上 下
28 / 54

爆発少年

しおりを挟む
 それからというものの、俺たち三人は訓練後には必ずオリビアとの稽古に励むようになった。基本的にはニンフのコントロール練習と、実際の剣技指導だ。チャーチルとリゼは順調に【ニンフサーキット】を使いこなすようになり、苦手の剣技でオリビアにしごかれる毎日を送った。

「――お、オリビアっ、はやいはやい、早すぎるぅううう!」
「ほらほらほらほらっ、どうしたチャーチルっ! 困難じゃあ敵の剣撃を防ぎきるなんてとうてい無理だぞ!」

 それを遠目に見て、リゼが言う。

「あれは女性の剣さばきのスピードをはるかに超えているような気がします」
「……そうだな、あれは獣人だし、脚力も腕力も桁違いだ。でも実際の戦場だと、ああいうのがゴロゴロいるんだろうな」

 俺は何度か霊力の抑えが効かなくなって、暴発し、ギャグ漫画に出てくる爆発ネタで黒焦げになって髪の毛がくるくるのちりちりになっている人みたいな風貌になっていた。もうかれこれ一ヶ月が経とうとしていた。

「剣技はまだ俺の方がうまいけどさ、ニンフと仲良くなっているお前たちがうらやましいよ。どうなってんだ俺の聖剣は」
「セラフィムの異光聖剣は類似データがありませんし、仕方ないのでは」
「まぁ、そうなんだけど、ヒントぐらい欲しい、これじゃ進まないんだ」

 その日は海のステージだった。チャーチルとリゼはすでにニンフの加護を受けられるようになっていて、防具を着けずに軽装で、海の中でも呼吸ができるという素敵仕様で海中に現れた魚人の敵軍を仲良くみんなで迎撃していた。

俺は重たい防具を着けていたせいで訓練開始早々に海の底に沈み、もがきにもがいて防具を脱ぎ捨て、浮上して海の上で呼吸を整える始末だった。まるでお笑い芸人のコントみたいな感じで、なぜステージが毎回ランダムで、あらかじめ海だと教えてくれないのかと恨んだほどだった。光組の連中は俺のことを大いに笑った。

「――よし、次、リゼだ」
「はい、今行きます」
「頑張れよ」
「あなたもね」

 俺はこれ以上失態をさらすわけにはいかない。しかしオリビアにもらった卒業生のデータが収められた本には茜色の聖剣に関する記述がない。かの伝説、初代団長ラインハルトさんとやらは士官学校ができるはるか以前の人物だし、なにより文献がほとんど残っていないとどこぞの裏切り者が言っていたのを思い出して途方に暮れた。

「はぁ、誰に相談したら良いんだか……」

 くたくたになったチャーチルが戻ってきた。

「ふひぃーー、疲れたぁ」
「ほら、お前の好きなアップルジュースだ、飲め」
「うん、ありがと」

 チャーチルがぽっちゃりだったことを覚えていらっしゃるだろうか? 今もぽっちゃりだが、しかし今は少し様子が変わってきた。力士というか何というか、体の輪郭は変わらないが、筋力がついてきたような気がする。最初はオリビアの剣に吹き飛ばされてばかりだったが、今はなんとか足を地面に踏ん張って、ガードだけはできるようになっている。

「はっ! やぁ!」
「む、やるなリゼ、もう少しスピードを上げよう」
「望むところです!」

 リゼは華麗な剣捌きを覚えて、非力でも力をいなす技術で対抗していた。女の生徒は剣筋が美しくなる傾向がある気がする。ところどころパワー不足なのはニンフの加護で防ぐという戦術まで応用していた。

 あーーーっ! 人のことばっかり気にしてんじゃねぇ! こうなりゃやけだ! 

 鈍くさい防具男からの脱却を賭けて魔力回路を藪から棒に組み替えて、ニンフの様子を見る。そして無茶が過ぎて霊力が暴発する。

《チュドーン!》

 霊力量だけは豊富な俺の聖剣は、ガス欠になって爆発しなくなるなんてことはなく、しっかり毎度俺を光の球のなかに包み込んで爆発してくれる。俺はいらいらが限界に来て、誰にも何も言わずに医務室へ向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン
恋愛
 前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。  すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?  私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!  そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。 ⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎ ⚠︎誤字多発です⚠︎ ⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎ ⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎

元銀行員の俺が異世界で経営コンサルタントに転職しました

きゅちゃん
ファンタジー
元エリート (?)銀行員の高山左近が異世界に転生し、コンサルタントとしてがんばるお話です。武器屋の経営を改善したり、王国軍の人事制度を改定していったりして、異世界でビジネススキルを磨きつつ、まったり立身出世していく予定です。 元エリートではないものの銀行員、現小売で働く意識高い系の筆者が実体験や付け焼き刃の知識を元に書いていますので、ツッコミどころが多々あるかもしれません。 もしかしたらひょっとすると仕事で役に立つかもしれない…そんな気軽な気持ちで読んで頂ければと思います。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

そのメンダコ、異世界にてたゆたう。

曇天
ファンタジー
高校生、浅海 燈真《あさみ とうま》は事故死して暗い海のような闇をさまよう。 その暗闇の中、なにげなくメンダコになりたいという想いを口にすると、メンダコとなり異世界の大地に転生してしまう。

処理中です...