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次を目指して

竜の意味

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「今頃リン達は依頼を終わらせてるのかしら……」

 リンとは別行動をする事になったシオン組。組み合わせはじゃんけんで決めたのだが、シオンは例外だった。

(契約のおかげで何かあっても連絡が取れる……か)

 シオンはリンと誓いの契約をする事で魔力を繋ぎ、離れていても連絡を取る事もできる。

(まさかそれが仇になるとなんて……)

 そのせいで一緒の組み合わせになれないなど考えていなかった為、激しく後悔していた。

「ハァ……」

「浮かない顔でござるな 溜息までついて」

「アヤカ……」

 お先にどうぞと、風呂に入ってもらっていたアヤカが上がってきた。

 ニヤニヤとした表情で話しかけてきたところを見れば、理由を察しているのがわかる。

「便りがないのは元気な証拠 気にし過ぎは良くないでござるよ」

「そうかもしれないけど……」

「まあそう落ち込む事もないでござろう いつでも連絡が取り合えるのはシオン殿だけでござるし それだけ信頼されてるって事でござるよ」

「別に落ち込んでないし」

「うん? 今のはじょーく・・・・でござるか?」

(この娘はもう……)

 さっきよりも余計ニヤニヤした表情が強まるアヤカ。この手のタイプは『弱ってる相手がいたらイジリたくなる』人種だ。

「まあ拙者がリン殿を鍛えたのでござるし? 余程の相手ではない限り負けないでござろう」

「たいした自信ね」

「自分を信じられぬ者が人に物事を教える事など出来ぬでござる」

「急に真面目にならないでよ」

 温度差をシオンは感じずにはいられなかった。

「まあその通りよねぇ……私なんてリンへ指南を任されてる筈なのに……」

「リン殿はあげぬでござるよ? 拙者の弟子でござる」

「むぅ」

 その言葉につい食いついてしまうシオン。

「刀と剣とじゃあ戦い方が違うでしょう? それに魔法も少しなら教えられるし」

ムキになって反論してしまうシオン。そんなシオン の言葉を聞いてアヤカは思い出す。

「あっ……そういえばリン殿に刀のことを話して無かったでござる……」

「え? ずっと修行してたじゃない」

「いやそうではなくて『刀』でござるよ 技術では無く『紅月』でござる」

 心の中で「そういえば実物も持たせたこと無かった」と思い出したが、その件はアヤカは黙っていた。

 本題はアヤカの祖父がリンに渡した刀、『紅月』の事である。

「ムラマサの刀……ただ斬れ味が凄いってだけじゃあないの?」

「ふふん! 爺様がたったそれだけの刀を鍛えるわけないでござろう! 爺様は聖剣を超える刀・・・・・・・を鍛えようとしていたのでござるよ」

ようとしていた・・・・・・・?」

 伝説と語り継がれるリンの持つ『賢者の石』から、膨大な魔力から創り出しているのが『聖剣』である。

「苦労したようでござるよ? どうすれば聖剣を超える魔力を持った刀を鍛えられるかと」

 だが先程アヤカはようとしていた・・・・・・・と言った。

 それはつまり完成しなかったという意味だ。

「じゃあリンの刀って聖剣程の魔力は無いってこと?」

「それどころか何の『属性』もないでござるよ」

「え!?」

 てっきり聖剣まで至らずとも、それ相応の魔力を宿した刀だとばかり思っていた。

「爺様は捻くれているでござるからな~ 同じ土俵に上がれぬのなら『引き摺り下ろせば良い』と言っていたでござる」

「それってどういう……?」

「それはでござるなぁ……」

(話に入りづれぇ……)

 待機組はシオンとアヤカ、そして唯一の男は小悪魔のチビル。

 部屋の隅で、女子の話をただ聞く事しかできなかった。

 そんな待機組は、リン達が危機的状況に置かれているなど、知る由もなかった。

(打開策がないなら……あの女の言葉を信じるしかない!)

 便りが出せないのは元気だからというより『危機的状況すぎた』というのが正解だった。

 目の前の竜を倒す方法。半信半疑であったが、何も状況が変わらぬのなら、刀を使うしかない。

 竜より放たれる高密度の魔力が、火球となってリンに向けられた。

 リンは構え、刀で火球を斬る。そんな事、通常では不可能である。

 だが、それを可能とするのが『紅月』であった。

(これは!?)

 魔力を宿す聖剣、その逆。

 それは、『魔力を断つ刀』であった。

「やりましたよアニキ!」

「これが爺さんの刀か!」

 刀に魔力を宿し、聖剣を超える。それは『不可能』であるとムラマサは悟った。

 だからこそ、魔力に打ち勝つには相手の魔力を『否定』する力で対抗した。

 真っ向から来るのであれば、搦め手をもって、正道で挑まれるのであれば邪道をもって制す。

 それが伝説の刀匠『ムラマサ』が導き出した答えだった。

「成る程……気に入った」

 紅月が魔力あるものを断つのであれば、魔力で編まれた体を持つ竜の体を、斬る事が出来るかもしれない。

「反撃開始といこうか!」

 刀を握る手に力を込め、竜へ向かって走り出す。

 竜は再び火球を放って対抗した。

「何度も同じ手を喰らうと思うなよ!」

 右手に妖刀『紅月』を、左手に火の聖剣『フレアディスペア』を構えて攻撃を払う。

 竜は刀が放つ異質な力を感じ取ったのだろう。翼を広げ、空へと退避しようとする。

「逃さないっての!」

 レイが竜の眼を狙撃する。視力までを奪う事はできなくとも、怯ませるには充分だった。

「良くやった嬢ちゃん!」

 ムロウはこの好機を逃さず、特大の風を刀に纏わせ、竜の背に向け叩きつける。

「トカゲはトカゲらしく地面を這ってな!」

(斬れ味を試すのに最高のの相手だ!)

 ムラマサの鍛えし刀が、『黙示録の赤き邪竜』を斬る。

 傷一つさえつける事もできなかったその鱗に、初めて傷をつける事が出来たのだ。

「見せてやるよ……人間の意地をな」

 人間の手に負えないと思っていたが、今ならその考えを塗り替えることが出来る。

 刀の連撃で、竜の鱗を斬り裂く。あれだけ頑張っても効いていなかった竜の装甲を、少しずつであるが、確実に剥がしていく。

(これなら……いける!)

 そう思っていた矢先に、竜の咆哮が、リン達を襲う。

「ギャーウルセェー!」

「前の時より酷いなこりゃあ!?」

 その咆哮で、木々が揺れる。地面が振動する。

(頭が痛くなる……クソ!)

 竜は視界にリン達を捉え、そして。

《魔を統べる者……偽りの者……始まりを告げる鐘が……》

 頭に直接吹き込まれるように錯覚する声が、リン達に響き渡る。

「なんだ!? これ!?」

「この竜がやってんのか!?」

《正さなくては……あるべき姿へ……始まる事なく……》

 鎧の女が言っていた。赤き竜は『黙示録』だと。

 リンの脳裏に浮かんだその言葉が離れない。

 動けなくなったリン達を襲う事なく、竜は空へと舞い上がる。

(離れていってる……諦めたのか?)

 謎が謎を呼ぶような、そんな出来事ばかりが起こり、不完全燃焼のまま、依頼は終わる事となった。
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