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第十五話 イルエマの歌

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~~イルエマ視点~~

 ナナハさんのピアノを切っ掛けにバーバダさんのドラム、エジィナちゃんのギター、レギさんのベースが流れます。

 あーードキドキします。
 少ししか練習できなかかったので、ぶっつけ本番ですね。

「無理だって地味エマぁあ! キアーラがそれで失敗したんだからぁあ!」

「彼女は彼女。私は私です!」

「え……」

「やってみなくちゃわかりませんよ」

「な、なによ……。地味エマの癖に格好つけて……ううう」

 格好をつけて言っているんじゃないんですよね。
 このアイデアは私1人で考えたんじゃないんです。
 みんなで考えた作戦。
 だから、私は頑張るんです!

 よぉーーーーし。

 私の声帯に 回復ヒールを付与!
 同時にスキル光魔字も使います。これなら歌詞が声と共に空に浮かび上がってよくわかります。

 いきますよぉおおお!




「キュンキュン、胸、Yeah  、止まらない♪」




 入りは抜群。
 輝く大きな文字が声と共に空に向かって広がります。


「君と私の、距離、縮まって♪」


 広がれ! 私の声!!


「ドキドキ、鼓動、Yeah  、ときめくの♪」


 Yeahの時にみんなでジャンプするのは練習どおり、息がピッタリです!


「狸の、ポンポコ、 腹鼓はらづつみーー♪」


 王都は静まり返りました。響いているのはこの曲だけ。
 みんなが私たちの歌を聞いているのです。
 そして、空に広がる光魔字の歌詞で可視化もバッチリ。


「地味だけど私ーー。楽しい。ビフテキが一番、最強なのです♪」

 
 この歌の歌詞は、私が狸の 腹鼓はらづつみに入った時の状況を解説した歌でした。
 エジィナちゃんが即興で作ってくれたのですが、こういう才能もあるのですね。本当にすごい人だと思います。
 作曲はナナハさん。編曲アレンジはレギさん担当です。バーバダさんは歌詞に対してアドバイスをくれました。

『恋愛。要素。足した方が。イルエマの。可愛いさ。増す』

 もう照れてしまうのですが、彼女曰く、私の魅力が詰まっている歌詞になったそうです。
 なぜか、恋する乙女の部分も入っています。そんなことは微塵もないのですが……。
 
 1番が終わって2番に突入し掛けた頃、アクシデントが発生します。
 エジィナちゃんの作った拡声器が調子が悪くなってしまったのです。

ギィイイイイイイイイインッ!!

 とんでもない耳障りな音が響きます。
 
 そうか! 声に 回復ヒールが掛かっているからその分の魔力が負荷になって拡声器が保たないんだ!
 1番だけじゃ、完全な治療は無理! どうしよう!?

 大人しかった魔憎徒が再び活動し始めます。

『……グルガァアアアアア!!』

 ああ、ピンチです!
 持ち直すには大量の修正魔力が必要です。

 と、思うや否や。
 拡声器は正常に戻りました。

 え? なんで!?

「イルエマ! 歌って! その歌! とっても素敵だから!!」

「アーシャちゃん!?」

あーしの魔力で拡声器はなんとか保たせるから!!」

「ありがとうございます!!」

 さぁ、再開です!!


「地味だけど私ーー。嬉しい。友達が一番の宝なのです♪」


 2番が終わって、最後のサビです。

「キュンキュン、胸、Yeah  、止まらない♪」

 拡声器はアーシャちゃんの魔力で無事。確実に安定しています。
 よぉし、一気にこのまま完走です!



「狸の、ポンポコ、腹鼓ーー♪」



 さぁ、歌いきりましたよ。
 ど、どうでしょうか?


しぃ~~~~~~~~~ん。


 え?
 なんでしょうか、この静寂は?
 まさか……失敗?

パチ……。

パチパチ……。

 ん?
 この音は?

パチパチパチパチ……!

 えええ??


パチパチパチパチパチパチパチパチーー!!


 それはみんなからの拍手でした。

 王都中が大喝采!
 一体、何十万人いるのでしょうか?
 もうわからないくらいの大人数。

 うは!

「みなさん! ありがとうございます!」

 魔憎徒は普通の人間に戻っていました。
 魔憎病は治ったのです!

「最高ーー!!」
「素敵ぃいい!!」
「めちゃくちゃいい歌だった!!」
「可愛い!!」
「尊い!!」
「ありがとう! ガチでいいもん聴かせてもらった!!」

 ステージが震えるほどの大歓声です。

 わぁあ……。
 やって良かったぁ……。

 アーシャちゃんは放心状態。
 みんなが助かってホッとしたのでしょう。

「ああ……。よ、良かった……」

 ヘナヘナとその場に座り込んでます。

「イルエマ。やったわね。大成功よ!」
「イルエマくん。よくやった。流石だよ!」
「イルエマ。素敵。可愛過ぎ!」
「嬢ちゃん。あんた最高だよ!」

 みなさん……。

「成功したのは、みなさんのおかげですよ。ありがとうございます!」

「もう、今夜はビフテキね! 大きなケーキも買っちゃいましょう!」
「お、いいね! だったら酒もたんまり買っておくれよ」
「僕はオレンジジュースがいいな」
「今日。最高。みんなで。騒ぐ」

 ふふふ。
 じゃあチョコも呼びましょうか。

 などと思っていると……。


「「「 アンコール♪ アンコール♪   」」」


 民衆からの熱烈なアンコール。

 ええええええ!? 
 これってもう一度歌って欲しいってことですよね?

「みなさん。もう治ったのなら歌は必要ないのでは?」

 兵士が一人、ステージに上がってきます。

「国王陛下がアンコールを所望されています。是非、お願いいたします!」

 えええええええ!?

「仕方ないわね。イルエマ。声の調子は大丈夫?」

「は、はい。まぁ、全然、いけますが……」

「今度は 回復ヒールを掛けなくていいから楽でしょ?」

「……で、ですかね? でも、本当に歌うんですか?」

「これだけアンコールが来てるんだもん。答えなくちゃ♡」

 うーーん。
 ただ歌うだけになってしまうのですが……。

「「「 アンコール♪ アンコール♪   」」」

 仕方ない。やりますか。
 じゃあ、光魔字だけは発動させましょう。
 みんなで歌えますからね。

 それでは、

「キュンキュン、胸、Yeah  、止まらない♪」

 今度のYeahは王都のみんながジャンプをしてくれました。
 噂では国王もやってくれたとか。
 アンコールはもうめちゃくちゃ盛り上がってしまったのでした。

 みんなで歌って踊るって案外気持ちのいいものですね。
 どうしましょう? 癖になりそうです。

《歌はいい。みんなで気持ちがそろうから》
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