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龍王と冒険者ギルド

61話目

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この世界でギルドに籍をおいている者はそう珍しくない。人間、魔族、亜人を問わず最も人気の仕事の一つで全大陸のギルドを合わせれば千に及び、登録者の数は既に1000万人を超えている


そんなギルドの始まりに渡航者なる存在が過分に関わっていたのはあまり知られてはいない


今尚深刻である魔獣の駆除や討伐指定のある魔物の討伐。被災した人々の援助を行う名目で国や種族に囚われない有志が集まったのが始まりとされる民間組織(この世界の人間ではない渡航者には身分や財が無いので、渡航者が社会的な地位や富を得るために作り上げた部分も否めない)


先人たちによる涙ぐましい努力により、今では冒険者ギルド。商業系ギルド。サポート系ギルド(生態研究・医療など)に分かれ、もはや無くてはならない仕事でもある。そして多くが脚光を浴びやすい花形である冒険者ギルドに所属するのを望み、現にそうする人が多いことからも窺い知れるだろう


民間組織なので所謂大手から零細まで数多く存在し、そんな数多ある冒険者ギルドの中で特に略奪者たちの王ヴァイキング黄昏の血トワイライト殺し回る狩人キリングバイツの三大ギルドの勢力は圧倒的である。実に6割のギルドが何らかの形でこれらの影響下にあると言われる程の規模なのだ


しかし、箸にも棒にもかからない程の弱小ギルドというものも存在するわけで、怪物たちの檻モンスターハウスもその内の一つだ。代理ギルドマスター ファイレ・フィッツは現状を憂いて大きなため息を吐いて、隣に立つ女性 エレインに問いかける


「また、人が減ったか……?」


「ホエルとケイが抜けたわね。ギルドを維持するための最低限のノルマ達成ももう無理ね」


「……俺が不甲斐ねえばっかりに……!」


「そんな事ないわ。貴方だから10年も守れたのよ」


いつも厳しい言葉を投げつけていたエレインが珍しく労う様な言葉に思わずフィッツは苦笑してしまう


「疲れたのなら管理局に解散を宣言しにいっても良いのよ?誰も貴方を責めたりしないわ」


「そんなことしねえよ。最後まで足掻くさ
ただ、随分と広く……なっちまったなって思っただけだよ」


思い返すように呟く。怪物たちの檻はかつて大陸一の冒険者ギルドであった。その立役者であった7人の高位冒険者はとある討伐任務に向かったっきり、消息が途絶えている。
それから嘘みたいに落ちぶれていき、かつて千人を超えた大所帯は今では20人程度。最早その面影すら残っていなかった


「し、つれいしま~す」


そんなバカにするような言葉と共に突然、入り口のスイングドアを蹴り飛ばしながら、ガラの悪そうな男たちがズカズカと入ってくる


「おたくの所は相変わらずしけてんなぁ~」


「ギャハハ! これだから弱小ギルドって嫌なんだよねー!」


「こんなのが俺らと同じ冒険者名乗ってるんだから、たまんねえよな?名折れだよ 名折れ」


堪らずフィッツが立ち上がる


「何しに来やがった!手前らなんかが来るところじゃねえんだよ!ここは!」


「いや なに?挨拶さ
今日からこの一帯で"略奪者たちの王"も仕事する事にしたからさ。記念すべき100個目の支部をこのしけた町に建てたのさ よろしく」


「ふ、ふざけんじゃねえぞ!そんな事が」


「許されるのさ! かつてのてめらならいざ知らず、怪物たちが不在の空っぽの檻なんざ、もう誰も怖がらねえ!!」


「こんのっ……!」


冒険者と一括りにされようと、所属するギルドが違えば競合相手なのだ。そして何よりも、大きな国や街ならいざ知らず、こんな小さな町に仕事なぞそう多くは無い。2つのギルドが存在できるわけがなかった


「悪質すぎるわ。管理局に抗議します」


「ギャハハ 生意気だね、おねえさーん!」


「キャッ!」


男の1人がエレインの頬を軽く打つ。プチリッと血管を浮かべたフィッツがドスを効かせた声で立ち上がる


「……手前ら殺されたいのか!」


「お~怖い怖い だが俺らに手を出したら、その瞬間に戦争になるけど、それでもやるのかい?」


「それが狙いか……!」


略奪者たちの王。世界中に多くの支部と傘下ギルドを持ち、実に総数150万の人員を抱える最大規模のギルドである。そんなギルドにしてみれば、怪物たちの檻は吹けば消えてしまう程度の小物である


「まさか。ギルドマスターはお前ら雑魚ギルドをどういう訳か酷く警戒して手を出すなと言っているからな。
しかし俺は気付いて欲しいのさ。マスターに。こんなギルドを恐れる必要はないと!だから考えた。俺らの傘下に加われ。そうすれば、てめえらギルドは生き残れるし、マスターの憂いを取り除いた俺もさらに上に登れる」


リーダー格の男が手を差し出してくる。フィッツはその手を取るのを躊躇った


「生き残る為に、ちっぽけなプライドなんて捨てちまえよ。なあ ファイレ・フィッツ」


フィッツが歯を食いしばりながら、手を取ろうとしたその瞬間、外から絹を裂くような人々の悲鳴が聞こえてきた。『龍が来たぞー!』『逃げろー!逃げろーー!!』


男たちは目を見合わせる。こんな場所に龍が?そんな馬鹿な!?では、この喧騒はなんだ?
外は酷く静かになる。翼がはためく音と共に、何かがこの建物の前に降り立ったようだ。全員が固唾を呑んで息を殺し、外に繋がる扉へと目を向けていた


そして2人の女性が外からゆっくりと入ってきた


「此処です! 雪先輩!」


「偉大なる龍王様はそこで待っていてください。
それにしても町の人には悪いことをしてしまったわね。小さくなる薬は切らしているから、今度から認識阻害の魔導具を用意しないといけないわ」


1人は半人半獣の赤い少女であった。真っ赤な髪の毛に合わせた赤いとんがり帽子と赤いローブに身を包み、覗かせる手足には一回り大きな手袋とブーツを身に付けている。何よりも、その体躯に見合わない異様な黒い物質を背負っていた


もう1人は真っ白な女性であった。雪のように白い髪を靡かせ、大きな瞳と氷のように透き通った肌、顔の作りなぞ造り物としか思えないほどの美貌を再現していた。
シンプルなドレスに袖を通しており、手の甲には見たこともない真っ赤な魔法文字が刻まれている事を除けば純白であった


入ってきた2人の女性を前に誰も言葉を発さない。否。圧倒されて発せなかった。代わりに白い女性が開口する


「ギルドに入りたいのだけれど、受付をお願いしてもらっていいですか」
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