日常、そして恋

知世

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出会い

一件落着しました

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コンコン。
理事長室の扉をノックする。
「どうぞ」
すぐに返事が返ってきた。
緊張しながら、「失礼します」と一礼して入室する。
部屋には三人いた。
革張りの黒いソファーに腰かけている二人と、その後ろに控えている人が一人。
扉の手前側に座っているのは、勇気くん。
奥側に座っている、ダークブラウンの髪をオールバックにした男性は、理事長さんで…後ろの黒髪の男性は、秘書さんかな。
「桜井 春人くんだね。待っていたよ」
理事長さんは穏やかに微笑んでいる。
「さ、世良くんの隣に腰かけて」
優しく話しかけられて、少しだけ緊張が解けた。
「遅くなって、すみません」
「気にしなくていいよ。世良くんから理由は聞いてる」
「そう、ですか」
理事長さんの言葉で、隣にいる勇気くんを見る。
彼は膝の上で両手をぎゅっと握り締めて、俯いていた。
勇気くんの横顔は苦しそうで、僕は自分が失敗していたことに気付く。
副会長さんがとても辛そうだったから、慌てて追いかけたけど…勇気くんも辛かったんだ。
人を傷付けてしまったら、苦しいよね…。それが、わざとじゃなくても。
「…勇気くん」
強く握り締められた両手に、自分の手を、そっと乗せる。
「そんなに握り締めたら、血が出るよ」
力を抜いて。
そう思いながら撫でていると、ゆっくりと手から力が抜けていった。
「……春人」
勇気くんが僕を見て、小さな声で呟いた。
「副会長さんが、」
伝言を伝えようとした時、ぴくり、と手が震えた。
一度優しく撫でて、言葉を続ける。
「気にしていないから、って言ってたよ。…だから、大丈夫だよ」
「…そ、うか」
微笑みかけると、安堵したように吐息を漏らした、勇気くん。
そして、一瞬目を伏せた後、こちらに身体ごと向き直った。
「ありがとな、春人」
勇気くんは、ほっとした顔で笑っている。
「僕は何もしてないよ」
ただ、少しお話しただけ。
「そっか…。でも、ありがと」
「…うん。どう致しまして」
僕達は微笑みあった。
よかった…。一件落着だね。

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