上 下
6 / 8

真理を見抜く女

しおりを挟む
とにかくぜんぜん札をはがせそうにない俺は、話を百八十度変えてしまう作戦に出た。俺には頼りになるスキル「嘘っぱち」があんねんから、だいじょうぶ!

「みんな、これは勘違いしとるな、この札は、災いとは全然関係あらへんよ」
「え、えぇぇぇえ!?」

 一同驚愕の事実である。もちろん嘘である。雷バチバチがどんな仕組みかは知らんし、もしかしたらほんまに呪いなのかもしらん。

「これはな、えっと、その、あれやねん、むしろ御神体を盗人にパクられんようにやな、守ってくれてんねんな、この札貼ってくれたやつ、けっこうええ奴やで、たぶん」
「そ、そうなんですか、じゃあ、災いはいったいどこから」
「これはもはやこの村の運命やな、ディスティニーや」
「そっ、そんなぁ」
「だーいじょうぶや、心配すんな、心配しとるから悪い運がつきまとってくるんや、平常心が大切、これ教訓な、救世主的教訓!」

 俺が適当に話を丸め込もうとしていたとき、若い女の叫び声が夜を切り裂いた。

「そんなの嘘よ! 信じちゃだめ!」

 白いワンピース姿、草冠をかぶり、手には木でできた杖を持った、いかにも祈祷師っぽい女がずかずかと乗り込んできて、続けざまに言った。

「この男は救世主様なんかじゃない、なんの変哲もないただの人間よ」
「な、なにを根拠にそんなこというねん!」

 あれや、ベンじいさんとこの孫娘や、とすぐに分かった。村では珍しい若い娘、どえらいべっぴんさんやけど、やっぱりしかめっ面で、かわいげはない。

「私には真実を見抜く能力があるの、それはシャーマンの血を引く私に与えられた力」

――そうじゃ、ネネには不思議な力が昔からあったんじゃった。

――どういうこったい、どっちがほんとなんね。

(やばいな、風向き変わってきたぞ、ここは「鑑定」や)

 俺の目には意識された対象、つまりネネという女のデータが表示される。

【ネネ 17歳 女】
《職業》アルル村の祈祷師
《基礎能力》生命力 20/20
      腕力 15
      知力 60
      走力 15
      社交性 20
      統率力40
《スキル》真理の瞳 S

(ほんまや……、なんか真理の瞳とかいうかっちょいいスキル持っとる。しかもSランクやし、ぜったい俺のCランクスキルとか効かへんやん、……え、てか知力高くね? 俺の20倍?)

「災いの日は近いわ、やっぱり街から呪いの解除が得意な魔法使いの方を雇い入れた方がいいわ、呪いの札は私たちの手に余るのよ」

 周囲の村人たちが困惑の表情を浮かべる。

(ぐぬぬ、……これ以上この女にしゃべらせたらあかん、でもスキル効かへんし、どないしたらええんやっ)

 俺が困り果てているとき、助け船が現れた。

「ま、まってくれい、みんなぁ」

 ベンじいさんがよたよたと歩み寄ってきて、孫娘の足下にすがりついた。

「ネネや、いいかい、この人は本物、本物の救世主様なんじゃ、ワシが保証する、この方は神様と連絡が取れる、すばらしい御方なんじゃ」
「はぁ? なにいってるのおじいちゃん、こんなペテン師にだまされちゃダメよ!」

 親子げんかみたいなノリになって、一瞬場がまぎれたのを俺はチャンスとみた。ナイスフォロー! ベンじいさん!

(これは一世一代の賭けや、スキルを信じるで)

「おい、ネネとかいう女、聞けぃ」
「なによ」
「そんなに疑うんやったらなぁ、証拠見せたるわ」
「証拠?」
「ようするに、400年に一度の災いを退けたら、俺が救世主やったって証拠になるわな」
「……まぁ、そうだけど、あなたには無理よ」

 俺はフフン、と笑って、高らかに予言した。

「皆のもの、よーく耳をかっぽじってききたまえ。明日、おそらく明日の朝方、この村に400年に一度の災いが訪れる。どこかの国の武装した敗残兵たちが、負けた腹いせにこの村を襲い、火を放ち、建物を破壊し、人々を虐殺するであろう!」

 どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。村人はただただ動揺し、村の壊滅を恐れた。

「あ、明日なんて、急すぎるでねぁか!」
「村が終わっちまう、災いは避けられねぇ」
「いやじゃあ、いやじゃあ!」

 ネネは焦った風に、みんな落ちついて、と連呼した。しかし信心深いじじばばの騒ぎは収まらない。

 ネネは怒った顔をして俺の方をむき直し、その怒りの形相のまま真理の瞳を俺に向けた。黒い瞳がにわかに黄金色に光り輝き、あからさまにスキルの発動を知らせる。

(すげぇ、……目の色変わりやがった)

「――え、……嘘、じゃない……?」

 ネネは小さく後ずさりした。それもそのはず、別に俺は嘘をついたわけではない。わりと信憑性のある予知夢のことを述べたのである。

「せやろ、これほんまやねん」
「ど、どうせあなたの妄想なんでしょ」
「ちゃうちゃう、まあ信じるか信じひんかはお前が決めたらええ。明日になったら分かることやしな」

 村人の一人が俺の元にきて、救いをこう。

「私どもはどうしたらええんですか、救世主様ぁ」
「はっはっは! 心配いらぬ、この我が輩には、秘策がある!」
「えぇ!? それはどういったもんですか」
「ふむ、まあ簡単なことだ、君たちが手伝ってくれさえすればね……?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

【完結】Giantkilling new

松竹梅
ファンタジー
新しいGiantkilling が始まる...!

kyrie 涙の国

くり
ファンタジー
白灰色の荒野。蔓延る怪物。そのど真ん中にぽつんと存在する白い王国――。 現実から切り離された世界に放り出された者達の国。そこには、かつて一人の英雄であり、大罪者が存在した。 北軍の長、時間を越える者、〈北の鬼〉クレア・クォントリル。 彼女の存在を巡って、時間を超えた戦いが始まる。      ☆ 西軍白兵隊第二小隊が壊滅した。生き残ったのは僅か三人。その一人、ヒメの新しい相棒として選ばれたのは、元北軍軍団長の息子にして鬼の異名を持つ青年、キリエ・シュナイダーだった。 彼の協力のもとに西軍は窮地を脱するが、それとともにキリエは姿を消してしまうのだった。(ヒメの章完結)      ☆ 現在、別の作品(Dreamen)を更新しています。時々は番外編を更新するかもしれませんが、基本的には向こうが終わってから新しい章に入る予定です。     ☆ ヒメの章の一部タイトル変更、中身は変更なし。(2019/6/1) ヒメの章の一部文章修正、内容に変更なし。(2020/4/15) ヒメの章【瞬刻】happy birthday dear…の一部修正。(2020/6/16)

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風
ファンタジー
 この時代において、最も新しき英雄の名は、これから記されることになります。  素手で魔獣を屠る、血雨を歩く者。  傷つき倒れる者を助ける、白き癒し手。  堅牢なる鎧さえ意味をなさない、騎士殺し。  ただただ死闘を求める、自殺願望者。  ほかにも暴走お嬢様、爆走天使、暴虐の姫君、破滅の舞踏、などなど。  様々な異名で呼ばれた彼女ですが、やはり一番有名なのは「狂乱令嬢」の名。    彼女の名は、これより歴史書の一ページに刻まれることになります。  英雄の名に相応しい狂乱令嬢の、華麗なる戦いの記録。  そして、望まないまでも拒む理由もなく歩を進めた、偶像の軌跡。  狂乱令嬢ニア・リストン。  彼女の物語は、とある夜から始まりました。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

処理中です...