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本編
叶 湊
しおりを挟む初めてだった。
愛は、言葉足らずな俺の言いたいことを、分かってくれた。
そのままでいい、と言ってくれた。
友達に、なってくれた。
嬉しかったんだ、本当に。
だけど…愛と一緒にいると、少し疲れる、って思うようになって。
せっかく友達になってくれたのに、そんなことを思う自分が嫌で、でも、過ごす時間が増えるほどに、何だか疲れて、離れたくなった。
悩んで、苦しんでいた時―奏とブラックに会った。
最初はブラックが気になって、それから、奏のことも気になった。
俺やブラックを撫でてくれる、その手は、いつだって優しい。
言動も、話し方も、雰囲気も、静かで落ち着いていて。
俺の心情を汲み取ってくれて、単語だけの足らない言葉でも、理解してくれる。
愛も分かってくれたけど、時々他の人より分かってくれないことがあった。
そういう時、愛は俺の話を全く聞いてくれなくなる。
…俺が悪いって、分かってるんだ。
伝えたくても、ちゃんと話せなくて、愛が不機嫌になるのも仕方ないと思う。
―けど、愛でも分からなかったことを、奏は分かってくれた。
奏と過ごしていくうちに、俺の中に、ある感情が芽生えていった。
…顔を見れただけで嬉しくて、一緒にいたら凄く幸せ。
俺は、好きという気持ちを知った。
それまで、俺は愛のことが恋愛感情で好きなんだと思っていた。
動物は好きだけど、人を好きだと思うのは愛が初めてで、だから、恋だと思った。
でも…奏に出会って、好意ではないと悟った。
だって、全然違う。
愛への好きと、奏への好きは、違うんだ。
会う度に、もっと、もっと好きになって…奏に触れたくて、俺に触れてほしくて。
…愛には、そんなこと思わなかった。
触れたいとも、触れてほしいとも、一度も思わなかったんだ。
奏とブラック、二人と一匹で、心地良い時間を過ごす。
―それに比例するように、愛といる時、俺は居心地の悪さを感じることが多くなった。
奏と約束したから、誰にも言わず、一人で奏とブラックに会いに行く。
愛に聞かれても、怒られても、答えなかった。
それで、ついに怒鳴られたんだ。
友達に隠し事するなんて最低だ!!ずっと秘密にするんだったら、もう湊と一緒にいないからな!!
そう言われて、ショックだった。
それでも、やっぱり、奏のことが大好きで、一緒にいたいから…愛が俺といたくないのなら、仕方がないと諦めた。
その時、ふと、思った。
愛が俺から離れるかもしれない。…悲しいけど、諦めた。
―いつか、奏も、俺から離れてしまうかもしれない。
…そんなの、嫌だ。
奏がいなくなるなんて、嫌だ。
…怖い。
考えただけで、怖くなった。
俺から人が離れていくことなんて、珍しくない。寂しいし、悲しいけど、慣れてる。…怖いと思ったのは、初めてだった。
次の日、奏と話した。
奏は俺の為に沢山話してくれた。
変わりたいと、思った。
本当は、分かってた。
このままじゃダメだって。
奏の厳しくて、それ以上に思いやりのある言葉が、俺の背中を押してくれたんだ。
それから、偶然愛が来て、話すことにした。
愛はそのままでいいと言ってくれたけど、俺は変わりたい。
友達に、俺の決意を知ってほしかった。
話した結果…愛が、俺のことをどう思っているのか、よく分かった。
愛が話せば話すほど、悲しくなって、苦しくなった。
―お前の言う友達って何だよ。都合のいい人間の間違いだろ?
奏の言葉を聞いて、俺はやっと認めた。
…俺は、愛を理想化して、嫌な部分から目を背けていたんだ。
愛は、自分の思い通りにならないと、いつも不機嫌になって…酷いことを言ったり、暴力を振るう。
優しいけど、それは愛が好きな人と、自分を好いてくれる人だけだ。
気に食わない人は、平気で傷付ける。
俺は…。愛の、そういうところが、ずっと嫌だった。
愛…ごめん。
心の中とはいえ、理想を押し付けて。
それなのに、勝手に失望して。
俺、自分勝手だ。
…本当に、ごめん。
今すぐは無理だけど、愛と話したい。
愛の良いところ、そして、良くないところ…全部言いたい。
余計なお世話かもしれないけど、良くないところは直した方がいいと思うんだ。
奏が俺の間違いを教えてくれたみたいに、俺も愛に伝えたい。…友達だから。
精一杯話して、それでも分かってくれなかったら…俺に言えることは、もうない。
奏。俺は変わるよ。
人と向き合って、話せるようになる。
元々話すのは苦手だから、時間がかかると思うけど…ちゃんと変わる。
だから、これからも一緒にいてほしい。
奏が傍にいてくれたら、それだけで、俺は頑張れる。
…また、甘えてんじゃねぇぞ、って言われるかな。
ごめん、俺、奏に甘えたいんだ。
俺が甘えたいのは、奏だけ。
もう少し、あと少しだけ、甘えさせてほしい。
きっと、変わってみせるから。
―好きだよ。
誰よりも、何よりも、奏のことが一番大事で、大切で、大好き。
いつか…いつか、変わることができたら、この気持ちを、自分の言葉で伝えたい。
大好きだ、奏。
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