アルビノ少女と白き真炎龍《ヴェーラフラモドラコ》〜家の近くの森で絶滅したはずの龍を見つけたので、私このまま旅にでます〜

辺寝栄無

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‐1336年 日ノ炎月 5日《5月5日》‐

お嬢様を探して

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 お嬢様が姿を消してからどれくらいの時間が経っただろうか……――。     

 冷静さを欠き、焦りばかりが先行しているせいか平常時の感覚を失い、まともに時間を把握することができない。    

 すぐにでも、お嬢様の居場所を突き止めねば。だが、何故だかわからないがお嬢様の匂いが一切感じられない。鼻に異常でもきたしているのか。いやしかし、空気や土などの匂いは問題なく感じられている。

 今、立っているこの地点を境にしてお嬢様の匂いだけがパッタリと消えている。いや匂いだけではない、足跡も途切れている。本来続くはずの痕跡そのものが消えてしまっている。ということは、やはり鼻がおかしくなったのではない。他に原因がある。一刻も早く突き止めねば。今こうしている間にもお嬢様に危険が及んでいるかもしれない。しかしだ、判断材料があまりにもなさすぎる。なんせ目の前からいきなり消えたんだ。それも触れることすら叶わずに……――。    

 目を細め、地面に視線を落とし注視する。すると一つの違和感を覚えた。   

 足跡が、消えている――。    

 鼻を鳴らし、今一度匂いを確認する。驚くことに消えているのは足跡だけではなかった。匂いも消えている。   

 自然に消えた、のか――? いや、雨も降っていなければ風すらない、なのにさっきまであったはずの痕跡がこんなにも早く消えるなど、そんなこと……あり得るわけがない。

 こんなこと魔法でもなければ――。……魔法。まさか。いや、しかしいくら魔法と言えど人一人を痕跡丸ごと消し去るなどそんなことが可能なのか……。いや、今は可能かどうかを判断することよりも、魔法という可能性が浮上したことの方が重要だ。早急に対処しなければ。しかし魔法が原因である場合、私一人ではどうしようもない。今すぐにでもこのことをアデルバート様にお伝えし捜索隊と専門家の手配を進めてもらわねば……――。 
 
 ……この失態が奥様に伝わってしまった場合、いくらエリナ様の遺言があるとはいえ、もう私はお役御免となってしまうだろう……。いや、いまは何よりもお嬢様の捜索が第一だ――。    

 奥歯を噛みしめ、唾を飲み込み、深く息を吸う。

 ハァァアァァ――。

 歯を食いしばったまま、ゆっくりと肺の中の空気を全て吐き出していく。下唇に犬歯が引っかかる。上半身を前に倒す。肺が空になる。背中を丸め、地面を蹴った。

 顔と地面が触れてしまうほどの前傾姿勢を維持したまま、徐々に走る速度を上げていく。僧帽筋や大円筋などの肩、背中周りの筋肉を器用に動かし肩甲骨の位置を変え、四足走行の準備を整えていく。     

 独自の筋肉操作術により、肩甲骨を両肩の横付近に移動させたルイスの腕は、走る前よりも伸びており四足走行に適した長さを得た。最速で走るための準備も整い、いよいよ手が地面に触れかけたその時、ガラスに亀裂が入る様な音が後方から聞こえてきた。    

 雷が落ちたような様な激しい破裂音の後、締め切った窓を開けた時の周りの空気全てが入れ替わる様な感覚があった。ひんやりとした澄んだ空気に混ざって深くて濃い、植物や土の匂いが鼻筋を通り抜ける。そう例えるなら深緑の香りとでも言うべきだろうか。   

 瞬間、深緑の香りの中に紛れて、微かにだが、残り香ではない新たに空気中に漂い始めたエレノアの匂いを感じ取った。    

 さっきまでいた場所から……、いや、その先、もっと奥の方から匂いが漂ってきている?    

 フュッッッ――!   

 一瞬で肺の中に溜まっている空気を全て吐き出す。限界まで体を丸め、目の前の木の幹に向かって地面を蹴り上げた。空中で体を半回転させ、今出ている速度を維持したまま勢いを殺さぬよう、足全体が幹に触れるよりも早く木の幹を蹴った。   

 匂いの道を辿り、銃口から放たれた弾丸の如く森の中を駆け抜けていく。 
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