上 下
1 / 7

神田川から異世界へ

しおりを挟む
「はぁ~、どうして再生回数稼げねぇんだよ……。一年やってチャンネル登録53人って、おかしいだろマジで……」

 おれは諸見里凜太郎
もろみざとりんたろう
。今年で17歳になる現役高校生ユーチューバーだ。高校に入ってからやり始めたユーチューブでは主に商品紹介やネタ系の動画、踊ってみたや歌ってみたの動画をやっている。

 編集にはそれなりに熱を入れて、テロップやBGMにもこだわり満点にしてある。けれど、ぜんぜん注目されない。配信をやっても投げ銭を誰もくれないし、はっきり底辺ユーチューバーだとわかってしまう。

「おれはHI○AKINやは○めしゃちょーを超えて日本一になりてぇんだ……くそお!!」

 おれは根暗でもやしの眼鏡として、学校の奴らにいじめられていた。もちろんすぐにつらくなって不登校になり、いまは実家に引きこもって、暗い毎日を送っている。友達もいないし話し相手は母親だけ。

母子家庭に育ったおれはいつもさみしい思いをしていたけど、ユーチューブに出会ってからは人生が変わった。動画の向こうの人間は、おれなんかのために一生懸命丁寧に話してくれるし、たくさん面白いものを見せてくれる。本当は人生捨てたもんじゃないんだなと思わせてくれる。応援していた有名ユーチューバーが世間で活躍し始めて、テレビにも出るようになったときは心が躍った。

(……おれもこうなりたい。好きなことで生きていきたい!)

 そこからは自分の銀行預金(おれはお年玉とかこづかいを全然使わない奴だった)を、ほとんど全額費やして、撮影機材と環境を整え、動画編集の技術を独学で学んだ。

「編集ばっかりやっててもダメだな。ツイキャスで配信でもするか」

 ツイキャスはユーチューブで生配信できない(登録者が1000人必要)から、息抜きがてらにやっている。もともとツイッターで宣伝もしているから、そのついでだ。おれは配信の時だけ外に出ることができる。少なくてもいい、見てくれている人のために面白い配信をしてあげたい、その思いがあれば、どんな場所にだって行ける気がする。

 そうして荷物を持ち、外出したおれは、Go Pro HERO7(外配信用のカメラ)を片手に街を散策し始めた。現在夜の七時半。親は親戚の家に用事があるとかで、明日の朝まで帰ってこない。底辺ユーチューバー兼底辺キャス主なので、身バレとか住所特定とかの心配はいらない。いっぱしのアーバンボーイってところを見せたくて、電車に乗り、秋葉原とかを歩いてみる。

「いま秋葉原でーす。どうですかぁ、見えてます?」

 見てくれているのは三人だけだった。この最新機材の圧倒的手ぶれ補正と超高画質に対して、たった三人。やっぱりちょっとさみしい。

govoiy〈画質いいね〉
やっさん〈誰やねんおまえ〉
のえみん43〈こんにちは〉

「あ、どうも、こんにちはー!」

 今日は夜の街をカメラ目線で見てもらいつつ、面白いトークをしながら散歩するつもりだ。

「いやぁ、やっぱいいね、夜は風が気持ちいい……」

 全くトーク力がないことは知っていた。部屋で撮影するスプラトゥーンやマリカーの、ちゃんと編集した動画ですら伸び悩んでいるのは、しょうもないコメントしかできないからだとおもう。

「今日は、あえて、神田川沿いから攻めてみますか……」

 歩いて行くと、やはり自撮り棒を持ってぺちゃくちゃしゃべっている陰キャラは目立つのか、リア充のカップルやスーツ姿のおっさんたちにちらちら見られる。くっそ、どうせおれのこと見下してんだろ、でも今に見てろよ、おれが伝説のユーチューバーになって、見返してやるんだからな……

「この前は生配信中に泣き出してしまってすいませんでした。ちょっと、リアルの方で精神的に参っていてですね……」

やっさん〈なんかあったんか〉

「はい、……おれ、ぶっちゃけ今社会の底辺なんですよ。不登校って言うか、ニートって言うか、同級生とか先輩にいじめられて、それがときどきトラウマみたいに思い出して、胸がぎりぎり痛くなるんです」

やっさん〈やばいな、胸糞〉

「ですよね、やばいよほんと。でも、今日は夜風に当たりながら、きれいな風景とともに配信できたらと思ってますんで、楽しんでいってくださいね」

 おれは頑張って笑顔を作ってみた。

しんちー〈初見です〉

「あ、初見さん、こんにちわー」

しんちー〈髪の毛ぼさぼさですね〉

「あ、すみません、今度切ってきますね」

 そうやって、神田川の橋にさしかかったとき、橋の上で怒鳴り声が聞こえた。

「うおっ、なんだろう。ちょっと行ってみますか!」

 ハプニングが発生すると、配信を見てくれる人が増えるかもしれない! そう思い、ちょっと小走りで現場に近づいてみる。誰かが胸ぐらを捕まれている。ケンカか!? 戦場カメラマンみたいな心持ちで接近を試みる、しかし簡単に見つかった。

「おいっ、てめえ、なに撮ってんだよ!!!」
「うっ……ごめんなさい」

 顔中ピアスだらけの大男がいて、おれの方に気が散ったのか、掴んでいた手を離して、胸ぐらを捕まれていた方のホストっぽいスーツ姿の人が急いで逃げていった。舎弟みたいなやせっぽちの、腕に虎の入れ墨がある隣の男が「諸見里じゃん! ひさしぶりすぎてマジウケるんすけど!」と声を荒げた。

「え、松本……くん?」

 同級生のヤンキーだった。高校一年の時におれをぱしりに使っていたけど、途中で高校をやめてしまった。たしか、極道の道に進んだとかいう噂だったけど。

「なんじゃ、このカメラ野郎、おまえの知り合いか」
「はい、こいつ、ほんと昔から生意気な奴で、使えねーパシリでした」

 おびえて動けないところを、松本に連れて行かれて、大男の前で何をしているか説明をさせられた。

「つ、ツイキャスのの生配信です……」
「ああん? 生配信? 生放送みてえなことか?」
「は、はい」

 答えた瞬間、腹が破裂するような感覚があった、殴られたのだ。みぞおちに入り、地面に伏せってゲロを吐いた。お母さんが作ってくれた料理が、橋の上に胃液とともにこぼれ落ちる。

「――ぐはっ……おぇえっ……」
「アニキ、やばいっすよ、カメラ回ったままで……」
「いーんだよ、カメラごとこれから壊れるんだから」

 大男はおれの体を掴んで、恐ろしい力で持ち上げると、そのまま神田川の橋の外まで持って行った。

「まって! まってぐださい、……うぅ、落とさないで」
「水中で生放送でもやってな」

 手が離されて、暗くて冷たい神田川におれは落とされた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...