての内戦状態。そこに人員を割く余裕はないのです」
「そこは推察出来てました。では質問を変えましょう。依頼が発注されてるのに、どのギルドもやらないのはなぜですか?」
そこでエレインの顔が苦虫でも潰したような顔になって、先ほどとは打って変わってしどろもどろと説明を始める
「……この依頼は本来ならBクラスの労力がいる依頼です。時間も人出も要るのですが、あそこはなんというか財政状況が良くなくて、支払いに期待できないといいますか、依頼主も貴族ではなくキプロウの町長なのでEランク程度の報酬が限界となってまして、その、ですね」
雪姫が手で制し、エレインの言葉を止める。言葉では何でもすると言っても、いくらなんでも慈善活動に近いこんな依頼受けてくれるわけがないと分かっていた。だとしても内心エレインは肩を落とさずにいられなかった。
仕方ないのだ。龍を従えているなら、この程度の依頼容易に行えるであろう。しかし出来るとやるを一緒くたにすべきではない。損得を度外視したお人好しでもなければこんなものやるわけがないのだ
「つまり、労力に対して報酬が見合ってないから誰もやりたがらない。そういうことですね?」
「おいおいエレイン。いくら何でも流石にこんな依頼を新人にいきなり振るなよ」
フィッツの非難も尤もだ。エレインは小さく謝罪する
「も、申し訳ございません……最初の依頼はやはり少しでも良い案件ですよね」
「やりますよ」
「え?ほ、本当に?」
「はい。人助けが出来るなら報酬は別に何でも良いのですよ、私たちは。そもそもが、私みたいに優秀で実力もあってお金目当てなら、さっきのギルドの勧誘にのってたと思いません?」
それを聞いて皆が目を丸くして笑いを吹き出した。特にトーチカは涙が出るほど屈託なく笑っている
「最高だな あんた!」
「そうなのです 雪先輩は最高なのです」
「こいつはとんでもない変人だぜ」
「え もしかして先輩をバカにしてる?」
「褒めてんだよ!」
「だったら良いですが、自分の目が赤いうちは雪先輩の悪口は許さないです!」
何はともあれ、雪姫は自分の使い魔が気に入りそうな依頼を受けることにした。尚。当のアーカーシャは無償に近い依頼を受けることになり、悲嘆に暮れることとなった
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何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
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