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決着の始まり

最終決戦開始

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「魔王軍の反応 現状はありません!」

「引き続き警戒を怠るな!」

 魔王軍決戦当日。

 緊張に溢れたギアズエンパイア。魔王軍を迎え撃つ準備は整っている。

 ギアズの司令室では、リン達も始まる戦いに備えていた。

「それじゃあアタシは船に戻るよ 海からの攻撃は任せな」

 久しぶりの海賊ナイトメア、そのキャプテンであるレイの姉『クレア』は、海上での戦いの指揮をとる。

「たいした話しも出来なかったが……まあそれは帰ってきてからタップリと聞かせてもらうよ」

 死ぬ気などない。

 この戦いで生き残り、帰ってくる事しか考えていない。

「前の時よりもさらに随分たくましくなったなクレア……いや 今は『アレク』のほうが良かったか?」

「『クレア』で良いよ もう隠す気なんてないからさ」

 舐められないようにと、男として振る舞ってきたクレアであったが、リンにバレてしまってからは隠す事はやめた。

「アタシを女だからって甘く見るヤツがいたら……そんな連中蹴散らすだけだって気付いたんだよ」

「どういう心境の変化だ?」

「アンタのおかげさ」

 自分を偽る必要などない。わかってくれる人がいるのであればそれで良いのだと、気付かいたのだ。

「俺は何も言ってないぞ?」

「でも気付かせてくれた」

 リンは秘密がバレようと、変わらず接していた。

 たったそれだけの事。だが、クレアからすれば何よりも嬉しかったのだ。

「だったらその『気付く事』が……アンタの強さだ」

「……見ない間に随分とイイ男になったな!」

 クレアは思いっきりリンの背中を叩く。

 それは照れ隠しと、気合いを入れる為もあるが、何よりもクレアの『優しさ』が含まれていた。

「任せたよ! 背中は守ってやるからさ!」

「……任された」

 クレアは持ち場へと向かう。

 以前と変わらない頼もしさに、リンも安心する。

「良い人だったね」

「あったりまえだろ! なんたってオレの姉ちゃんなんだからな!」

「レイちゃんレイちゃん 今度オジサンに紹介して……」

「……来やがったな」

 雷迅が、誰よりも早く感じとった。

 強大な魔力。それは突如として現れた。

「敵性反応あり! モニターで確認します!」

「正午ちょうど……来る時間は言って欲しかったよな」

「文句を言っても遅いでござるよ」

「モニター確認! 『ゲート』が開きます!」

 空間に『穴』が現れる。

 巨大な黒点。そこは『魔界』へと通じた『門』であった。

(アレは……まさか!?)

 見覚えがあった。

 この世界に来た時、リンを吸い込んだ『穴』に酷似していたのだ。

「気を引き締めろ……あれが『魔界門』だ あんな大きな門が開くこと今ままでなかった おそらくは『強制的』に開いたんだろうな」

「そんなことが出来るのか?」

「だからヤツらは予告したのさ 門をいつでも開けられるから」

 もしもあの魔界門というものと、この世界にリンを巻き込んだ穴に何らの関係があるのであれば、益々謎が深まる。

「魔王軍の進軍は確認できず! おそらく待機中だと思われます!」

「こっちが出るの待ってるんだろうよ それに……二代目を」

「魔王はあくまで狙いはリンとの決着を望んでたものね」

「で? 敵の数はどれぐらいよ?」

「八……九……十万を確認!」

 こちらの兵数十万に対し、魔王軍の兵数も同じく十万だと、ギアズのオペレーターが言う。

「なんだぁ? オレ様達と同じぐらいか これならギリギリなんとかなるかもな!」

「大変ッス!」

 慌てた様子で息を切らし、司令室へジャンが入って来る。

「どうしたジャン?」

「モニター! モニターの拡大を頼むッスよ!」

「りょっ了解!」

「おい何だよ急に! オレらも早く出たいんだけど!」

「……見てください」

 拡大を指示した先のモニターに写っていたのは、先程話していた『魔界門』であった。

「あの先に……まだいます・・・・・

「なんだと?」

「ここにある装置の改良版を作ってみまして……あっもちろんオレが開発にしたッス 目視できる分とこの装置で計測した分はほぼ一致……魔族兵は十万 そして機械兵は……『五十万』ッス」

 誰も言葉が出なかった。

 あまりの兵力差に、絶望してしまったからだ。

「それはまた随分……多いでござるな」

「おいおい魔族兵だって厄介なのに機械兵が馬鹿みたいに多いじゃあねえかよ 本当にそんなにいたのかよ?」

「魔獣の確認もされてるッス……多分もっと多いッス」

「戦い甲斐が……ってありすぎるか」

 戦い好きの雷迅と言えど、流石に楽しむ事も出来ない。

「……なるべく魔王まで温存したかったんだがな」

「アニキ?」

「俺は先に外に出る 出撃の準備が出来たら魔法で教えてくれシオン」

「どうするつもり?」

「『とっておき』を使わせてもらう」

 司令室を一人出て、向かった先はギアズエンパイアを守る壁の上。

 見渡しの良い場所。ここからなら魔王軍がよく見える。

「……一度だけか」

 取り出したのは一冊の『魔導書』であった。

「アンタの力が必要だ……『バイヴ・カハ』」

 魔導書が輝きを放つ。

 その名を呼ばれた事を引き金に、この場に『神』が顕現する。

「フッハッハッハッ!待っていただぞ『優月ユウヅキ リン』よ!」

 漆黒の鎧に紫色のマント、紫色の髪を左右共に耳より上に束ねた、銀色の瞳を持つ『少女』が現れる。

 その少女こそ、戦の神『バイヴ・カハ』であった。

「……うん? なんだ魔王はどうした?」

 リンとの契りを交わした事で喚ぶ事が許されていたリンは、この絶望的状況を覆す為に喚んだのだ。

「残念ながらアンタの相手は魔王じゃない」

「なに……?」

 リンが指差す方角を見ると、そこには今か今かと進軍の指示を待つ大量の魔王軍である。

「まさかあの有象無象の塵芥共の掃除をしろと?」

「数が多いんだ 俺たちの兵数は十万に対して相手は六十万以上……このままだと数で圧される」

 リンとしては本来、魔王軍の兵士達は皆に任せて対魔王戦における『とっておき』として喚ぶ筈であった。

 だがそれも、ここまで兵力差があるとなれば別である。

「魔王を倒せば終わると思ってたが……この状況で温存なんて出来ないだろ?」

「ふん……成る程な 戦ってる間に壊滅もありえたか」

「そう言うことだ 魔族は十万 機械兵が五十万で魔獣もまだいるらしい……流石に厳しいか」

「貴様……我を誰と心得ている?」

 今この場にいるのは紛う事なき『神』である。

 文字通り次元の違う存在。そんな相手がリンに力を貸すと言うのだ。

「良いだろう 存分に力を奮ってやろうではないか」

「助かる」

「だが先に言っておかねばならんな……此度の顕現は貴様が我を『喚ぶ』形で顕現している その際に魔力を消費したのは気がついたか?」

 以前までと違い、今回はリンの手によって『召喚』されていた。

 魔導書を依代にし、リンの魔力を触媒にしてた事でここにいる。

「ああ……本を使ってから減ったなとは思ってたよ」

「貰った魔力でこのまま居るだけならば一日維持する事は可能だ……だが『戦場』となれば別だ 一時間……いや三十分が限界か」

 制限時間が設けられていた。

 あれだけの大群を相手にするのに、戦っていられるのは僅か三十分だけである。

「魔力の補給は?」

「可能ではあるが魔力供給は『召喚者』のみ 他の方法は無い……これから魔王と戦う貴様からこれ以上は貰えん」

 実際、召喚するだけでかなりの魔力を消費していた。

 戦うだけであれば充分過ぎる程ほ魔力は残っているが、これ以上となると魔王に勝てなくなる。

「一番厄介なのは時間制限よりも『力の制限』だ 今の我は今までの半分の力も無い」

 今のバイヴ・カハは、リンの『使い魔』に違い状態でこの場にいる。

 その為戦いが長引きやすくなり、敵を倒せる数も相対的に少なくなってしまう。

「前にも言ったが喚べるのは一度きりだ 制限を超えれば強制的に消えて二度は喚べん」

「……それでも頼む 一緒に戦ってほしい」

 どんな状態であろうと、リンはバイヴ・カハの力に頼る他無い。

《リン! いつでも出撃出来るわよ」》

 そして遂に出撃の態勢に入った。

 リンの準備が整えば、戦いが始まる。

「気に入らんな」

「……え?」

「貴様の事ではない あの『機械兵』の事だ」

 遠くある魔界門を睨みつけている。

 その先にいる大量の『機械兵』に対し、怒りが込み上げていた。

「互いの命を懸け合う……己が信念を懸ける……それこそが本来あるべき『戦場』だ だがアレは何だ? 何の感情も無く唯命を奪う事のみを命令され動く傀儡……許せんな」

 指を鳴らすと、赤い馬が引く戦車がリン達の元へ現れ、バイヴ・カハが乗る。

「乗れ 貴様を魔界まで送ってやろう」

「俺が直接乗り込めってことか……」

「心配するな 人界は我が守ってやる」

「……聞こえるかシオン 俺が先に殴り込みに行く 皆はそれに続いてくれ」

《殴り込みって……大丈夫なの!?》

「安心しろ こっちには正真正銘『勝利の女神』が味方だ」

 覚悟は皆出来ている。

 あとはただ、狼煙を上げるだけだった。

「往くぞ! 我は戦の神『バイヴ・カハ』である!」

 リンを乗せた戦車は疾走する。

「讃えよ! 崇めよ! 畏れるがよい! 愚者共よ……戦場を侮辱した罪は万死に値すると知れ!」

 今ここに、戦の狼煙は上げられた。
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