アルビノ少女と白き真炎龍《ヴェーラフラモドラコ》〜家の近くの森で絶滅したはずの龍を見つけたので、私このまま旅にでます〜

辺寝栄無

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‐1336年 日ノ炎月 6日《5月6日》‐

大丈夫。きっと、大丈夫――。

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「待って――!」

 身を乗り出し、私が声を上げた瞬間、ルイスに向かって飛びつくエスペラの姿が見えた。

 ルイスの腕に器用に爪を引っ掛けて掴まり、ぶら下がるエスペラ。

「な、――!? なんだ! は、はなせ! 邪魔をするな!」

 ルイスは、自身の腕にしがみつくエスペラを引き剥がそうとして肘を振り回し始めた。

 しかし意外にも、エスペラはしぶとくルイスの腕を掴まり続けている。

「しつッこい! いい加減に、しろッ!!」

 ルイスは、自身の腕にしがみつくエスペラの首を掴み、思いっきり引っ張りって後ろへと放り投げた。

 あ――!

 空中に放り出されたエスペラを受け止めようとして、急いで手を伸ばすが全くもって間に合いそうもない。

 瞬間、エスペラを受け止める手が見えた。

「オイ! 雑に扱ってンじゃねェ! 価値が落ちたらどうしてくれンだ、クソが」

 聞き覚えのある荒い口調とともに、目の前に予想だにしていなかった人物が現れた。

「シ、シャルル?!!?」

 驚きとともに、数々の疑問が頭の中に押し寄せてくる。

「な、え、なん、ここ――」

 あまりの出来事に、思考が全く追いつかずうまく言葉が出せないで、ただ口をぱくつかせているだけの私を尻目に、シャルルはエスペラを掴んだままあちこちいろんな角度から何かを確認しているようだった。

 そ、そうだ! 呆けている場合ではない! エスペラが! エスペラが連れて行かれてしまう!!

「は、離して!!」

 私は、シャルルに向かって飛びかかった。

「おっと、――」

「な――!」

 しかし、私の決死の飛び込みはあっさりとかわされてしまい、ただただ虚しく空を切った。だからといってたった一回ごときで諦めるわけにはいかない。私は、再び精一杯の力を込め地面を蹴った。途端、ゴツゴツとした硬い何かが額に触れた。視線を上へと動かすとシャルルの手が見えた。

「そうあせンじゃねェよ、ほら――」と言ってシャルルは手を開き、エスペラを地面へと還した。私は訳もわからずただぼうっとそれを眺めていた。

「てかよ、あれ止めなくていいのかよ」

 そう言って親指を立て、後ろを指差しながらシャルルは言葉を続ける。

 直後、ぎりりと何かを噛み締める音がした。音のした方へと視線を送る。自身の爪を噛み締め、引っ張るルイスの姿が見えた。

「な……! なにしてるのルイス!!」

 声が聞こえていないのか、私を無視して引き続き自らの手で自身の腕を引っ張り続けるルイス。

 と、止めないと……! で、でもどうやって……。

 私が尻込みしていると、再びシャルルの声が聞こえてきた。

「まぁ、よくやってンならいいんだけどよ」

「よくやってない! あ、あんなこと、よくやってるわけないじゃない!」

「あ? あ、そう。じゃあ、今すぐやめさせろよ。飼い主だろ」

 か、飼い主って……! いや、今はそんなこと言ってる場合じゃなくて――。そう、わかってる。やめさせなきゃいけないのはわかっている。でも……――。

 どうやってルイスを止めるべきか悩んでしまい、なかなか動き出せないでいると、再びシャルルが話しかけてきた。

「なぁ、止めるんなら、さっさと止めてくンねぇか。さっきからずっと唸っててうるせェンだよ。まぁ、犬が吠えンのは珍しいことじゃねぇのかもしンねェけど、あれは、なぁ……。マジでキメェんだわ――。それに、こっちにも時間ってもんがあるしよ」

 ルイスに対する侮辱が多分に含まれているにも関わらず、私は、どうすればいいの? と思わず、助けを求めるかのような表情をシャルルに向けてしまう。

「は? え、あ? オレに止めろってのかよ!? なんでオレが! やだよ、気持ちわりィ! 飼い主のテメェが止めるのがギムってもんだろうがよ」

 ゆるゆると力なく、顔がルイスの方を向く。

 シャルルなんかに助けを求め、挙句あっけなく突き放され、なにをどうすればいいのか分からなくなった今の私には、ただただルイスを眺めていることしかできなかった。

「え、マジで止めねぇの?」

 シャルルの声がした。再びゆっくりと、顔がシャルルの方を向いていく。

「テメェ、そんなにビビリだったか? なににそんなビビってンのか知ンねェけどよ。さっさと早ェとこ止めてくれよな。じゃねェとオレも困ンだよ」

 シャルルは、わざとらしく大きなため息をつく。そして何かに気が付いたのか、再びルイスを見るシャルル。

 「お、ハァハァ言わなくなったな」

 直後、ギミリリリ――、と爪が噛み締められる音がした。

 ど、どうしよう……――。

 反射的に顔がルイスの方へと向く。 

 あまりにもどうしようもなくなり、訳もわからず、ルイスとシャルルの顔を何度も何度も見比べてしまう。

 シャルルの口から舌打ちをする音が聞こえた。

「やンねェっつッてンだろ!」

 助けを求めても意味がないと分かり、そもそも誰に助けを求めているんだという話ではあるが、思わず顔が下を向いてしまう。

「てかよ、なにそんなに考えてンのかしンねぇけど、オレらに突っかかった時みてェに突っ込ンでいきゃあいいじゃねェか」

 瞬間、身体中を空気が巡るような感覚がした。

「ガキのくせして、利口ぶって考えてンじゃねェよ。だいたいが、そもそもバカなんだから、バカ考えたって意味ねェンだからよ。いいからバカは体動かしてりゃ――――」

 頭が冴えて、視界が広がっていく。服の裾を引っ張り、私をルイスのいる方へと導こうとしているエスペラが見える。

 つま先がルイスの方を向いた。

 大丈夫なんだ、そう、大丈夫大丈夫大丈――――。

 気がつくと、私の足は力強く地面を蹴り出していた。
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