アルビノ少女と白き真炎龍《ヴェーラフラモドラコ》〜家の近くの森で絶滅したはずの龍を見つけたので、私このまま旅にでます〜

辺寝栄無

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‐1336年 日ノ炎月 5日《5月5日》‐

エスペラを追って 2

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 一歩、前に踏み出した途端、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ついて行ってはいけません!!」

 振り返るとルイスがいた。

 相当急いでいたのか、距離が開いているにも関わらずこっちまでルイスの息遣いが聞き取れる。かなり呼吸が荒れているようだ。

「お、嬢様……! ついて、行っては、いけません……!!」

 よほど苦しいのか、ルイスは激しく肩を上下させながら必死に言葉を発していた。

「おい、犬! オレらに挨拶もなしかよ、エエ?!」

 短気な男がイラつきをあらわにしながら言葉を発した。

「お嬢様、みんなで……、みんなで、一緒に、家に、帰りましょう」

 ルイスは男の言葉を無視し、言葉を続ける。

「無視とはいい度胸じゃねぇか、ア? 犬風情がよ……。調子こいてンじゃねェぞ!!」」

 短気な男は独り言のように小さく呟き始め、最後には怒鳴り声を上げた。

「黙れ。今俺は、お嬢様と、話して、いるんだ。それに、貴様に、仕えた、覚えは、ない」

 唸り声のような低い声でルイスが言葉を発する。しかし呼吸が荒れているせいか、ところどころ変なところで言葉に詰まってしまっている。

 胸の内でエスペラがぶるぶると身を震わせ出した。

「あ? テメェら犬はな、人間様に使われるために存在する生まれついての奴隷種族だろうが!」

 短気な男は、変に抑揚がかった声で周りに当たり散らすようにして叫んだ。

「なる、ほど、ずいぶんと、素晴らしい、思想を、お持ちのよう、だな」

 ルイスは前傾姿勢を解いて背筋を伸ばし、呼吸を整えた後、言葉を続ける。

「もしかしてどこかのお貴族様だったか? いやなにずいぶんと見窄らしい格好なもので気付くのが遅れてしまった、これはこれは申し訳ない。しかし、にしてはずいぶんと乱暴な言葉をお使いのようだが?」

 まるで挑発するような態度でルイスは言葉を並び立てる。

「テメェ……」

 短気な男は一瞬、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、歯噛みした。

「落ち着け。あんな見え見えの挑発に簡単に乗るな」

 短気な男を制止させるかのように、もう一人の男は声を発した。

「うるせェ!! んなこたァアわかッてンだよ! けどアイツは言ッちゃならねェこと言いやがッた! それでよォお! 黙ってられるかッてンだよ!!」

「いいから少しは落ち着け」

 短気な男は、一度空を仰ぎ大きく息を吐いた。

 短気な男が落ち着きを取り戻そうとした素振りを見てからか、ルイスはすかさずもう一度煽っていく。

「こんな生意気な奴隷を野放しにして置くなんて、随分とお優しい貴族様だ。それとも責任放……――」

 が、もう一人の男がルイスの言葉を遮る。

「いいかシャルル、よく聞け。奴は、大事な大事なお嬢様から俺たちを少しでも引き離したい――」

 男は一度言葉を切り、ルイスの方に顔を向けた。

「なぁ、そうだろう? ルイス殿。だったか?」

 男の問いかけに対してルイスからの返事はない。

「そうか、まぁいい。そんなルイス殿にいいこと教えてやろう。そうだな、これは俺たちよりもエレノア嬢から言ってやった方がいいだろう」

 そう言って男は私の方を向いて、手のひらを差し出してきた。

 いきなり話を振られた私は、なにを話せばいいのか分からず戸惑ってしまう。

「ルイス殿に、これからエレノア嬢はなにがしたいのか教えてやるといい。ほら」

 そう言われてやっと気が付いた。

「――私、帰らない! 家には戻らないから!」

「な! なにを言っているんですか、お嬢さま!!」

「もう、家には帰らないから。この人たちがいい場所を知ってるって、だからもう私、家を出るって決めたの!」

「お嬢様……な、なにを……――」

 ルイスは、理解が追いつかないといった表情を浮かべながら、その場に固まってしまった。

「と、いうことだルイス殿。お分かりになられたかな?」

 追い討ちをかけるかの如く、男がルイスに語りかける。

 隣の短気な男はニヤニヤとした表情を浮かべながら、心底楽しそうにルイスを見ている。

「……な、なぜそんな素性もしれない男たちについていくとおっしゃるのですかお嬢様! なぜ?!」

「なぜって、それは我々が友人同士で信頼し合っているからだ。だろ、エレノア嬢?」

「そ、そうよ! 友人だからよ! あ、えっと……――」

 そう言えば私はまだ二人の名前を知らなかった。

 思わず言葉に詰まってしまう。

「おっと、これは紹介が遅れてしまって申し訳ないな、エレノア嬢。俺がシモン、でこっちが――」

 男は隣の短気な男に視線を送る。

「シャルルだ」

 短気な男は、ニヤニヤしながら答えた。

「名前すらまともに名乗れぬ貴様らとお嬢様が信頼し合っているだと……。そんな、そんなわけが――!」

 ルイスの肩がワナワナと震え出した。

「ないだろう!!!!」

 抑えていた何かが爆発したみたいにルイスは大声を上げた。

 抱えているエスペラの震えが大きくなる。

「「ないだろうと言われても、な」ァ」

 シモンとシャルルの二人が同時に私の方に顔を向ける。

「そ、そうよ!!」

 少し吃りながらも、私は二人に力強く答えた。

「そ、そんなわけ……――」

「それでは、向かおうか。エレノア嬢」

「そ、そうね……」

 私が、シモンとシャルルの方を向き足を一歩踏み出したその時、後ろから声がした。

「そうか、わかりました。今理解いたしました。お嬢様」

 そう言ってルイスは、俯きながら呪詛のように続きの言葉を紡いでいく。

「無理矢理言わされているのですね。そうなんですねお嬢様。大丈夫お嬢様はもうなにも言わなくても大丈夫です。そのままお待ちになっててください。今すぐ助け出しますから安心してください。お嬢様大丈夫です。お嬢様はただお待ちになっててください。ただ待っててくださいすぐ済みますから。だからお嬢様これが家に済んだら帰りましょう」

 ルイスはまるでその場にうずくまるかのようにギュッと、体を丸め始めた。

「そうしましょう」

 何かを感じ取ったのかシモンとシャルルは同時に武器に手をかけた。

 シッ、と鋭く短く息を吐くかのような音がした。

 次の瞬間、ルイスがシモンとシャルル目がけて飛び出したのが見えた。
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