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秩序機関『ギアズエンパイア』

素直に

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「なあに 魔王軍との戦いに我ら『アクアガーデン』も参加するのだ 余がここにおってもおかしくはなかろう?」

 ギアズエンパイア、治安維持局本部に足を運ぶとそこには、アクアガーデンの王妃である『ピヴワ』がいた。

「王妃様には我々の機械技術を高く買って貰っている数少ないお方なのですよ まだまだこの世界は機械技術に対して関心が無い ギアズエンパイアだけでは発展するには限度がありますが……こうして協力者がいてくれるのは本当に心強い」

「フフン! 褒めよ褒めよ! 余はそれだけで嬉しいぞ!」

 気を良くしたピヴワは鼻を高くして喜んでいる。

 そんなピヴワを睨む様な目つきで見るリン。

「……アンタとの話はまた後だ 今は本部長に用があるからな」

「あれ……? 機嫌が悪い?」

「王妃……お話しは後ほど」

 機嫌が悪い事を察したシオンがとりあえず話をまとめ、リンは治安維持局本部長の『ロム・インストー』と対話を始めた。

「では改めて……初めまして 会えて嬉しく思うよ」

「こちらこそ 魔王軍への対策組織を立ち上げてくださった事に感謝致します」

 差し出されたロムの手を握り握手に応じて、ソファに腰かける。

 ロムは微笑みながら、リンの事について話し始めた。

「噂は聞いていたよ 異世界から来た二代目聖剣使いが魔王軍と戦っているとね 本来であれば君が戦う必要の無い戦争だというのに」

「成り行きですよ……とは言っても やるからには最後まで勤めさせて頂きますが」

「成り行きでここまで……それは頼もしいじゃないか」

 リンの発言を聞いてロムは笑う。

「君は様々な地を赴いて聖剣を集めてきた 何度も魔王軍と戦いながら……人々を守りながらここまでずっと旅をしてきた」

「ですがそれは一人では成し遂げることは不可能でした ここにいる仲間や……色々な人達との交流を経てきたからこそ……成し得た事です」

 正直な気持ちを話すリン。

 あまりに素直な言葉に、誰よりも驚いていたのはリンの仲間達であった。

「アニキ……オレのことそんなふうに……」

「リンお前……頭打ったか?」

「おじさん体がむず痒いよ」

「叩きゃ治るか?」

「さっきの仲間って発言の部分はカットしてください」

 リンは理解した。周りが自分をどう見ているのかを。

 素直な気持ちを吐くと心配されるなど、そこまで酷かったのかと。

(まあ……素直ではなかったかもな)

 冷静に思い返すと、あまり素直ではなかったかもしれないと思い直す。

「はっはっは 中々個性的な仲間じゃないか」

 ロムは愉快そうに笑い、リン達の会話を楽しんでいた。

「どうだね? 今まで見た場所でここまで機械に溢れた場所もなかっただろう?」

「この世界は魔法に溢れた世界だとばかり思っていたので正直驚きました これだけの技術があるというのに……何故機械は広まっていないのでしょう?」

「それは我々は世間一般的には『異端者』の烙印が押されているからですよ」

 ロムはギアズエンパイアの象徴である『機械』が、何故この世界に浸透していないのかを語る。

「魔法はそもそも誰が与えた力なのかはご存知ですか?」

「ええ 一応は」

「魔法は当たり前の力……遥か昔の『神からの贈り物』とも伝わってます」

 人間と魔族の抗争に、神が与えた力。それが魔法の始まりであった。

「ですが我々は『魔力を持ち合わせていない』のです 魔力自体は持っていても使えなかったり……もしくは向いていなかったりと理由は様々ですが ギアズエンパイアの人々は皆そうなのです」

「だから『異端者』だと……?」

 神が魔法を与えたのは『人間』のみ。

 ならばその力を扱えない者は何だ? その答えが『異端者』という扱いである。

「我々の祖先は迫害され……この地に小さな集落ができました 魔法が使えない事を互いに支えながら助け合って細々と生きてきたのです」

「その中で発展した技術が『機械』だったんですね?」

 火や水、電気といった魔法の力を使えない人々は、それを補う為に様々な試行錯誤を繰り返し、今こうして『機械の発展』という形で今に到っているのだ。

「時は流れ今の時代 魔力を持たない人も増えてきました」

「拙者とかでござるな」

 アヤカもその一人であり、そのハンデをモノともしない戦闘技術で今まで戦ってきた。

「だから最近では『異端者の技術』と言われていた機械も……漸く認められてきたのです」

 太陽都市『サンサイド』の医療機器や、海賊『ナイトメア』やアクアガーデンでも使われていた通信機の存在に加えて客船や列車の技術も、全てはギアズエンパイアの物。

「ですがまだまだ最近の話……認知はされ始めしたがそれもほんの一握り」

 当然、今まで受け入れなかった物を、急に受け入れる事などあり得ない。

「……自分の世界では逆に魔法の変わりに機械が発展しています」

 リンの世界に魔法など無かった。

 それが当たり前で、もしも『魔法』を扱える人がいるのであれば、おそらくその人は『異端者』として扱われてしまうのであろう。

「今はまだ難しくても必ず……認められる日が来ると思いますよ」

 旅をしていく中で、僅かではあるがギアズエンパイアの技術は確かにあった。

 ならば後は少しずつ、世界が受け入れていくのを待つだけだと、リンは言った。

「ありがとう……そう言ってくれくれたのは君が二人目・・・だ」

「……二人目?」

「余だよ!」

 そう言って自己主張をするのはピヴワである。

「いや~! 余ってば良いこと言うよねって! お主もわかっておるではないか!」

「は?」

「はぁ!?」

 あまりの雑な態度に憤慨するピヴワ。

「何じゃお前!? それほどまで余と一緒なのが不服か!?」

「まあまあ落ち着いてください王妃」

「シオン! コヤツ余を侮辱しておるぞ!?」

「それは被害妄想です」

「断言!?」

 ご乱心のピヴワをシオンがなだめ(?)リンとロムの話に戻る。

「詳しい話はまた後日にしよう 旅の疲れをとってからゆっくり話そうじゃないか」

「そうして頂けるとありがたいです 外で機械兵との戦いもありましたので」

「ほう……? 是非とも聞いておきたいな」

「その前に『パスポート』の発行をして頂いてもよろしいでしょうか? パスポートがなければ買い物などが出来ないと聞きましたので」

「ああそうだったね 君達の分の発行手続きを済ませてからにしようか」

「ありがとうございます」

 こうして話しは一旦やめて、部屋を出た。

 部屋を出た途端、早速ピヴワの抗議が始まった。

「おい聖剣使い! お主のその態度は何だ!?」

「何の話だ?」

「とぼけるでない! 前に余と話していた時と随分接し方が違うでは無いか!?」

「先にそっちですか王妃」

 リンは基本的に目上の相手に対しては、なるべく丁寧に接しているのに対して、ピヴワに対してはかなり辛辣である。

 ちなみに理由は見た目が幼女だから……ではなく「妹にウザさが似ている」という理不尽なものである。

「だったらアンタも言うことがあるだろ?」

「……なんじゃ」

「『初代聖剣使い』の事だ 今更とぼけるなよ」

 木の国『ド・ワーフ』で最後に通信をした時『アレキサンドラ』が襲われているとの報告をピヴワはした。

 だがその時はド・ワーフも魔王軍に襲われていた為、駆けつける事ができず、アレキサンドラの戦いには参加できなかった。

「魔王の口ぶりから察するにアレキサンドラには初代聖剣使いが行ったんだろ? 他の聖剣を持っている事はシオンから聞いた」

「……そうか バレてしまったか」

 魔王軍が現れ、進軍を始めてから、行方をくらませていた初代聖剣使いである『リン・ド・ヴルム』は秘密裏に動いていた。

「魔王軍との戦争が始まって今は三年目か……最近になってリン・・は突然現れた」

 放浪癖のある初代聖剣使いは、サンサイドにも戻らず音信不通。世界が魔王軍との戦いの真っ只中だというのに、最近になるまではずっと行方不明であった。

「ヤツは言った『預けた聖剣を集める』とな 魔王軍と戦う準備を始めたのだ」

 だが自分の存在を魔王軍に知られる訳にはいかない。だから存在を隠し、リン達には『盗まれた』と言うしかなかったのだ。

「すまなかった この事を知る人物は最小限に留めておく必要があったのだ」

「……そうじゃない・・・・・・

「へ……?」

 謝るピヴワを、リンは否定する。

「それぐらい理解できる 俺が言ってるのは『何故連絡をしなかった』のかだ」

 アレキサンドラの情報も、街で仕入れた情報から推測したに過ぎない。

「あんな連絡しておいて普通は報告するだろ? その事を隠す隠さないは別としてちゃんと防衛できたのかどうか あれ以降音信不通になったからアクアガーデンも何かあったのか考えるだろう?」

 アレキサンドラが『被害軽微』で事がすんだ理由。それ以降連絡の取れなくなったアクアガーデンがどうなったのか。

 被害を受けたという情報は無かったとはいえ、確証は無い。

「もしかしてお主……心配しとったのか?」

 ピヴワはリンの口ぶりから察するに『心配』したと言っているのではと感じる。

「……ほんの少しな」

 外方を向くリン。

 その態度は照れ臭さの表れであった。

「……ハッハッハッ! ういやつではないか! 其方は!」

 リンの怒る理由を理解し、ピヴワはその素直ではない態度を笑う。

「うるせぇ」

「すまなかったな! 其方の今までの無礼な態度は全て水に流そう!」

「ふん……謝るなら先にシオンに謝ってくれ」

 リンは一人その場を離れ、ギアズエンパイアの町へと出かける。

「面倒な隠し事させてたんだ 幾ら部下でも大事にしてやれ」

 やはり素直では無いなと、誰もが思った。

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