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真理を見抜く女
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とにかくぜんぜん札をはがせそうにない俺は、話を百八十度変えてしまう作戦に出た。俺には頼りになるスキル「嘘っぱち」があんねんから、だいじょうぶ!
「みんな、これは勘違いしとるな、この札は、災いとは全然関係あらへんよ」
「え、えぇぇぇえ!?」
一同驚愕の事実である。もちろん嘘である。雷バチバチがどんな仕組みかは知らんし、もしかしたらほんまに呪いなのかもしらん。
「これはな、えっと、その、あれやねん、むしろ御神体を盗人にパクられんようにやな、守ってくれてんねんな、この札貼ってくれたやつ、けっこうええ奴やで、たぶん」
「そ、そうなんですか、じゃあ、災いはいったいどこから」
「これはもはやこの村の運命やな、ディスティニーや」
「そっ、そんなぁ」
「だーいじょうぶや、心配すんな、心配しとるから悪い運がつきまとってくるんや、平常心が大切、これ教訓な、救世主的教訓!」
俺が適当に話を丸め込もうとしていたとき、若い女の叫び声が夜を切り裂いた。
「そんなの嘘よ! 信じちゃだめ!」
白いワンピース姿、草冠をかぶり、手には木でできた杖を持った、いかにも祈祷師っぽい女がずかずかと乗り込んできて、続けざまに言った。
「この男は救世主様なんかじゃない、なんの変哲もないただの人間よ」
「な、なにを根拠にそんなこというねん!」
あれや、ベンじいさんとこの孫娘や、とすぐに分かった。村では珍しい若い娘、どえらいべっぴんさんやけど、やっぱりしかめっ面で、かわいげはない。
「私には真実を見抜く能力があるの、それはシャーマンの血を引く私に与えられた力」
――そうじゃ、ネネには不思議な力が昔からあったんじゃった。
――どういうこったい、どっちがほんとなんね。
(やばいな、風向き変わってきたぞ、ここは「鑑定」や)
俺の目には意識された対象、つまりネネという女のデータが表示される。
【ネネ 17歳 女】
《職業》アルル村の祈祷師
《基礎能力》生命力 20/20
腕力 15
知力 60
走力 15
社交性 20
統率力40
《スキル》真理の瞳 S
(ほんまや……、なんか真理の瞳とかいうかっちょいいスキル持っとる。しかもSランクやし、ぜったい俺のCランクスキルとか効かへんやん、……え、てか知力高くね? 俺の20倍?)
「災いの日は近いわ、やっぱり街から呪いの解除が得意な魔法使いの方を雇い入れた方がいいわ、呪いの札は私たちの手に余るのよ」
周囲の村人たちが困惑の表情を浮かべる。
(ぐぬぬ、……これ以上この女にしゃべらせたらあかん、でもスキル効かへんし、どないしたらええんやっ)
俺が困り果てているとき、助け船が現れた。
「ま、まってくれい、みんなぁ」
ベンじいさんがよたよたと歩み寄ってきて、孫娘の足下にすがりついた。
「ネネや、いいかい、この人は本物、本物の救世主様なんじゃ、ワシが保証する、この方は神様と連絡が取れる、すばらしい御方なんじゃ」
「はぁ? なにいってるのおじいちゃん、こんなペテン師にだまされちゃダメよ!」
親子げんかみたいなノリになって、一瞬場がまぎれたのを俺はチャンスとみた。ナイスフォロー! ベンじいさん!
(これは一世一代の賭けや、スキルを信じるで)
「おい、ネネとかいう女、聞けぃ」
「なによ」
「そんなに疑うんやったらなぁ、証拠見せたるわ」
「証拠?」
「ようするに、400年に一度の災いを退けたら、俺が救世主やったって証拠になるわな」
「……まぁ、そうだけど、あなたには無理よ」
俺はフフン、と笑って、高らかに予言した。
「皆のもの、よーく耳をかっぽじってききたまえ。明日、おそらく明日の朝方、この村に400年に一度の災いが訪れる。どこかの国の武装した敗残兵たちが、負けた腹いせにこの村を襲い、火を放ち、建物を破壊し、人々を虐殺するであろう!」
どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。村人はただただ動揺し、村の壊滅を恐れた。
「あ、明日なんて、急すぎるでねぁか!」
「村が終わっちまう、災いは避けられねぇ」
「いやじゃあ、いやじゃあ!」
ネネは焦った風に、みんな落ちついて、と連呼した。しかし信心深いじじばばの騒ぎは収まらない。
ネネは怒った顔をして俺の方をむき直し、その怒りの形相のまま真理の瞳を俺に向けた。黒い瞳がにわかに黄金色に光り輝き、あからさまにスキルの発動を知らせる。
(すげぇ、……目の色変わりやがった)
「――え、……嘘、じゃない……?」
ネネは小さく後ずさりした。それもそのはず、別に俺は嘘をついたわけではない。わりと信憑性のある予知夢のことを述べたのである。
「せやろ、これほんまやねん」
「ど、どうせあなたの妄想なんでしょ」
「ちゃうちゃう、まあ信じるか信じひんかはお前が決めたらええ。明日になったら分かることやしな」
村人の一人が俺の元にきて、救いをこう。
「私どもはどうしたらええんですか、救世主様ぁ」
「はっはっは! 心配いらぬ、この我が輩には、秘策がある!」
「えぇ!? それはどういったもんですか」
「ふむ、まあ簡単なことだ、君たちが手伝ってくれさえすればね……?」
「みんな、これは勘違いしとるな、この札は、災いとは全然関係あらへんよ」
「え、えぇぇぇえ!?」
一同驚愕の事実である。もちろん嘘である。雷バチバチがどんな仕組みかは知らんし、もしかしたらほんまに呪いなのかもしらん。
「これはな、えっと、その、あれやねん、むしろ御神体を盗人にパクられんようにやな、守ってくれてんねんな、この札貼ってくれたやつ、けっこうええ奴やで、たぶん」
「そ、そうなんですか、じゃあ、災いはいったいどこから」
「これはもはやこの村の運命やな、ディスティニーや」
「そっ、そんなぁ」
「だーいじょうぶや、心配すんな、心配しとるから悪い運がつきまとってくるんや、平常心が大切、これ教訓な、救世主的教訓!」
俺が適当に話を丸め込もうとしていたとき、若い女の叫び声が夜を切り裂いた。
「そんなの嘘よ! 信じちゃだめ!」
白いワンピース姿、草冠をかぶり、手には木でできた杖を持った、いかにも祈祷師っぽい女がずかずかと乗り込んできて、続けざまに言った。
「この男は救世主様なんかじゃない、なんの変哲もないただの人間よ」
「な、なにを根拠にそんなこというねん!」
あれや、ベンじいさんとこの孫娘や、とすぐに分かった。村では珍しい若い娘、どえらいべっぴんさんやけど、やっぱりしかめっ面で、かわいげはない。
「私には真実を見抜く能力があるの、それはシャーマンの血を引く私に与えられた力」
――そうじゃ、ネネには不思議な力が昔からあったんじゃった。
――どういうこったい、どっちがほんとなんね。
(やばいな、風向き変わってきたぞ、ここは「鑑定」や)
俺の目には意識された対象、つまりネネという女のデータが表示される。
【ネネ 17歳 女】
《職業》アルル村の祈祷師
《基礎能力》生命力 20/20
腕力 15
知力 60
走力 15
社交性 20
統率力40
《スキル》真理の瞳 S
(ほんまや……、なんか真理の瞳とかいうかっちょいいスキル持っとる。しかもSランクやし、ぜったい俺のCランクスキルとか効かへんやん、……え、てか知力高くね? 俺の20倍?)
「災いの日は近いわ、やっぱり街から呪いの解除が得意な魔法使いの方を雇い入れた方がいいわ、呪いの札は私たちの手に余るのよ」
周囲の村人たちが困惑の表情を浮かべる。
(ぐぬぬ、……これ以上この女にしゃべらせたらあかん、でもスキル効かへんし、どないしたらええんやっ)
俺が困り果てているとき、助け船が現れた。
「ま、まってくれい、みんなぁ」
ベンじいさんがよたよたと歩み寄ってきて、孫娘の足下にすがりついた。
「ネネや、いいかい、この人は本物、本物の救世主様なんじゃ、ワシが保証する、この方は神様と連絡が取れる、すばらしい御方なんじゃ」
「はぁ? なにいってるのおじいちゃん、こんなペテン師にだまされちゃダメよ!」
親子げんかみたいなノリになって、一瞬場がまぎれたのを俺はチャンスとみた。ナイスフォロー! ベンじいさん!
(これは一世一代の賭けや、スキルを信じるで)
「おい、ネネとかいう女、聞けぃ」
「なによ」
「そんなに疑うんやったらなぁ、証拠見せたるわ」
「証拠?」
「ようするに、400年に一度の災いを退けたら、俺が救世主やったって証拠になるわな」
「……まぁ、そうだけど、あなたには無理よ」
俺はフフン、と笑って、高らかに予言した。
「皆のもの、よーく耳をかっぽじってききたまえ。明日、おそらく明日の朝方、この村に400年に一度の災いが訪れる。どこかの国の武装した敗残兵たちが、負けた腹いせにこの村を襲い、火を放ち、建物を破壊し、人々を虐殺するであろう!」
どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。村人はただただ動揺し、村の壊滅を恐れた。
「あ、明日なんて、急すぎるでねぁか!」
「村が終わっちまう、災いは避けられねぇ」
「いやじゃあ、いやじゃあ!」
ネネは焦った風に、みんな落ちついて、と連呼した。しかし信心深いじじばばの騒ぎは収まらない。
ネネは怒った顔をして俺の方をむき直し、その怒りの形相のまま真理の瞳を俺に向けた。黒い瞳がにわかに黄金色に光り輝き、あからさまにスキルの発動を知らせる。
(すげぇ、……目の色変わりやがった)
「――え、……嘘、じゃない……?」
ネネは小さく後ずさりした。それもそのはず、別に俺は嘘をついたわけではない。わりと信憑性のある予知夢のことを述べたのである。
「せやろ、これほんまやねん」
「ど、どうせあなたの妄想なんでしょ」
「ちゃうちゃう、まあ信じるか信じひんかはお前が決めたらええ。明日になったら分かることやしな」
村人の一人が俺の元にきて、救いをこう。
「私どもはどうしたらええんですか、救世主様ぁ」
「はっはっは! 心配いらぬ、この我が輩には、秘策がある!」
「えぇ!? それはどういったもんですか」
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