日常、そして恋

知世

文字の大きさ
上 下
19 / 25
出会い

大好きだよ『秋人』

しおりを挟む



春兄の美味しい手料理を食べ終わった後、のんびり談笑した。
といっても、冬兄はお喋りじゃないから、聞き役に徹してて、春兄は俺の話を聞きたいみたいで、ほとんど俺が話してたんだけど。
三人で話すといつもこうなる。これだけは変わらない。
俺は、学園と部活・寮で起こった出来事―面白いことや楽しいこと、びっくりしたこと―を、たくさん話した。
春兄は楽しそうに笑っていて、相槌を打ったり、話に加わったりしてくれて、冬兄は柔らかい表情で俺と春兄を見ていて、時々頷いたりして、話を聞いてくれた。

それから遠慮する春兄を―やや強引に―お風呂に入れて、冬兄と二人で後片付けをした。
春兄と冬兄は食器洗い機を使わない派らしく、自分で洗いたいんだって。
俺は使って楽をしたい派だから、ちょっと驚いた。
冬兄が洗い物をしている間、俺はテーブルを拭いて、それが終わったら、冬兄の洗った食器や調理器具をキッチンペーパーで拭いて、食器棚に収めた。

―そうこうしてるうちに、パジャマ姿の春兄が出てきた。可愛い。
「冬お兄ちゃん、秋、ありがとう」
「どーいたしまして」
「料理を作ってもらったんだ、これぐらいはやらないとな。―秋人、帰ろう。寮まで送っていく」
「あ、うん、そうだね…」
春兄と離れることが寂しくて、気分が沈む。
夏休みと冬休みしか会えなかった、今までと比べたら、会える回数は増えたんだろうけど…。春兄と会うの、かなり久しぶりだし、もっと一緒にいたい。
でも、これ以上いたら、困らせてしまう。疲れてると思うし。
「秋」
諦めようとした時、名前を呼ばれた。
顔を上げると―いつの間にか、俯いていたらしい。寂しかったからかな―微笑む春兄と目が合った。
「中等部の寮って、遠かったよね。―もう遅いから、泊まっていかない?」
…こういう時、どんなに可愛くても、春兄は俺の兄さんなんだな、って感じる。
たぶん―いや、絶対、俺が本当は帰りたくないと思ってたことに、春兄は気付いて、言ってくれたんだ。
「…いいの?」
「もちろん」
「やった!春兄、ありがとっ」
思わず抱き付いて、春兄の肩に額をすり寄せていると、後頭部を撫でられた。
「春兄~」
更にスリスリして甘える。
「秋、くすぐったいよ」
くすくす笑う春兄も可愛い。
「じゃあ、秋人。明日の朝迎えに来る」
「えっ、朝?いや、大丈夫だよ」
わざわざ迎えに来てもらうとか、悪いよ。
それに、中等部の寮は、高等部の学園とは反対方向だから、遠回りになるし。
「気にしなくていい。入学式の準備があるから、そのついでだ」
「…分かった。ありがとう、冬兄」
入学式の準備はほんとだろうけど…冬兄、実は過保護だから、俺が早朝に一人で帰るの、心配してくれてるんだと思う。
…なんか、俺、ダメ人間になりそう。
ふと、心配になった。
冬兄は厳しいけど、基本優しいし、春兄は甘やかしてくれるから。
……ちゃんとしよう。
ちょっとした危機感に、俺は気を引き締めた。

冬兄のお見送りで、春兄と玄関に行く。
「冬お兄ちゃん、おやすみなさい」
「冬兄、おやすみ」
「ああ。春人、秋人。おやすみ」
微笑んだ冬兄は、春兄と俺の頭を撫でて、帰っていった。

その後も、春兄と話して、今日のことを聞いたよ。
同じクラスの勇気くんと友達になった、案内してくれた副会長さんは優しくて良い先輩だった、理事長さんは茶目っ気のあるダンディーな人だった、早瀬さんの紅茶はとても美味しかった、とか。
真面目な理事長しか知らなかったから―高等部と中等部の理事長は同じなんだ。ちなみに初等部の理事長は女性だった―世良理事長って、ウインクとかするんだ。面白い人だな。男性秘書の早瀬さん…?見たことあるかな?でも覚えてないや。―七瀬先輩、知ってるよ。麗しの王子様だよね。実際に会ったことはないけど、先輩やクラスメートから聞いたことあるんだ。凄い人気だから、部活の先輩と話してた中等部の三年生と二年生は知ってると思う。あと人気なのは、冬兄と東条先輩かな。え?そうだよー。冬兄人気者だよ。…ちょっと違うけど。あ、いや、何でもない。
春兄には言えないけど…冬兄は優しいから人気なわけじゃないよ。だって、冬兄が優しいのは俺達だけだから。まあ、他にも良いところがいっぱいあるからね!人気なんだよ。春兄と俺の自慢の兄さんだ。
「ふぁ~。…もう寝よ、春兄」
「あ、そっか。秋は部活が終わった後、お風呂に入ったんだったね」
「うん」
寝室に行くと、ベッドの大きさに違和感を感じた。
…そういえば、一人部屋はダブルで、二人部屋はセミダブルだって、聞いたような。
納得して、ベッドにダイブする。
柔らかくて、気持ちいい。
携帯のアラームを少し早めに設定していると、
「電気消してもいい?」
声をかけられた。
「ん。いいよ」
電気が消えて、真っ暗になる。
「春兄」
「うん?」
「アラームうるさくて、春兄まで起こすと思う。…ごめんね」
俺は寝起きが良くなくて、アラームを最大にしないと、起きられないんだ。
二人部屋の場合、寝室は別で、しかも防音だから、大丈夫なんだけど…隣にいる春兄は、確実に被害にあってしまう。
「大丈夫だから、気にしないで」
「…ありがと。春兄、おやすみ」
「おやすみなさい」
出来れば、春兄より早く起きたいな。
滅多に見れない、アレが見たい。
春兄の寝起きはヤバいんだ。破壊力抜群。
俺と違って、春兄は寝起きが悪くない。
ただ、5分くらい、ぼーっとしてる。
一度春兄に聞いたことがあって…その間のことは全然覚えてなかったから、たぶん、起きてはいるけど―会話できるし―意識はないんだと思う。
前に、母さんが言ってた。
酔っ払って、意識が飛んでいる状態と同じだって。
とりあえず。
寝起きの春兄はヤバい。
可愛いのに、ちょっとエロくて、ヤバい。
…うん、見たい。絶対先に起きよう。
春兄にくっついて、俺は眠った。





~♪~♪~♪~

「ぅぅ…」

う、うるさい。
大音量の着メロで叩き起こされて、思わず呻く。

♪~♪~♪~

目を閉じたまま、手探りで携帯を探す。
枕元に置いてたから、すぐに見つかった。
鳴り響くアラームを止めて、のろのろ起き上がる。
「…ん?」
人の、気配?
重い瞼を開けると、春兄がいた。
…ああ、そっか。泊まったんだっけ。
いや、そんなことより。
寝起き見たの、久しぶりだな…。
ぼんやりしている春兄を見て、頬が緩む。
可愛い。…やっぱり、寝起きが一番可愛いなぁ。はにかんでるのも、ふんわり笑うのも、すっごく可愛いけどね。
せっかくだから、たまにしか見れないレアな姿を、じっくり見ておこうっと。
春兄のぱっちりとした大きな目が、今は、とろん、としている。
可愛くて、でも、ちょっとエロい。
いつもなら、春兄って色気とは無縁なんだけど―だって、ひたすら可愛いんだよ―寝起きの時だけは違う。
目がとろんとしてて、唇と頬っぺたが薄いピンク色で…あ、これは、いつも通りだ。それから、ぼうっとしてる。
こういう状態、何て言うんだろ…。
フェロモン出てる?かな。
とにかく、そんな感じ。
静かに見ていると、春兄がゆっくり瞬きをした。
そして、俺の方を見て、
「あき…?」
小さく呟いた。
そうだ、忘れてた。
舌足らずになるんだったね。
「春兄、おはよ」
春兄可愛い、と思いながら、にこっと笑いかける。
別に作ってるわけじゃなくて、家族や親しい人を見てると、なんか嬉しくて、笑顔になるんだ。
特に嬉しいのは、春兄なんだけど。
「おはよう」
微笑みかけられて、もっと嬉しくなった。
…微笑みかけられただけなのに、テンション上がる俺って、どうなんだろ?単純すぎるかな?とも思うけど、嬉しいものは嬉しい。
無性に甘えたくなって、体を起こした春兄に、衝動のまま抱き付く。
ほんのり甘い匂いがして、ああ春兄だ、と再実感する。
この、微かな甘い匂い…シャンプーやリンス、ボディーソープではなくて、洗剤でも、柔軟剤でもない。
不思議なことに、春兄の体臭なんだ。
そういえば、母さんも似たような匂いしてた、気がする。たぶん。
ほのかに香るくらいだから、よっぽど近くにいかないと分からないんだ。
…間違えてるかも。母さんには抱き付いたりしないから。
ぎゅーとしていたら、背中を撫でられた。
―春兄は、いつも、そっと触れてくる。
それは、穏やかで優しい春兄の心そのものだと思う。
…好きだなぁ。大好きだ。
しみじみと感じて、言いたくなった。



この恋は叶わないし、そもそも、叶ったらいけないのだろう。

だから、せめて。

伝えられない気持ちを込めて、俺は今日も言うんだ。

「大好きだよ、春兄」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ボクに構わないで

睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。 あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。 でも、楽しかった。今までにないほどに… あいつが来るまでは… -------------------------------------------------------------------------------------- 1個目と同じく非王道学園ものです。 初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。

【R18】一匹狼は愛とか恋とか面倒くさい

藍生らぱん
BL
一匹狼が主人公の非王道学園オメガバースです。 一話目から18禁です。 王道学園的な定番イベントに非王道とかアンチ王道を絡めていく予定。 コメディ習作なのでご都合主義的な内容です。広い心と生暖かい目でお願いします。 不定期更新です。 風紀委員長と一匹狼の固定cp 番契約済みです。 非王道主人公・面倒くさがり干物系一匹狼Ω 俺様生徒会長α 腹黒副会長Ω チャラ男会計α ワンコ侍書記α 忠犬(番犬・猛犬注意) 双子庶務β 王道系転校生α 駄犬 爽やかスポ根同級生α 巻き込まれクラス委員長β 魔王系風紀委員長α 狂犬 ポメ・チワワ系親衛隊 βとΩの群れ ムーンライトさんと同時連載

平凡くんの憂鬱

BL
浮気ばかりする恋人を振ってから俺の憂鬱は始まった…。 ――――――‥ ――… もう、うんざりしていた。 俺は所謂、"平凡"ってヤツで、付き合っていた恋人はまるで王子様。向こうから告ってきたとは言え、外見上 釣り合わないとは思ってたけど… こうも、 堂々と恋人の前で浮気ばかり繰り返されたら、いい加減 百年の恋も冷めるというもの- 『別れてください』 だから、俺から別れを切り出した。 それから、 俺の憂鬱な日常は始まった――…。

真冬の痛悔

白鳩 唯斗
BL
 闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。  ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。  主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。  むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

僕の平凡生活が…

ポコタマ
BL
アンチ転校生によって日常が壊された主人公の話です 更新頻度はとても遅めです。誤字・脱字がある場合がございます。お気に入り、しおり、感想励みになります。

王道くんと、俺。

葉津緒
BL
偽チャラ男な腐男子の、王道観察物語。 天然タラシな美形腐男子くん(偽チャラ男)が、攻めのふりをしながら『王道転入生総受け生BL』を楽しく観察。 ※あくまでも本人の願望です。 現実では無自覚に周囲を翻弄中♪ BLコメディ 王道/脇役/美形/腐男子/偽チャラ男 start→2010 修正→2018 更新再開→2023

平凡な365日

葉津緒
BL
平凡脇役(中身非凡)の王道回顧録 1年間、王道連中を遠くから眺め続けた脇役(通行人A)の回想。 全寮制学園/脇役/平凡/中身非凡・毒舌 start→2010

処理中です...