勇者の後物語

波動砲

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一悶着解決した所で三人は森に向かって駆けていた。少年を筆頭に青年は後ろから追従し少女は青年の横を走る形である。

「へぇー。あんたこの速度について来れるなんてやるじゃん」

「もっとペース上げてくれて大丈夫ですよ」


「ははっ。言うね。でも強がるなよ」


青年は解せないという面持ちだった。理由は森が町から結構な距離が有るにも関わらず、青年としては少しゆったりとしたペースで走っているように感じるからだ。

(もしかして僕がついて来れないと考えて加減しているのだろうか)

ありがた迷惑な話だと思いつつ、自分の隣でさっきから隠す事もなく不機嫌さを醸し出す少女が突然口を開いた

「あなた名前なんていうの?」

「‥‥‥アリスです。アリス・アンドレア・ピサロ」

「アリス?女みたいな名前ね」

「僕の育ての親は少し変わってましたから。」

「そ。あたしはフレメアよ。あっちはアニキのハイドリヒよ」

フレメアは少しだけ不機嫌さを抑えてくれたようだった

「ねえアリス 一つだけ約束して欲しいの」

「危なくなったら、変な気は起こさず逃げて。生きてこそだよ。死んで得られる物なんて無いんだからね」

そう言ってくれた。青年はその少女の気遣いに対して笑ってしまう

「なんで笑うの?」

彼女は僕の反応が面白くなかったのか顔を顰める

「ごめんごめん。今日は2人も良い人に出逢えて嬉しくて、ついね」

「別に。私は良い人じゃない。」

フレメアはちょっとだけ照れたのかじっと横目で見ていた青年への視線を反らしぼやく

「人が死ぬのを見るのが好きじゃないってだけ」

「じゃあ危なくなったらそうします」

「うん。そうして」

そうこうしている内に、森が見えてくると不意にハイドリヒが足を止めるので青年とフレメアも横並びする形で足を止めた。どうやらハイドリヒの視線は前方の物に見据えられているらしい

「兄さん?なんで急にとまっ……て」

フレメアも視線を顔を顰める兄から外し前方に移動させる

「ん…‥‥‥なにあれ?」

実は目が余り強くないフレメアも初めこそ分からなかったが、魔力を使って視覚強化をすることで直ぐに理解した。森へ続く入口付近に5人の若者が無造作に寝転がっているのが見えたからだ。5人ともただ寝ているのでは無い。身体から綺麗な赤色の液体をぶちまけていた

「‥‥‥」

漸くの間フレメアは言葉を失った。青年アリスも僅かに目を見開いたが、他2人とは違い目に見える動揺を見せることはなかった。3人共目を一瞬交差させ落ち着き払ったペースで足を進ませる

「あれ死体だよね。」


「どうみてもそうだな。」

フレメアはそれ以上口にはしなかったが、わかっているのだろう

「聞いていた人数と一致しています」

アリスは微かに溜息をつく。
 この5つの死体が化物退治に向かった人たちである事が明白であるからだ。
青年が死体に触ると血はベッタリと指に付着する

(血がまだ乾いてない。殺されたのは少し前か。いやそれよりも)

青年が最も気掛かりに感じたのは村人の殺され方だった。仮に化物が殺ったとするなら、どうしてこんなに……

「これも例の化物がやったんだよね」

フレメアは深く静かに、拳を振るわせながら言葉を放つ

「決まってるだろ‥クソっ!もう少し早く来れてたら」

フレメアの言葉にハイドリヒもやるせなさそうに土を蹴る。

「もう誰も死ななくて良いように早く終わらせよう」

怒っている2人を見ているとアリスは自分の頭が余計に冷静になっていくのを青年は感じた

(化物が殺したにしては随分と綺麗な切り口だ)

(人間が武器を使って殺したな、これは)

他の2人とは違う考えがよぎったが、口に出して変な衝突を招く様な事態は避けたい為、口をつぐむ

「この死体はどうします?」

流石に野晒しのまま、というわけにもいかないだろう

「俺が処理しておく。先に行ってろ」

「分かった」

ハイドリヒは死体をずるずると引きずり一箇所に集め、地面に魔法文字を描いていく

「あんまりジロジロ見るのは良くない」

青年の視界を遮る形でフレメアが入ってくる

フレメアは青年のローブの襟元をちょいちょいと引っ張る

「早く行こ。気分悪い」

心なしか、フレメアの顔は血が引いたのか青くなっていた
鬼の森と呼ばれるこの場所は鬱蒼と木々が茂っている為に昼間だろうが薄暗い。だからといって青年とフレメアの行動に大した支障が出るわけではないのだが、フレメアの歩みはやけに重々しく遅い

「良かったんですか?」

青年の言葉にフレメアは弱々しく首を傾げる

「なにが?」

「別々に行動してですよ」

人が死んでいるこんな危ない状況でわざわざ戦力を分散するのはかえって危険ではないだろうか、と言いたいのだろう。

「結構危険じゃありません?」

「そこら辺は大丈V。アニキもあたしも強いから。こう見えてAランクなんだからね!」

右手でV字を作って、元気に振舞うが表情は暗い。森の暗さも相まって暗さ二乗だ

「敵も強いかもしれないのに?」

「だとしても化物には負けない」

「だから安心して」

子供みたいな言い草だが、その瞳には確かな自信が伺い知れた。フレメアもハイドリヒも自身の実力に裏づいての行動だろうから、アリスもとやかく言う必要性を感じなかったのだろう


ただどこか一抹の危うさを感じた。もしかしたら、過去に何かあったのかもしれないが青年はそういった混みいった事情に対して踏みいる真似はしなかった

「今僕たち囲まれてますよ」


その言葉を言うや否や、隠れても無駄だと悟ったのか十数名の屈強そうな男たちが木の陰からぞろぞろと現れる。

「勘のいい兄ちゃんだ」

その手には規格統一された質の良い武器がしっかりと握られておりギラギラと怪しく光っている。フレメアも即座に武器を構える。表情は芳しくなかった。集団の中に明らかに1人レベルの違う者が強い殺気を2人目掛けてぶつけてきていたのだ

「アリス」

緊張の入り混じった声で名前を呼ばれた青年は耳を傾ける

「時間を稼ぐ。逃げて」

フレメアは今の状況が危機的だと判断しているらしく、アリスに逃げるよう指示する

「1人より2人ですよ」

「ばか」

青年はジリジリと迫ってくる男たちを尻目に見ていると、突然リーダー格であろう男が口を開く

「質問だが赤い髪の少女を見たか?」

「ああ。年は14,5位で、背はこれくらい。他に目立つ身体特徴があって」

聞いてない。アリスは男の話を右から左へと聞き流し、フレメアをジッと見つめる。アイコンタクトを取ろうとしたのだ

(僕がこの男を倒します。残りは頼んで良いですか?)

目は口よりものを言う。こうしたやり取りは良くある。フレメアも初めは青年と目を合わせていたが、徐々に顔を赤らめて視線を反らす

「こんな状況でそんなジッと見つめないで。て、照れる」

駄目だった。無理だった。当たり前だ。会って1時間でアイコンタクト出来る様な仲になっている訳がない。
青年は嘆息し、気を取り直した後に適当に落ちていた檜の棒を拾う

「……じゃあ始めましょうか」



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