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秩序機関『ギアズエンパイア』

君に思うこと

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 最初は、噂だと思っていた。

「君には使えない! 闇の力に侵蝕されるのは目に見えている事だろう!?」

 だって、僕はここにいるのに、サンサイドを守ったのは『聖剣使い』だと言うんだから、現れたのは勝手に名乗った偽者なんだろうって。

「ウゥ! グゥアアアアアア……ッ!」

 だから、とりあえず様子を見ようと思った。

 もしも『聖剣使い』を名乗って悪さをしているようであれば、自分自身で決着をつけようって。

(もう半分飲まれている……これで終わったね)

 でも、耳にするのは『君』の活躍ばかりだった。

(侵蝕が……進んでいない?)

 頑張っているといつも耳にする。異世界から来たっていう『二代目の聖剣使い』の存在。

「ハハッ……使えちまったな?」

 会ってみたかった。話をしてみたかった。

 この世界の為に、戦う事を決意した君を見て、僕は本当に心が震えたんだ。

「でも……闇の聖剣はそんなものではないよ! 扱えているのなら全力でくるんだ!」

「言われなくても俺は……いつも全力なんだよ!」

 もう闇の聖剣『ダークイクリプス』以外は僕の手に渡ってしまったというのに、それでも君は、戦う事を諦めない。

「形態変化……鎧式よろいしき! 『ダークイクリプス』!」

 闇が半身を喰らっている。

 だが、それを強靭な『心』で、誰よりも強い『意志』で、闇の力を|受け入れ《・・・・)た事で、闇に理性を奪われる事を抑え込んでいる。

(凄いな……そんなの初めて見たよ・・・・・・

 僕が『聖剣使い』と呼ばれたのは賢者の石を『剣』として使っていたから。

 彼のように、賢者の石を『聖剣以外に変える』なんて事出来なかったから、剣を扱う姿を見て、次第にそう呼ばれるようになったんだから。

(そうか……君が彼を認めたのか……『コルヌス』)

 思い浮かべる『彼』の顔。

 彼だけじゃない。今までも支えてくれた『九賢者』達の顔を思い浮かべる。

(コルヌスだけじゃない……力を貸す事を決めたのは彼らなんだ)

 だからこそ、君は僕の前にいる。

 沢山の苦難を乗り越え、一生懸命に戦った。

 きっとその姿に、心を打たれたんだろう。

(だったら僕も……君の行く道の壁となろう!)

 ならきっと、乗り越えられる筈だから。

 迷いが無くなった君の強さを、僕に見せて欲しい。

「ハアアアアアアッ!」

「ガアアアアアアッ!」

 闇の聖剣と、ムラマサの刀の二刀流。

 身に纏った闇が形となった剣と、魔法を斬り裂く妖刀。

「凄いじゃないか! 君は弱さを乗り越えたんだ!」

 斬り合う度に、伝わってくる感情。

 負けられない。負けたくない。その感情が闇の賢者の石に伝わったからこそ、手を貸したのだろう。

「闇の力を得たとしても! 僕には聖剣があと『八つ』もある! どれだけ強くなってもこの差は埋められない!」

埋めてやる・・・・・! 俺は今までずっとそうしてきた! これからも……ずっとだ!」

(知っているよ……気にかけていたからね)

 活躍を聞く度に、ハラハラさせられていた。

 僕が裏で動いている事を隠す為にも、その方が都合が良かったとはいえ、隠れ蓑に使ってしまっている事に、本当な申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

(でも君は乗り越えてきた どんな事があっても誰かを守る為に戦っていた)

 聖剣使いは僕じゃ無い事を知って、周りは『二代目聖剣使い』と呼び始め、僕とは違う事も皆知っていた。

 そしていつも耳にするのは『感謝』だった。

(弱くても戦ってその度に傷ついたとしても……頑張る君の姿を見て皆んな応援していたんだよ?)

 誰かの為に自分を犠牲にする事は、簡単な事じゃない。

 理由はどうであれ、想いはどうであれ、君はいつも誰かの為に戦っている事を知って欲しい。

「聖剣二刀……!」

「させるかぁ!」

 格段に動きが違う。今までを遥かに凌駕した反応速度と力。

 今持っている聖剣は火の聖剣『フレアディスペア』と土の聖剣『ガイアペイン』の二本。

 どちらも君を支えてきた聖剣。でも今は僕の手の中。

「無理矢理押さえつけるとはね……ここからどうする!?」

「決まってんだろ……返してもらおうか!?」

「お断りだよ!」

 まだ力の差は僕が有利。それは揺るがない。

 振り払って、それと同時に吹き飛ばす。そう簡単に奪わせない。

「何度やっても同じだよ!」

「……そうか そうだったんだな」

「……何がだい?」

「『タリウス』って言うのか……火の聖剣の本当の名前」

 火の聖剣を奪う前に言った名前。

 タリウス。それは火を司る九賢者の名前。

「最初に俺を助けてくれたのは……アンタだったな」

 始まりの聖剣。サンサイドを救うきっかけを与えた聖剣。

「ありがとう……今まで俺を助けてくれて お前がいなかったら俺はここにいなかった」

 あの場にいなかった自分の代わり戦ったと聞いていた。

 バトラーに預けていた賢者の石を使って、魔王軍と戦ってくれたと聞いていた。

「……!?」

「良かった……愛想尽かされた訳じゃあ無かったんだな」

 握っていた火の聖剣が、光を放ったかと思うと僕の手から離れて行く。

 行き先は、二代目聖剣使い。その名も『優月ユウヅキ リン』だ。

「そんな……彼を選んだのか!?」

 深紅に燃え上がる炎が、彼を包み込み、力を与えている。

「そうみたいだな……ありがたいことだ」

 もう限界だというのに、闇の力で強制的に身体を動かしている。

 立ち上がり、睨みつける。その瞳に、僕が映っている。

「これであと『七つ』だな? この調子で他の聖剣もいただくぞ」

「そう簡単に……いくと思うな!」

 このままでは僕が負ける・・・・・。そう長年の感が告げている。

 だから手加減なんてしない。もうあとがない・・・・・のだから、切り札を使う。

「さあ! 決着をつけよう! 我が愛しき『ライトルリジオン』! 我が道を照らし闇を穿て!」

 彼に応えるにはこれしかない。

 僕の愛した『彼女』の力で、君の全力を打ち破る。

「闇には光か……アンタの本気って訳か」

「そうさ……僕にとって大切な人……僕が『本当』に守りたかった人」

 かつての戦争で傷つき、倒れていった偉大な九賢者達。

 倒れる訳にはいかないと、終わる訳にはいかないと、この世界の平和を願って、僕に託してくれた力。

「だから負けられない! 負けたくない! 彼らの遺志を継いだあの日からずっと! 僕もこの世界の平和の為に戦うと決めたんだ!」

 人は僕を『英雄』と呼んだ。

 かつての戦争を終わらせた英雄だと、ただ必死に戦って、生き残っただけの僕をそう呼んだ。

「我が名はリン! 『リン・ド・ヴルム』! 賢者の遺志を継ぐ者・・・・・・・・・! 正真正銘の『聖剣使い』である!」

 だったら『英雄』になるしかない。

 そうであれと願うなら、僕はそうする『義務』がある。

アンタが誰で・・・・・・あっても・・・・構わない・・・・! 俺の前に立ち塞がるのなら! 誰であってもぶっ倒す! それが……この俺『優月ユウヅキ リン』! 『二代聖剣使い』のやり方だ!」

 そんな僕を、君は『誰でも良い』と言う。

 たったその一言で、楽になれた気がした。

「いくよ!」

「こいや!」

 光と土の二刀流。対する二代目の聖剣使いは闇と炎。

 ぶつかり合う聖剣。絶対に負けられない。

「クッ……ウオオオオオオ!」

 まだ負けない。まだやれる。

 どれだけ力をつけようと、この『光の聖剣』の前では負けられない。

(君に誓ったんだ……僕は絶対に負けないと!)

 この想いがもう届く事は無いとしても、かつての『誓い』を破れる筈がない。

(押されて……いる!?)

 理由はすぐにわかった。

「僕から聖剣の力が……流れてる!?」

 彼が今まで手に入れてきた賢者の石が、彼に流れ始めている。

 火の賢者の石フレアディスペアの時と同じだ。彼を認めたから、力を貸そうとしているんだ。

「負ける……かぁ!」

 でも、そんな事『関係無い』って気づいた。

 力を奪われようと、僕は『勝ちたい』だけだ。

 肩書きなんてどうでも良い。ただ僕はこの少年に、僕と同じ『聖剣使い』の君にだからこそ、誰よりも勝ちたいと気付かされた。

「こっちの……台詞だぁ!」

 闇に包まれた身体が、光の力を受けて剥がされている。

 光が闇を打ち破った。もう勝ったも同然だ。

「これで終わりだぁ!」

「まだ……終われない!」

 もう一つの聖剣。さっき取り返された火の聖剣フレアディスペア

「色が……『蒼』に!?」

 赤い炎が『蒼』へと染まっていく。

 蒼炎を放つ『フレアディスペア』。それを見て脳裏に過ぎったのは『負け』であった。

(ああ……『スピカ』……負けちゃった)

 僕は押し負け、気づいた時には既に、蒼炎を纏う聖剣に斬り裂かれていた。

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