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‐1336年 日ノ炎月 6日《5月6日》‐
トラウマ 2
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突如、ルイスの腕が猛烈に暴れ出した。
一才の前触れもなく、ルイスの意志に反し、一人でに暴れ出した。ように見えた。
「とまれっ、とまれッ! とまれってっ! オレのカラダだろッ! とまれっ! とまれよ――ッ!」
実際ルイス自身、自らの身体を自らの意思の下、制御できてはいないようにみえた。じゃないとここまで取り乱したりはしない、と思う。
異常だ。
今、私の目の前にいるルイスは、見るからに、誰からも明らかに、異常だった。
ルイスが今までに無い姿で取り乱す様はここ数日で嫌と言うほど見てきた。けどこれは、見たことがない程度ではすまされない。
今の今までのルイスがおかしくなかったとは決して言えないが、それにしてもこれは……あまりにも変……。そう、まさに異常だ。言葉遣いがいつもと違うし、おれって、一度聞いたこともない。急におれって……。そう……、まるで、人格が……変わった……? いやちがう……もっとこう、幼くなった……? そう、幼なくなった、みたいだ――。
「おい! ガキ! いい加減さっさとそいつ連れてどっか行けッつッッてンだろッ!」
あれこれ、頭の中で考え込んでいると不意にシャルルの怒号が鼓膜を叩いた。背中がビクッと跳ねて背筋がピンと伸びる。
そ、そうだった、早くここから離れないと……でも……――。
いつまでも留まってはいられない、それはわかった。しかし、理解はしたものの、ただ一括された程度で即座に行動を起こせるはずもなく、結果私は、ただただ狼狽えることしかできないでいた。
「オイッ――!」
ルイスとシャルル、二人の間で何度も視線が揺れ動く。
おいって言われても……、どうすればいいかなんて私にも――。
「――っ! ルイス! ルイス! ねぇ! ルイスってば! どうしたの!? ねぇ! ルイス!!」
結果、私は叫んだ。手っ取り早い解決方法なんて分からないし、そんな都合よく思い浮かぶはずもない。だから、とにかくただただ必死にルイスの名を呼び、叫んだ。届け、と言わんばかりに叫んだ。しかし、いや、もはや案の定というべきかもしれない、依然ルイスはおかしなままだ。むしろどんどんひどくすらなっている。
「ルイス! ねぇルイスってば! ルイス!」
「いつまでバカみてぇにおんなじこと叫んでるつもりだ! ええ?! いつまでも意味ねェこと続けてンじゃねェ!!」
再び、シャルルの怒号が鼓膜を叩く。気のせいでなければだが、さっきよりも声が大きくなっているように感じた。
「で、でも――!」
反論をしようとした瞬間、食い気味にシャルルが声を挟んできた。
「でももクソもねェンだよ! なんでもいいから殴るなり蹴るなりしてさっさとしろッてンだよ! 飼い主だろうが! 躾の一つや二つあンだろ!!」
「しつけって――! うちにはそんなの――」
すぐさま否定しようとしたが言葉に詰まってしまった。もちろん、私はルイスにそんなことはしたことがない。けれど、他の人のことまでは分からない。
私が言葉に詰まっている隙に、再びシャルルが言葉を挟んできた。
「口答えしてンじゃねェ! テメェらがいると邪魔なンだよ! いいからどうにかしてこッからさっさと離れろッッてンだよ! マジでテメェ売られてェのか、ァア?!」
そ、そんなわけない! は、早く離れないと! だけど、相変わらずルイスはおかしなままだ。どうにか、どうにかしないと、けどこのままルイスを呼び続けたって意味がない――、こうなったらもう無理やり引っ張ってでも――!
私は両手に精一杯の力を込め、ルイスの腕を思いっきり引っ張った。だが、いややっぱりというべきか、ただ力一杯に引っ張ったくらいじゃルイスをここから動かすことはできなかった。
う、動かない、けどもうただ呼んだって意味がない。なら、無理やりにでもここから離れようとするしか――!
私は、改めて抱きつくかのようにルイスの腕を抱えて、掴んだ。
「ルゥゥウイィスゥウゥウーーーー!!」
そのまま声を上げながら、体を限界までのけぞらせ、全体重でもってルイスの腕を引っ張った。すると思っていた以上に体がどんどん後ろへと倒れていくのを感じた。瞬間、ビリリリッと何かが破けるような音がした。思わず目線が音のした方を向く。白い布のようなものが木の枝に引っ掛かっているのが見えた。ふと、肩口に風とともに少しばかりの痛みを感じた。
「ああ……うああ! ああ!」
突如、ルイスは再び声を上げて狼狽出した。直後、私に掴まれていないもう片方の手を、私目がけて真っ直ぐ突き出してきた。ルイスに突き飛ばされた私は、ルイスの手を離れ、そのまま地面に背中をぶつけてしまう。
「ち……! ご、ごめんなさい……! はなれなきゃと思って……、そ、そんな、つもり、じゃ……!」
そう言ってルイスは、徐々に後ろへ下がっていき、ジリジリと私から離れていこうとしている。
突如、何かを思い出したかのようにしてルイスの首が上を向いた。
「そ、そうだ! は、早くエレナ様を呼びにいかないと! じゃ、じゃないとこのままじゃ傷跡が……! 早く屋敷に――」
そう言ってルイスは私に背を向けた。地面を踏み締める音がした。足下が弾け、ルイスは私からどんどん離れていった。
一才の前触れもなく、ルイスの意志に反し、一人でに暴れ出した。ように見えた。
「とまれっ、とまれッ! とまれってっ! オレのカラダだろッ! とまれっ! とまれよ――ッ!」
実際ルイス自身、自らの身体を自らの意思の下、制御できてはいないようにみえた。じゃないとここまで取り乱したりはしない、と思う。
異常だ。
今、私の目の前にいるルイスは、見るからに、誰からも明らかに、異常だった。
ルイスが今までに無い姿で取り乱す様はここ数日で嫌と言うほど見てきた。けどこれは、見たことがない程度ではすまされない。
今の今までのルイスがおかしくなかったとは決して言えないが、それにしてもこれは……あまりにも変……。そう、まさに異常だ。言葉遣いがいつもと違うし、おれって、一度聞いたこともない。急におれって……。そう……、まるで、人格が……変わった……? いやちがう……もっとこう、幼くなった……? そう、幼なくなった、みたいだ――。
「おい! ガキ! いい加減さっさとそいつ連れてどっか行けッつッッてンだろッ!」
あれこれ、頭の中で考え込んでいると不意にシャルルの怒号が鼓膜を叩いた。背中がビクッと跳ねて背筋がピンと伸びる。
そ、そうだった、早くここから離れないと……でも……――。
いつまでも留まってはいられない、それはわかった。しかし、理解はしたものの、ただ一括された程度で即座に行動を起こせるはずもなく、結果私は、ただただ狼狽えることしかできないでいた。
「オイッ――!」
ルイスとシャルル、二人の間で何度も視線が揺れ動く。
おいって言われても……、どうすればいいかなんて私にも――。
「――っ! ルイス! ルイス! ねぇ! ルイスってば! どうしたの!? ねぇ! ルイス!!」
結果、私は叫んだ。手っ取り早い解決方法なんて分からないし、そんな都合よく思い浮かぶはずもない。だから、とにかくただただ必死にルイスの名を呼び、叫んだ。届け、と言わんばかりに叫んだ。しかし、いや、もはや案の定というべきかもしれない、依然ルイスはおかしなままだ。むしろどんどんひどくすらなっている。
「ルイス! ねぇルイスってば! ルイス!」
「いつまでバカみてぇにおんなじこと叫んでるつもりだ! ええ?! いつまでも意味ねェこと続けてンじゃねェ!!」
再び、シャルルの怒号が鼓膜を叩く。気のせいでなければだが、さっきよりも声が大きくなっているように感じた。
「で、でも――!」
反論をしようとした瞬間、食い気味にシャルルが声を挟んできた。
「でももクソもねェンだよ! なんでもいいから殴るなり蹴るなりしてさっさとしろッてンだよ! 飼い主だろうが! 躾の一つや二つあンだろ!!」
「しつけって――! うちにはそんなの――」
すぐさま否定しようとしたが言葉に詰まってしまった。もちろん、私はルイスにそんなことはしたことがない。けれど、他の人のことまでは分からない。
私が言葉に詰まっている隙に、再びシャルルが言葉を挟んできた。
「口答えしてンじゃねェ! テメェらがいると邪魔なンだよ! いいからどうにかしてこッからさっさと離れろッッてンだよ! マジでテメェ売られてェのか、ァア?!」
そ、そんなわけない! は、早く離れないと! だけど、相変わらずルイスはおかしなままだ。どうにか、どうにかしないと、けどこのままルイスを呼び続けたって意味がない――、こうなったらもう無理やり引っ張ってでも――!
私は両手に精一杯の力を込め、ルイスの腕を思いっきり引っ張った。だが、いややっぱりというべきか、ただ力一杯に引っ張ったくらいじゃルイスをここから動かすことはできなかった。
う、動かない、けどもうただ呼んだって意味がない。なら、無理やりにでもここから離れようとするしか――!
私は、改めて抱きつくかのようにルイスの腕を抱えて、掴んだ。
「ルゥゥウイィスゥウゥウーーーー!!」
そのまま声を上げながら、体を限界までのけぞらせ、全体重でもってルイスの腕を引っ張った。すると思っていた以上に体がどんどん後ろへと倒れていくのを感じた。瞬間、ビリリリッと何かが破けるような音がした。思わず目線が音のした方を向く。白い布のようなものが木の枝に引っ掛かっているのが見えた。ふと、肩口に風とともに少しばかりの痛みを感じた。
「ああ……うああ! ああ!」
突如、ルイスは再び声を上げて狼狽出した。直後、私に掴まれていないもう片方の手を、私目がけて真っ直ぐ突き出してきた。ルイスに突き飛ばされた私は、ルイスの手を離れ、そのまま地面に背中をぶつけてしまう。
「ち……! ご、ごめんなさい……! はなれなきゃと思って……、そ、そんな、つもり、じゃ……!」
そう言ってルイスは、徐々に後ろへ下がっていき、ジリジリと私から離れていこうとしている。
突如、何かを思い出したかのようにしてルイスの首が上を向いた。
「そ、そうだ! は、早くエレナ様を呼びにいかないと! じゃ、じゃないとこのままじゃ傷跡が……! 早く屋敷に――」
そう言ってルイスは私に背を向けた。地面を踏み締める音がした。足下が弾け、ルイスは私からどんどん離れていった。
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