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‐1336年 日ノ炎月 6日《5月6日》‐
トラウマ
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抜くぞ、抜くんだ、いくぞ、抜くぞ、抜く、抜くんだ、抜く抜く抜――――。
ドクドクと心臓が激しく脈打っている。何度も息を吸い、次々肺に空気を送り込んでいく。
大丈夫だ俺は落ち着いている。恐れてなどいない。落ち着いている、怖くなどない、大丈夫――。
肺に空気が送られ、胸が膨らんでいき、徐々に心臓の鼓動がぼやけていく。
よし……、よし、よし、大丈夫だ、抜くぞ、抜くんだ、抜くぞ、抜くぞ抜く――――。
顎に精一杯の力を込め爪を噛み締める。
ギミ……ギュミリリリ――。
万力のように、徐々に、確実に、ゆっくりと、しっかりと、力を込めて爪を噛む――。
よし、噛んだぞ、噛んだ、思いっきり噛んだ。後は引っ張るだけだ、押して引っ張るだけ、そうすれば抜ける、抜くことができる、抜くことができるんだ、押しながら引っ張る、ただそれだけ、それだけで、抜ける、抜けるんだ、いくぞ、いく、抜く、いくぞ、抜く、さぁ、抜――――。
フッ、フッ、フッ――。
歯と歯の隙間から息が漏れる。肺から空気が抜けていくたびに一緒に身体中の力も抜けていくかのように感じた。
ドクドクドクドク――。
ぼやけていた心音が徐々に鮮明になっていき身体中を叩く。
フッフッフッ、フッ、フッ、スッスッ、スッ、スッ、スゥー、スゥーッ、スゥーーッ。
どうにかして、呼吸を整え、漏れ出ててしまった空気を再び肺に送り込む。
よし、いくぞ、今度こそ、抜くぞ、抜くんだ、いくぞ、さぁ、いくぞ、抜く、さぁ――。
息を止め、顎に力を込めようとした。瞬間、腕に重さを感じた。歯から爪がすっぽ抜け、腕が下がってしまう。
くそ! 邪魔を――。
腕にまとわりつく何かを振り解こうとして、体に力を込め、腕を持ち上げた。腕にはエレノアお嬢さまがしがみついていた。
お、じょう……さ、ま? なぜ? なぜこんなところに? なんでこんなところにお嬢さまが? なんで腕に?
事態が飲み込めず、まるで時間が停止してしまったかの如く身体全体の動きがピタッと止まった。ただただじっとお嬢さまを見ていることしか出来ない。
おじょう、さまが、私の腕、に……、はなれ、なくては……な……。そ、そうだ! 離れなくては!
停滞していた思考が急激に巡り始め、強制的に眠りから目覚めたかのような感覚と共に、びくりと体が跳ねた。
腕にしがみついていたお嬢様が、ズルりと下へずり落ちた。
危ない!!
思わず手がお嬢様へと向かってのびた。瞬間、触れてはならないという言葉が脳裏をよぎった。お嬢様に向かって伸びていたはずの手の動きがぴたりと止まった。
そうだ、そうなのだ。そもそも私が、私自身が危険なのだ。にもかかわらずいま、私がお嬢様に触れてしまっては元も子もない。しかし、であれば、どうすれば……――。
再び、全身の動きが止まった。お嬢様の体がジワジワと下へと向かいずり落ちていく。
どうすれば……どうすればいいんだ! だがどうしたって、なにをしたって危険だ! しかし、だからと言ってなにもしなくたって危険なままだ! いやしかし、どうすれば……――!
ぐるぐると思考を巡らせ、悩めば悩むほどに時間は過ぎていく。何度も何度も腕を掴み直しながら必死でしがみつくお嬢様が見える。何度も腕を掴み直しているうちにお嬢さまの手が手の甲に触れた。
だめだ、まずい、爪が! 爪に! 触れてしまう! 怪我! 怪我を! だめだ! それだけは! それだけは! 絶対にだめ! い、一旦! 手を! 上に!
手を天に向けようとしたその瞬間、別の危険性が脳裏をよぎった。
いや! なにを考えている! そんなことをしてしまったらお嬢様が落ちてしまう! いや、しかし、ではどうすれば!
新たに、何かがしがみついたような感覚があった。思わず腕が下へと落ちた。
な、あぶな――!
肩にぐっと力を込め、そのまま下にずり落ちそうになった腕をなんとか静止させる。
相変わらずお嬢様は腕にしがみついたままだ。なんとか落下せずに済んだようだ。
ホッとして思わず口から息が漏れるとともに目線が下がり、足元へと向く。土がある。当たり前だ――。
瞬間、思わず呆れてしまうくらいには驚くほど単純な、しかしこれ以上ないくらいの妙案が浮かんだ。
即座に膝を曲げ、お嬢様を地面へと下ろす。
フゥ――。
思わず息が漏れた。なんてことはない、大したことでもない、ただお嬢様を地面に下ろしただけ、ただそれだけ。だが、ただそれだけのことを、お嬢様に、なんの危害も、なんの怪我も負わせることなく、無事に終えることが出来た、ただそれだけの事に心底安心した。
安心で心が満たせれていくにつれて、頭の中を覆っていた不安が薄まっていく。
そう、なんてことはなかった。これだけ、たったこれだけのことで、今の今まで直面していた問題は解決できた。なのに、こんなことすら浮かばなかった。焦っていた、間違いなく。落ち着くべきだった、なにはともなくまずは落ち着こう。
まずは呼吸を整えようとした瞬間、声がした。
「オイ! ガキ、なんとかなりそうか? ちょっとよ、時間なさそうなンだわ。早いとこ――」
「おい貴様、お嬢様に向かってガキとはなんだ――?」
自分でも驚くぐらい滑らかに、口から言葉が発せられた。
言葉とともに足が反射的にシャルルの方へと向く。気が付くとシャルルに向かって詰め寄っている自分がいた。
「あ? なんだ、もう、正気に戻ってんのかよ。なら、早いとこ離れた方がいいみたいだぜ」
意識を鼻へと向かわせる。嗅ぎ慣れた匂いの塊がこちらに向かって近づいてきている。
意識と思考が、たちまち束となり、ひとつに収束していく。
「ぁ……――。ああ、来ているんだろ――」
あまり時間はない、か……、がしかし、これだけは言わねば、しっかりと理解させねばなるまい。
「――人間の貴様が気が付くぐらいだからな、わかっている。が、それよりも、だ! お嬢様のことを、ガキとは――」
「チッ……いちいちうるせぇなァ――。なにがああだ、明らかにいま気ィついてんだろうが。いいからさっさと先ィ行けよ! どうせ、足止めはオレなンだしよ。それにせっかく拾った金だ、拾ってソッコー奪われてちゃたまったもンじゃねェ――」
「……。また後で、しっかりと、必ずッ! 話させてもらうからな!」
着々と近づいて来つつある追っ手に背を向ける。
……――、ここから離れないとな――。
「お嬢様、走れますか? 今すぐにでもここを離れなくてはならなくなりました。申し訳ございませんが私のすぐ後ろをついてきていただけますでしょうか」
問いかけに対して、返ってきたのはお嬢様の声ではなく、シャルルの声だった。
「は? なに呑気なこと言ってンだ! 追っ手が来てンだぞ! ガキに合わせてチャラチャラ走ってる場合じゃアねェだろーが!」
「おい貴様ァッ!!」
パキッ、と小枝が折れる音がした。音の出所へ視線を送る。お嬢様がいる。想定していたよりも少し距離が開いているように思えた。
「おい、テメーがいきなり怒鳴るからオジョウサマビビっちまってんじゃねぇか、バカ。それに、たらたらくっちゃべってッと、来ちまうだろうが、さっさとテメーで抱えていけよバカ」
「い、いや、……それは――」
思わず指先に目がいく。いつもと比べ歪だが、ちゃんとしっかり爪が生えている。
ぐっと力を込め、爪を隠すようにして拳を握った。
「いや、それは……だめだ。私は、お嬢様に触れては……いけない――」
「は? 時間ねーンだよ、いいから急げッつッてンだろーが」
「そういうことではない!」
「そういうことだろーが!! まだイカレたまンまか、ア?! こっちはまだカネ全部もらってねーンだよ! ゴチャゴチャこねくり回してねーでいいからまず動けよ! なァア!」
「イカれてなどいない! 俺はまともだ!! こっちにはこっちの事情があるんだ!!」
「チッ! オイ! ガキ! テメーもだまってねーでなんとか言え、バカ! 飼い主だろーが!」
「まッ! オイ! 貴様ッ!」
「うるせェエッ! だまれッ! さっさと行けよッ!! しまいにゃ攫うぞ!! いいのか?! ア!?」
シャルルの顔がお嬢様の方を向いた。
――! 裏切るつもりか?! やはり雇うべきでは……! くそ――ッ!
シャルルに向かって一歩踏み込んだ。瞬間、腕が締め付けられるような感覚に襲われた。
お嬢様だ――、お嬢様が私の腕を――。はッ! 離れ――!
瞬間、身体が強張る。
う、うごいて、は……動いてはいけない。動いて、怪我、もし、したら――――。
まるで全身氷漬けにでもされたかのように指一本すら動かせない。
し、かし、このまま……で、いるわけ、にも――――。
ブルルルルルル――――ッ!
お嬢様がしがみついている腕が、突如として震え出した。
なっ――! と、とめ、とめなっ! とめないっ、とめなければ――!!
肩から指先にかけてまで、腕全体に込めれるだけの精一杯の力を込める。が、しかし一向に震えは止まらない。
と、とまっ、とま、とまれ! とまれっ! とまれとまれっ、とまれ――――っ!!
「とまれっ、とまれッ! とまれってっ! オレのカラダだろッ! とまれっ! とまれよ――ッ!」
じゃ、じゃないっ、じゃない、じゃないと――、おじょっ、おじょうっ、さっ、が――、えれっ、エレノアおじょっ、エレノアっさまっが――っ。
「エレノアがぁアッ、ケガぁア、しちゃうだろぉおお――――!!」
ドクドクと心臓が激しく脈打っている。何度も息を吸い、次々肺に空気を送り込んでいく。
大丈夫だ俺は落ち着いている。恐れてなどいない。落ち着いている、怖くなどない、大丈夫――。
肺に空気が送られ、胸が膨らんでいき、徐々に心臓の鼓動がぼやけていく。
よし……、よし、よし、大丈夫だ、抜くぞ、抜くんだ、抜くぞ、抜くぞ抜く――――。
顎に精一杯の力を込め爪を噛み締める。
ギミ……ギュミリリリ――。
万力のように、徐々に、確実に、ゆっくりと、しっかりと、力を込めて爪を噛む――。
よし、噛んだぞ、噛んだ、思いっきり噛んだ。後は引っ張るだけだ、押して引っ張るだけ、そうすれば抜ける、抜くことができる、抜くことができるんだ、押しながら引っ張る、ただそれだけ、それだけで、抜ける、抜けるんだ、いくぞ、いく、抜く、いくぞ、抜く、さぁ、抜――――。
フッ、フッ、フッ――。
歯と歯の隙間から息が漏れる。肺から空気が抜けていくたびに一緒に身体中の力も抜けていくかのように感じた。
ドクドクドクドク――。
ぼやけていた心音が徐々に鮮明になっていき身体中を叩く。
フッフッフッ、フッ、フッ、スッスッ、スッ、スッ、スゥー、スゥーッ、スゥーーッ。
どうにかして、呼吸を整え、漏れ出ててしまった空気を再び肺に送り込む。
よし、いくぞ、今度こそ、抜くぞ、抜くんだ、いくぞ、さぁ、いくぞ、抜く、さぁ――。
息を止め、顎に力を込めようとした。瞬間、腕に重さを感じた。歯から爪がすっぽ抜け、腕が下がってしまう。
くそ! 邪魔を――。
腕にまとわりつく何かを振り解こうとして、体に力を込め、腕を持ち上げた。腕にはエレノアお嬢さまがしがみついていた。
お、じょう……さ、ま? なぜ? なぜこんなところに? なんでこんなところにお嬢さまが? なんで腕に?
事態が飲み込めず、まるで時間が停止してしまったかの如く身体全体の動きがピタッと止まった。ただただじっとお嬢さまを見ていることしか出来ない。
おじょう、さまが、私の腕、に……、はなれ、なくては……な……。そ、そうだ! 離れなくては!
停滞していた思考が急激に巡り始め、強制的に眠りから目覚めたかのような感覚と共に、びくりと体が跳ねた。
腕にしがみついていたお嬢様が、ズルりと下へずり落ちた。
危ない!!
思わず手がお嬢様へと向かってのびた。瞬間、触れてはならないという言葉が脳裏をよぎった。お嬢様に向かって伸びていたはずの手の動きがぴたりと止まった。
そうだ、そうなのだ。そもそも私が、私自身が危険なのだ。にもかかわらずいま、私がお嬢様に触れてしまっては元も子もない。しかし、であれば、どうすれば……――。
再び、全身の動きが止まった。お嬢様の体がジワジワと下へと向かいずり落ちていく。
どうすれば……どうすればいいんだ! だがどうしたって、なにをしたって危険だ! しかし、だからと言ってなにもしなくたって危険なままだ! いやしかし、どうすれば……――!
ぐるぐると思考を巡らせ、悩めば悩むほどに時間は過ぎていく。何度も何度も腕を掴み直しながら必死でしがみつくお嬢様が見える。何度も腕を掴み直しているうちにお嬢さまの手が手の甲に触れた。
だめだ、まずい、爪が! 爪に! 触れてしまう! 怪我! 怪我を! だめだ! それだけは! それだけは! 絶対にだめ! い、一旦! 手を! 上に!
手を天に向けようとしたその瞬間、別の危険性が脳裏をよぎった。
いや! なにを考えている! そんなことをしてしまったらお嬢様が落ちてしまう! いや、しかし、ではどうすれば!
新たに、何かがしがみついたような感覚があった。思わず腕が下へと落ちた。
な、あぶな――!
肩にぐっと力を込め、そのまま下にずり落ちそうになった腕をなんとか静止させる。
相変わらずお嬢様は腕にしがみついたままだ。なんとか落下せずに済んだようだ。
ホッとして思わず口から息が漏れるとともに目線が下がり、足元へと向く。土がある。当たり前だ――。
瞬間、思わず呆れてしまうくらいには驚くほど単純な、しかしこれ以上ないくらいの妙案が浮かんだ。
即座に膝を曲げ、お嬢様を地面へと下ろす。
フゥ――。
思わず息が漏れた。なんてことはない、大したことでもない、ただお嬢様を地面に下ろしただけ、ただそれだけ。だが、ただそれだけのことを、お嬢様に、なんの危害も、なんの怪我も負わせることなく、無事に終えることが出来た、ただそれだけの事に心底安心した。
安心で心が満たせれていくにつれて、頭の中を覆っていた不安が薄まっていく。
そう、なんてことはなかった。これだけ、たったこれだけのことで、今の今まで直面していた問題は解決できた。なのに、こんなことすら浮かばなかった。焦っていた、間違いなく。落ち着くべきだった、なにはともなくまずは落ち着こう。
まずは呼吸を整えようとした瞬間、声がした。
「オイ! ガキ、なんとかなりそうか? ちょっとよ、時間なさそうなンだわ。早いとこ――」
「おい貴様、お嬢様に向かってガキとはなんだ――?」
自分でも驚くぐらい滑らかに、口から言葉が発せられた。
言葉とともに足が反射的にシャルルの方へと向く。気が付くとシャルルに向かって詰め寄っている自分がいた。
「あ? なんだ、もう、正気に戻ってんのかよ。なら、早いとこ離れた方がいいみたいだぜ」
意識を鼻へと向かわせる。嗅ぎ慣れた匂いの塊がこちらに向かって近づいてきている。
意識と思考が、たちまち束となり、ひとつに収束していく。
「ぁ……――。ああ、来ているんだろ――」
あまり時間はない、か……、がしかし、これだけは言わねば、しっかりと理解させねばなるまい。
「――人間の貴様が気が付くぐらいだからな、わかっている。が、それよりも、だ! お嬢様のことを、ガキとは――」
「チッ……いちいちうるせぇなァ――。なにがああだ、明らかにいま気ィついてんだろうが。いいからさっさと先ィ行けよ! どうせ、足止めはオレなンだしよ。それにせっかく拾った金だ、拾ってソッコー奪われてちゃたまったもンじゃねェ――」
「……。また後で、しっかりと、必ずッ! 話させてもらうからな!」
着々と近づいて来つつある追っ手に背を向ける。
……――、ここから離れないとな――。
「お嬢様、走れますか? 今すぐにでもここを離れなくてはならなくなりました。申し訳ございませんが私のすぐ後ろをついてきていただけますでしょうか」
問いかけに対して、返ってきたのはお嬢様の声ではなく、シャルルの声だった。
「は? なに呑気なこと言ってンだ! 追っ手が来てンだぞ! ガキに合わせてチャラチャラ走ってる場合じゃアねェだろーが!」
「おい貴様ァッ!!」
パキッ、と小枝が折れる音がした。音の出所へ視線を送る。お嬢様がいる。想定していたよりも少し距離が開いているように思えた。
「おい、テメーがいきなり怒鳴るからオジョウサマビビっちまってんじゃねぇか、バカ。それに、たらたらくっちゃべってッと、来ちまうだろうが、さっさとテメーで抱えていけよバカ」
「い、いや、……それは――」
思わず指先に目がいく。いつもと比べ歪だが、ちゃんとしっかり爪が生えている。
ぐっと力を込め、爪を隠すようにして拳を握った。
「いや、それは……だめだ。私は、お嬢様に触れては……いけない――」
「は? 時間ねーンだよ、いいから急げッつッてンだろーが」
「そういうことではない!」
「そういうことだろーが!! まだイカレたまンまか、ア?! こっちはまだカネ全部もらってねーンだよ! ゴチャゴチャこねくり回してねーでいいからまず動けよ! なァア!」
「イカれてなどいない! 俺はまともだ!! こっちにはこっちの事情があるんだ!!」
「チッ! オイ! ガキ! テメーもだまってねーでなんとか言え、バカ! 飼い主だろーが!」
「まッ! オイ! 貴様ッ!」
「うるせェエッ! だまれッ! さっさと行けよッ!! しまいにゃ攫うぞ!! いいのか?! ア!?」
シャルルの顔がお嬢様の方を向いた。
――! 裏切るつもりか?! やはり雇うべきでは……! くそ――ッ!
シャルルに向かって一歩踏み込んだ。瞬間、腕が締め付けられるような感覚に襲われた。
お嬢様だ――、お嬢様が私の腕を――。はッ! 離れ――!
瞬間、身体が強張る。
う、うごいて、は……動いてはいけない。動いて、怪我、もし、したら――――。
まるで全身氷漬けにでもされたかのように指一本すら動かせない。
し、かし、このまま……で、いるわけ、にも――――。
ブルルルルルル――――ッ!
お嬢様がしがみついている腕が、突如として震え出した。
なっ――! と、とめ、とめなっ! とめないっ、とめなければ――!!
肩から指先にかけてまで、腕全体に込めれるだけの精一杯の力を込める。が、しかし一向に震えは止まらない。
と、とまっ、とま、とまれ! とまれっ! とまれとまれっ、とまれ――――っ!!
「とまれっ、とまれッ! とまれってっ! オレのカラダだろッ! とまれっ! とまれよ――ッ!」
じゃ、じゃないっ、じゃない、じゃないと――、おじょっ、おじょうっ、さっ、が――、えれっ、エレノアおじょっ、エレノアっさまっが――っ。
「エレノアがぁアッ、ケガぁア、しちゃうだろぉおお――――!!」
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最後まで読んでくださりありがとうございます。よろしければ、評価、ブックマークもよろしくお願いいたします。感想、批評好評、誤字脱字報告などいただけるもの全てありがたく頂戴いたします。
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