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決着の始まり
君を忘れない
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「魔王を倒す……君はよくやってくれた」
「ありがとうございます」
ギアズエンパイア、司令基地の施設内にある会議室。
リンと、各地の国の長達が集まっていた。
「しかし……見逃したというのは本当なのかね?」
ギアズエンパイア治安維持本部長『ロム・インストー』が、この場の代表としてリンに問う。
「見逃した……という表現は語弊があるかと これから魔王には罪を償ってもらうのですから」
「では魔王の『命』をもって罪を償うべきではないかね? 世界に混沌を招き……どれほどの命が失われた事か」
多くの犠牲を払って、魔王軍との戦争に終止符を打った。
だが肝心の魔王は生きている。それでは再び魔王は軍を率いて攻めてくるのではないのかと、周りからは当然の疑問が上がる。
「魔王を殺したところで失った人々は戻りません ならば魔王には一生を捧げてでも贖罪させるべきと考えました」
「言いたい事はわかる……だがその機会を与えたとして 魔王は言われた通りに罪を償うと言うのかね?」
「はい」
迷う事なく肯定する。
リンの答えにざわつく中、ロムは再びリンを問いただす。
「君の功績は素晴らしい 我々から平穏を取り戻してくれたのだから……だがこれは見過ごせない」
「魔王の力は使いようによっては混沌を招く事も秩序をもたらす事も可能です 新たな脅威が現れた際の強力な力になるでしょう」
「だから危険なのだよ」
魔王の力は皆がよく知っている。
それだけの力を持っていたからこそ、魔王は世界征服を目論んだ事を。
「今回の一件は何の相談もなく君が独断で判断した事だ 贖罪の機会を与えるのか……処刑するのか 軽率な判断だったと言わざるおえない」
「魔王は罪と向き合います」
「何を根拠にそう言える?」
「信じたからです」
再びその場はざわついた。
「信じたからだと?」
「とても信じられん……!」
各々が批判声を上げる。
(まあ……予想はしてたがな)
リンは当然、支持されるなど思っていなかった。
誰が何と言おうと、魔王の罪は到底許される事では無い。
「では聞こう 何故信じられると思ったのか?」
ロムの問答は続く。
この問題の最大の疑問。リンは何故信じたのかを聞いた。
「俺の眼に映った魔王は……もうこの世界に対して危害を加える気は無いように思えました」
「見えたから? 見えたから殺さなかったと?」
「そうでなければ殺しました」
(──ッ!?)
発せられた言葉を受けるだけで、その場の空気一瞬にして凍りつかせた。
(これが二代目の聖剣使い……既に初代と同等……いやそれ以上の威圧感を持っている)
ロムを含む全員に、リンが放った気迫と重圧感に押される。
(ほほう……? 随分と成長したのだなぁ)
風の都カザネを代表する『シンゲン』もまた、久方ぶりに会ったリンの成長ぶりを実感させられる。
「敵に拾われた命でもう一度世界征服を企む程……魔王は愚かでは無い そんな事をするぐらいなら死を選ぶ筈」
拾われた命でもまだ、人類に牙を剥くなど考えられない。
寧ろリンに言われた通りに『世界を守る』事で「これで良かったのだろ?」などと、嫌味を言う姿を思い浮かべる方が、リンには想像出来るのだ。
「まさか魔王に誑かされたのでは……?」
一つの声が上がる。
「そうだ……相手は魔王」
「口車に乗せるなど雑作もない筈だ」
「もしや魔王と聖剣使いが共謀したという線も……」
不安が募り、次第に何も信じられなくなってくる。
「皆さんどうかお静かに……!」
「何とか言ってはどうだ!? 魔王に何を言われた!?」
完全に疑っていた。
不安と恐怖から、リンへ激しく追求する。
「失礼します!」
そんな状況下に、一人この場に足を踏み入れる者がいた。
「……シオン?」
突然の来訪者。皆一斉にシオンへと視線が集まった。
「不躾ではあると重々承知の上でこの場をお借りしたい 彼の行動を理解出来ない気持ちはわかります……ですが! 彼は常にこの世界の為に戦ってくれたのです!」
リンの前に立ち、皆に語りかける。
それはどれだけ困難な状況に陥っても、誰かを守ろうとする気持ちが折れる事は無かった姿を。
「異世界から迷い込み右も左もわからない中……『人を助ける事』だけはやめませんでした たとえ憎しみに囚われようとも」
人々を救えなかった時、憎しみの感情で魔王軍を殺した。
人が変わったかのように、力を振るい続けた。何も出来なかった自分への怒りをぶつける為に。
悲しみと悔しさの根底にも、決して消える事のなかった優しさを、シオンは知っている。
「そんな彼が魔王と結託する事など有り得ません 彼がこの世界に危害を加える事など有り得ません」
側で支えてきたからわかる。
誰よりもこの世界を想ってくれていた事を。
「どうか……リンを信じてください」
最後の言葉に全てが込められていた。
これまで頑張ってきたリンを、正しいと信じて選択した答えを、信じてほしいのだと。
「……ハッハッハッ! 良く言ったシオン!」
「ピヴワ様……?」
「まさか乗り込んで直談判するとは思って見なかったわ!」
シオンの主人であり、アクアガーデンの王妃『ピヴワ』もまた、代表としてこの場にいる。
「ならば余はリンを支持しようではないか!」
「ピヴワ様!?」
「勘違いするなよロム? 余は魔王を信じるつもりはない そこにいる『優月 輪』を信じるのだ」
いきなり魔王は悪さをしないから安心しろなど言われても、信じられる筈がない。
だがリンであれば信じられる。魔王と直接相まみえたリンならば、魔王の真偽を見極められると信じたのだ。
「余は聖剣使いにつく! 異議を唱える者は!?」
静まり返る中、一人の男が手を挙げる。
「何だ? 文句があるのかエルロス」
「いえいえ逆ですよ ボクもリン君に賛成」
光国家ライトゲートの王『エルロス』もまた、リン側につく。
「一応ボクは魔王に会ったことがある プライドが高そうだったから拾われた命で悪さををしようだなんて考えないんじゃないかな?」
「ライトゲートが魔王の肩を持つだと……?」
「一体どう言った魂胆か……」
驚いた様子で皆がエルロスを見る。
懐疑の目を向けられようと、エルロスは動じない。
「だからリン君に賛成ということで……もしも不満があるというのであればライトゲートはいつでも相手になろう」
「脅す気か!?」
「ご自由に たとえ傲慢だと蔑まれようと……ボクはリン君の味方さ」
そう言ってリンを見て微笑む。
今まで紡いだ繋がりが、今こうしてリンを支える。
助けてきた分だけ、リンもまた助けられるのだ。
「其方が選んだ道……余は信じておるぞ」
「アンタ……たまには良いこと言うな」
「オイィ!? 水を差すような真似するでない!」
「最初に会って早々独房にぶち込まれた時はどうしようかと」
「あれは作戦で……!」
「ピヴワ様そんな酷いことしてたなんて驚きだなぁ」
「アンタもしたけどな」
「全く記憶にございません」
「まあそういう事であれば……誰も文句あるまい?」
一人、また一人とリンの賛同者が増えていく。
その様子見てシンゲンは皆を纏めた。
「民の平穏を守る為にもこの事は他言無用とするべきと思うのだが皆はどうか?」
「……仕方が無いですね」
事実を語るよりも、人々には魔王を倒したと伝えたままでいる事で話はまとめられる。
「では失礼します」
「ウム あとは余に任せよ」
「キミは残された時間を有意義に過ごすんだね」
今後の方針にはリンは含まれてはいない。
会議室をシオンと共に出て、廊下を進む。
「……まさか乗り込んでくるとはな」
「話を聞いてたら我慢できなくて……」
何かあった時の為にと、心配したシオンはリンと通信魔法を繋いでおいていた。
「確かに魔王が生きてるってなれば怖いと思う人はいると思う……けどリンがそれが良いって決めたんだから私は信じるよ」
「ただの俺の我儘さ」
殺したくない。そう思ったから殺さなかった。
たとえ相手が魔王だとしても、もう誰も傷つく姿を見たくなかったからだ。
「だとしても……ずっと側で見てきたからわかるの」
優しい人だから。
ただ優しいのではなく、自分の信念を持って、誰かを守れる事を知っているかこその強さを持っている人であると。
「沢山我儘を言っていいの……私お姉さんなんだからね?」
守りたいと思ったから。
不器用な優しいさと、ひたむきに誰も傷つけまいとする姿を見てそう思ったのだ。
「……助けられてばかりだな」
「お互い様だよ 仲間には頼るものでしょ」
「そうは言っても俺は返せてるとは思ってない 何かないか?」
「気にしなくて良いのに……」
「……最後だしな」
この世界への滞在時間は残り二日。
出来る限りの事をリンはしたい。
「止めても無駄なんだもんね?」
「それだけは出来ないな」
「頑固者」
もう二度と会えないかもしれない。最後の時まで思い出を残しておきたい。
「だったらさ 踊りましょう?」
「踊り?」
「しばらくお祭りは続くの 今日もパーティー会場で食事とか踊りとか楽しんでるのよ」
「……踊れないぞ?」
「大丈夫 私も踊れないから」
「じゃあ何で誘ったんだよ」
「ダンスの時に着るドレス! 私とっても好きなの!」
煌びやかに着飾ったドレスを身に纏い、恋した相手が手を伸ばす。
そんな夢に恋焦がれ、シオンは心躍らせた。
「だからドレスを見に行きましょ! いっぱいあるんだから! リンが選んでよね!」
「了解……でもそれだけで良いのか?」
お礼をしたいという気持ち。リンからすればこんな事で良いのかと思ってしまう。
「……他もいいの?」
振り向いて、じっとリンを見つめる。
「まあ俺に出来る事なら──ッ!?」
シオンはリン首に腕を絡ませる。
顔を近づけ、誰よりもリンの近くを感じた。
「──私が一番したかった事だよ」
口と口は離れ、温もりだけが残っている。
「ナッ……ナッナッナッ!?」
「ホラ行きましょ!」
突然の事を理解出来ないリン。顔がこれでもかと熱くなる。
(──絶対に忘れないから)
そんなリンの手を引くシオンの顔は、誰よりも熱かった。
「ありがとうございます」
ギアズエンパイア、司令基地の施設内にある会議室。
リンと、各地の国の長達が集まっていた。
「しかし……見逃したというのは本当なのかね?」
ギアズエンパイア治安維持本部長『ロム・インストー』が、この場の代表としてリンに問う。
「見逃した……という表現は語弊があるかと これから魔王には罪を償ってもらうのですから」
「では魔王の『命』をもって罪を償うべきではないかね? 世界に混沌を招き……どれほどの命が失われた事か」
多くの犠牲を払って、魔王軍との戦争に終止符を打った。
だが肝心の魔王は生きている。それでは再び魔王は軍を率いて攻めてくるのではないのかと、周りからは当然の疑問が上がる。
「魔王を殺したところで失った人々は戻りません ならば魔王には一生を捧げてでも贖罪させるべきと考えました」
「言いたい事はわかる……だがその機会を与えたとして 魔王は言われた通りに罪を償うと言うのかね?」
「はい」
迷う事なく肯定する。
リンの答えにざわつく中、ロムは再びリンを問いただす。
「君の功績は素晴らしい 我々から平穏を取り戻してくれたのだから……だがこれは見過ごせない」
「魔王の力は使いようによっては混沌を招く事も秩序をもたらす事も可能です 新たな脅威が現れた際の強力な力になるでしょう」
「だから危険なのだよ」
魔王の力は皆がよく知っている。
それだけの力を持っていたからこそ、魔王は世界征服を目論んだ事を。
「今回の一件は何の相談もなく君が独断で判断した事だ 贖罪の機会を与えるのか……処刑するのか 軽率な判断だったと言わざるおえない」
「魔王は罪と向き合います」
「何を根拠にそう言える?」
「信じたからです」
再びその場はざわついた。
「信じたからだと?」
「とても信じられん……!」
各々が批判声を上げる。
(まあ……予想はしてたがな)
リンは当然、支持されるなど思っていなかった。
誰が何と言おうと、魔王の罪は到底許される事では無い。
「では聞こう 何故信じられると思ったのか?」
ロムの問答は続く。
この問題の最大の疑問。リンは何故信じたのかを聞いた。
「俺の眼に映った魔王は……もうこの世界に対して危害を加える気は無いように思えました」
「見えたから? 見えたから殺さなかったと?」
「そうでなければ殺しました」
(──ッ!?)
発せられた言葉を受けるだけで、その場の空気一瞬にして凍りつかせた。
(これが二代目の聖剣使い……既に初代と同等……いやそれ以上の威圧感を持っている)
ロムを含む全員に、リンが放った気迫と重圧感に押される。
(ほほう……? 随分と成長したのだなぁ)
風の都カザネを代表する『シンゲン』もまた、久方ぶりに会ったリンの成長ぶりを実感させられる。
「敵に拾われた命でもう一度世界征服を企む程……魔王は愚かでは無い そんな事をするぐらいなら死を選ぶ筈」
拾われた命でもまだ、人類に牙を剥くなど考えられない。
寧ろリンに言われた通りに『世界を守る』事で「これで良かったのだろ?」などと、嫌味を言う姿を思い浮かべる方が、リンには想像出来るのだ。
「まさか魔王に誑かされたのでは……?」
一つの声が上がる。
「そうだ……相手は魔王」
「口車に乗せるなど雑作もない筈だ」
「もしや魔王と聖剣使いが共謀したという線も……」
不安が募り、次第に何も信じられなくなってくる。
「皆さんどうかお静かに……!」
「何とか言ってはどうだ!? 魔王に何を言われた!?」
完全に疑っていた。
不安と恐怖から、リンへ激しく追求する。
「失礼します!」
そんな状況下に、一人この場に足を踏み入れる者がいた。
「……シオン?」
突然の来訪者。皆一斉にシオンへと視線が集まった。
「不躾ではあると重々承知の上でこの場をお借りしたい 彼の行動を理解出来ない気持ちはわかります……ですが! 彼は常にこの世界の為に戦ってくれたのです!」
リンの前に立ち、皆に語りかける。
それはどれだけ困難な状況に陥っても、誰かを守ろうとする気持ちが折れる事は無かった姿を。
「異世界から迷い込み右も左もわからない中……『人を助ける事』だけはやめませんでした たとえ憎しみに囚われようとも」
人々を救えなかった時、憎しみの感情で魔王軍を殺した。
人が変わったかのように、力を振るい続けた。何も出来なかった自分への怒りをぶつける為に。
悲しみと悔しさの根底にも、決して消える事のなかった優しさを、シオンは知っている。
「そんな彼が魔王と結託する事など有り得ません 彼がこの世界に危害を加える事など有り得ません」
側で支えてきたからわかる。
誰よりもこの世界を想ってくれていた事を。
「どうか……リンを信じてください」
最後の言葉に全てが込められていた。
これまで頑張ってきたリンを、正しいと信じて選択した答えを、信じてほしいのだと。
「……ハッハッハッ! 良く言ったシオン!」
「ピヴワ様……?」
「まさか乗り込んで直談判するとは思って見なかったわ!」
シオンの主人であり、アクアガーデンの王妃『ピヴワ』もまた、代表としてこの場にいる。
「ならば余はリンを支持しようではないか!」
「ピヴワ様!?」
「勘違いするなよロム? 余は魔王を信じるつもりはない そこにいる『優月 輪』を信じるのだ」
いきなり魔王は悪さをしないから安心しろなど言われても、信じられる筈がない。
だがリンであれば信じられる。魔王と直接相まみえたリンならば、魔王の真偽を見極められると信じたのだ。
「余は聖剣使いにつく! 異議を唱える者は!?」
静まり返る中、一人の男が手を挙げる。
「何だ? 文句があるのかエルロス」
「いえいえ逆ですよ ボクもリン君に賛成」
光国家ライトゲートの王『エルロス』もまた、リン側につく。
「一応ボクは魔王に会ったことがある プライドが高そうだったから拾われた命で悪さををしようだなんて考えないんじゃないかな?」
「ライトゲートが魔王の肩を持つだと……?」
「一体どう言った魂胆か……」
驚いた様子で皆がエルロスを見る。
懐疑の目を向けられようと、エルロスは動じない。
「だからリン君に賛成ということで……もしも不満があるというのであればライトゲートはいつでも相手になろう」
「脅す気か!?」
「ご自由に たとえ傲慢だと蔑まれようと……ボクはリン君の味方さ」
そう言ってリンを見て微笑む。
今まで紡いだ繋がりが、今こうしてリンを支える。
助けてきた分だけ、リンもまた助けられるのだ。
「其方が選んだ道……余は信じておるぞ」
「アンタ……たまには良いこと言うな」
「オイィ!? 水を差すような真似するでない!」
「最初に会って早々独房にぶち込まれた時はどうしようかと」
「あれは作戦で……!」
「ピヴワ様そんな酷いことしてたなんて驚きだなぁ」
「アンタもしたけどな」
「全く記憶にございません」
「まあそういう事であれば……誰も文句あるまい?」
一人、また一人とリンの賛同者が増えていく。
その様子見てシンゲンは皆を纏めた。
「民の平穏を守る為にもこの事は他言無用とするべきと思うのだが皆はどうか?」
「……仕方が無いですね」
事実を語るよりも、人々には魔王を倒したと伝えたままでいる事で話はまとめられる。
「では失礼します」
「ウム あとは余に任せよ」
「キミは残された時間を有意義に過ごすんだね」
今後の方針にはリンは含まれてはいない。
会議室をシオンと共に出て、廊下を進む。
「……まさか乗り込んでくるとはな」
「話を聞いてたら我慢できなくて……」
何かあった時の為にと、心配したシオンはリンと通信魔法を繋いでおいていた。
「確かに魔王が生きてるってなれば怖いと思う人はいると思う……けどリンがそれが良いって決めたんだから私は信じるよ」
「ただの俺の我儘さ」
殺したくない。そう思ったから殺さなかった。
たとえ相手が魔王だとしても、もう誰も傷つく姿を見たくなかったからだ。
「だとしても……ずっと側で見てきたからわかるの」
優しい人だから。
ただ優しいのではなく、自分の信念を持って、誰かを守れる事を知っているかこその強さを持っている人であると。
「沢山我儘を言っていいの……私お姉さんなんだからね?」
守りたいと思ったから。
不器用な優しいさと、ひたむきに誰も傷つけまいとする姿を見てそう思ったのだ。
「……助けられてばかりだな」
「お互い様だよ 仲間には頼るものでしょ」
「そうは言っても俺は返せてるとは思ってない 何かないか?」
「気にしなくて良いのに……」
「……最後だしな」
この世界への滞在時間は残り二日。
出来る限りの事をリンはしたい。
「止めても無駄なんだもんね?」
「それだけは出来ないな」
「頑固者」
もう二度と会えないかもしれない。最後の時まで思い出を残しておきたい。
「だったらさ 踊りましょう?」
「踊り?」
「しばらくお祭りは続くの 今日もパーティー会場で食事とか踊りとか楽しんでるのよ」
「……踊れないぞ?」
「大丈夫 私も踊れないから」
「じゃあ何で誘ったんだよ」
「ダンスの時に着るドレス! 私とっても好きなの!」
煌びやかに着飾ったドレスを身に纏い、恋した相手が手を伸ばす。
そんな夢に恋焦がれ、シオンは心躍らせた。
「だからドレスを見に行きましょ! いっぱいあるんだから! リンが選んでよね!」
「了解……でもそれだけで良いのか?」
お礼をしたいという気持ち。リンからすればこんな事で良いのかと思ってしまう。
「……他もいいの?」
振り向いて、じっとリンを見つめる。
「まあ俺に出来る事なら──ッ!?」
シオンはリン首に腕を絡ませる。
顔を近づけ、誰よりもリンの近くを感じた。
「──私が一番したかった事だよ」
口と口は離れ、温もりだけが残っている。
「ナッ……ナッナッナッ!?」
「ホラ行きましょ!」
突然の事を理解出来ないリン。顔がこれでもかと熱くなる。
(──絶対に忘れないから)
そんなリンの手を引くシオンの顔は、誰よりも熱かった。
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