日常、そして恋

知世

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出会い

予想外の連続です

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「………―これくらいかな」
寮とカードについて、それから、禁止事項や校則、外出・外泊など、他にも少し説明されて、話は終わった。
「質問はある?」
「ない」
「大丈夫です」
「そう。―忘れてしまったら、パンフレットを確認して。説明したことは全部載っているし、学園の見取り図もあるよ。意外と便利だから、パンフレットはなくさないように気を付けて」
「分かった」
「分かりました」
僕達が頷くと、理事長さんは一息ついて、カップを口元に運んだ。
…不思議だなぁ。ブラックコーヒーを飲んでいるだけなのに、カッコいい。
僕もダンディーな大人の男の人になりたいな。
そう思いながら、早瀬さんに淹れてもらった紅茶を一口飲む。
「!」
わ、美味しい!
「美味しい…」
自然と笑みが浮かぶ。
家の人―メイドさん―が淹れてくれた紅茶は美味しいけれど、早瀬さんの紅茶も美味しい。
「ん…。美味い。いつもの早瀬さんのお茶だ」
勇気くんのお茶も美味しかったみたいで、僕と同じように呟く声が聞こえた。

少しの間ティータイムを楽しんで、「喉も潤ったし、続きを話そうか」と、話を再開することになった。
「世良くんは首席」
凄い!勇気くん、首席なんだ。
笑顔で隣を見上げる。
「勇気くん、凄いね!おめでとう」
「へ?…ああ。ありがとう」
勇気くんは一瞬、きょとん、としていた。
あれ?僕、何か変なこと言ったかな…?
首を傾げていると、
「桜井くん」
理事長さんに名前を呼ばれた。
「はい」
「君は次席だ」
「えっ?」
今度は僕がきょとんとしてしまった。
「僕が次席なんですか…?」
「そうだよ」
びっくりして聞き返すと、頷かれた。
―次席と言われても、あんまり実感はない。
でも。
「次席…」
…嬉しい、な。
思わず頬が緩む。
桜乃学園の編入試験は、かなり難しかったけど、自分で思っていた以上に、良かったみたい。
「はい。これが君達のカードだよ」
理事長さんに、シルバーのカードを渡された。
カードの表面には、846という数字と、その下に名前が記載されている。
846は、僕の部屋番号だと思う。
「二人はシルバーだから、食堂全品無料、売店・ショッピングセンターの金銭面半額免除。―それと、一般生徒立ち入り禁止区域の一部出入り可能。シルバーは…職員寮と管理室だ」
「え…」
予想外なほど特典が良くて、ちょっと驚いてしまう。
「へぇ…。結構―いや、かなり待遇良いな」
びっくりしたのは僕だけじゃなかったようで、勇気くんも少し驚いた顔をしていた。
「あと、これも」
白い封筒を渡される。
「叔父さん、これは?」
「スペアだよ」
「カードって、一つじゃないのか?」
「二人部屋なら、カードは一つなんだよ。一人部屋は予備として、スペアが用意されているんだ。なくしてしまった時、再発行に時間がかかるからね。ただ、これは普段カードキーの用途しか使えないよ。カードの再発行申請と同時に、他の機能も使えるようになっているんだ」
「ふーん」
「なるほど」
勇気くんと僕が納得したのを見て、理事長さんがにっこりと笑った。
「これで、説明は終わり」
「叔父さん、ありがとう」
「理事長さん、ご説明ありがとうございました」
「どう致しまして。世良くんも、桜井くんも、長い間お疲れ様」
「ん。お疲れ様」
「お疲れ様でした」
真面目な雰囲気が、一気に和やかなものになって、僕は肩の力を抜いた。
無意識のうちに、緊張していたらしい。
…緊張したままだったんだ。
全く気が付かなかった。
えっと…とりあえず。
お疲れ様でした。

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