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決着の始まり
間違ったこと
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「おい! アレ見ろよ!」
「魔王城が……崩壊していく!?」
人界に開いた『魔界門』から見えていた魔王城。
その魔王城が崩壊していく。争う人類と魔王軍の手も、その光景を見て動きが止まる。
「どうなってやがる!」
「何で魔王城が!?」
「まさか……魔王様が!」
当然一番驚いていたのは魔王軍であった。
「おいおい……こりゃあユウヅキのヤツ!」
「ハハッ……多分『二代目』だなぁ」
押し寄せる魔王軍との相手に、限界を迎えようとしていた雷迅とムロウ。
「もしかして!? もしかしてなんじゃねえか!?」
「機械兵の動きも止まったでござる……つまりはそういう事でござろう」
希望を信じる。
興奮気味になるチビルと、冷静にこの状況を分析するアヤカ。
「なあシオン!? アニキの反応はあるのか!?」
後は確認するだけであった。
この戦いが終わったのであれば、どちらが勝利したのか、リンの魔力を感じ取れるシオンに、レイは聞いた。
「生きてる……」
魔力が伝わってくる。
「生きてるよ……! リンは大丈夫よ!」
「って事はアニキが……!」
「勝利したという事だ 流石は我が見込んだ男だな」
シオン達の元へ戦の神『バイヴ・カハ』が突如現れる。
「げっ!? なんでここに!?」
予告通り戦いが始まってから三十分後に、バイヴ・カハは魔力を使い切って戦線より離脱した。
その召喚されている間、単騎で魔王軍を七割程までに削りとり、圧倒的だった戦力差を埋めてくれた。
「戦が終わった事を知らせる為だ」
神が直接下界に干渉する事は本来禁じられているが、今ここにいる理由はなんらかの干渉の為では無い。
人界と魔界の戦い、その終わりを告げる為に再び顕現した。
「此度の戦……聖剣使いが魔王を討ち取った! よって魔王軍の敗北が決定したのだ!」
高らかに宣言する。この戦いの勝敗を。
「魔族よ! 速やかに魔界へ帰還せよ! 然もなくば我の手で神の裁きを下そう!」
上空に膨大な魔力が集まる。
この場一帯を消し炭にしてしまえる程の魔力を目の当たりにし、すぐに魔王軍達は逃げ始めた。
「ひっ……!」
「撤収! 撤収だ!」
バイヴ・カハの言葉を聞くと、一斉に魔王軍は魔界門へと逃げていく。
「逃すな! ここで魔族を……っ!?」
「深追いするな人間 余計な事をして死にたくは無いであろう?」
一部の兵士が追い討ちをかけようとするな否、バイヴ・カハは目の前に雷撃を落とし、止める。
戦いは終わった。それでも更に殺し合うのは戦争でもなんで無い、ただの『殺戮』であるからだ。
「さて……あとは彼奴が帰還するのを待つだけだな」
「シオン! アニキと連絡は!?」
「駄目……反応してくれない!」
「生きてはいるが厳しい状況……でござるか」
「大丈夫なのかよリン!?」
唯一の気がかりであるリンの安否がわからない。
魔力の反応はある。だが、応答はない。
「騒ぐな 彼奴なら大丈夫だ」
その不安を一蹴するバイヴ・カハ。
「信じていれば良い 彼奴の身は無事なのだからな」
人界と魔界を繋ぐ穴が閉じ始める。
あとはただ、リンが帰ってくるのを信じて待つ事しか出来なかった。
「うぅ……くっ!」
「気がついたか? 魔王」
「聖剣使い……」
崩落した魔王城の中で、リンと魔王はかろうじて助かっていた。
ただし瓦礫に埋もれ、空いていた隙間の中で身動きが取れなくなってしまっている。
「まさかお前を倒したら城が崩れるんだもんな 死ぬかと思ったぜ」
「……何故助けた?」
「目の前で潰れた死体なんて見たくなかったから……ってのでどうだ?」
「もっとマシな嘘を吐け」
魔王は立ち上がろうとするが、身体に走った痛みで立つ事が出来ない。
「無理はするな 傷が深いのは間違い無いんだからな」
「どういうつもりだ? 元々殺す気は無かったと言う事か?」
「そうだ」
曇りの無い瞳で、リンは真っ直ぐとそう答える。
「お前には生きてもらわないと困るんでな」
「何だ? 生きて罪を償えとでも言うつもりか?」
「よくわかってるじゃないか」
「ふざけるな」
この日の為に全てを積み上げてきた。
沢山の人間と、魔族を犠牲にした。
「殺せ 俺はこの計画に全てを賭けていた……俺は償う事などしない」
生きて罪を償うなど、そんな生温い施しを受けるぐらいであれば、死を選ぶ。
「……お前はこの戦争に後悔はないのか?」
「無い 俺から全てを奪った人間共に……復讐すると決めたあの日からずっと……変わらない」
「お前の過去には同情するさ けどな……被害者が加害者になる必要はないだろう?」
「知ったような口を──」
「ああ知らないさ お前は全部一人で背負い込んだんだからな」
誰にも頼れず、憎しみを糧にして生きてきた。
並々ならぬ事では無かったであろうと、これまでの魔王について考えても想像がつかない。
「辛かっただろうな……苦しかっただろうな……だけどその感情に一度支配されたら……もう抜け出せなくなるんだ」
延々と燃え続ける復讐の炎。
一度そこに憎しみの感情を焚べてしまえば、誰かの助け無しでは消えない。永遠となってしまう。
「辛さを知ったお前だからこそ絶対にしちゃいけないことだろ? お前のしてることはただの八つ当たりだったんだ」
「……その八つ当たりの為に死んだ奴らに償えと?」
「そうだ お前は生きて償え……『一生』な」
赦されない事をした。
償ったとしても、この戦いで犠牲になった人達が生き返る事はない。
だからこそ、これから先『一生を償いに懸けろ』と言う。
「俺は……この世界から帰らなくちゃいけない もしもこの世界でまた同じようなことがあった時……この世界を守ってやってほしい」
「お前……本気で言ってるのか?」
この世界を支配しようと企んだ魔王に対し、今度はこの世界を『守れ』とリンは言った。
「それが償いだ わかりやすいだろ? 迷惑かけた分頑張ってくれよな」
「何を勝手な……」
「一人だと厳しい……って言ってもお前には部下がいるのか だったら特別気にする必要もないか」
「聞け!」
否応なく話を進めるリンを制止する。
「何だよ不満か?」
「当たり前だ! 何故俺が人間の為なんかに……」
「じゃあお前は俺に拾われた命でもう一度世界征服を目指すのか? もうやる気なんて無いだろ」
敵に拾われた命で、再びこの世界に仇なすなど、そんな屈辱的な事を魔王はしないであろう、というリンの解釈。
その考えは決して間違いでは無かった。
「ふん……そんな情けない真似する訳ないだろう」
「だろ? だから任せた」
強引に決定づけるリン。
「……やるとは言ってないからな」
このまま話を続けても、おそらくリンの考えは変わらないであろうと察した魔王は、結局押し負けてしまう。
「それで? お前の『建前』は聞いてやったぞ?」
魔王は自分を助けた理由は、これだけでは無いとわかっていた。
この世界を守って欲しいという願い。決して嘘では無いのであろうが、その為だけに殺さないとは考えられなかった。
「……もう誰も殺したくない」
ただ一つ、切実な願い。
「魔王軍と戦って……俺も沢山殺した その必要があったから 憎しみに囚われたから……理由はその時々で違ったけどな」
戦わなくてはならない。だから戦った。
そうだったとしても、リンは決して誰かを『殺す』事を、肯定したく無かったのだ。
「お前を世界は赦さないだろうし俺も赦してはない けど……これは俺の我儘だ」
「──」
長い沈黙。
しばらくして、沈黙を破ったのは魔王であった。
「どこで……間違ったんだろうな」
思い起こすのは、幸せだったあの頃。
何も考えず、ただ楽しく過ごした日常。
「もう何もわからない 考えたくない 俺は間違えた……だがどうしても許せなかった……止まらなかった」
二度と戻らない日々を、奪われた事を許せる筈などなかった。
「……間違いではないさ」
人は誰しも、思った通りになる事などない。
「十人十色って言うだろ? お前みたいに復讐に囚われるヤツもいれば……同じ思いをさせたくないって思うヤツもいる 俺はその感情を『悪い』だなんて言えない」
ただやり方を間違えただけ。
その感情を何処にもぶつけられず、苦しみ抜いて辿り着いた答えが、魔王となる道だった。
「色々お前に言いはしたが同じ立場になったらわからない どうして自分だけなんだってなると思う……隣の芝は青いってヤツだな」
嫉妬し、恨みを募らせ、全てを諦めてしまっていたかもしれない。
「俺は考えるよ 『どうして俺は生まれたんだろう』ってな そんな答えある訳ないのに」
人間がただ生きる事に意味など無い。
生きていく中で自分で見つけていくものだからだ。
「お前は『過去』に囚われる過ぎたんだよ もっと前を向くべきだったんだ」
「俺にとってそれが全てだ なんと言われようと変わらん」
変えられない過去の事だとしても、たとえ同族だったとしても、人間を許す事は出来ない。
「お前が人間を嫌うのは構わない だけど……お前の『思い出の人達』まで……否定しないでくれ」
暖かな思い出。ずっと大切に仕舞い込んでた。
そこにいる人間は、決して『復讐』の対象では無かった。
(こんな単純な事を……理解していなかったんだな)
目に映る全てが憎かった。
受け入れられない現実から、逃げていたのだと。
魔王は、漸く向き合えたのだ。
「あとはそうだな お前が間違った道を進もうとした時に……無理矢理にでもぶん殴って引き戻すヤツがいれば良かったろうな」
「フフッ……それは恐ろしいな」
「さてと いい加減ここを出て……ん?」
瓦礫を退かして出ようとしたその時、突如光が差し込む。
「魔王見つけ……って聖剣使いもいる~!?」
「ご無事ですか魔王様!?」
「ツヴァイ……ドライもか?」
魔王三銃士の二人、『ツヴァイ』と『ドライ』が魔王を瓦礫の中を探していたのだ。
「ご苦労さん 助かったよ」
「アナタを助けた覚えはありません」
「そうだそうだ!」
「それじゃあ俺は帰るとするよ もう悪さするなよ魔王?」
「……俺はもう魔王ではない」
傷ついた身体をなんとか起こし、本当の名を名乗る。
「ベル……『ベル・ワーグナー』だ」
「なんだ 結構可愛い名前してるな?」
「さっさと行け お前の場所はここには無い」
満足気にして、リンは去って行く。
「よろしかったのですか?」
「お前達も行け 俺はもう魔王では無いからな」
「行けって言っても……ねぇ?」
「お供いたしますよ たとえ魔王で無くなっても」
「──物好きな奴らだ」
その表情はリンと同じように、とても満足気であった。
「魔王城が……崩壊していく!?」
人界に開いた『魔界門』から見えていた魔王城。
その魔王城が崩壊していく。争う人類と魔王軍の手も、その光景を見て動きが止まる。
「どうなってやがる!」
「何で魔王城が!?」
「まさか……魔王様が!」
当然一番驚いていたのは魔王軍であった。
「おいおい……こりゃあユウヅキのヤツ!」
「ハハッ……多分『二代目』だなぁ」
押し寄せる魔王軍との相手に、限界を迎えようとしていた雷迅とムロウ。
「もしかして!? もしかしてなんじゃねえか!?」
「機械兵の動きも止まったでござる……つまりはそういう事でござろう」
希望を信じる。
興奮気味になるチビルと、冷静にこの状況を分析するアヤカ。
「なあシオン!? アニキの反応はあるのか!?」
後は確認するだけであった。
この戦いが終わったのであれば、どちらが勝利したのか、リンの魔力を感じ取れるシオンに、レイは聞いた。
「生きてる……」
魔力が伝わってくる。
「生きてるよ……! リンは大丈夫よ!」
「って事はアニキが……!」
「勝利したという事だ 流石は我が見込んだ男だな」
シオン達の元へ戦の神『バイヴ・カハ』が突如現れる。
「げっ!? なんでここに!?」
予告通り戦いが始まってから三十分後に、バイヴ・カハは魔力を使い切って戦線より離脱した。
その召喚されている間、単騎で魔王軍を七割程までに削りとり、圧倒的だった戦力差を埋めてくれた。
「戦が終わった事を知らせる為だ」
神が直接下界に干渉する事は本来禁じられているが、今ここにいる理由はなんらかの干渉の為では無い。
人界と魔界の戦い、その終わりを告げる為に再び顕現した。
「此度の戦……聖剣使いが魔王を討ち取った! よって魔王軍の敗北が決定したのだ!」
高らかに宣言する。この戦いの勝敗を。
「魔族よ! 速やかに魔界へ帰還せよ! 然もなくば我の手で神の裁きを下そう!」
上空に膨大な魔力が集まる。
この場一帯を消し炭にしてしまえる程の魔力を目の当たりにし、すぐに魔王軍達は逃げ始めた。
「ひっ……!」
「撤収! 撤収だ!」
バイヴ・カハの言葉を聞くと、一斉に魔王軍は魔界門へと逃げていく。
「逃すな! ここで魔族を……っ!?」
「深追いするな人間 余計な事をして死にたくは無いであろう?」
一部の兵士が追い討ちをかけようとするな否、バイヴ・カハは目の前に雷撃を落とし、止める。
戦いは終わった。それでも更に殺し合うのは戦争でもなんで無い、ただの『殺戮』であるからだ。
「さて……あとは彼奴が帰還するのを待つだけだな」
「シオン! アニキと連絡は!?」
「駄目……反応してくれない!」
「生きてはいるが厳しい状況……でござるか」
「大丈夫なのかよリン!?」
唯一の気がかりであるリンの安否がわからない。
魔力の反応はある。だが、応答はない。
「騒ぐな 彼奴なら大丈夫だ」
その不安を一蹴するバイヴ・カハ。
「信じていれば良い 彼奴の身は無事なのだからな」
人界と魔界を繋ぐ穴が閉じ始める。
あとはただ、リンが帰ってくるのを信じて待つ事しか出来なかった。
「うぅ……くっ!」
「気がついたか? 魔王」
「聖剣使い……」
崩落した魔王城の中で、リンと魔王はかろうじて助かっていた。
ただし瓦礫に埋もれ、空いていた隙間の中で身動きが取れなくなってしまっている。
「まさかお前を倒したら城が崩れるんだもんな 死ぬかと思ったぜ」
「……何故助けた?」
「目の前で潰れた死体なんて見たくなかったから……ってのでどうだ?」
「もっとマシな嘘を吐け」
魔王は立ち上がろうとするが、身体に走った痛みで立つ事が出来ない。
「無理はするな 傷が深いのは間違い無いんだからな」
「どういうつもりだ? 元々殺す気は無かったと言う事か?」
「そうだ」
曇りの無い瞳で、リンは真っ直ぐとそう答える。
「お前には生きてもらわないと困るんでな」
「何だ? 生きて罪を償えとでも言うつもりか?」
「よくわかってるじゃないか」
「ふざけるな」
この日の為に全てを積み上げてきた。
沢山の人間と、魔族を犠牲にした。
「殺せ 俺はこの計画に全てを賭けていた……俺は償う事などしない」
生きて罪を償うなど、そんな生温い施しを受けるぐらいであれば、死を選ぶ。
「……お前はこの戦争に後悔はないのか?」
「無い 俺から全てを奪った人間共に……復讐すると決めたあの日からずっと……変わらない」
「お前の過去には同情するさ けどな……被害者が加害者になる必要はないだろう?」
「知ったような口を──」
「ああ知らないさ お前は全部一人で背負い込んだんだからな」
誰にも頼れず、憎しみを糧にして生きてきた。
並々ならぬ事では無かったであろうと、これまでの魔王について考えても想像がつかない。
「辛かっただろうな……苦しかっただろうな……だけどその感情に一度支配されたら……もう抜け出せなくなるんだ」
延々と燃え続ける復讐の炎。
一度そこに憎しみの感情を焚べてしまえば、誰かの助け無しでは消えない。永遠となってしまう。
「辛さを知ったお前だからこそ絶対にしちゃいけないことだろ? お前のしてることはただの八つ当たりだったんだ」
「……その八つ当たりの為に死んだ奴らに償えと?」
「そうだ お前は生きて償え……『一生』な」
赦されない事をした。
償ったとしても、この戦いで犠牲になった人達が生き返る事はない。
だからこそ、これから先『一生を償いに懸けろ』と言う。
「俺は……この世界から帰らなくちゃいけない もしもこの世界でまた同じようなことがあった時……この世界を守ってやってほしい」
「お前……本気で言ってるのか?」
この世界を支配しようと企んだ魔王に対し、今度はこの世界を『守れ』とリンは言った。
「それが償いだ わかりやすいだろ? 迷惑かけた分頑張ってくれよな」
「何を勝手な……」
「一人だと厳しい……って言ってもお前には部下がいるのか だったら特別気にする必要もないか」
「聞け!」
否応なく話を進めるリンを制止する。
「何だよ不満か?」
「当たり前だ! 何故俺が人間の為なんかに……」
「じゃあお前は俺に拾われた命でもう一度世界征服を目指すのか? もうやる気なんて無いだろ」
敵に拾われた命で、再びこの世界に仇なすなど、そんな屈辱的な事を魔王はしないであろう、というリンの解釈。
その考えは決して間違いでは無かった。
「ふん……そんな情けない真似する訳ないだろう」
「だろ? だから任せた」
強引に決定づけるリン。
「……やるとは言ってないからな」
このまま話を続けても、おそらくリンの考えは変わらないであろうと察した魔王は、結局押し負けてしまう。
「それで? お前の『建前』は聞いてやったぞ?」
魔王は自分を助けた理由は、これだけでは無いとわかっていた。
この世界を守って欲しいという願い。決して嘘では無いのであろうが、その為だけに殺さないとは考えられなかった。
「……もう誰も殺したくない」
ただ一つ、切実な願い。
「魔王軍と戦って……俺も沢山殺した その必要があったから 憎しみに囚われたから……理由はその時々で違ったけどな」
戦わなくてはならない。だから戦った。
そうだったとしても、リンは決して誰かを『殺す』事を、肯定したく無かったのだ。
「お前を世界は赦さないだろうし俺も赦してはない けど……これは俺の我儘だ」
「──」
長い沈黙。
しばらくして、沈黙を破ったのは魔王であった。
「どこで……間違ったんだろうな」
思い起こすのは、幸せだったあの頃。
何も考えず、ただ楽しく過ごした日常。
「もう何もわからない 考えたくない 俺は間違えた……だがどうしても許せなかった……止まらなかった」
二度と戻らない日々を、奪われた事を許せる筈などなかった。
「……間違いではないさ」
人は誰しも、思った通りになる事などない。
「十人十色って言うだろ? お前みたいに復讐に囚われるヤツもいれば……同じ思いをさせたくないって思うヤツもいる 俺はその感情を『悪い』だなんて言えない」
ただやり方を間違えただけ。
その感情を何処にもぶつけられず、苦しみ抜いて辿り着いた答えが、魔王となる道だった。
「色々お前に言いはしたが同じ立場になったらわからない どうして自分だけなんだってなると思う……隣の芝は青いってヤツだな」
嫉妬し、恨みを募らせ、全てを諦めてしまっていたかもしれない。
「俺は考えるよ 『どうして俺は生まれたんだろう』ってな そんな答えある訳ないのに」
人間がただ生きる事に意味など無い。
生きていく中で自分で見つけていくものだからだ。
「お前は『過去』に囚われる過ぎたんだよ もっと前を向くべきだったんだ」
「俺にとってそれが全てだ なんと言われようと変わらん」
変えられない過去の事だとしても、たとえ同族だったとしても、人間を許す事は出来ない。
「お前が人間を嫌うのは構わない だけど……お前の『思い出の人達』まで……否定しないでくれ」
暖かな思い出。ずっと大切に仕舞い込んでた。
そこにいる人間は、決して『復讐』の対象では無かった。
(こんな単純な事を……理解していなかったんだな)
目に映る全てが憎かった。
受け入れられない現実から、逃げていたのだと。
魔王は、漸く向き合えたのだ。
「あとはそうだな お前が間違った道を進もうとした時に……無理矢理にでもぶん殴って引き戻すヤツがいれば良かったろうな」
「フフッ……それは恐ろしいな」
「さてと いい加減ここを出て……ん?」
瓦礫を退かして出ようとしたその時、突如光が差し込む。
「魔王見つけ……って聖剣使いもいる~!?」
「ご無事ですか魔王様!?」
「ツヴァイ……ドライもか?」
魔王三銃士の二人、『ツヴァイ』と『ドライ』が魔王を瓦礫の中を探していたのだ。
「ご苦労さん 助かったよ」
「アナタを助けた覚えはありません」
「そうだそうだ!」
「それじゃあ俺は帰るとするよ もう悪さするなよ魔王?」
「……俺はもう魔王ではない」
傷ついた身体をなんとか起こし、本当の名を名乗る。
「ベル……『ベル・ワーグナー』だ」
「なんだ 結構可愛い名前してるな?」
「さっさと行け お前の場所はここには無い」
満足気にして、リンは去って行く。
「よろしかったのですか?」
「お前達も行け 俺はもう魔王では無いからな」
「行けって言っても……ねぇ?」
「お供いたしますよ たとえ魔王で無くなっても」
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