魔法の使えない劣等生、スキルだけで異世界無双~社会から追放された悲劇のヒロイン、かたっぱしからうちのパーティーに入れてみた~

masa

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作戦成功

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 ――朝方、ヘイズ帝国とリオール王国の国境付近で、敗走する騎馬兵たちが山間を縫うようにして帰途についていた。

「くそ、あり得ぬ、聞いていた話と違うではないか」
「まさか魔法騎士を小戦場にまで送り込んでくるとは、ヘイズ帝国め、よほど人材育成がうまくいっていると見えるっ……!」
「全く歯が立たなかった、戦果もないまま国に帰れば、我らの立場も危ないぞ……」

 兵たちは苛立ちを隠せなかった。勝てるはずもない戦に投入され、辛くも命を落とさずに済んだものの、多くの仲間が犠牲になった。国の戦争方針に疑問を感じつつも、どうにかして敵国に一矢報いてやりたいと考えていた。

「ここはまだヘイズ帝国領内だな」
「ああ、そうだ」
「どこかに村の一つでもあれば、焼き討ちしてくれるものを……」

 燃えたぎる恨みの感情を胸に、兵士たちは疲弊した馬に鞭を入れる。

――一方、そのころ清晴と村人たちは、うっそうと生い茂る豊かな草木に隠れて、アルル山の向こうに突然現れた兵士たちを観察していた。

「ひっ、ひぇ……あれはリオール王国の兵士でねぇか」
「本当に来やがったなぁ、救世主様の言うとおりじゃ」
「剣にも防具にも血が滴っておるように見える、見つかったら殺されるぞぉ」

 じじばばたちは恐れおののいたような顔つきで、口々に自分の思っていたことを小声でささやいていた。こんな攻めづらい地方の山奥に敵国の兵士がうろつくなんてことは滅多にないらしい。

「こらっ、あんましゃべったらあかんで、ばれてもたらしまいやからな」

 清晴は内心、驚いていた。まさか正夢だったとは。スキルおそるべし。Dランクスキルだったおかげで、直近の未来が見えたことも幸いだった。

 でもいちおう予言は的中したので、面目は保ったわけだ。たいがいの村人はもう俺のことを信じているだろう。

 しかし若干一名、まだまだ俺のことを疑いまくっている女がいた。

「こんな子供だましで、ほんとにうまくいくのかしら……」

 となりでネネが言った。近くで見ると瞳が大きくて、目力があり、あんまり目を合わせるとまた何かを見抜かれてしまいそうな気がして、いまいち目を合わせることができない。

「ぶっちゃけ、わからん、でもこれしかないやろ」
「わからないってなによ、救世主様だったら何でもできるんじゃないの」
「う、うーん、まぁそうやけど、なんちゅーか、そのぉ……」

 自信はなかった。もはや神に祈るような気持ちで作戦成功を願っていた。

 兵士たちは近くまで来て何やらいろいろとしゃべっている。

「おい、次はどっちだ」
「北東にいって、アルル山という山を超える。あとは道なりに進めば、我らが王国の領内だ」
「……もうすぐ夜明けだな」

 山の稜線付近がわずかに明るくなっている。しかしまだ山間は暗く、土地勘のない兵士にとっては、なかなか周りがよく見えない。

「――あれは、……なんだろう」
「立て看板のようなものが一列に並んでいる……」
「誰か見てこい」

 兵士の一人が先にその立て看板のようなものに近づき、そこに書かれていた文字を声に出して読んだ。

《この先、毒ガス噴出地帯につき、立ち入りを禁ずる》

「――毒ガス噴出地帯につき、立ち入りを禁ずる……、と書いてあるぞ!」
「なにっ!? 毒ガスだと」
「それは危険だっ……せっかく助かった命を無駄にするわけにはいかん」
「しかたないな、……では、アルル山を超えるのはよそう。迂回して、毒ガス噴出地帯を避けて帰路につくぞ」
「了解!」

 騎馬兵たちが進路を変え、夜の闇の中に消えていく。

 清晴たちはそれを見届けながら、声を押し殺しつつ手を取り合い、喜び合った。

「やったぞ……っ! あやつら、まんまと引っかかりおった!」
「助かった、助かった……」
「これで災いは去ったっ、救世主様のおかげじゃぁ~」

 清晴はほっとして、それからとなりのネネにどや顔で言った。

「ほら見てみい、完璧な作戦やったやろがい」
「……えらそうに言わないでよ」

 怪訝な顔をしつつも、少し表情が和らいだ。戦争で父を失っているだけあって、敵国の兵士には恐れのようなものがあったのだろう。

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