上 下
121 / 201
奪い奪われ壊されて

再雷

しおりを挟む
「アクアガーデン以来じゃあねえか 元気してたかお前ら?」

 アクアガーデンの王妃に、出没した電気泥棒を捕まえてくれと頼まれ、現れたその泥棒の名は『雷迅らいじん』。

 その強さは本物で、特別な強さでは無く『純粋な強さ』で、当時のリン達を苦しませた魔王軍の一人だった。

「おいおい揃いも揃って辛気臭い面しやがって もうちょい歓迎ムードってもん出して欲しいぜ」

「このヤロウ……何でここにいやがんだよ」

「もしかして王妃はコイツをここに収容してたのかしら?」

「……手を出すなよ」

「アニキ!?」

 誰であろうと、魔王軍であるのならリンには関係ない。

 たとえ一度倒した相手でも容赦無く殺す、今のリンにとってはそれだけの事であった。

「知り合いなんだろ? 話し合いで解決した方が良いんじゃないのか?」

「必要無い」

「まあそう言うのなら観戦させて貰うでござるよ 聞く耳持たぬのであろう?」

 否定派が多数を占めている中、アヤカのみ傍観に徹する事を決めた。

 確かに今のリンは魔王軍を倒す事にしか頭ない以上、止めても無駄である。

(良い機会でござる……今のリン殿の根底にあるものを見極めるには)

「ちょっとアヤカ!?」

「おっ? なんだよヤル気充分ってか? 良いぜこいよ」

「ここで何があったか吐いて貰うぞ そして死ね」

「ハッ! デカイ口は相変わらずかぁ? どんだけ強くなったのか見せてみろよユウヅキ リン!」

 電撃を纏った拳を地面に叩きつける。
稲妻が地面を走る。稲妻はリン目掛けて一直接に放たれた。

 リンはその一撃を難なく躱すと、雷迅へと距離を詰める。

 リンの右手は鋭利な刃状と化した、氷を纏う。

「お噂の氷の力か! その程度が通用すると思うなよぉ!」

 雷迅は片手で氷の刃を受け流し、その勢いのまま拳を叩き込む。

「……だろうな」

「へぇ……やるねぇ」

 腹部へと放たれた拳は届かない。リンの左手に捕まれ、阻まれたからだ。

「反応速度が上がったな 動きの無駄も改善されてるじゃあねえか」

「お前ら相手に散々叩きのめされたからな 嫌でも強くなるさ」

「んで? 今のお前ならこの後どうするよ?」

「そうだな……お噂の氷の力を使わせて貰うとするか?」

 掴まれた拳が、徐々に氷が侵食してゆく。

 氷の賢者の石を手に入れてから、この力で幾人もの魔王軍を屠ってきた凍結の力だ。

「おう!?」

「恨むなら魔王軍に入った自分を恨むんだな」

「……勝った気になるには早すぎるぜ?」

 雷迅は凍る身体に魔力を流す。電撃の力がリンの魔力を押し除け、氷を砕く。

「何だと!?」

「伊達に電気使って生きてきてんじゃねえんだよぉ!」

 雷迅は改めて拳を叩き込む。動揺したリンに防ぐ手立ては無く、そのまま吹き飛ばされた。

「ゴホッゴホッ……ッ!」

「舐めんじゃねえぞ? この程度の事なら前のお前もやってたろが」

「……記憶に無い」

「そうかい! んじゃあまあ思い出せよなぁ!」

 以前にも増して膨大な電気を放電する雷迅は、不敵な笑みを浮かべて拳を構える。

「チョイと痺れるが……悪く思うなよ?」

「やなこった」

 リンも拳を構える。雷迅を見据え、過去に相対した敵を、もう一度倒す為に。

「黙ってお縄についてれば良かったんだよ」

「楽しもうじゃあねえかユウヅキィ! 久々に暴れさせろぉ!」

 互いに全力をぶつけ合う。純粋な力に純粋な力で、真っ向から挑み、叩きのめす。

 それが相手に最も敗北感を味合わせる方法だと、二人は理解しているからだ。

「テメェ『土の賢者の石ガイアペイン』はどうしたぁ!? 前みたいに硬化しねぇのか!?」

「使って欲しいなら力づくで使わせてみな」

「いちいちムカつくなテメェ! 火も土も氷も……全部使わせてやるから覚悟しなぁ!」

 二人の戦いは攻撃を防ぐよりも、殴り殴れのノーガードの殴り合いだ。

 もはやどちらが先に倒れるかの我慢比べ、どちらが根を上げるかのチキンレースと化していた。

「ホラよぉ! フラフラしてるぜぇ!」

「お前が目眩起こしてるだけだろうが!」

 当然そのまま続ければ限界も早い。そんな二人を止めるべきだと、シオンは言う。

「ねぇあの二人本当にあれで良いの!?」

「あ~……ありゃあスイッチ入ってんな どっちも」

「止めるって……力づくで止める気かい?」

 目の前で行われている熾烈な戦い。止めるとなるとそう簡単にはいかないだろう。

 下手をすれば、止める方にも被害が出てしまう。

「う~……とりあえずアニキを応援するしか……」

「そろそろ決着も着きそうでござるよ」

 黙って二人の戦いを観戦していたアヤカには、体力がどちらも尽き始めたのがわかる。

 ほんの僅か、ただ一瞬リンが隙を見せる。
それを雷迅は逃すはずも無かった。

「もらっ……アタタタタタァ!?」

「……何だ?」

 隙を見せたリンに渾身の一撃を叩き込む筈だった雷迅が、首を押さえて痛みを訴える。

「く……首が締まるぅ……!」

《戯けぇ! 誰が二代目を倒せと命令したか!》

(この声……確かどこかで?)

 どこからとも無く声が聞こえる。
その声は雷迅から、雷迅が首に付けていた首輪が発していると、リンは気づくのに多少時間がかかった。

《アーアー ……聴こえておるか聖剣使い? 久しいなぁ》

「その声……アンタもしかしてアクアガーデンの」

「ピヴワ王妃!?」

《おー! シオンもおるな 元気そうで何より》

「どうして雷迅から声が聴こえるのですか王妃!?」

《此奴につけた発信器付きの首輪からな メッセンジャー・・・・・・・として雷迅を寄越したのだ》

「そのメッセンジャー死にそうだが」

「お喋りはこの拷問器具解除してからにしろや……」

 意識を保つのに限界がきたとクレームを受けて、ピヴワは締め付けをやめた。

《改めて自己紹介をしよう 妾は『ピヴワ』 アクアガーデンを治める麗しき王妃である! ほれ! 平伏して称えろ称えろ!》

 事情を話す為、矛を収めさせたピヴワ。

 まずは知らない者の為に名乗りを上げた。

「間違いねぇ本物だぁ……」

「オッス王妃! 相変わらずウザいな!」

《お主らどこで判断てしておるぅ!?》

 アクアガーデンを統べる王妃『ピヴワ』と、その国で暴れた不届き者の『雷迅』。

 なんともミスマッチな組み合わせに知っている者は疑問に思ったが、とりあえず話を進める。

「こちらも名乗らせて頂くでござる 拙者はアヤカ 『ムラマサノ アヤカ』でござる」

「おりゃあムロウ 『ガンリュウノ ムロウ』 よろしくな王妃様」

《ムラマサにガンリュウ……あのジジィ共・・・・・・の孫と倅か 中々濃ゆいな》

「……雷迅をメッセンジャーにしたと言ったな つまり緊急の要件・・・・・って事だな?」

《そうだ……雷迅! 壁に向かって首輪の右横のスイッチを押せ!》

「ヘーイ……ってせめてチョーカーって言ってくれよ 首輪だと犬じゃあねえか」

 文句を言いながらも指示通りにする雷迅。

 すると照らされた光が、壁にピヴワの顔を映し出した。

《どうだ? 久方ぶりの妾の美貌を拝めて光栄であろう?》

「ほ~? これはまた随分小さな王妃様でござるなあ?」

「おじさん流石にここまで幼いと守備範囲外かなって……」

《お主らも失礼だな! こう見えてもお主らもよりも歳上だしぃ! 何故かフラれたみたいになっておるしぃ!?》

「さっさと話を進めてくれ」

 緊張感の無い会話に苛立ちを覚え、リンは早く内容を知りたかった。

《扱いが雑ぅ……お主らも知っておるだろうが最近魔王軍の動きが活発になっておる》

 これまで襲われた場所三ヶ所を除けば、魔王軍の動きというのはハッキリ言ってそれ程多くは無かった。

 が、現在では各地で魔王軍による被害が増大しつつある。

 物流ルートを押さえられ、小さな村や集落が襲われるといった事が頻繁にみられるようになってきていた。

《領土を奪い 物資を奪って水や食料といった必需品が手に入り辛くなっておる》

「本格的に魔王軍の侵攻が始まったって事ですね……」

《今はその前の段階に入ったという事だろうな だから我々も決戦の準備を始めようと思っておる》

「随分呑気なものだな……今から始めようだと・・・・・・・?」

 前々から国の危機感の無さを、街などで集めた情報から感じていたリン。

 あれ程時間があったというのに、未だに準備ができない事に不満を覚えていた。

《そう噛みつくな聖剣使い それには此方にも理由があってなぁ……》

「……で? 具体的にどう準備するつもりなんだ?」

《お主らには秩序機関『ギアズエンパイア』に向かってもらいたい そこには『魔王軍討伐作戦本部基地』を設置しておるからな》

「まだ残りの賢者の石を集めきれてないぞ」

《無論まずは賢者の石の回収を優先するが良い 残りは『ド・ワーフ』と『ライトゲート』であろう? なんらかの時には改めて連絡する その為のメッセンジャーなのだからな》

「嫌々ながら この雷迅様がお前らのお供に加わってやろう ありがたくおもいな!」

「この魔族って信用できるのかい? 寝てる間に首の骨折られたりしないかね?」

 ムロウの当然の疑問、見ず知らずの魔王軍だというのなら信用出来る訳がない。

《その点は安心せい 此奴の首につけた首輪はな さっきみたいに勝手な事をすれば締め付けられる仕組みになっておる その気になれば捻じ切る事もな》

「え? 初耳何だけど?」

《今言ったからな》

「このロリババァ!」

《健闘を祈るぞ お主らが我らが切り札なのだからな》

 切り札と言う。けれどこの施設や村一つ守れなかった自分に、そんな大それた事が出来るのかと、リンは疑問に思う。

《……辛かったであろうな 救えたかも知れぬ命を救えなかった事は》

 今思っていた事を、見透かされていたかのようにピヴワは言う。

《忘れるな……今一番救わなくてはいけないのはお主自身・・・・だということを》

 その通信を最後にピヴワは通信を切った。

 リンはその言葉の意味を考えていたが、雷迅は構わず歩き出す。

「どこに行くでござる?」

「決まってんだろ?『洞窟』だ」

 雷迅は場所を知っていた。

「情報が確かならそこにいる筈だぜ……『魔王』がな」

 兵士が最期に言い残した洞窟を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...