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暗雲の『ライトゲート』

相容れない

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「ああ……憤怒の王『サタン』よ……私の片割れ・・・・・よ! まさかお前が人間に倒されるとは思っていた無かったぞ!」

 ライトゲートの王『エルロス』の身体に憑依した傲慢の王『ルシファー』は、目の前に現れたもう一人の魔王である『サタン』に対してそう言う。

「私はお前に会いたかった……まさか出向きに来てくれるとは思っていなかったよ」

「我の獲物に手を出したのだ 覚悟は出来ているだろうな?」

「まあ待て人間・・ サタンの力を手に入れたからといって……たとえ憤怒の王とて所詮お前は『サタンの名を借りた紛い物』だ 分をわきまえよ」

「それを言うなら貴様は何だ? その片割れのおまけで・・・・目覚めたお前は? 人間の器を借りる事でしかこの世に『顕現出来なかった』お前は?」

 いがみ合うサタンとルシファー。たとえ二人の存在が表裏一体の関係であっても、互いを認め合う事をしようとしていないからだ。

「すまなかったね 私の計画に聖剣使いの力があると便利だと思ったんだ」

「その計画とやらを聞かせてもらおうか? お前は何をするつもりだ」

「お前は聞いていなかったな 私の目的は『塔の完成』だよ」

 かつて『神界』へ届く筈だった『始まりの塔』を、今度こそ届かせる事。

「私は人間が大好きだ だから人間は……『神を超越する存在』である事の証明をしなくてはならない そうする事が人類にとっての『幸福』ではないか?」

「何を根拠に……言っている?」

 身体の傷を癒してなんとか立ち上がるリン。

「しぶといでは無いか聖剣使い だが随分辛そうでは無いか?」

 傷は治っても、疲労した体力と精神の疲れまでは治せない。

「根拠……か そんなもの必要か?」

「何だと?」

私が決めたのだ・・・・・・・ 幸福でない筈が無い 私は常に人間と共に在る……その私が考えたのだ 間違える筈が無いのだよ」

 自らを信じて疑わず、自己中心的な考えを述べる。

「ルシファー……『傲慢の魔王』か 確かにそのとおりだな」

「私が人間を導く! ただ黙って信じていれば良いのだよ! 己の愚かさを恥じる必要はない……絶対の存在である魔王の『孤独』を! 今の人間達に理解できるとは思っていないからな!」

 それが『傲慢』を掌る魔王。人間を愛し、人間の為にと自身の考えた一方的な理想を掲げ、押し付けた偽善。まさしく『傲慢』であった。

「今人間達に最も影響を与えているのは『聖剣使い』……お前だよ だから私はライトゲートの王として聖剣使いを味方に付けられれば……上手くいくと思っていたんだがな?」

「生憎と……俺はアンタじゃあなくて『コッチ』の魔王を倒すのに忙しくてね」

「まさか魔王自ら乗り込んで来るのは想定外であった……潔く諦めよう 私とて無駄な戦いはなるべく避けたいのだ 何処へなりとも連れて行け」

 自分から襲っておきながら、都合が悪くなれば勝手に手を引く。

 その身勝手さに怒りが膨れ上がるが、リンにとって今ここで見逃してもらえるのであればそうして貰いたい所であった。

(ムカつくが願ったり叶ったりだ……勝てる見込みなんてないからな)

 力の差は歴然。ここで挑むのはあまりにも無謀な事であろう。

「……行くがいい聖剣使い お前には『俺』と戦う義務があるのだからな」

「どういうつもりだ……サタン?」

 驚く事に、逃げるように薦めてきたのはサタンであった。

「お前を倒すのは俺だ こんなところで殺されてもらっては今までお前泳がせていた事が全て水の泡だ……それにコイツは俺にとって邪魔な存在だ」

「何故だい? ここで戦うのはお互いメリットが無いだろう?」

「いいや……ここでお前を倒す 『十二翼』に覚醒するその前にだ」

 今ルシファーの翼は四翼。伝承に記された翼の数は『十二』である。

「成る程? 完全に覚醒した私には勝てる見込みが無い……だから今の内に倒しておかないと困るという訳か」

「それは理由の一つ・・だ お前を倒す理由もっと単純だ」

「ほう? それは一体なんだい?」

お前が気に・・・・・入らない・・・・

 サタンはルシファーを指差し、そう告げる。

「人間が好きだと? 笑わせる……人間はこの世に溢れかえった『神々の汚点』だ だから神は人間を救わない……ただ傍観し続ける! それが神々と人間の関係だ! それが理解できないお前と分かり合う事など出来はしない!」

 サタンは人間を否定し、ルシファーは人間を肯定する。

 表裏一体、すなわち『真逆』であった。

「フッ……フッハッハッハッハッ!」

 サタンの言葉をルシファーは笑う。

「面白い! ならば私はお前の全てを否定しよう! お前の怒りは神に届かぬと思い知れ! 己の嘆きは所詮『人間』の感情である事を思い知れ! 偽りの魔王!」

 遂に四翼の翼は『六翼』にまで覚醒させるルシファー。

 より強大となったルシファーに、サタンは決して怯まなかった。

「古の魔王よ……どれ程の力か試してやろう」

「慢心……『傲慢』だな?」

 無数の魔方陣がサタンを取り囲み、爆風を起こす。

 光の幕を張り耐えるサタンだったが、ルシファーの六枚の翼が輝く。

「悲しき存在だなサタン……お前は生まれながら人間の『敵対者』だった」

 神へと叛逆する前から、サタンは人間に対しての『試練』を与える者として、人間へ深く関わっていた。

「人間を愛する気持ちは私と一緒だった……だから共に墜ちた! そして今は人類を脅かす魔王として力を振るう! なんと哀れか!」

 眩き閃光が放たれ、追い込まれるサタン。

 ルシファーの力は今のサタンを上回っていたのだ。

「俺は……知らん」

「そうであろう! 何故なら力の『一端』しか扱えていないのだからな! 古代の『記憶』は受け継がれていないのであろう!?」

「古代の……記憶?」

 違いはサタンが得ることの出来なかった『記憶』だと言うルシファー。不敵な笑みを浮かべて、サタンを見下ろす。

「知りたいか? ならば見せてやろう! 『力の一端』をな!」

 上空へ手をかざし、空に巨大な魔方陣を描く。

「古代術式展開……目標捕捉 起動せよ!」

 膨大な魔力が収束し、一点に狙いを定めて放たれる。

「『エンシェント・キャノン』」

 凄まじい破壊力を持った忘れ去られし古代魔法。

 この一撃を受ければ、いくら魔王サタンといえど一たまりも無いであろう。

「……何のつもりだ聖剣使い?」

 古代魔法が放たれる瞬間、ルシファーの手元が僅かにずれた・・・

「お前に借りを作りたくないだけだ」

 リンが放った氷の剣が、ルシファーの魔方陣へと投げられ、魔法が放たれる軌道をずらしたのだ。

「何故邪魔をした聖剣使い!? そいつはお前の敵であろう!?」

「こいつも言ってたろ……俺はお前が気に・・・・・入らない・・・・ってな どっちも敵なら気に入らないほうを邪魔したほうがスカッとするだろ?」

 氷の聖剣『アイスゾルダート』と、木の聖剣『ローズロード』を構え、リンはルシファーへ言った。

「テメェが売った喧嘩だろ? 売りつけておいて勝手に逃げるんじゃあねえよ」

 ここで逃げ延びたとしても、どちらにせよ『魔王』との戦いは避けては通れない戦いならば、今逃げるよりも『立ち向かう』という事が、リンにの出した結論であった。

「フン……思っていたよりもお前は阿呆だな」

「何だその言い草 そこは『ありがとう』だろ?」

「だったらお前を助けた時の礼がまだだったな?」

「死んでも言わん」

「奇遇だな 同じ答えだ」

 二人は並び、ルシファーへと相対する。

「手も足も出なかったんだ いつでも抜けてもいいぞ」

「おいおい? 自分に返ってきてるぞ?」

「愚か……愚か愚か愚か! 力を借りる事でしか粋がれない弱者が抵抗するな!」

 聖剣使いと魔王サタンの二人はルシファーを倒す為、一時手を組む事にした。

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