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夢、あるいは……。
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「ハァハァハア……ンッッ! ッ、カハッ……ハッハアッハァ――」
足元に広がるのはおよそ整備などされていないであろう荒れた道。今にももつれそうな足を必死で動かし呼吸すらまともにできなくなるほどの全速力で森の中を駆け抜けていく。
追手との差はどれぐらい残されているだろうか。バランスを崩して転んでしまわないように気を付けながら後ろを振り向き確認する。
視線の先には追手の姿が木々の隙間からチラチラと見えた。ついさっきまでは豆粒ほどの大きさだった追手は、もう小指ほどの大きさになるまで迫って来ている。
目視で確認する限りの情報だと、追手は獣人種、それも追跡に特化した能力を持つ狼犬人かと思われた。
追手の走り方は独特であり、狼犬人特有の地面に手をつけて四足獣のような格好で走る特殊な走法でこちらに追ってきていた。よほど私たちを逃がしたくはないのだろう、本気で捕まえに来ていることが嫌でもこちらに伝わってくる。
種族、年齢、経験……理由を挙げていけばキリはないが、とにかく色々と差があり過ぎた。見つかってしまった時点でもうすでに詰んでいるようなものだった。
諦めの文字が頭にちらついたその時、ふと隣からキュウキュゥと鳴き声が聞こえてきた。
声のする方向を向くと、そこには小さな子供の龍がいた。ドタバタとおぼつかない足取りで、後ろを走っていたはずの龍はいつの間にか、私のすぐ隣まで追いついて来ていた。
まだ生まれて間もない子供が走るには、この森の獣道は厳しかっただろうに。いまだ足取りはおぼつかないが、それでも必死で私を追いかけて来ていたのだ。
そうだこの子の、エスペラのためにも絶対につかまるわけにはいかない。
エスペラは本物の龍である。それも今では、まずお目にかかれることなどないであろう、飛龍や竜擬きではない正真正銘、本物の龍だ。その皮や骨や肉、果ては鱗の一枚一枚すらも非常に希少であり、しかも生きている個体ときている。その価値はそう簡単に計り知れるものではない。もし追手に捕まってしまったらいったいどんな扱いを受けてしまうのだろう。もう私だけの問題ではない。そう考えると少しだけ力が湧いてくる様だった。
ちょっとでも早く走れるように最後の気力を振り絞り必死で体を動かす。だがその瞬間、ドクリと心臓が大きく跳ねるような感覚がした。体中からじわりと脂汗がにじんだ。手足に何か、まとわりつくような重さを感じ、視界が端から徐々に黒く染められていく。
気が付けば、いつのまにかもう走ることすらままならないほど体力を消耗していた。追い討ちとばかりに心臓がより一層激しく鼓動をし始める。もう手足だけでなく体全体が鉛のように重い。まるで心という器から溢れ出た不安が体全体を塗りつぶしていくかのように感じた。足取りはひどく重い。周りの音は、激しく鼓動を続ける心臓の音に掻き消されてまともに聞こえやしない。視界のほとんどは黒いモヤで埋め尽くされ何とか足元が確認できる程度だ。
もはや走っているとは言えず、満身創痍の状態でどうにか足だけでも動かし続けていたが、ついに地面から飛び出た木の根に足を取られてしまった。
バランスを崩し、その場に倒れこんでしまう。すぐに立ち上がろうとするが、身体は荒れに荒れた呼吸を整えるのに精一杯で手一つ動かすことすらままならない。そんな中、ドクドクと激しく鼓動を続ける心臓の音に紛れてギュウギュゥという鳴き声のような音が微かに聞こえてきた。
直後、何かに引っ張られるような感覚があった。感覚の正体を確かめたいと思ったが視界はいまだボヤけたままだ。目を細め、多少なりとも視界を安定させた後、引っ張られている感覚のする方を向く。
そこには服の裾をくわえて私を引っ張ろうとしているエスペラの姿があった。残念ながら力が足りず引きずることすら出来てはいなかったが。
エスペラは刻一刻を争うこの状況で、一匹で逃げることなく、引きずってでも私と一緒に逃げようとしてくれていた。なのに私は今、何をしている。私の目的はなんだ。エスペラを逃す事だ。地面に突っ伏して立ち止まっている暇など一秒たりとも存在しない。
私は歯を食いしばりながらも腕に精一杯の力を込めて必死の思いで体を持ち上げた。
何とか上半身を持ち上げることに成功しそのまま立ち上がろうとしたが、なぜか急にエスペラが今まで聞いたことのない低い唸り声の様な音を出し、何かに向けて吠え始めた。
無理やり立ち上がろうとする私の姿に驚いたのだろうか、それともエスペラなりの応援だろうか。しかしそれにしてはあまりにも激しい……。そうこれではまるで威嚇――。
後ろに何かあるのだろうか。
不安になり、エスペラが吠え続ける理由を確かめるためにも、首をひねりすぐ後ろを振り向こうとした。だがその時、ふわりと体ごと抱え上げられる様な感覚がした。
まさか、もう……。
頭の中が黒く塗りつぶされていく。もはや何も考えられず、徐々に体から力が抜けていくようだった。重力に逆らうことをやめた私の体は、まるで物干し竿に掛けられた洗濯物の様にだらんとしていた。
すべてを諦めた私はそのまま目を閉じてしまった――。
足元に広がるのはおよそ整備などされていないであろう荒れた道。今にももつれそうな足を必死で動かし呼吸すらまともにできなくなるほどの全速力で森の中を駆け抜けていく。
追手との差はどれぐらい残されているだろうか。バランスを崩して転んでしまわないように気を付けながら後ろを振り向き確認する。
視線の先には追手の姿が木々の隙間からチラチラと見えた。ついさっきまでは豆粒ほどの大きさだった追手は、もう小指ほどの大きさになるまで迫って来ている。
目視で確認する限りの情報だと、追手は獣人種、それも追跡に特化した能力を持つ狼犬人かと思われた。
追手の走り方は独特であり、狼犬人特有の地面に手をつけて四足獣のような格好で走る特殊な走法でこちらに追ってきていた。よほど私たちを逃がしたくはないのだろう、本気で捕まえに来ていることが嫌でもこちらに伝わってくる。
種族、年齢、経験……理由を挙げていけばキリはないが、とにかく色々と差があり過ぎた。見つかってしまった時点でもうすでに詰んでいるようなものだった。
諦めの文字が頭にちらついたその時、ふと隣からキュウキュゥと鳴き声が聞こえてきた。
声のする方向を向くと、そこには小さな子供の龍がいた。ドタバタとおぼつかない足取りで、後ろを走っていたはずの龍はいつの間にか、私のすぐ隣まで追いついて来ていた。
まだ生まれて間もない子供が走るには、この森の獣道は厳しかっただろうに。いまだ足取りはおぼつかないが、それでも必死で私を追いかけて来ていたのだ。
そうだこの子の、エスペラのためにも絶対につかまるわけにはいかない。
エスペラは本物の龍である。それも今では、まずお目にかかれることなどないであろう、飛龍や竜擬きではない正真正銘、本物の龍だ。その皮や骨や肉、果ては鱗の一枚一枚すらも非常に希少であり、しかも生きている個体ときている。その価値はそう簡単に計り知れるものではない。もし追手に捕まってしまったらいったいどんな扱いを受けてしまうのだろう。もう私だけの問題ではない。そう考えると少しだけ力が湧いてくる様だった。
ちょっとでも早く走れるように最後の気力を振り絞り必死で体を動かす。だがその瞬間、ドクリと心臓が大きく跳ねるような感覚がした。体中からじわりと脂汗がにじんだ。手足に何か、まとわりつくような重さを感じ、視界が端から徐々に黒く染められていく。
気が付けば、いつのまにかもう走ることすらままならないほど体力を消耗していた。追い討ちとばかりに心臓がより一層激しく鼓動をし始める。もう手足だけでなく体全体が鉛のように重い。まるで心という器から溢れ出た不安が体全体を塗りつぶしていくかのように感じた。足取りはひどく重い。周りの音は、激しく鼓動を続ける心臓の音に掻き消されてまともに聞こえやしない。視界のほとんどは黒いモヤで埋め尽くされ何とか足元が確認できる程度だ。
もはや走っているとは言えず、満身創痍の状態でどうにか足だけでも動かし続けていたが、ついに地面から飛び出た木の根に足を取られてしまった。
バランスを崩し、その場に倒れこんでしまう。すぐに立ち上がろうとするが、身体は荒れに荒れた呼吸を整えるのに精一杯で手一つ動かすことすらままならない。そんな中、ドクドクと激しく鼓動を続ける心臓の音に紛れてギュウギュゥという鳴き声のような音が微かに聞こえてきた。
直後、何かに引っ張られるような感覚があった。感覚の正体を確かめたいと思ったが視界はいまだボヤけたままだ。目を細め、多少なりとも視界を安定させた後、引っ張られている感覚のする方を向く。
そこには服の裾をくわえて私を引っ張ろうとしているエスペラの姿があった。残念ながら力が足りず引きずることすら出来てはいなかったが。
エスペラは刻一刻を争うこの状況で、一匹で逃げることなく、引きずってでも私と一緒に逃げようとしてくれていた。なのに私は今、何をしている。私の目的はなんだ。エスペラを逃す事だ。地面に突っ伏して立ち止まっている暇など一秒たりとも存在しない。
私は歯を食いしばりながらも腕に精一杯の力を込めて必死の思いで体を持ち上げた。
何とか上半身を持ち上げることに成功しそのまま立ち上がろうとしたが、なぜか急にエスペラが今まで聞いたことのない低い唸り声の様な音を出し、何かに向けて吠え始めた。
無理やり立ち上がろうとする私の姿に驚いたのだろうか、それともエスペラなりの応援だろうか。しかしそれにしてはあまりにも激しい……。そうこれではまるで威嚇――。
後ろに何かあるのだろうか。
不安になり、エスペラが吠え続ける理由を確かめるためにも、首をひねりすぐ後ろを振り向こうとした。だがその時、ふわりと体ごと抱え上げられる様な感覚がした。
まさか、もう……。
頭の中が黒く塗りつぶされていく。もはや何も考えられず、徐々に体から力が抜けていくようだった。重力に逆らうことをやめた私の体は、まるで物干し竿に掛けられた洗濯物の様にだらんとしていた。
すべてを諦めた私はそのまま目を閉じてしまった――。
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