日常、そして恋

知世

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出会い

世間は広いようで狭い、です

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落ち込んでいた勇気くんが笑ってくれて、安心した僕は重ねていた手を退けた。
すると、今度は僕の手が握られた。
「勇気くん?」
どうしたのかな?
「春人…」
何故かじっと見つめられる。
握られた手が、ちょっと痛い。
「俺、春人のこと「こほん」…!」
突然の咳払いに、勇気くんは口を閉じた。
二人で、音のした方を見る。
「世良くん。私達の存在を忘れてもらっては困るんだが」
理事長さんが苦笑いしていた。
「ぅ…」
ばつが悪そうな顔で勇気くんはそっと手を放した。
彼を見ていた理事長さんが小さく笑って、悪戯を思い付いたような表情になる。
「あとは若いお二人で、と言ってあげたいところだけどね」
その言葉に、勇気くんが少し大きな声を上げた。
「叔父さん!からかわないでくれよっ」
「…叔父さん?」
僕はびっくりして、勇気くんと理事長さんを見比べた。
そういえば、緊張していたり、勇気くんと話したりしていて、ちゃんと顔を見ていなかった。
理事長さん、ダンディーだなぁ…。オールバックが似合っていて、カッコいい。あ。目元が似てる。
そう思っていると、理事長さんと目が合った。
「そんなに見つめられると、照れてしまうな」
「あっ、ごめんなさい」
人をじっと見るだなんて、不躾なことをしてしまった。
「ああ、大丈夫。気にしていないよ」
慌てて謝ると、微笑みかけられた。
「桜井くんは素直で可愛いね」
可愛い?僕が…?
思わず小首を傾げる。
「可愛い子に見つめられるのは大歓迎だ」
ぱちん、とウインクする理事長さん。
ウインクが似合う成人男性は、中々いないと思う。
印象は、渋くて、大人の男性。―それと、茶目っ気のある人、かな?
「叔父さん、何してるんだよ…」
勇気くんの呆れたような声が聞こえた。
「…ウインクとか、やめた方がいいと思う。いい年なんだし」
「失礼だな。私は三十五歳で、まだ若い」
「微妙…。て、え、これ、失礼なのか?」
三十五のおじさんがウインクはアウトじゃないか?
勇気くんが不思議そうに呟いている。
理事長さんはそれを受け流して、「早瀬」と言った。
「はい」
同時に、後ろに控えていたはずの男性が、すっと僕の横に現れた。
いかにも有能そうで知的な人。穏やかな笑みを浮かべている。
いつの間に、移動していたんだろう。全く気が付かなかった。
「―桜井さん、お飲み物は如何致しますか。お茶とコーヒーと紅茶が御座います」
「え?…えっと、紅茶をお願いします」
「畏まりました。少々お待ち下さい」
「すみません」
「いえ。お気になさらず」
―あっという間に、秘書さん…ではなく、早瀬さんがティーセットを用意してくれた。
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を告げると、
「どう致しまして」
早瀬さんも、にこり、と微笑んでくれた。
「―さて」
僕が入室した時と同じように、理事長さんの斜め後ろに早瀬さんが立つと、その場の雰囲気が真面目なものに変わった。
「そろそろ学園の説明をしようか」
「ああ」
「はい。お願いします」
その言葉に、勇気くんと僕は頷いた。

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