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おっさん、プロとして初陣を迎える
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装備の手入れをしてくれるということで、アタッシュケースから取りだした装備品を一式、受付に預けていた。そこから住み込みで働いている鍛冶屋の手に渡り、装備に欠陥があれば、程度の差にもよるが、たいてい少額で修繕してくれる(ハンター保険が適用されている)。
俺はさっそく更衣室に向かった。そこには「個人装備ライン」という、修繕済みの装備品がハンター個人ごと、一列にラックに吊されていた。盗難防止のために、常に警備員が巡回し、監視カメラもある。
「さて、俺のはどこかな……」
俺の装備は手入れが雑かったので、結構ぼろぼろだった。
「あ、3987、これだな」
ハンターライセンスに書かれている俺のハンター番号だった。3987番目に国家ライセンスを獲得した、という意味だった。
「おー、かなり綺麗になってるなぁ。ん、でも、何か貼ってある」
細かい傷や痛みが直された装備品に貼り付けられた紙には、部分的に修繕不能、海外修繕専門店へ、と書かれていた。とくにメイルの胸部や背中についたモンスターの深い爪痕などは、どう研磨しても上薬を塗っても、元の素材の厚さが足りず、修理のための素材が『新宿ギルド』の素材庫に無いらしく、修理が難しいみたいだった。
「いいよ、こんな装備、どうせ無人島で作った安っぽい代物だから。これから都会のダンジョンで稼いで、もっと良い装備を整えればオーケーオーケー」
俺は自分の装備ラインから、いくつか装備を取りだし、装着した。
ヘルム(頭)「仙人カチュアの帽子」
メイル(胴)「精霊ミューズの羽衣(胴・腰兼用)」
アーム(腕)「Not Found」
コイル(腰)「精霊ミューズの羽衣(胴・腰兼用)」
グリーヴ(脚)「風犬ライラドッグのシューズ」
装飾品 なし
武器「Not Found」
Not Foundとは、どのモンスター図鑑にも載っていないモンスターの素材を加工して作った装備のことで、まあ、ぶっちゃけ、無人島のへんぴな特殊ダンジョンにいた珍種が元になっているから、名前が無くても仕方ない。効果効用は所有者の俺がなんとなく把握している。
たしか……、ゴジラみたいな格好の怪物をぶっ潰したときにそいつの固い皮で作製したんだよな、と思いながら、ゴワゴワして軽く、そして極めて硬い(モンスターの大概の攻撃を腕で防げる)感触とともに、Not Foundのアーム装備をしっかり腕にはめ込み、立ち上がる。最後に愛用の黒い太刀を背中にかけて、準備完了。今日は草原だから、わりあい軽い装備を選んでみた。身軽そうでいいだろう。
集会場に戻ると、先に装備し終えていた三人が受付のところで待ってくれていた。ローラはそのまま探検家みたいな格好で、ほのかは前回と同じ鉄製のタイトな防具で、蓮はなんだかヨーロッパの近衛兵みたいな格好をしていた。やたら仰々しい盾と槍を持っている。ガンナーだ。
「ユウスケ、あなたの署名が必要」
「ああ、そうだったな」
署名すると、受付嬢が依頼用紙を受理し、新米ハンター二人に、最新のマップレーダーと、俺のアタッシュケースの中と同じ素材でできた小さな袋を支給してくれた。地域のダンジョンで渡された不格好な物資箱とはわけが違う、ものすごく携帯しやすい。
「なくさないようにお気をつけください」
「分かりました」
「了解です!」
――『ゲート』を通過する。いつも不思議な浮き足だった感覚に陥り、そして気づいたときには予定された地下八階層のセーフゾーンに到着している。
「空気がおいしー……」
ほのかがそう言った。蓮は相変わらず仏頂面をして、ポケットに両手を突っ込んでいる。ローラは風に揺れる髪を押さえつけた。
ダンジョンは今でも構造や仕組みが分かっていない、まさに異空間だ。なぜ各階層にそれぞれ環境が与えられているのか、モンスターが生息しているのか、ダンジョン学者の意見は割れている。
地球意思によるもの、だと言う者もいれば、宇宙人が仕組んだ古代遺跡だとうそぶく者まで、主張は様々だ。最初は世界が大混乱したが、人間の環境適応能力はすさまじく、すぐに出入り口を封鎖するすべを確立し、内部を攻略、気づけばハンター法案が可決されて、世界的なビジネスにまでなってしまった。
「ちょっと日差しが強いな」
天気は晴天、そしてなぜか太陽が二個ある。一面が緑色の短い草で覆われて、さわやかな風が吹いている。地上ではありえない環境だ。セーフゾーンはそこに生えている木のそばにあった。俺たちはセーフゾーンに配置されている大型のアイテムボックスから、あらかじめ支給・用意されているいくつかの必須アイテムを取りだした。
「砥石は男たちで分ければ良いわ。回復薬はそれぞれ三つずつね。戦闘目的じゃないから数が少ないけれど……」
「みんな個人で持っているぶんがあるから十分だろう。戻り玉と、耐熱ドリンクだけくれたら、あとはほのかにやるよ」
「いいんですか!? ありがとうございますっ」
「余ったら持ち帰って自分のものにしたら良いよ」
「はい!」
蓮がコソッと、「余ったらアイテムボックスに戻すのが礼儀なんだが」と言ったら、ほのかが怒って「いちいちうるさい!」と怒鳴り、蓮はあっけにとられた。
「さあ、ひとまず丘を目指しましょう」
丘は東の方に見えていた。マップレーダーが示す地形図には、丘といってもかなり険しい構造が見てとれる。丘はところどころ削られていたりして、洞窟のような場所もあれば、断崖絶壁の箇所もあったりする。
俺はたちパーティ一行はそれぞれの一歩目を踏み出した。セーフゾーンを出れば、そこからはモンスターの世界だ……
俺はさっそく更衣室に向かった。そこには「個人装備ライン」という、修繕済みの装備品がハンター個人ごと、一列にラックに吊されていた。盗難防止のために、常に警備員が巡回し、監視カメラもある。
「さて、俺のはどこかな……」
俺の装備は手入れが雑かったので、結構ぼろぼろだった。
「あ、3987、これだな」
ハンターライセンスに書かれている俺のハンター番号だった。3987番目に国家ライセンスを獲得した、という意味だった。
「おー、かなり綺麗になってるなぁ。ん、でも、何か貼ってある」
細かい傷や痛みが直された装備品に貼り付けられた紙には、部分的に修繕不能、海外修繕専門店へ、と書かれていた。とくにメイルの胸部や背中についたモンスターの深い爪痕などは、どう研磨しても上薬を塗っても、元の素材の厚さが足りず、修理のための素材が『新宿ギルド』の素材庫に無いらしく、修理が難しいみたいだった。
「いいよ、こんな装備、どうせ無人島で作った安っぽい代物だから。これから都会のダンジョンで稼いで、もっと良い装備を整えればオーケーオーケー」
俺は自分の装備ラインから、いくつか装備を取りだし、装着した。
ヘルム(頭)「仙人カチュアの帽子」
メイル(胴)「精霊ミューズの羽衣(胴・腰兼用)」
アーム(腕)「Not Found」
コイル(腰)「精霊ミューズの羽衣(胴・腰兼用)」
グリーヴ(脚)「風犬ライラドッグのシューズ」
装飾品 なし
武器「Not Found」
Not Foundとは、どのモンスター図鑑にも載っていないモンスターの素材を加工して作った装備のことで、まあ、ぶっちゃけ、無人島のへんぴな特殊ダンジョンにいた珍種が元になっているから、名前が無くても仕方ない。効果効用は所有者の俺がなんとなく把握している。
たしか……、ゴジラみたいな格好の怪物をぶっ潰したときにそいつの固い皮で作製したんだよな、と思いながら、ゴワゴワして軽く、そして極めて硬い(モンスターの大概の攻撃を腕で防げる)感触とともに、Not Foundのアーム装備をしっかり腕にはめ込み、立ち上がる。最後に愛用の黒い太刀を背中にかけて、準備完了。今日は草原だから、わりあい軽い装備を選んでみた。身軽そうでいいだろう。
集会場に戻ると、先に装備し終えていた三人が受付のところで待ってくれていた。ローラはそのまま探検家みたいな格好で、ほのかは前回と同じ鉄製のタイトな防具で、蓮はなんだかヨーロッパの近衛兵みたいな格好をしていた。やたら仰々しい盾と槍を持っている。ガンナーだ。
「ユウスケ、あなたの署名が必要」
「ああ、そうだったな」
署名すると、受付嬢が依頼用紙を受理し、新米ハンター二人に、最新のマップレーダーと、俺のアタッシュケースの中と同じ素材でできた小さな袋を支給してくれた。地域のダンジョンで渡された不格好な物資箱とはわけが違う、ものすごく携帯しやすい。
「なくさないようにお気をつけください」
「分かりました」
「了解です!」
――『ゲート』を通過する。いつも不思議な浮き足だった感覚に陥り、そして気づいたときには予定された地下八階層のセーフゾーンに到着している。
「空気がおいしー……」
ほのかがそう言った。蓮は相変わらず仏頂面をして、ポケットに両手を突っ込んでいる。ローラは風に揺れる髪を押さえつけた。
ダンジョンは今でも構造や仕組みが分かっていない、まさに異空間だ。なぜ各階層にそれぞれ環境が与えられているのか、モンスターが生息しているのか、ダンジョン学者の意見は割れている。
地球意思によるもの、だと言う者もいれば、宇宙人が仕組んだ古代遺跡だとうそぶく者まで、主張は様々だ。最初は世界が大混乱したが、人間の環境適応能力はすさまじく、すぐに出入り口を封鎖するすべを確立し、内部を攻略、気づけばハンター法案が可決されて、世界的なビジネスにまでなってしまった。
「ちょっと日差しが強いな」
天気は晴天、そしてなぜか太陽が二個ある。一面が緑色の短い草で覆われて、さわやかな風が吹いている。地上ではありえない環境だ。セーフゾーンはそこに生えている木のそばにあった。俺たちはセーフゾーンに配置されている大型のアイテムボックスから、あらかじめ支給・用意されているいくつかの必須アイテムを取りだした。
「砥石は男たちで分ければ良いわ。回復薬はそれぞれ三つずつね。戦闘目的じゃないから数が少ないけれど……」
「みんな個人で持っているぶんがあるから十分だろう。戻り玉と、耐熱ドリンクだけくれたら、あとはほのかにやるよ」
「いいんですか!? ありがとうございますっ」
「余ったら持ち帰って自分のものにしたら良いよ」
「はい!」
蓮がコソッと、「余ったらアイテムボックスに戻すのが礼儀なんだが」と言ったら、ほのかが怒って「いちいちうるさい!」と怒鳴り、蓮はあっけにとられた。
「さあ、ひとまず丘を目指しましょう」
丘は東の方に見えていた。マップレーダーが示す地形図には、丘といってもかなり険しい構造が見てとれる。丘はところどころ削られていたりして、洞窟のような場所もあれば、断崖絶壁の箇所もあったりする。
俺はたちパーティ一行はそれぞれの一歩目を踏み出した。セーフゾーンを出れば、そこからはモンスターの世界だ……
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