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風呂場のお約束

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 ――時をさかのぼること数時間前、天才の俺様は村人に指示して、毒ガス注意の立て看板をいくつか作らせて、予知夢でみた場所付近に等間隔で配置させていたのだ!

 まさに賢者的発想、これ以上の策はなかった……。というか、ほかの策は思いつかんかった……。まあええやん、うまくいったし。帰って寝よう、次に起きてから、これからのこと考えたらええんや。

 俺たちはまたぞろぞろと歩いて山の向こうのアルル村に戻った。そしたら、なんか村に残っとった村人たちが祠の前で騒いどった。

「なんやなんや」
「あぁ、救世主様、大変です、呪いの札がひとりでに破れ落ちてしまいました!」
「あ、そうなん、よかったやん」
「きっと、災いを未然に退けたからだ! そうにちげぇねぇ!」

――救世主様、バンザーイっっ! 救世主様、バンザーイっっ!

まるで英雄凱旋のように、夜明けの村では人々が喜び合い、不安から解き放たれたようにムードがよかった。

「これでやっと祠の中のものの手入れができる……」

 シャーマンの血筋であるベンじいさんが、率先して祠の中の手入れを始める。朝っぱらからご苦労なことやで。

「ベンじいさん、また寝床貸してくれ、あ、風呂も借りていい?」
「ええぞい、ネネと一緒に先に帰っておいてくれ」
「あ、そっか、そういやこいつベンじいさんの孫娘やったな」
「こいつ、とか言わないでくれる?」
「またかわいげない態度とって、救世主様に失礼なやっちゃなぁ」
「私はまだ、認めてないから!」

 一緒に帰るのが嫌なのか、そそくさと急ぎ足で帰って行くネネ。もうちょい愛想よくできたら田舎町の美少女って感じで、かわいいねんけどなぁ、もったいないなぁ。俺の高校にあんな美人な子入ってきたら大騒ぎやねんけども。

 ――村人たちの祝杯にちょっと付き合ったりして、いろいろ寄り道してからベンじいさんの家に帰ってきた。小腹の空いた俺は台所付近を物色してパンを見つけると、それを食べながらスマホをいじる。

「なんや、ぜんぜん充電減らへんし、特別仕様なスマホになっとるな。でも圏外やし、ネットにつながらんのは論外やわ……、あぁー、緊張して肩こっとる、風呂はいろっと」

 俺は家の中を探したが風呂のようなものは見当たらなかった。しかし一歩外の出てみると、家の離れに湯気を立たせる小屋みたいなものがあった。

「あれが風呂やな、もう湯気たっとるし、用意のいいことやな、よっしゃ、汗流すで」

 俺は脱衣所でちゃっちゃと服を脱いで、湯気が立つ浴室に裸一貫で入っていった。眠気で目がしょぼしょぼしていたので、女物の衣服が脱衣所の隅にたたまれて置かれていたことにはぜんぜん気づかなかった。

「お、屋根付きの露天風呂みたいな感じやなぁ」

 俺がぬれた浴室の床をぺたぺた歩いて行くと、湯気の向こうに人影が見えた。

(……あれ、誰かおるんかな)

 人影の方へ向かい、声をかける。

「あのー、すんません、勝手やけど、お風呂、ご一緒さしてもらいます……ね?」

 湯気が風で消え去り、目の前には髪を洗っている女の、裸の背中が現れた。女は声に気づいて振り返ると、ものすごい金切り声で叫んだ。

「きゃあぁああっっっ! 何勝手に入って来てるの!」
「あ、お前の存在、すっかり頭から抜けとったわ。アハハ、ごめんごめん」

 タオルですぐに前を隠したが、おっぱいマスターの俺にはすぐに分かった。貧乳である。

「なんや、思ったより小ぶりやな、うちのおかんのがもうちょいあったで」
「うっさい!!」
「ぐへぇっっ!」

 顔面を鉄拳制裁され、そのまま湯船にまっさかさまに落ちる。遠くで女が鳴き声を上げながら駆けていく足音が聞こえたが、それは水しぶきにかき消された。

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