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本編

日頃の行いって大事だよな

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「望月様ぁ!!」
「待ってください!」
「副会長ぉー!!」
「絶対捕まえる!」
「あいつ狙えっ!」
「望月様とペアになるなんて!」
「うろちょろすんな!」
「平凡のくせに生意気っ!」
『望月様にお願いをするのは』
『副会長に命令するのは』
『『僕/俺だ!!』』

戦場だ。
ゴリラだけでなく、チワワですら、形振り構わず全力疾走で追ってくる。
顔も言動も、必死過ぎるだろ…。
そんなに副会長が欲しいのか?…愚問だったな。
学校行事で必ず誰かに狙われるとか、人気者は大変だ。こういうところは同情する。

「雪見ぃ!抱かせろ!俺は平凡が好きなんだ!」
「天国見せてあげるから、ボクに捕まりなよ!べっ、別に、好きなわけじゃないんだから!勘違いしないでよね!」
「じ、実は好きだ!!一夜の夢を叶えさせてくれっ!かなでぇーー!」
…世の中には、色んな人間がいる。好みはそれぞれだ。
だからといって…。何で俺なんだよ!?他にもいるだろ!そっちを狙え―いや、それはそれで、狙われた人が可哀相か。…ある意味、俺で良かった、のかもしれない。
というより、お前らルール忘れてるだろ。
逃げる生徒を捕まえた生徒は、相手に何か一つお願いできるが、前提として、常識の範囲内で、だ。
逸脱したものには拒否権がある。強制力はないんだよ。
…解釈をこじつけられても面倒臭い。逃げ切るしかないな。
初体験が、好きでも何でもない、強制された相手なのは、嫌だ。初めてに夢を見てるわけじゃないが、嫌なものは嫌だ。
自分で決めた人なら、まだいいけど…知らない奴なんか、論外だ。
そもそも、キスもしたことないのに、それ以上を求められるとか、有り得ねぇ。全員失せろ!

俺の貞操が危ない―という、まさかの事態に、頬が引き攣る。
副会長狙いのチワワとゴリラや、俺を制裁したいチワワには、狙われるだろうと思っていた。実際、しつこいくらい狙われた。
でも、俺自身を狙ってくる奴までいるとは…。人気者は大変だ、どちらが捕まってもアウトだから気を付けよう、なんて考えてる場合じゃなくなった。
―副会長、大丈夫か?走りっぱなしで俺も疲れたけど、そろそろ終わるはずだから、あと少し頑張ってほしい。…うん、かなりヤバい。今追ってくる奴ら、体力温存してたのか、やたら早くて、このままだと追い付かれる!
隣を確認すると、
「……」
不快そうな顔で眉を寄せながら、副会長が本気で走っていた。
いつもの胡散臭い笑みは消え失せている。
不意に、副会長が俺を見た。
そして何故か、手首を掴まれる。
「雪見くん、こっちです!」
「はっ?」
少し驚く。手を掴まれたことじゃなくて、向かった先に。
ダパーンッ!!
副会長、無茶したな…!
中庭には巨大な噴水がある。
一番大きく、下手したら小さいプール並の広さと深さだ。
だけど、渡り廊下の二階から飛び込む場所ではないと思う。
上を見たら、手を伸ばしたまま、呆然としている数人と目が合った。
慌てて階段に向かうチワワやゴリラ、同じように飛び込もうか迷うゴリラ。

―ビーーッッ!!!

〔はい、終了~!!本日の鬼ごっこ、以上!!ブザーが鳴った時点で終わり!!明日は九時から十一時の二時間です!!では、解散!!〕

ブツッ。

はぁ…間一髪だった。
「怪我はありませんか?」
「はい、平気です。副会長は、大丈夫ですか?」
「ええ。僕も大丈夫です」
涼しげな顔をした副会長と噴水から出る。
平然としてるけど、これ、反則っぽいよな…。
「―噴水に飛び込んではいけない、というルールはありませんよ。中庭も範囲内ですから、ルール違反にはなりません」
「そうですか」
…副会長が俺の心を読んでくる。
絶妙なタイミングで言われた内容に、思わず馬鹿なことを考えてしまう。
疑問が顔に出ていたのか?…無表情のままなんだが。
まあ、冗談はさておき。
状況から俺の考えを察したんだろう。
察しの良い人間は好ましいが、今は求めていない。
やっぱ、副会長って、厄介だよな…。

とりあえず、びしょびしょになった体操服とジャージを脱ぐ。
パンツ一枚で、体操服とジャージ絞ってるとか、滑稽だな。副会長もしてるけど。
仕方ない。水浸しのまま部屋に戻ったら、悲惨なことになる。それを防ぐ為だ。
再び体操服とジャージを着る。眼鏡がズレてるし、水滴だらけで前が見えない。絞った体操服で拭うと、少しマシになった。
細かな水滴がついている眼鏡をかけ直すと同時に、話し掛けられた。
「早くシャワーを浴びた方がいいですよ。噴水は清潔に保たれているとはいえ、風邪を引いてしまいます」
「はい」
「部屋まで送りましょうか?」
「え?」
幻聴が聞こえた。
「…先程、不埒な発言をする生徒がいましたから。新歓は気分が盛り上がって、問題を起こす生徒が多いんです。どうやら君も危ないようですし、部屋まで送りましょうか」
あ、幻聴じゃなかったのか。
…今日の副会長、変だな。
やけに親切だ。いつもは嫌みのオンパレードなのに。
何か裏があるのではないか、と勘繰る。
副会長の美麗な顔を見つめたが、違和感はない。制裁を企んでいるわけではなさそうだ。
…善意、なのか?
だとしたら、せっかくの好意を無にして、悪かった。
今まで、副会長が俺に向けるものは、悪意や敵意しかなかったから、疑心を抱いてしまった。
…や、違うな。悪いのは俺だけじゃない。
疑った俺も悪いけど、疑われるような振る舞いしてた副会長にも問題はある。
日頃の行いって大事だよな…。
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です」
「…そうですか。―では、また明日」
「はい。失礼します」

部屋に帰ると、シャワーを浴び、筋肉痛の予防にマッサージとストレッチして、寮の食堂で夕食を食べ、同室者に誘われて動物番組を見て―犬や猫ばかり出てくる、ひたすら可愛くて、癒やされるテレビ番組だ。犬はノワールが一番可愛い。猫はブラックが一番可愛い。犬カフェや猫カフェに行ってみたい。決めた。彼方を巻き込んで行こう。…動物カフェに男二人か…。何も恥ずかしいことはないんだけど、ちょっと、恥ずかしいな…。ああ、彼方は美形だから、大丈夫か。他のお客さんは綺麗な優男を見て、もう一人は視界に入らないはずだ。仮に見たとしても、あまり記憶には残らないだろう…。と考えた―その後、自室のベッドで寛ぎながら、彼方とメールのやり取りを数回して、夏休みに犬カフェと猫カフェに行く約束を取り付けると…いつの間にか眠っていた。

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