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第五話 地味子の実力

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 向いの席に座る戦士のバーバダさんは私の体をジロジロ見ました。
 鋭い視線ながら、不思議と怖くはありません。

「お前。筋肉。ない」

「ははは。運動音痴なんです」

「100メートル。32秒」

 う!
 す、鋭い。
 私は体力がないので100メートルを走り切ることができません。
 聖女ギルドでやっていた体力測定では、必死に走って32秒が限界でした。

《遅くたっていいじゃない、地味子だもん》

 それにしても、

「ピッタリ当てましたね。どうしてわかったのですか?」

「筋肉見れば、わかる」

「すごいですね」

 彼女は少し嬉しそうに口角を上げた。

「俺。この剣。片手で振れる」

 そう言って、立て掛けていた大剣を持った。
 2メートル以上もある剣を軽々と振ってしまう。

ブゥウウン! ブゥウウン!

 髪の毛が風圧で靡きます。
 
「うはぁ……。すごい力ですね」

 彼女はほんのり頬を染めます。
 自慢をしたいのかもですね。
 随分と嬉しそうです。

「ふふん。大したこと。ない」

「あれ? その大剣……」

「お。気づいたか。お前。見る目。ある」

「魔法剣だ。炎属性が付与されてますね」

「邪炎大剣。一振りで斬撃と炎の攻撃。できる。少々重い。が、強い武器」

 更にブルンブルンと振る。

 綺麗な太刀筋ですね。
 一切のブレがない。
 あんな大きな剣を片手で振ってしまうなんて相当な筋力です。
 きっと、凄腕の戦士なのでしょう。
 それにしてもおかしいですね。大剣から禍々しい力を感じます……。

「その大剣。呪われてますね」

「そんなはず。ない。武器屋の主人。呪われてない。言った。司祭鑑定。問題なし」

「小さな呪いですからね。並の司祭なら見つけられないかもしれません」

 私は床に魔法陣を描いた。

「あ。すごい。ペン。使わないのか」

「光魔字。私が持ってる唯一のスキルなんです。文字が書けるだけなので地味ですけどね」

「でも。便利。すごい」

 このスキルを使えばペンがなくても文字が描けます。指で床をなぞるだけでいい。
 これで魔力を含んだ魔法陣が簡単に描けます。

「バーバダさん。その大剣をこの魔法陣の真ん中に置いてください」

「うん」

 詠唱を済ませて……。

 解呪カースリセット

 大剣は光に包まれた。

「持ってみてください」

「あれ? 軽い」

ブンブン!

「おお。さっきより。早く。振り回せる」

「ウエイトという小さな呪いです。解呪したので軽くなったんですよ」

「イルエマ……。すごい」

「ははは。大したことじゃないですよ」

「ありがと。嬉しい」

 と私に抱きつく。

「うわぁ!」

「ふふ。イルエマ。小さい」

「ははは。驚きました」

 これが彼女流の喜びの表現なんですね。
 大きな胸が柔らかいです。

 喜んでくれると私も嬉しいな。
 あ、そうだ。

「レギさん。そのハンドクリームですが……」

「なんだい? これはA級の高級品だよ。ふふん」

 と、自慢げに腕に塗る。

「D級品ですね。かなり不純物が混ざってますよ」

「なんだって!? でも、ラベルにはA級って表記がされてるじゃないか!」

「うーーん。じゃあ、ちょっといいですか?」

 私はバーバダさんの腕を優しく振り解いて、再び魔法陣を描いた。
  素材進化マテリアルハイを使ってハンドクリームの質を上げる。

「これでA級になりましたよ」

「す、すごい! 輝いてるよ! それに透き通って透明だ!」

「中身を下位等級にして儲けようとしたんでしょうね。このクリームなら先ほどのクリームの倍以上の効果が出るはずです」

「うは! 嬢ちゃん。あんたすごいじゃないかい!」

「いえいえ。大したことじゃありません」

「聖女魔法かい?」

「ええ。私の使う 素材進化マテリアルハイは材質のレベルを3等級上げることができるんです」

「へぇ。すごい魔法を使うんだね」

 ふふふ。
 喜んでもらえるって嬉しいな。

「さ、3等級!? 君は3等級も上げられると言ったのかい!?」

「はい……。それが何か?」

「聖女魔法の 素材進化マテリアルハイは素材レベルを1等級だけ上げる魔法だ。3等級なんて聞いたことがないよ」

「ああ。オリジナルなんです」

「何!?」

「あはは。私は魔力量がありませんからね。魔法を少しでも使うとお腹がすいて疲れてしまうんですよ。それで、どうにか魔力量を減らせる工夫はないかと、魔法素因数分解を使って魔法構築に細工をしたんです」

「ま、魔法構築を弄ったのか!?」

「ええ。そうしたら魔力量が減らせるのと同時に通常1等級のところ、3等級もレベルを上げることができるようになったんです。こういうのを怪我の功名って言うんでしょうね。あはは。まぁ、偶然なんですけどね」

「ぐ、偶然って……。それにいたるまでの計算式の方が重要だ。魔法素因数分解は途方もない時間がかかるはずだ?」

「あはは。やっぱりわかっちゃいます? あれって計算式が多すぎて面倒なんですよね」

「な、何を気楽に……。一体、何十年かかったんだ?」

「ほえ? 1年はかかってないですよ? そうですね。半年くらいでしょうか」

「は、半年!?」

「あはは。仕事終わりに残業でやっていただけですからね。それだけに専念していればもっと早く計算できたでしょうが」

「す、すごい…‥。魔法研究家でも数十年かかってもできないとされる数式を、たった半年で変更したのか……」

「あはは。そんな大したことじゃないですよ。仕事が便利になって、みんなの役に立つだけですから」

「それがすごいんだ! 君は世紀の大発明をしているんだぞ!」

「ああ、でもこの魔法を使えるのは私だけみたいなんですよね。魔法素因数の数式がイメージできないと発動しないみたいなんです」

「そ、それでも十分にすごいさ。魔法数学的には伝説級だよ」

「あはは。またまた大袈裟な」

「何を能天気に……。うう、頭がクラクラしてきた」



 ☆☆☆


~~ナナハ視点~~

 うーーん。
 聖女かぁ。
 真面目そうだし、なにより優しい性格なのがいいわよね。
 
 はっきり言って欲しいわ。
 冒険者ギルドの帰りみたいだったけど、もう参加するパーティーは決まっているのかしら? なんとかして、うちのギルドに入ってもらいたいわね。

 とはいえ、うちのメンバーは癖がある連中だからなぁ。内気そうな彼女と上手く会話をしてくれるかも怪しいわね。
 誰とも会話できなくて手持ち無沙汰になってなきゃいいけど……。

 よぉし。美味しい食事で持て成すぞぉ!

 部屋の中はニンニクと肉の匂いが充満した。

「さぁ、みんな! 美味しい昼食の時間だよ!」

 暗い雰囲気を少しでも明るくしなくちゃ……って、あれ?

「あ、あのちょっと……。もうそろそろ離してくれるとありがたいのですがぁ」
「イルエマ。可愛い♡」

 バーバダがイルエマを抱いている。
 なぜ?
 そして、

「イルエマくん。この数式はどう思う? 君の見解を聞かせてくれたまえ!」
「あ、そ、そこはですね。B30の魔力方程式の応用でですね……」
「なるほど! そうなるとここがこうなって、こうだから……。じゃあ、ここはどうなるんだ?」
「えーーと、そこはですねぇ。あ、あの……バーバダさん、離してくれる嬉しいのですが」
「イルエマ。可愛い♡」

 あのプライドが高いエジィナが、人に教えを買うている。 
 信じられないわ。

 それに、バーバダは溺愛してるの?
 私が料理を作っている間に何があった??

「ちょいと嬢ちゃん。この化粧の品質はどうなんだい?」

 ええええ!?
 ギルドで一番無愛想なレギが、初めて会った人にグイグイ詰め寄っているわ!
 こんな光景、初めて見る。

 イルエマはバーバダの胸の谷間から顔を出す。

「ナ、ナナハさん」

「え、えらく人気者ね……」

「ははは。なんだか、みなさん良い人ばかりで、こんな私に優しく接してくださるんです」

 イルエマ・ジミィーナ。
 一体、何者なの?
 正体はわからないけど、逸材なのは間違いない!
 絶対に欲しいわ!

────

 次回はキアーラ回です。
 イルエマのいないギルドに仕事の依頼があるようですよ。
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