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二人の母親
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案内されたのはおばさんの住居に違いない。おばさんはさっそく奥のキッチンで料理を開始していて、おれは食卓のいすに座らされ放心状態だ。ふいに首を回すと、視線の先の戸棚の上に写真が飾られていた。
そこには若かりし頃のおばさんと、小さい幼子、そしてもう一人、おれにそっくりな感じの若い男が映っていた。
「――さ、召し上がれ!」
豪勢な肉料理が机の上に並んだ。
「……あの」
「なあに、マシュー?」
「マシューじぇねえよ、リンタローだって、つーか誰なんですか、あなた」
「ソフィアお母さんよ」
「は!?」
「あなたはね、2歳の時に神隠しに遭ったの」
「……あーはん???」
「この町には一年にひとり、神様が幼い子供を違う世界にさらっていってしまうという言い伝えがあってね。それは本当に毎年おこっていたことなの。お母さん、すごく注意していたつもりだったけど、少し目を離した隙にいなくなっていてねぇ……それからすぐにお父さんも死んでしまって、お母さんさみしかったのよ、……ふっ、うぅっ、うわぁああん!」
大の大人が大泣きして、また抱きつかれてしまった。どうもこの人は行方不明になっていた息子が帰ってきたと思っているらしい。なんでだよ! 2歳で行方不明とかふつう死んでるだろ! 神隠しって本気で言ってんのか、このひと偏差値32のおれより頭わりーんじゃねーのか!?
「お父さんに似たわねぇ、よくここまで育って……ふわぁああん!!!」
「……いや、申し訳ないですけど、おれリンタローだし、お母さんも別の人がいるんで、飯はありがたくいただきますけど、食ったら帰ります!」
「リンタロー? それが異世界で神に授けられた第二の名前なのね!!!?」
「はいぃいい??」
突然の謎解釈におれは驚いた。神隠しの言い伝えには、さらわれた子供には新しい名前が授けられ、そして新しい世界での第二の人生がスタートするというような話があるらしい。おれは頭が混乱して、
(もうだめだ、このひと頭いっちゃってる系の人だから、とりあえず現在地を確かめねーと!)
俺はスマホを取り出して、さっそくグーグルで現在地を確認した。すると、グーグルのマップ表示では神田川のど真ん中に現在地が示されている。通信状況は4G茶柱三本びんびんで悪くない。通信状況のせいじゃないみたいだ。グーグルがバグってんのか? はぁ、ざけんなよ、ここが神田川なわけねーだろ、こんのアホたれが!
ラインがきていた。マジモンの母親からだ。
さちこ〈凛太郎、いまどこなの?〉
凛太郎〈ごめん、ひさしぶりに友達の家に遊びに来てる。すぐ帰るから〉
適当に嘘の返事を返して(俺みたいなボッチに友達なんているわけないけどお母さんも俺に似てアホで鈍感だから気づかない大丈夫)、それからおいしそうな飯をかっくらう。せっかく俺のために見知らぬおばさんが作ってくれたんだし、これだけはくっておかないとな!
「よく食べるねえ、マシュー。うふふ」
「うめぇ!! ソフィアさん料理上手っすね!!!」
「ソフィアさん、なんて、そんな他人行儀な呼び方しないで、お母さん、でいいのよ?」
おばさんはそういう趣味の人かもしれないと再び思った。こういうシチュエーションで若い男をさらって、ごちそうするのが唯一の生きがいみたいな、そういうタイプの不審者……。たぶんそうだ、なんか2ちゃんねるでそんなスレ見たことあるぞ、ほんとにあるんだこんなこと、おーこえー!
「――っし、ごちそうさまでした。じゃ、かえりますね」
「帰るって、どこに? あなたの家はここよ?」
「いや、もうそういうのいいんで、じゃ」
「――あっ、マシュー、まって!」
おれはダッシュで部屋を飛び出して、階段から地上へ降りようとした。なんでおれはこんな珍奇なところで寝ていたんだろうな、意識を失っている間に誰かがここまで運んできたってことか? ……あ、やべ、そういやおれ頭悪いんだった、推理とか向いてねーや。
「……あれ、階段どこだ」
屋上から一つ下の階へ下りる短い階段はあったが、そこから下へは続いていなかった。向こうの端まで通路を見ていったが、階段らしいものが一つもない。エレベーターも。
「マシュー! ダメじゃないあなた、きっと下りられないんでしょう!?」
ソフィアさんがつっかけみたいなのをはいて、急ぎ足で俺の方へ近づき、手を取った。また涙で瞳がにじんでいる。美人だから、ちょっと罪悪感。
「もう、お母さんから離れていかないで、……お願い……っ」
「あ……ご、ごめんなさい……?」
俺は結局連れ戻されて、そこでいろいろ訳のわからない話をされた。
そこには若かりし頃のおばさんと、小さい幼子、そしてもう一人、おれにそっくりな感じの若い男が映っていた。
「――さ、召し上がれ!」
豪勢な肉料理が机の上に並んだ。
「……あの」
「なあに、マシュー?」
「マシューじぇねえよ、リンタローだって、つーか誰なんですか、あなた」
「ソフィアお母さんよ」
「は!?」
「あなたはね、2歳の時に神隠しに遭ったの」
「……あーはん???」
「この町には一年にひとり、神様が幼い子供を違う世界にさらっていってしまうという言い伝えがあってね。それは本当に毎年おこっていたことなの。お母さん、すごく注意していたつもりだったけど、少し目を離した隙にいなくなっていてねぇ……それからすぐにお父さんも死んでしまって、お母さんさみしかったのよ、……ふっ、うぅっ、うわぁああん!」
大の大人が大泣きして、また抱きつかれてしまった。どうもこの人は行方不明になっていた息子が帰ってきたと思っているらしい。なんでだよ! 2歳で行方不明とかふつう死んでるだろ! 神隠しって本気で言ってんのか、このひと偏差値32のおれより頭わりーんじゃねーのか!?
「お父さんに似たわねぇ、よくここまで育って……ふわぁああん!!!」
「……いや、申し訳ないですけど、おれリンタローだし、お母さんも別の人がいるんで、飯はありがたくいただきますけど、食ったら帰ります!」
「リンタロー? それが異世界で神に授けられた第二の名前なのね!!!?」
「はいぃいい??」
突然の謎解釈におれは驚いた。神隠しの言い伝えには、さらわれた子供には新しい名前が授けられ、そして新しい世界での第二の人生がスタートするというような話があるらしい。おれは頭が混乱して、
(もうだめだ、このひと頭いっちゃってる系の人だから、とりあえず現在地を確かめねーと!)
俺はスマホを取り出して、さっそくグーグルで現在地を確認した。すると、グーグルのマップ表示では神田川のど真ん中に現在地が示されている。通信状況は4G茶柱三本びんびんで悪くない。通信状況のせいじゃないみたいだ。グーグルがバグってんのか? はぁ、ざけんなよ、ここが神田川なわけねーだろ、こんのアホたれが!
ラインがきていた。マジモンの母親からだ。
さちこ〈凛太郎、いまどこなの?〉
凛太郎〈ごめん、ひさしぶりに友達の家に遊びに来てる。すぐ帰るから〉
適当に嘘の返事を返して(俺みたいなボッチに友達なんているわけないけどお母さんも俺に似てアホで鈍感だから気づかない大丈夫)、それからおいしそうな飯をかっくらう。せっかく俺のために見知らぬおばさんが作ってくれたんだし、これだけはくっておかないとな!
「よく食べるねえ、マシュー。うふふ」
「うめぇ!! ソフィアさん料理上手っすね!!!」
「ソフィアさん、なんて、そんな他人行儀な呼び方しないで、お母さん、でいいのよ?」
おばさんはそういう趣味の人かもしれないと再び思った。こういうシチュエーションで若い男をさらって、ごちそうするのが唯一の生きがいみたいな、そういうタイプの不審者……。たぶんそうだ、なんか2ちゃんねるでそんなスレ見たことあるぞ、ほんとにあるんだこんなこと、おーこえー!
「――っし、ごちそうさまでした。じゃ、かえりますね」
「帰るって、どこに? あなたの家はここよ?」
「いや、もうそういうのいいんで、じゃ」
「――あっ、マシュー、まって!」
おれはダッシュで部屋を飛び出して、階段から地上へ降りようとした。なんでおれはこんな珍奇なところで寝ていたんだろうな、意識を失っている間に誰かがここまで運んできたってことか? ……あ、やべ、そういやおれ頭悪いんだった、推理とか向いてねーや。
「……あれ、階段どこだ」
屋上から一つ下の階へ下りる短い階段はあったが、そこから下へは続いていなかった。向こうの端まで通路を見ていったが、階段らしいものが一つもない。エレベーターも。
「マシュー! ダメじゃないあなた、きっと下りられないんでしょう!?」
ソフィアさんがつっかけみたいなのをはいて、急ぎ足で俺の方へ近づき、手を取った。また涙で瞳がにじんでいる。美人だから、ちょっと罪悪感。
「もう、お母さんから離れていかないで、……お願い……っ」
「あ……ご、ごめんなさい……?」
俺は結局連れ戻されて、そこでいろいろ訳のわからない話をされた。
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