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第拾肆記 太陽神の閃き

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 第三層へと向かう一行。
 鳥居を眼前に、またしても後一歩を踏み出さない。
 次のきっかけは、あーちゃんだった。


「……ちょ、待って! もしかすると、あたし有能かもしれないわ!」


 キラキラと目を輝かせながらあーちゃんは身を乗り出す。
 まるでアニメや漫画で名案を閃いた際、頭上にビックリマークが出る時のように。


「なんじゃなんじゃ? おばちゃまはまーだ道草を食ろうつもりか。早くするのじゃよ」
「あー様、お言葉ですが尺とバッテリーの問題もあります故……」


 二柱はいさめの言葉と視線を送る。
 

「いーからいーから、ちょっと見てなさいよ」


 二柱の制止を軽く受け流すとあーちゃんは荷荷護之空倉を開け中をまさぐる。
 そして、錆々の如何にも切れ味の悪そうな、両刃で三〇センチメートル程の小振りの剣を出した。


「あーちゃん、この剣は何?」
「ん、これ? 天叢雲剣あめのむらくものつるぎだけど? 名前くらい聞いたことあるっしょ」
「……えッ!? これがあの天叢雲剣だって!?」
「こんなんでそんなテンション上げんなし」


 身を乗り出す俺をあーちゃんはじとーッと笑う。
 名前くらいも何も天叢雲剣こと別名草薙剣くさなぎのつるぎと言えば、八尺瓊勾玉やさかにのまがたま八咫鏡やたのかがみと並ぶ三種の神器の一つである。
 色々なゲームやアニメにもこの剣は度々登場するが、大抵は最高レア度の武器で派手な装飾がこしらえてあるもんだ。
 だが、その実態はまさか錆びた銅剣だとは、誰もが肩透かしを食わされた気分になるだろう。


「ごめんごめん、有能ってこの剣で何か見せてくれるってことなのかな?」
「うん、いくわね……ハッ!!」


 あーちゃんが神力を込めると橙色だいだいいろをベースとした光が両刃をかたどるように纏った。
 それはさながらライトセーバーのようである。


「今までこんな感じでさ、切れ味悪い部分をあたしの光で補完してたのよね。切れ味はお墨付きよ」
「切れ味を自身で補完してまで、どうしてそんな剣を使っていたの?」
「いい質問ね。答えは、見た目とは裏腹に重さがないんだよねー。だからずっと振り回していられるのよ」
「なるほど。それが今までなら、現在の回答はどうなの?」


 俺の質問にあーちゃんは背を向ける。


「あたしもまだ確証は無いんけど、ワンチャンあるかもってやつね……ハッ!」


 さらに神力を込めるあーちゃん。
 両刃を纏う光が拡張し刀身を伸ばす。
 そして、一メートル以上は確実にあろう大剣になった。


「ほーら思った通り、やっぱできたわ」
「おー! おばちゃまそれ、カッコいいのじゃ! 映える! 映えるのぉッ!!」


 目をキラキラと輝かすうーちゃん。
 明らかに重そうなそれを、あーちゃんは片手でブンブンと振り回して動作確認に入る。
 しばらく振り回して手に馴染んだのかあーちゃんは告げる。


「何かさー天叢雲剣って名前古くね? だーかーらッ! この状態の名前を考えてみるわ」


 大地に剣を突き刺し、親が子供に名前を付ける時のように腕を組んで真剣に考えるあーちゃん。
 俺たちはそれを静かに見守る。


「かなり出かかってるんだけどなぁ……うーーん……あ! これよ! これ!」



 太陽が雲から顔を出すように一気に表情が晴れる。
 先に結果を俺は告げよう。
 和神としてあるまじき問題発言をあーちゃんはする。



「今日からこいつを天叢雲剣あめのむらくものつるぎ改め、天叢雲剣エクスカリバーと呼ぶわ!」



「それ完全にアウトだろぉぉぉぉぉおおおおおッ!!!!」


 あーちゃんのドヤ顔から放たれた一言は、俺の全力突っ込みを誘発させた。
 確かに見た目はそれっぽいかもしれない。
 しかし、こんなガチガチに、和がテーマなのに、西洋感溢れるエクスカリバーなんてものは場違いも甚だしい。


「そーんなケチケチしてるとモテないわよ煌」
「いや、モテないも何も、あんたが別れさせたんだろッ!」
「え? そうだっけなぁ? まぁ、あれよ。昔のことは一々覚えてないのよ。……常に未来を向いて生きなきゃね」


 俺の肩を叩いて悟ったようにあーちゃんは澄み渡る青空を見上げる。
 良い感じに締めようとしているが、それは完全に違う。
 俺は二柱に目をやる。


「ほら、うーちゃんとよっちゃんからも何か言ってあげて。このままじゃ雰囲気台無しだよ」


 二柱は顔を見合わせるとコクリと頷いた。


「……煌。ウチらが和神だからといって、既存の枠組フレームに囚われていては革新イノベーションなぞ起こせんぞ? 柔軟な思考マインドを持って事に当たらねば良い機会オポチュニティを逃しかねないのじゃ」
「私も、うー様に賛成アグリーです。和神であるからと言って、和で統一しなければならないルールに、約束コミットしなくてはならないと誰が決めたのでしょう」


 何故か責められる俺。
 確かにそうだが、内心どこか納得いかない。


「さーて! みんなから同意コンセンサスを得られたみたいだし、あたしが革新者イノベーターとしてでっかい風穴開けてやるわ!」


 あーちゃんは天叢雲剣を後ろにまわす。
 刀身が陽光を受けギラギラと眩い輝きを放ち始める。


天津國あまつくにより注がれし永遠の金光よ! 障壁を蹴散らし未来を照らせ! 陽光サンライト天極斬ヘブンズスラッシュ!!」



 刀身に溜まった力を開放するように振り下ろす。
 光の斬撃は刀身から離れると拡大する。
 それは雷が落ちるかの如く速さで且つ大地を揺るがす轟音と共に直線上に放たれた。
 眼前の草花、木々、そしてグルりと俺たちを囲む山に風穴をブチ開けた。



「ふぅ、スッキリした!」
「スッキリしたじゃないよね?? 最高の景観を破壊する必要ないよね?? 見てよこれ! 完全に更地じゃあないかッ!」
「……いい? 煌。この世は諸行無常よ。台風や落雷をどうして罰することができるのかしら」


 いや、まぁ、確かにそうではあるが――。
 ――うん、やめよう。



「お、おばちゃまはドアホなのかの!? ホレ! あそこ! 鳥居の端っこ壊してるのじゃよ!」


 うーちゃんは指をさし慌てふためく。
 光斬の一部が鳥居をかすめていたようで鳥居内の空間の歪みが収まり始めていた。


「そんなの問題ないわ! ウカは背中に二人はあたしの手を握って! ぜぇぇぇったい! 離したらダメ! いい?」


 俺達の回答を待たずしてうーちゃんを背中にヒョイと担ぐ。
 そして、そのまま二人の手を握る。
 まるで事故。
 玉突き事故にでもあったかのような何もない所から前方へ力が伝達する。
 一瞬だけ、ドンッと、肩を引っこ抜かれたみたいに――。

 そう思った頃にはもうワープ空間の中へと入っていた。
 しかし、うーちゃんの姿だけ見当たらない。


「もしかして、うーちゃん置いてきちゃった!?」
「大丈夫大丈夫。もうすぐ戻って来るから」
「盛大に吹っ飛んでいきましたけど、うー様もお速いですからね」


 あーちゃんはニヤニヤと笑っている。
 同じくよっちゃんもニヤニヤしている。

 しばらくすると、白い空間の奥から何やら人影が――。
 

「ええい!! もっと優しく運べんのかのぉ!! 危うくさっき食ろうてたモノを吐き散らかすところだったのじゃ!!」


 鋭爪憑狐だけでなく三狐眼の蒼まで使ってうーちゃんは戻ってきた。
 文句を垂れながらあーちゃんの肩を揺さぶるも本人は動じず笑っている。
 では、何が起きたのか。
 シートベルトをしないで事故にあったという言葉が適当だろう。

 俺とよっちゃんはあーちゃんの手を握っていた。
 つまりは、シートベルトだ。
 うーちゃんはというと担がれてるだけ。
 それが目視で認識が遅れるほどの速さで駆けだしてストップしたらどうなるのか……といわけだ。

 
 ――そうこうしているうちにワープは完了したようだ。
 今度のワープ体感時間は三〇秒程。


 結論から言おう。
 開けた眼前には何もない。
 地面? と言っていいのか分からない白いもやのかかった大地がどこまでも広がる。

 空も白で太陽はおろか月や雲すらない。
 ただただ白い。
 今は俺以外にもいるからまだ大丈夫だが、この空間に一人でいたら気が狂いそうになりそうだ。


「あーちゃん、ここは何なの?」
「ここからは神域ね。第三層以降はランダムで神が召喚されるシステムなの。大抵の相手は烙か曝が処理してくれるのだけど、ここまで上がってくるのは相当の妖魔か悪神だから戦った時の被害を地上に及ぼさないために特別空間をこしらえてるわけ」


 影響及ぼさないようにって言ってるけど、さっき地図書き換えなきゃならないくらい相当な被害を及ぼしたよねと突っ込むのはやめることにした。


「ってことは、ここからが神と神の対決ってわけなんだね。いつ次の神が来るか分かるの?」
「トヨにパース」
「はい、空間の歪みが生じてそこから現れます。こちらまで召喚するのに少々時間差がありますので、しばしお待ちしましょう」


 ――どんくらい経ったのだろう。



「これを待っておった。八切りじゃ! そして、ダブル七渡しでおばちゃまに押し付けてウチの上りじゃ! ニシシシシ」
「ウカァァァァアアアアアッ! そ・れ・は空気読めてない。無能。ホント無能。ゴミ押し付けんなし。九の縛りダブル出すわ」
「フフ、なら私は鬼縛り十捨てです」
「俺パス」
「トヨも中々やるわね」

「では、私のターンですね。五で革命。これで五飛ばしで順番が一周しますので私のターンです。六のダブルで上がりです。」
「は? トヨ。あんたもなんて無能なのかしら。煌は空気読めるわよね? ここパスよね?」
「……っと三のダブル。JQKAの階段革命からの四のシングルで上がり」

「……あんた達さ、ぜーーーーったいグルでやってるわ! こんなのイカサマよ、イカサマ!」
「……ってかさ、来なくね?」





 あれからどのくらい待ったのか。
 俺たちは例のレジャーシートを広げて大富豪に興じていた。
 時計の無い部屋に長時間いると時間の感覚が狂うのと似た感覚があるせいで分からない。

 突然耳がピクピクするうーちゃん。


「来るのじゃ」


 空間が渦を巻く。
 次第にシルエットがあらわになってくる。
 しかし、今の俺らにそれを見届ける暇は……無い……ッ!


「はよ! 片付け、はよッ!!」
「おばちゃまが癇癪かんしゃく起こしてトランプぶちまけるからじゃろ!」
「フフフ、他の神々に地上の娯楽に興じているところは、あー様見せたくないですものね」

「あー! もう! ごちゃごちゃ色んなモノ出すし! みんなマジ無能だし!」
「菓子類出してずーーっとボリボリしてたメインはおばちゃまじゃからな? お菓子を無計画に出して食ろうてたのはおばちゃま何じゃからな?」
「ウカも食べてたから同罪! ってかマジ来ちゃうどうしよ。……ちょっとみんなどいて」



 指示通りに全員、トランプや菓子類が散乱したレジャーシートから退避する。
 あーちゃんは手をレジャーシートへとかざす。
 荷荷護之空倉の入り口を二メートルくらいにレジャーシート上に展開した。



「ほい!」



 指を上にくいッと上げると亜空間内に全てそれらは吸い込まれた。



「え? 吸う機能なんかもあるの?」
「いえ、あー様にしか今の芸当はできません」
「よっちゃん、それってどういうこと?」
「あれは引力です。天体を司る神々にのみ許される能力で、有名どころな神様ですと、あー様の弟にあたる月読様も同様のことができます」
「へぇ~」



 シルエットが完全にオープンになる前に何とか間に合った。
 それがあらわになった時、あーちゃんの様子が変わった。
 明るいが代名詞のその顔に暗雲が立ち込める。



天手力雄あめのたぢからお……あんたは消す。復活なんてさせない。魂ごと滅してやるッ!!」



 天手力雄と呼ばれるそいつは正直異形だ。
 身長は一七〇センチくらいだろうか。
 手は四本、それも超絶ムキムキだ。
 だが、足はガリガリで上半身の主に腕力に全ての努力を捧げたような風貌である。

 こう言っちゃ失礼だが、シンプルにキモイ。


「天照様ぁ。お久しぶりなんだなぁ。おらぁ、また会いたかっただよぉ」
「大丈夫よ」


 あーちゃんの体が白い光に包まれる。
 この流れで行くと変身なのだろう。
 そのベールが剥がれる前にあーちゃんは静かに告げる。


「二度と会えなくなるんだから」
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