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暗雲の『ライトゲート』

越える

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「出ろ! 王がお前達をお呼びだ!」

「……んあ?」

 投獄されてから丸一日が経過した聖剣使い一行。

 どうやって脱獄出来るか模索していたのだが、結局のところ『リンの安否』の事を考えると何も出来ないと結論が出た為、黙って従う事にしていた。

「やっと出れるのかよ……あんまり暇なんでほぼ寝てたわ」

「アナタよくこの劣悪な環境下でぐっすり寝てられたわね……」

 やる事が無かった雷迅は寝て過ごしていたのだが、他の面々はそうはいかない。

 ベッドも布団も無く、毛布も無いので直接冷たい床でしか眠れないのだから、通常であれば不満が溢れてしまっていたであろう。

「牢屋暮らしも長かったんでね 退屈な時は寝て過ごすんだよ」

「卑怯だぞ!」

「いや卑怯とかどうとか羨むことでは無いでござる」

 どこかズレたレイにアヤカがツッコミに回る。とても珍しい光景である。

「騒ぐな! お前達は今囚われの身という事を忘れるなよ!」

「すいませんね~うちの嬢ちゃん方が」

「それよりリンはどうしんたんだよ!? 無事じゃあなかったらオレ様が承知しないからな!」

 唯一この場に居ないリンについて、一行は何も知らされていない。

 闇の賢者の力を受け、獣と化してしまっていた事を。

「ふん! 魔族なんぞに話す事など何も無い!」

「なんだと!?」

「……やめときなチビル ここで揉め事起こしても意味がねえ」

 苛立ちを隠せないチビルをムロウが制止する。ここで無闇に暴れて、リンの身にもしもの事が及ばない為の対応である。

「今は言うとおりにしましょうや そうじゃなきゃ一日耐えたのが無駄になる」

「その通りよ 今は一刻も早くリンと合流することを考えましょう」

「まともな判断が出来る者もいるようだな 抵抗し無いのなら悪いようにはしない」

「信用できねえの」

「我々もお前達を信用していない……特にそこの『魔族』二人はな」

 険悪なムードが蔓延る中、シオンはリンとの交信を試みていた。

(どうして……何も返してくれないの?)

 生きている事はわかる。が、何も反応が無い。

 無事を祈るシオン。そしてエルロスの元へと連れらた。

「よく来た聖剣使いの一行 歓迎するぞ」

「歓迎するならまず縄を解け!」

 玉座に座るエルロスが見下ろしながら一行に言う。

 二度目の王の間。前回は客人であったが、今は捕虜としてこの場に集められた。

「残念ながらそれは出来ない……何故なら私はお前達を『罪人』として裁かなくてはいけないのだからな 本当に申し訳ない」

 心にも無いというのに、心苦しそうにライトゲートの王『エルロス』が告げる。

「お前達はここで『処刑』する事が決まった 本来であれば見せしめに殺すのが一番良いのだが……他の国の目もあるのでな」

 魔王軍に対抗している聖剣使い達を捕らえた事が外部に知られてはまずいと、罪人という汚名を着せ、口封じの為に殺そうというのだ。

「おいクソキング! なんだってオレらが罪人なんだよ!?」

「またお前か女……品性の欠けらも無い」

「なんだと!?」

「落ち着いてレイ!」

「落ち着いてられるかよ! オレは最初からすまし顔で胡散臭いコイツが気に入らなかったんだからな!」

 今までの発言と先程の発言で完全にキレるレイ。

 たとえ縛り付けられていたいとしても、レイの強気な姿勢は変わらない。

「理由は簡単だ……ここライトゲートに『魔族』を連れ込もうとした事だ」

「納得がいきません それでしたら最初から交渉に応じずに我々を入れなければ良かった話では無いですか」

「そうだそうだ!」

「……っと言うのが建前 私の目的は『聖剣使い』の力だ」

「どういう意味でござる?」

「そのままの意味だ 聖剣使いの力は素晴らしい……お前達も傍で見てきた筈だぞ? 人間の身でありながらあれ程の力を秘めているのだ……選ばれし者にしか扱えない『賢者の石を聖剣に変える』伝説の英雄の力だ」

「成る程……それじゃあその力を利用して他国も支配しようって魂胆か?」

 もしも聖剣使いの力を独占できるとすれば、なによりも優れた兵器になる事は間違いないであろう。

 そうなれば魔王軍と同じく『世界征服』さえも、確かに可能となるだろう。

「違う」

 だがムロウの予想は否定される。

「違う違う違う……そんな事どうでも良い」

「ならなんだよ? オレら魔族は関係ない 聖剣使いの力は利用するが国の支配は興味が無い……なら目的はなんなんだ?」

「私は……もう一度『塔』を建てたい」

 この世に魔族が生まれるきっかけとなった『始まりの塔』である。

 魔族が生まれ、人間との戦いの末に『人界』と『魔界』に別れるきっかけとなった『罪の塔』。

「天高くそびえるあの塔も『神界』までは届いてない……ならば届かせるべきであろう? そして証明するべきだ『人間は神を超える』と証明をする為に」

「意味わかんねぇ……なんだってそんな事するんだよ?」

「……私は『魔族』を愛している」

「はあ!?」

 ライトゲートは『魔族』を嫌悪し、この国に入るだけで罪だというのにその国の王があろう事か、『魔族を愛している』と言っている。

「私は人間を愛している……それ故に・・・・魔族も愛している」

「意味がわかりません……それと塔に何の関係があると言うのですか?」

「『下界』の者全てが『平等』だ 私は下界の生き物全てが好きなのだ」

「テメェ会話しやがれ!」

 何一つ噛み合わせようとし無いエルロスに対し、レイは怒りをぶつける。

 全てが自分の中で自己完結した語りに、誰もついていけていない。

「人間とは脆弱で愚かで醜く……それ故に儚く美しい 私はそれがあるべき人間の姿だと信じている だから決して……『神』であろうと否定させはしない! 塔を完成させなくてはならない! 子が親を超える様に! 『人間は神を超える』のだ!」

 かつて神の怒りに触れ、塔を完成させるに到れなかった遥か昔。神代の伝説をエルロスは『諦める』事が出来なかった。

「人間は『傲慢』であるべきだ! 何故たった一度の失敗で諦める!? 何故あと一歩で成し遂げられる『偉業』を捨てられるのだ!? たとえ神が『否定』しようとも! 私がお前達を『肯定』する! その為に力ある者が必要なのだ!」

 エルロスの目的は唯一つ。『塔を完成させる』事のみ。

 その為であれば手段を選ばれない。たった一つの『神への挑戦』の為であれば何でも利用する。

狂ってるよ・・・・・……純粋にな」

 レイの口からそう言葉が零れる。一方的な思考をしているエルロルに対し、そう思わずにいられなかった。

「お前達に理解できる筈が無い お前達と私は違うのだからな」

「自分の言ってることがただの自己満足だってわかってる!? 自分の我儘に他人を巻き込まないで!」

 怒りを顕にするシオン。エルロスはそれを無視し、罰を言い渡す。

「お前達は礎となる……聖剣使いが私の物となる為のな」

「どういう意味!?」

「お前達を『聖剣使いの手で殺させる』 そうすればもう後戻りできなくなる 仲間という不穏分子も消える 一石二鳥というヤツだ」

「バーカ! アニキがそんな事する訳ないだろ!」

「以前の聖剣使いならそうであろう……以前ならな・・・・・

 エルロスが指を鳴らすと、突如鉄の箱が現れる。

「なんだよそれ? オレ様達へのプレゼントかよ?」

「そうだ小悪魔 この中の『獣』がな」

 すると鋼鉄の箱を内側から殴り、鋼鉄が砕けると中から影に覆われた『何か』が姿を現す。

「紹介しよう……コレが・・・聖剣使いだ」

「……え?」

《グウゥ……!》

 闇の賢者の石の影響で理性を失い、変わり果てた聖剣使いの成れの果てだった。

「バカ言ってんじゃあねえよ! アニキのわけ……!?」

「リン……?」

 リンと魔力が繋がっているシオンには、目の前の獣が『リン』である事を嫌でも認識させられる。

 たとえそれが、信じたくない現実だとしても。

「嬢ちゃん……間違い無いのかい?」

「ええ……」

「嘘だろ……? おいリン!」

「無駄だよ もう声は届かない」

「だったらシオン! お前が直接交信してみろよ! もしかしたら……っ!」

「やってみる!」

 魔力の交信で、リンに呼びかける。

 まだ理性が残っているのなら、呼び戻せるかもしれないと。

「……え?」

「どうした!?」

「……駄目 届かないわ」

「アニキ……?」

「気は済んだか? では処刑の時間だ」

 そう言うとエルロスはレイを指刺す。

「先ずは何度も不敬な態度を見せたお前からだ」

 リンはそれに応じるように、レイの前へと移動する。

「アニキ……」

「愛しき者に殺されるのなら本望であろう……死ぬが良い」

 エルロスがリンに処刑の合図を下した。

























「お前が死ね」

「何……?」

 リンから伸びた影が、エルロスを切り裂く。

 何が起きたのかわからないエルロス。元の姿に戻ったリンは仲間の縄を解く。

「……名演技だったぞ シオン」

「心配……させないでよ バカ」

 交信の際にリンはシオンに一言『大丈夫』と伝え、その事を周りには黙っているように伝えていたのだ。

「……アニキ?」

「心配かけたな」

「……アニキ~!」

 レイに泣きつかれるリン。今回ばかりはそうさせてあげたいところであったが、今はまだ出来ない。

「どうやって……どうやって理性を取り戻した!?」

「その前に答えろよ 魔王軍を倒したら色々答えてくれるんだろ?」

 リンが最初に選んだ質問はこれだった。

「どんな気分だ? 自分の思い通りに事が運ばなかった今の気分は?」

 リンの強さは、エルロスの予想を超えていた。

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