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第拾陸記 荒御魂の開放
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「光を超えるなんて無理なんだなぁ。あの方が創造された範囲内の攻撃ならぁ。受け止められるんだなぁ」
腕組みをしながら頷く彼。
直接攻撃以外の技が封殺されるこの空間内では自身に敵うものは無しとした態度だ。
「そうね。けど、創造された『範囲外』の可能性ってのを、お前 ら はまだ知らないのよ」
「それはオラを殴ってみてから言うんだなぁ。天照様ぁ」
――次の瞬間、もう、彼は、吹っ飛んでいた。
吹っ飛んだ後から来る衝撃波が、抱籠を揺さぶる。
殴った瞬間を、うーちゃんの三狐眼を持ってしても完全に見切れない。
ただ、顔面を殴り抜けたという事実だけは吹っ飛んだ彼から推測できた。
「ななななな何が起きたんだなぁ。おおおおらが殴られたなんて、ありえないんだなぁ」
「今あり得たじゃない。創造の範囲内? はぁ? 知ったこっちゃあないわ! そんなのクソ喰らえよ!」
笑顔で指をポキポキと鳴らしながら彼にゆっくりと迫るあーちゃん。
その背中は、まるで夏休みの課題をやり切ったくらい満ち満ちとしていた。
「えッ!? 物理技効かないんじゃあないの??」
「本来ならそうなんですけど……私にも分かりませんね」
「荒御魂のなせる技でもなさそうじゃし……のう……」
俺達は目を丸くさせる。
「おらおらどうした! ドンドンいくわよッ!」
まるで、格闘ゲームで言うところのコンボ技を決められているように、気持ちの悪い体があちらこちらに飛び、地面に触れる前にまた宙へと舞い上がる。
次第に彼の容姿が崩れていく様を見送った。
時間にしてほんの数秒。
うーちゃんを通して見ているから、体感時間は倍以上に感じた。
もう彼は地に伏して動かない。
強いて言うなら、その醜い自慢の腕が四本だけピクピク痙攣しているようだった。
あーちゃんは悠然と迫る。
「クソゴミがッ! あんたみたいな無能オブ無能、はよ死んで! マジきめぇんけど!」
「あー様! 荒御魂化される前にトドメを刺すべきです! あれは可能性が未知数ですので最悪のことも想定すると……」
「ほら! 早く出せよ荒御魂を! 完全に消し去ってやる!」
「あー様それはダメです!」
「トヨ……? いつからあたしに口答えできるくらい……偉くなったの?」
抱籠内を緊張が走る。
首を少しだけこちらに傾けて睨みを利かせるあーちゃんの表情に、慈悲などない。
そこにあるのはただただ幾千年にも及ぶ積み重ねの恨みのみ。
「お……おらも……やるのは……初めてだぁ…………んだから、どうなるかなんて、おらにも分からねぇ……ぬおおおおおお!!」
聞いていて不快になる。
まるで声の汚い不清潔を極めているおじさんみたいな、気持ちの悪い声に吐き気がしそうだ。
「おばちゃま! あれやめさせるのじゃ! 耳がぁぁぁ……」
俺とよっちゃんのリンクを切って耳を両手でしっかりと塞ぐうーちゃん。
申し訳程度だが、着ていたパーカーをうーちゃんに被せた。
――うん、可愛い。
けど、うーちゃんにこんな思いをさせてるあいつを、俺は許せない。
さらに言えば、自身が何もできないことにもイラつく。
俺にできる事は、カメラを回すことくらいしかないからだ。
「あたしの姪っ子、いじめてんじゃあねぇぞ!」
ドンッ! と衝撃波が走る。
ありのままを説明しよう。
腕が六本。
白目むき出し。
浮き上がる血管。
黒みがかっている体色。
それがあーちゃんの一撃を止めていた。
神というより完全に――化け物だ。
「くっそキモイ造形ね。センスを疑うわ」
「扇子なんて持ってないんだなぁ」
「……殺すッ!!」
またあーちゃんが見えなくなる。
うーちゃんのサポートを仰ぐ。
それでも全然見切れない。
二柱による超高速バトルを俺は到底表現できない。
カメラにだって収まらないのだから。
「はぁ……あー様はあれをやるつもりであえて時間取ったのですね」
「あれって何?」
「おばちゃまも荒御魂を使うつもりじゃな」
「さっきから言ってる荒魂って何なの?」
「アニメ風に言いますと、そうですね……究極化とでも言いましょうか。理性と引き換えにはなりますが、本来あるべき力を解放することができます。……デメリットが少々あるのであまりお勧めはできませんが……」
「デメリット?」
「あー様は、日輪そのものの力を圧縮し、人の形に留めているので……控えめに言って、辺り一面灼熱地獄と化しますね」
「ウチもおばちゃまのは、あんまり見た事は無いんじゃが、他の神の話を聞く限りじゃと、もう少し迷惑のかからないようにして欲しいもんじゃのぅ」
なるほど、それは恐ろしい。
だが、二柱とも慌てふためいてはいない。
身を守る術があるのだと……信じたい。
「まぁ、互角ってところね。荒御魂でその程度なのかしら」
「これ以上ぅぅ。理性割けないだぁぁ。天照様をどうにかぁぁ。したいぃぃ!」
「ふん、もう理性なんて無いじゃない。完全に失いなさいよ。口も聞けないくらいにね」
あーちゃんは荒御魂状態のヤツを素で圧倒。
絶対防御を認めない。
まさに力こそパワー。
「このまま相手してても良かったけど、速攻で終わらせてやるわ……荒御魂ッ!!」
紅蓮の劫火があーちゃんを包んだ。
もうもうと上がる炎は次第に山吹色に煌めく。
「ま、眩しいのじゃあ!!」
あまりの光量にうーちゃんは目を逸らした。
だから、その間は目の前で何が起こっているか、俺には分からない。
――――少しして、うーちゃんを通じて映像が頭の中に入ってきた。
荒御魂を発動させたあーちゃんの髪は伸び、桃色の中に金色のグラデーションとメッシュが施された。
容姿は、少し大人っぽくなったようだ。
色気がムンムンに漂う気品を感じる。
光と炎で磨かれた衣装は全体的に煌びやかな変貌を遂げた。
「なんじゃあ!? そのロマン溢れる変身わぁ!」
「あー様……あぁ、なんて美しいのでしょう!」
「当たり前じゃない! あたしは高天原最高神、天照大御神その人なのだから!」
理性を削るどころか神様度が増した気がしてならないその風貌。
荒御魂……いや、究極あーちゃんに負け筋なんてあるのだろうか。
ただ、俺の中で理性に関しての疑問が残るので聞いてみた。
「あーちゃんは理性失ってないの?」
「ふむ、正確には失っておる。だが割合じゃのう」
「今のあー様は恐らく二割程度でしょう。それに元々の素質が相まってますから、二割程度では理性の崩壊には至らないはずです。逆に天手力雄様は神ではありますが位階としては低いので荒御魂による理性の侵食も早いのです」
「でも、あのグロテスクな見た目は何なの?」
「心の投影じゃからな。あれがあやつの心の内というわけじゃ。醜いのう」
「ということは、あーちゃんの心はキラキラしてるから、あんな感じなのか」
「そういうことです。まだ理性で制御出来ている荒御魂ですからね」
「さぁて、モンスター討伐クエスト……開始ね!!」
指をポキポキして臨戦態勢バッチリの究極あーちゃん。
「天照様ぁぁぁ、天照様ぁぁあ!」
そして、ただただキモイ天手力雄。
「そうそうウカ? あんたも荒御魂にしなきゃ見られないと思うわよ。ここから先は」
「おばちゃま、確かにそうじゃが……ウチはならんでもよかろう?」
「そ、なら一瞬で終わるわ」
宣言通り終わった。
そこにあるのは腕が全て胴体から分離した憐れな姿の彼。
対するあーちゃんは少し息が上がっていた。
「痛いぃぃぃぃ。う、腕がぁぁぁああ」
「あ……あたしも……荒御魂で引力な……んて使ったことないから……結構疲れる……わね」
「そうか引力か!!」
「なんじゃ煌?」
「あーちゃんは引力で引き寄せながら光速で攻撃してたんだよ! そしたら速度が上がるから光速を超えることができたんじゃあないのかな?」
「なるほど、考えましたねあー様。引力は物理攻撃外判定にならないのですね。そこでさらに荒御魂状態で速度も力も限界を超えているのですからこの結果というわけですね」
一歩、また、一歩と、彼へと迫る究極あーちゃん。
ついに転がっているヤツの元へと辿り着く。
「今、楽にしてやるわ」
「嫌だぁぁあ。死にたくないぃぃぃ。天照様ぁぁぁあ」
「人の名前勝手に呼ぶなよ、このクソったれが!」
拳を振り下ろした究極あーちゃんを何かが止めた。
「ぐうううおおおおおおおおお!!!!」
完全にモンスターだ。
体色は完全に黒。
それもおどろおどろしい不気味な黒。
腕は全て再生。
白目は赤黒く染まり血の涙を流す。
「あぁ……理性を捨てましたね」
「そうじゃのう」
「こ、これがフルパワーの荒御魂なの?」
「そうじゃ。理性の欠けらも無いあれは、神の成れの果て……禍神と呼ぶのじゃ」
「神の掟では如何なる高貴な神々だとしても、あれをやってしまうと討伐対象に見なされてしまうくらいの禁忌ですね」
「あれはもう元には……戻らないの?」
「……無理です」
「神というのは元々、大自然の力の塊なのじゃ。そこに意思を持たせて制御することで初めて神を名乗ることが出来る。その意思こそが理性なのじゃよ」
「理性を完全に崩壊させるということは力そのもの。あそこにはもう何もないのです」
「これで錦の御旗を掲げて殺れるわね。死ねぇ!」
壮絶な死闘が繰り広げられているのだろう。
こちらにはその様子が分からない。
ただ、抱籠をビリビリと震わす衝撃波だけがその凄まじさを伝えている。
「うーちゃん、何とかならないかな?」
「なんじゃあ? ウチに荒御魂になれと申すのか?」
「……うん、ごめん! ……実はうーちゃんの荒御魂化も見てみたかったり……」
「それは私も同意見です! うー様はもーっと可愛くなられるはずです!」
「はぁ……仕方ないのう……でもウチが荒御魂をしてもお主らはウチを見ることは出来ないのじゃよ残念だったのう! ゆくぞッ! 荒御魂ッ!」
確かにうーちゃんの荒御魂はよく分からない。
俺もよっちゃんもリンクしていてうーちゃんの目を脳内に投影しているからである。
ただ、戦いの様子が何とか追えるようにはなっていた。
結論から言えば、互角の戦いだ。
引力によるタイムラグを上手く腕が調整している。
ヤツは防戦ではあるもののしっかりとあーちゃんの烈火の如き猛攻を処理している。
「流石に完全体荒魂は……手を焼くわね……」
あの状態で戦い続けているのだから疲れも見受けられる。
対してヤツは、疲れなど無いと言わんばかりに構えている。
「神器さえ使えればこんな苦労いらないのに! いいわよ! 見せてやるわ!」
山吹色の光を纏った紅蓮の劫火が、究極あーちゃんを再び包みこむ。
腕組みをしながら頷く彼。
直接攻撃以外の技が封殺されるこの空間内では自身に敵うものは無しとした態度だ。
「そうね。けど、創造された『範囲外』の可能性ってのを、お前 ら はまだ知らないのよ」
「それはオラを殴ってみてから言うんだなぁ。天照様ぁ」
――次の瞬間、もう、彼は、吹っ飛んでいた。
吹っ飛んだ後から来る衝撃波が、抱籠を揺さぶる。
殴った瞬間を、うーちゃんの三狐眼を持ってしても完全に見切れない。
ただ、顔面を殴り抜けたという事実だけは吹っ飛んだ彼から推測できた。
「ななななな何が起きたんだなぁ。おおおおらが殴られたなんて、ありえないんだなぁ」
「今あり得たじゃない。創造の範囲内? はぁ? 知ったこっちゃあないわ! そんなのクソ喰らえよ!」
笑顔で指をポキポキと鳴らしながら彼にゆっくりと迫るあーちゃん。
その背中は、まるで夏休みの課題をやり切ったくらい満ち満ちとしていた。
「えッ!? 物理技効かないんじゃあないの??」
「本来ならそうなんですけど……私にも分かりませんね」
「荒御魂のなせる技でもなさそうじゃし……のう……」
俺達は目を丸くさせる。
「おらおらどうした! ドンドンいくわよッ!」
まるで、格闘ゲームで言うところのコンボ技を決められているように、気持ちの悪い体があちらこちらに飛び、地面に触れる前にまた宙へと舞い上がる。
次第に彼の容姿が崩れていく様を見送った。
時間にしてほんの数秒。
うーちゃんを通して見ているから、体感時間は倍以上に感じた。
もう彼は地に伏して動かない。
強いて言うなら、その醜い自慢の腕が四本だけピクピク痙攣しているようだった。
あーちゃんは悠然と迫る。
「クソゴミがッ! あんたみたいな無能オブ無能、はよ死んで! マジきめぇんけど!」
「あー様! 荒御魂化される前にトドメを刺すべきです! あれは可能性が未知数ですので最悪のことも想定すると……」
「ほら! 早く出せよ荒御魂を! 完全に消し去ってやる!」
「あー様それはダメです!」
「トヨ……? いつからあたしに口答えできるくらい……偉くなったの?」
抱籠内を緊張が走る。
首を少しだけこちらに傾けて睨みを利かせるあーちゃんの表情に、慈悲などない。
そこにあるのはただただ幾千年にも及ぶ積み重ねの恨みのみ。
「お……おらも……やるのは……初めてだぁ…………んだから、どうなるかなんて、おらにも分からねぇ……ぬおおおおおお!!」
聞いていて不快になる。
まるで声の汚い不清潔を極めているおじさんみたいな、気持ちの悪い声に吐き気がしそうだ。
「おばちゃま! あれやめさせるのじゃ! 耳がぁぁぁ……」
俺とよっちゃんのリンクを切って耳を両手でしっかりと塞ぐうーちゃん。
申し訳程度だが、着ていたパーカーをうーちゃんに被せた。
――うん、可愛い。
けど、うーちゃんにこんな思いをさせてるあいつを、俺は許せない。
さらに言えば、自身が何もできないことにもイラつく。
俺にできる事は、カメラを回すことくらいしかないからだ。
「あたしの姪っ子、いじめてんじゃあねぇぞ!」
ドンッ! と衝撃波が走る。
ありのままを説明しよう。
腕が六本。
白目むき出し。
浮き上がる血管。
黒みがかっている体色。
それがあーちゃんの一撃を止めていた。
神というより完全に――化け物だ。
「くっそキモイ造形ね。センスを疑うわ」
「扇子なんて持ってないんだなぁ」
「……殺すッ!!」
またあーちゃんが見えなくなる。
うーちゃんのサポートを仰ぐ。
それでも全然見切れない。
二柱による超高速バトルを俺は到底表現できない。
カメラにだって収まらないのだから。
「はぁ……あー様はあれをやるつもりであえて時間取ったのですね」
「あれって何?」
「おばちゃまも荒御魂を使うつもりじゃな」
「さっきから言ってる荒魂って何なの?」
「アニメ風に言いますと、そうですね……究極化とでも言いましょうか。理性と引き換えにはなりますが、本来あるべき力を解放することができます。……デメリットが少々あるのであまりお勧めはできませんが……」
「デメリット?」
「あー様は、日輪そのものの力を圧縮し、人の形に留めているので……控えめに言って、辺り一面灼熱地獄と化しますね」
「ウチもおばちゃまのは、あんまり見た事は無いんじゃが、他の神の話を聞く限りじゃと、もう少し迷惑のかからないようにして欲しいもんじゃのぅ」
なるほど、それは恐ろしい。
だが、二柱とも慌てふためいてはいない。
身を守る術があるのだと……信じたい。
「まぁ、互角ってところね。荒御魂でその程度なのかしら」
「これ以上ぅぅ。理性割けないだぁぁ。天照様をどうにかぁぁ。したいぃぃ!」
「ふん、もう理性なんて無いじゃない。完全に失いなさいよ。口も聞けないくらいにね」
あーちゃんは荒御魂状態のヤツを素で圧倒。
絶対防御を認めない。
まさに力こそパワー。
「このまま相手してても良かったけど、速攻で終わらせてやるわ……荒御魂ッ!!」
紅蓮の劫火があーちゃんを包んだ。
もうもうと上がる炎は次第に山吹色に煌めく。
「ま、眩しいのじゃあ!!」
あまりの光量にうーちゃんは目を逸らした。
だから、その間は目の前で何が起こっているか、俺には分からない。
――――少しして、うーちゃんを通じて映像が頭の中に入ってきた。
荒御魂を発動させたあーちゃんの髪は伸び、桃色の中に金色のグラデーションとメッシュが施された。
容姿は、少し大人っぽくなったようだ。
色気がムンムンに漂う気品を感じる。
光と炎で磨かれた衣装は全体的に煌びやかな変貌を遂げた。
「なんじゃあ!? そのロマン溢れる変身わぁ!」
「あー様……あぁ、なんて美しいのでしょう!」
「当たり前じゃない! あたしは高天原最高神、天照大御神その人なのだから!」
理性を削るどころか神様度が増した気がしてならないその風貌。
荒御魂……いや、究極あーちゃんに負け筋なんてあるのだろうか。
ただ、俺の中で理性に関しての疑問が残るので聞いてみた。
「あーちゃんは理性失ってないの?」
「ふむ、正確には失っておる。だが割合じゃのう」
「今のあー様は恐らく二割程度でしょう。それに元々の素質が相まってますから、二割程度では理性の崩壊には至らないはずです。逆に天手力雄様は神ではありますが位階としては低いので荒御魂による理性の侵食も早いのです」
「でも、あのグロテスクな見た目は何なの?」
「心の投影じゃからな。あれがあやつの心の内というわけじゃ。醜いのう」
「ということは、あーちゃんの心はキラキラしてるから、あんな感じなのか」
「そういうことです。まだ理性で制御出来ている荒御魂ですからね」
「さぁて、モンスター討伐クエスト……開始ね!!」
指をポキポキして臨戦態勢バッチリの究極あーちゃん。
「天照様ぁぁぁ、天照様ぁぁあ!」
そして、ただただキモイ天手力雄。
「そうそうウカ? あんたも荒御魂にしなきゃ見られないと思うわよ。ここから先は」
「おばちゃま、確かにそうじゃが……ウチはならんでもよかろう?」
「そ、なら一瞬で終わるわ」
宣言通り終わった。
そこにあるのは腕が全て胴体から分離した憐れな姿の彼。
対するあーちゃんは少し息が上がっていた。
「痛いぃぃぃぃ。う、腕がぁぁぁああ」
「あ……あたしも……荒御魂で引力な……んて使ったことないから……結構疲れる……わね」
「そうか引力か!!」
「なんじゃ煌?」
「あーちゃんは引力で引き寄せながら光速で攻撃してたんだよ! そしたら速度が上がるから光速を超えることができたんじゃあないのかな?」
「なるほど、考えましたねあー様。引力は物理攻撃外判定にならないのですね。そこでさらに荒御魂状態で速度も力も限界を超えているのですからこの結果というわけですね」
一歩、また、一歩と、彼へと迫る究極あーちゃん。
ついに転がっているヤツの元へと辿り着く。
「今、楽にしてやるわ」
「嫌だぁぁあ。死にたくないぃぃぃ。天照様ぁぁぁあ」
「人の名前勝手に呼ぶなよ、このクソったれが!」
拳を振り下ろした究極あーちゃんを何かが止めた。
「ぐうううおおおおおおおおお!!!!」
完全にモンスターだ。
体色は完全に黒。
それもおどろおどろしい不気味な黒。
腕は全て再生。
白目は赤黒く染まり血の涙を流す。
「あぁ……理性を捨てましたね」
「そうじゃのう」
「こ、これがフルパワーの荒御魂なの?」
「そうじゃ。理性の欠けらも無いあれは、神の成れの果て……禍神と呼ぶのじゃ」
「神の掟では如何なる高貴な神々だとしても、あれをやってしまうと討伐対象に見なされてしまうくらいの禁忌ですね」
「あれはもう元には……戻らないの?」
「……無理です」
「神というのは元々、大自然の力の塊なのじゃ。そこに意思を持たせて制御することで初めて神を名乗ることが出来る。その意思こそが理性なのじゃよ」
「理性を完全に崩壊させるということは力そのもの。あそこにはもう何もないのです」
「これで錦の御旗を掲げて殺れるわね。死ねぇ!」
壮絶な死闘が繰り広げられているのだろう。
こちらにはその様子が分からない。
ただ、抱籠をビリビリと震わす衝撃波だけがその凄まじさを伝えている。
「うーちゃん、何とかならないかな?」
「なんじゃあ? ウチに荒御魂になれと申すのか?」
「……うん、ごめん! ……実はうーちゃんの荒御魂化も見てみたかったり……」
「それは私も同意見です! うー様はもーっと可愛くなられるはずです!」
「はぁ……仕方ないのう……でもウチが荒御魂をしてもお主らはウチを見ることは出来ないのじゃよ残念だったのう! ゆくぞッ! 荒御魂ッ!」
確かにうーちゃんの荒御魂はよく分からない。
俺もよっちゃんもリンクしていてうーちゃんの目を脳内に投影しているからである。
ただ、戦いの様子が何とか追えるようにはなっていた。
結論から言えば、互角の戦いだ。
引力によるタイムラグを上手く腕が調整している。
ヤツは防戦ではあるもののしっかりとあーちゃんの烈火の如き猛攻を処理している。
「流石に完全体荒魂は……手を焼くわね……」
あの状態で戦い続けているのだから疲れも見受けられる。
対してヤツは、疲れなど無いと言わんばかりに構えている。
「神器さえ使えればこんな苦労いらないのに! いいわよ! 見せてやるわ!」
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