上 下
4 / 141
龍王と人助け

4話目 外の世界へようこそ

しおりを挟む
俺は姫を背中に乗せ天高く飛翔し塔から飛びだした。
高度何百何千メートルかも分からない遥か上空からぐるりと世界アルタートゥームを見渡す


この辺りは今冬なのだろう。霞んだ鉛色の様な分厚い雲に覆われ、其処から雪がチラチラと降り積もり、眼前の色を全て白銀で統一してくれている。不思議と寒さは感じなかった


「(冬の景色も中々に絶景。絶景。絶景かな)」


本来なら水平線の彼方に何があるかなど見通せる訳がないのに遠くにいる知らない誰かの顔をはっきりくっきりと鮮明に認識できるのは驚きだ。
まるで猛禽類の如く凄まじい視力を誇っている。これならば例え100キロ先のスカートが捲れた瞬間ですら見逃すことはないだろう


遠くの空で漫画や映画でしか見たことのない飛竜ワイバーンが群れを為して飛んでいる。
山の頂上付近では一つ目の巨人が自身の巨体を隠せる程の葉で雪を凌いでいる。
森では見たこともないほど巨大な犬のような獣が崖に駆け上がり遠吠えをしていた。


その景趣を目にして、どうしてかゾクゾクと血が沸き立つような感覚を覚えた。今の状況は決して喜ばしい訳ではないのだが、それでも言い知れぬ感動に体を震わせずにはいられなかった


「(なんだか始まったって感じがするな)」


「前と変わらず世界は美しいですか?」


すぐ耳元で囁くように姫の言葉が聞こえたのでビックリした。いつの間にか彼女は音も無く俺の頭部にまで登っている。
そもそも前の世界を知らないのだが、ああ!そうか。
この身体はアーカーシャのものだから、勘違いしているのだろう。訂正はしないけど


「(美しいかは分かんないが凄えワクワクしてきたぞ)」


「そうですか。それは良かった」


言葉は通じて無いはずだが、俺の嬉々とした声色に姫の表情が少しだけ柔らかくなったように見えた


「ちなみにあれ」


姫が徐に指を刺した。釣られて視線が動く


「魔導教会トラオムの総本山。空中魔導図書館ビブリ・テーカー」


「(図書館っていう規模じゃねえ、島だな。あれは)」


どういう理屈かは分からないが、巨大な島が宙に浮かんでいる。空島とはたまげたなぁ。黄金都市とか雷の能力を持ってる自称神様とかいそうだぜ。誰か未来の海賊王呼んで来てくれないか?


「(ん?)」


ふと、下へ目をやると俺が居た場所は塔ではなかったことが判明した。
俺が飛びだした所は、巨大な円形状。煙突の穴みたいな外肌をゴツゴツとした無骨な岩肌が形作っていた


「カモフラージュ代わりに山一つを買い取って内部に巨大な神殿を造ってみました」


俺の為だけにご大層な話だ。後1人で作ったの?近頃はDIY女子増えてるとはいうが、異世界でもブームでしたか。少し規模が大きい気もするけど


「じゃあ行きましょうか」


いつ行くか 今でしょ!!
移動を始めると次第に速度が増していく。するとそれに比例して空と大地と海が物凄い速さで俺の後ろへと駆け抜けていく。


────何百kmあったのだろう。だがその程度の距離を物ともせず凄まじい速度をもって俺はそれを走破していた。


「もうそろそろダカン平原だね」


姫の言葉通りに聳える山々を真上から過ぎると拓けた平原が次に顔を見せる。ここがダカン平原なのだろう。そこから少し先へと行くと大きな城郭都市が目に入った。
来る途中にも見かけた小さな城々とは異色な感覚を覚える。どういう訳か知らないが、城の中に強い存在感を放つ誰かがいるのが分かる


タンタンと地団駄を踏まれた。止まれという事なのだろう。車は急には止まれないが俺は何もない空を両手で掴み無理やり動きを止める事ができた


「(ふむふむ。加速する時に空を蹴ったからもしやと思ったが、触れるな。空気に)」


例えるなら、プールにいる時と近い感覚だろう。とりあえず急加速と急停止が自由に出来るようだ


「降りて」


俺は言われるが侭に、城壁の一画に器用に降り立つ。城を守る兵士たちが恐怖に引きつった表情を隠しきれない様子で武器を構えてすぐさま取り囲んできた。
武器を向けられているというのに全く何も感じないのはどうしてだ。

恐怖を感じなくなっている?いや違うな、頭でいくら分かっていてもこの状況を俺は本当の意味で脅威として認識出来ないんだ。


「き、貴様ら!何者だ」


通りすがりの龍王様だ。よく覚えておきな!そして隣にいるお方が我が主人の腹黒白雪姫様だ。平伏しな!


「怪しい者ではありません」


姫は軽い調子で手を叩いて俺から重い腰を退かして城に降り立つが、控えめに言って不審者だと思う。大人しく捕まって欲しい。そしてあの契約も無効にしてくれ


「私は魔導教会トラオム所属の魔導師、名を白雪姫と言います。本日この塞を訪れましたのは、その方の大司祭を務める妲己様に此処に来る様に呼ばれたからです」


姫の軽やかな口調とは対照的に兵士たちが強い警戒を維持したまま重苦しく口々に話をし始めた


「天狐様がどうして魔導師なんかを……」 「あれってもしかして、龍!?……おれ初めて見た」「あの女性美しすぎるっ!」「あほか!なに呑気なこと言ってやがる!教会はうちらの仇みたいなもんだろ!」「す、すまねえ。でも……キュン」


収集がまるでつきそうになかったが、兵士たちの中で1番位が高そうな大男が怯むことなく前に一歩踏み出した


「申し訳ございませんが此処に天狐様はいらっしゃいません。お引き取りをお願いします……」


「儀式が成功したら、そっちが来いって言ってたのになんのつもりなのかしら……全く、こんな所まで呼び出しておいて本当に……」


姫は表情こそ能面みたいに少しも変わりはしなかったが、本当に少しだけ苛立ちを感じさせる声色だった。それは、或いは、死を想起させてしまうくらいには


「一層のこと、本当に暴れてしまおうかしら。ねえ、偉大なる龍王様」


本気か冗談か読み取れない言葉だが、気怠げに首を少し傾げる姫から発せられる威圧感は本物だった。この場を酷く絞めつけ、兵士たちは身動ぎ1つ、瞬き一つすら行えていない




あとがき

キャラクター紹介
【アーカーシャ】
人間/始祖

【ステータス】
スピード :S -
パワー       :S -
耐久力  :測定不能
魔力   :D
賢さ   :C

【判明してる能力】
飛行能力、言語理解、自身の制動エネルギーの制御


【説明欄】
身体は龍、精神は人間の状態でアルタートゥームに顕現している。魔導師である白雪姫と契約した。言葉は理解出来る。喋ると相手には鳴き声にしか聞こえない
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

オルビネティラの空~滅びかけた大地。人々は再び上昇する~

刀根光太郎
ファンタジー
小さい頃には世界の果てを見る夢があった。しかし、現実はゆっくりと朽ちゆく世界で魔獣を狩り続ける日々であった。ある日、アルフィー・サーマンは謎の少女と出会う。彼女は不思議な力を持っていた。その出会いがアルフィーの人生を大きく変えた。彼は今、空へと飛び立つ~守りたいモノがある。見つけたいモノがある。触れていたいモノがある~

おおぅ、神よ……ここからってマジですか?

夢限
ファンタジー
 俺こと高良雄星は39歳の一見すると普通の日本人だったが、実際は違った。  人見知りやトラウマなどが原因で、友人も恋人もいない、孤独だった。  そんな俺は、突如病に倒れ死亡。  次に気が付いたときそこには神様がいた。  どうやら、異世界転生ができるらしい。  よーし、今度こそまっとうに生きてやるぞー。  ……なんて、思っていた時が、ありました。  なんで、奴隷スタートなんだよ。  最底辺過ぎる。  そんな俺の新たな人生が始まったわけだが、問題があった。  それは、新たな俺には名前がない。  そこで、知っている人に聞きに行ったり、復讐したり。  それから、旅に出て生涯の友と出会い、恩を返したりと。  まぁ、いろいろやってみようと思う。  これは、そんな俺の新たな人生の物語だ。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

追放された最強令嬢は、新たな人生を自由に生きる

灯乃
ファンタジー
旧題:魔眼の守護者 ~用なし令嬢は踊らない~ 幼い頃から、スウィングラー辺境伯家の後継者として厳しい教育を受けてきたアレクシア。だがある日、両親の離縁と再婚により、後継者の地位を腹違いの兄に奪われる。彼女は、たったひとりの従者とともに、追い出されるように家を出た。 「……っ、自由だーーーーーーっっ!!」 「そうですね、アレクシアさま。とりあえずあなたは、世間の一般常識を身につけるところからはじめましょうか」 最高の淑女教育と最強の兵士教育を施されたアレクシアと、そんな彼女の従者兼護衛として育てられたウィルフレッド。ふたりにとって、『学校』というのは思いもよらない刺激に満ちた場所のようで……?

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...